「さて、見せて貰うわね。貴女の面白そうなことってものを」
「わかりました。とは言っても、昨晩初めて知ったことなので上手く出来るか判りませんよ?」
ボクはルーシーさんと村を出てフィールド内の森の中にいた。
昨日の魔筒を実践で使うためだ。
「いたわ。レッドバルーンよ。この辺のモンスターはメルロマルクの所より強いから気をつけてね」
フィールドに出る前にモンスターについて少しヴェネラに教えて貰った。確かバルーン系は弱いけど好戦的だったっけ。
レッドバルーンはボクらを見つけるとこっちに向かって距離を詰めてきた。
ボクは魔筒を手に取り魔力を筒に集中させ、1つの武器を思い浮かべる。
すると魔筒から魔力が実体化し、武器の形になる。
「魔力の…剣?」
「はい。この魔筒というのは恐らく魔力を使って武器を形作るものだと思います」
そう言って目の前まできたレッドバルーンを両断する。
テニスやってたからこのくらいの速度なら感覚で当てられる。
ん?なんか数字が出てきた。
何々…これは経験値だな。
「それってどんな武器でも再現出来るの?」
「はい、恐らくは。あ、でも一部の武器や投擲系の武器は出来なさそうです。」
昨日思い出せる限りの武器を再現してみたが、出来なかったのはチャクラムだけでなく、手裏剣やブーメランなどの投擲系だった。
「それでも……それってある意味反則じゃないの」
「まあ、そうなりますよね…。これを知ったときボクも同じこと考えました」
「魔法戦士みたいね。…まだ魔法使えないけど」
あーそういえばボク魔法の勇者なのに魔法使ってないな。
すっかり忘れてた。
「じゃあ、1度家に帰りましょうか。魔法習得のためにね」
森から戻り、ルーシーさんの家に帰るとすぐにルーシーさんは棚から傷どころか埃1つ付いていない大切に置かれた水晶玉をだし、何か呪文を唱えた。
「これ、何ですか?」
「この水晶玉を覗いてみて」
なんだかよくわからないまま言われた通りに覗く。
…何も見えない、いや、なにか光ってるけどそれだけ、みたい。
「……貴女、色々反則じゃない…いや、魔法の勇者だからこそ、なのかも…」
「?」
ルーシーは彼女は苦笑してボクを見た。
「全ての属性を使うことが出来るみたいよ。1人が持つ属性は1つか2つが普通なのにね」
「そうなんですか?」
「ええ、ちなみにあたしは風よ」
確かに反則…。勇者ってそういうものなのかな?
「さて、どうしましょ。貴女の適性を調べて習得させるつもりだったのに」
うーん…どうしよ。
魔法の勇者が属性1つだけってのも悩むけど、属性が全部ってのも悩みものだ。
「うーん…とりあえず、回復魔法からでいいですか?攻撃は魔筒でも今のところ大丈夫そうですし」
「あー…それがね…」
うん?この反応はまさかあのパターンじゃ…
「正直に言ってください。この先生きていくために自分のことを把握しないといけないんです」
例えあのパターンであったとしてもいいように覚悟する。
「えーっとね?貴女は回復魔法は一切使えないみたいなのよ……ああ!そんな顔しないで!」
やっぱそのパターンでした。
ボクが前にやっていたあのRPGの魔法使い、魔法は強力だけど回復魔法できなかったから予想はしてたんだよ。
「ううっ…予想はしていたけどホントに使えないのか…。回復魔法使えないのはこの先痛いかも…」
「で、でも安心して!支援魔法は使えるみたいだから!」
未だにショックから立ち直れないボク。
でもいつまでもここで立ち止まってはいられない。
「じゃあ、支援からでお願いします!」
「立ちなおり早いわね。突然顔上げるから驚いたわ」
「諦める時の潔さと切り替えの早さがボクの長所ですから!」
「そういえば、貴女はこの世界の文字って読めないわよね?」
「そ、そういえば読めないです…」
ボクがそう言うとルーシーさんは怪しい笑みを浮かべたように見えたのだが……きっと気のせいだろう。
「じゃあ、読むことから始めないとダメね。魔法を覚えるための水晶玉って言うものがあるんだけどあれって1つしか覚えられないし──」
この後、10分程の水晶玉の愚痴が続いた。
聞いてるボクとしては水晶玉と魔法書の長所短所を知ることができて良かったと思っているけどね…
できれば愚痴という形で知ることはしたくなかったなあ
ようやくルーシーさんの愚痴が終了して、文字を覚えることから始めた。
「……案外難しい…英語を勉強した以来だ」
「ん?エーゴって?」
「え?……ああ、ボクの世界の言語の1つ」
というか、この世界でも勉強が待ってるとは思いもしなかったなあ。
好きなことに関しての記憶力は良いけど勉強に関してはちょっとなあ…
とか考えながら頑張ってこの世界の文字を頭に詰め込んでいった。
この感じ、テスト直前を思い出す…
「大分いい感じじゃない。これで簡単な単語は覚えたわね。じゃ、次は……」
あれから3時間、ルーシーさんについてわかったことがある。
この人結構スパルタ教師。
だって文字の書きを間違えたらその文字を100回書かされたし、3時間ぶっ通しで続けてるしでかなりキツイ…
「この本を読んで感想を聞かせてね。あ、勿論感想は文字でこの紙に書いてね」
マジですか!?
感想用紙多くない!?
本を読むことは好きだけど流石に覚えたてで読むのは…
「…というか、表紙に『ルーシー=ベスタント』って書いてあるんですけどまさか…」
「ええ、あたしが執筆した本よ。あたし、本を誰かに読んでもらうのが夢だったのよ」
まさかルーシーさん、ボクに本を読んでもらうために文字を覚えさせたのでは…?
「まあ、直ぐに本を読んでもらう口実だったのは否定しないけど…」
本気で思っていたみたい。
「文字を覚えていた方が先々楽よ」
「そうですが、村の人たちに読んでもらうのはダメなんですか?」
「丁度昨日書き終えたばかりの出来立てホヤホヤよ。まだ誰にも読ませていないわ」
えーっと…『モンスターでもわかる魔法の使い方』っておいっ!
これとよく似たフレーズ、元の世界にもあったぞ!
「と、とりあえず読ませていただきます」
「ええ、感想は明日までね」
それはキツイ課題!
そこまで分厚い訳じゃないけど明日までに読み終わるのこれ…?
それからヴェネラの家に帰って読み始めたんだけど…
「…ここはこの言葉がいいのでは?」
「ここの説明は長いな」
「語尾がバラバラ…」
等々1ページ読む度に訂正すべきところが5つ以上見つかっていく。
最初はいいかな、と見逃していたけれど読む内にあまりにも間違えすぎだったので貰った紙に訂正部分を片っ端から書いていく。
この時紙を多く貰っていて良かったと感じた。
感想?ああ、書いたよ。
文章はダメだったけど内容は良かったって書いておいた。
…残りは全部ダメ出しだけどね。
あ、でも、魔法出すコツがわかったからそこは良かったかな?
魔法の属性によって実体化したときの魔力の流れが違っていくみたいだからその操作のコツとか。
見せたら文句言われそうだなぁ…
というか…終わるのこれ?
「あらぁ、感想が一言しかないわよ?残り全部ダメ出しじゃない」
結局徹夜で読んで訂正してで一睡もしなかった。
そして、予想通り文句言ってきた。
まあ、普通こんなにダメ出しで感想一言だけだったらこうなるよな
「でも、文章がグダグダだったので…」
「わかっているわよ。でもまあ…貴方の訂正した文とあたしの文、えらい差だわ。文字も文も完璧。凄いわ」
こんなに褒められるのは初めてでなんだかむず痒くなった。
「ああ、それから魔法のコツ、良かったです。まだ実践してはいませんがあれなら出来そうです」
「そう言われると嬉しいわ。早速実践してみましょ」
そう言われ、家を出た。
「…広場が騒がしいですね」
「そうね。ちょっと待ってて。見てくるから」
ルーシーさんは広場へ行き、約3分後、慌てた様子で走って戻ってきた。
「今すぐ村を出るわよ!」
「え…?」
「早く!」
そう言うとボクの返事を待たずに手を取って駆け出した。
「な、何があったんですか?」
「貴女、国で指名手配になったのよ。『偽物の勇者』として」
遂に指名手配か。
逃げ出したからには予想はついていたけどこれ以上ここに留まるのは危険だな。
ボクにとっても、リユートの人たちにとっても。
「あたしたちは貴女があんなことをする人ではないって知っているけど──」
「ここにボクがいることがわかったらこの村が国の敵に回ることになってしまう。だから身を隠さなければならない、ということですか?」
「……正解よ」
こうしてボクらは村の外へ出て森へ身を隠すことになった。
また嫌な予感がする。
…行った先にボクを探す人がいませんように。
『キャラクターズ(+作者)トーク』を2話目と3話目の間に入れておきます。
是非読んでみて下さい