「え…」
「旅に必要そうな物を詰め込んで置いたわよ」
ボクがルーシーさんの家に来たとき、荷物の多さに絶句するしかなかった。
回復ポーションは回復魔法がないボクには必須、魔法使いとして魔力は大事だから魔力ポーションも必須、だから量の多さには目を瞑るとして、この山積みになった本は流石にないとボクは思う。
「これはあたしからの餞別、魔法書よ。魔法使う上で結構大事なのよ」
「いや、そうですが流石にこの量は持てないですよ!」
ルーシーさんはこれも譲らない。
これは譲歩して欲しい所なんだけどな…
と思っているところに助け船が現れた。
「…ルーシー、その量は多すぎるだろ。せめて2、3冊程度にしとけ」
「えー、でも…」
「それにお前も見ただろ。俺が目の前で見せただけで詠唱を完全に覚え、それだけでなく、自力で俺とは全く別の詠唱をし、魔法を発動させたんだ」
そこまで言われてルーシーさんは納得し、魔法書を2、3冊残して残りを棚に戻した。
荷物減った!ありがとう、メルガ!
ボクは残った魔法書をパラパラとめくってみると、読める読める。
ルーシーさんのスパルタ特訓のお陰で何て書いてあるのかがよくわかる。
ルーシーさん、感謝!
ルーシーさんが書いた本を読ませるための口実でなかったらもっと感謝してたけどね。
「それに、アユムちゃんには他にも武器に変身する『魔筒』があるもの。確かに要らないかもね」
「その腰に差してあるやつか?」
それを知らないメルガがボクを…正確にはボクの腰に差してある魔筒を見た。
旅をしてるから何か知っていてもおかしくない。
「コレ、どんな物か知ってる?」
メルガは考え込み、首を横に振る。
「…いや、知らないな。聞いたことも無い」
この武器(?)についても手がかり無し。
本当に魔法の勇者って未知の存在なんだな。
「それから、これ着てみて。あたしからの餞別よ」
そう言って袋の中から取り出したのは男っぽい服とマントだった。
見ると装備品としてのステータスが目の前に表示された。
旅人の服
守備 10
魔法耐性 3
付与効果 なし
魔法のマント
守備 7
魔法耐性 15
付与効果 攻撃魔力UP
「手配書があったんだけど、そこにはしっかり女って書いてあったから男っぽい感じだったらバレにくいんじゃないかしら?」
「それからこれも身に付けておけ」
メルガからは胸当てを投げ渡された。
鋼の胸当て
守備 25
魔法耐性 なし
付与効果 なし
「えっ、これ高くなかった?」
「まあ、そこそこしたが問題無いくらいだ」
「いくらくらい?」
「餞別だと思って受け取れ。金は要らない」
「そうよ。餞別なんだから遠慮しない。貴女のために用意したんだから」
2人ともここまで言われるとボクが物凄く断りずらい。
完全に強制してる気がする
…ここは引いてありがたく受け取った方がいいかも?
「では、ありがたくいただきます」
受け取って着替えてみたんだけど、この服、着心地いい。
マントの刺繍も綺麗だし。
確か元康が魔法使いは守備力が低いって言ってたけど胸当てがあるから心強い。
初見は無愛想な人だと思ったけど結構いい人かも。
「準備はいいか?」
「いいよ」
「…お前、本当に女か?本当は男だったんじゃ…」
次の瞬間、気づいたら目の前にいたメルガが消え、拳を握ったてが出ていた。
「メルガ?いくらアユムちゃんが男の子と間違われることに慣れてるといっても流石に怒るわよ」
ああ、ボクはメルガを殴ったのか。
それにしてもボクの手に殴った感覚が無かったような…
「ったく…危ないだろ」
「あ、そこにいたんだ」
メルガはしゃがんでボクの突きを回避していた。
「今の発言は悪かったが、何も顔面目掛けて殴ることないだろ」
ごめんなさいね?
何か無意識に突きを放ったみたい。
「アユムちゃんも、今度から手が先に出ないようにしてね?」
「…はぁい」
「じゃあ、行くぞ」
「あれ、メルガも行くの?」
「見てわからないか?」
ルーシーさんの家を出ると、メルガが武器と袋を背負って立っていた。
どう見てもメルガも外に出るようにしか見えない。
「帰るときにどのくらい戦えるかは見た。大体大丈夫だとは思うが一応は付いていくつもりだ。俺は他にも用事があるから精々数日位しか付いていくことは出来ないがな」
そこまで言うとボクに背を向けて歩き出してしまい、ボクは慌てて追いかけた。
メルガの一歩が大きく早いため、付いていくのが大変だった。
どっちがどっちの旅に付いていくのかというのが逆転しているように感じるけど…
「さて、お前はどちらに進む?」
「え?」
リユートを出ていきなり進路を聞かれボクは戸惑った。
「言っただろう、付いていくと。これはお前の旅だ。お前が進路を決めろ」
あ、そっか、メルガは付いてくるだけだった。
何かボクの前をずんずんと歩いて、ボクは付いていくだけだったからこれが自分の旅で在ったことをすっかり忘れてた。
「んー…。とりあえずあっちの方に行きたいかな」
ボクが指差したのはボクが脱走してきたメルロマルクとは反対方向だった。
その先には森、遠くには小さな山が見えている。
「…お前は地図を見たのか?」
「へ?なんで」
「旅で欠かせないのは武器、食料、そして水だ。最低限これがあれば生きていける」
成る程、旅の必要な最低限のものか。
で?この三つが地図とどう関係が?
「お前、頭いいのか悪いのかわからないな…」
メルガにため息を吐かれた。
はっきり悪いって言われると腹立つけど、あんな感じに曖昧に言われても腹立つな。
さっきから思ってたけど何気に失礼なことを言うな。
「武器が無くとも食料があれば生きられる。食料が無くとも水があれば生きられる。旅に一番大切なものは水なんだ」
「あっ、そっか!」
聞いたことある。
食べ物だけで生きることと水だけで生きることで比べると水だけの方が長く生きられるって。
つまり、水を確保するために川沿いに進む方がいい。
そして地図を取り出して川を見つけ、その方向を指差した。
その方向は先程指差した方向から約45度左で、やはりその先には森があり、山があった。
「そうだ、ようやくわかったか」
そしてその方向へとまた歩き出す。
…ってちょっと!歩くの本当、速いって!
それから村を出て一時間、ボク達は森の中にいる。
ちなみに猛ダッシュして。
「どーしてこうなったのぉ!」
「お前が警戒せずに歩いてモンスターの群れに遭遇したからだろう…」
そう、ボクが歩いて森の中の開けた場所に出たらレッドバルーンの群れに鉢合わせしてしまったのだ。
バルーン系は好戦的、さらに何十匹もいるということもあって、2人では捌ききれないということで撤退の真っ最中なのだ。
しかしこれらを巻ける気配はない。
「ああ、もう!」
「何する気だ?」
やけになって立ち止まり、詠唱を始める。
たった今脳裏に浮かんだ魔法詠唱を。
『力の根源たる魔法の勇者が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者達を風と木葉で散らせ』
「ファスト・リーフハリケーン!」
するとどこからともなくそよ風が吹き、徐々に強くなってくる。
風はやがて強風となり、更には暴風となる。
レッドバルーンが吹き飛ばされ、木に当たって割れ、木葉が舞い、刃となってレッドバルーンに当たってまた割れる。
暴風が止んだときにはもうレッドバルーンの姿は1つもなく、あったのは赤い割れた風船と散らばった木葉、そして葉が減った木だけであった。
「…この難は逃れたが、次はこうならないようにな」
「わかってる…」
メルガが言うことの意味は2つある。
1つ目はもっと周りを警戒する事。
そもそもこれがなかったらレッドバルーンに追いかけられる羽目にはならなかったからだ。
2つ目は広範囲に及ぶ魔法を自重する事。
大分慣れたとは言え、まだやり始めた魔法なのだからコントロールが全て利くわけではない。
今回は運が良かったが、少し間違えると味方であるメルガにまで被害が及ぶ。
その事をメルガは言ったのだろうとボクは頷く。
「しかし、お前の魔法はファストなのに威力がありすぎだな。ルーシーに聞いた威力より大きいぞ?ドライファ並みではないか?」
そもそもどのくらいの基準でファストなのかわからないボクは頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。
とりあえず聞いてみると、個人差はあるらしいが、さっきの魔法で言うとファストは精々突風程度、ツヴァイトだと強力となるらしい。
魔法の強さはまだ上があるらしく、ドライファだとさっきのように暴風となるらしい。
「やはり、魔法の勇者とだけあって魔法は強力なんだろうな」
そしてボクらはまた森の中、足を動かし始めた。
やっと出発しました!
次回、戦闘シーンが出てくると思いますが、は今までちゃんとしたのは書いたことがないのでいろいろ説明が足りなくなるかもです。
ちなみに魔法の規模は作者の想像です。