”モノ”ガタリ   作:水壁

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殺陣機

“斬る、斬る、斬る。目の前のものがどんな嬌声を上げようと。”

“斬る、斬る、斬る。目の前のものがどんなに命乞いをしようと。”

“斬る、斬る、斬る。拙はただひたすらに斬るのみ。”

 

 

 

 見学?私の仕事など見ても面白くはないだろうに。まあよい。邪魔さえしなければ勝手に見ていってくれ。

 私の仕事は派遣のようなものだ。基本的に仕事はない。教習所での同期は忙しいらしいが少なくとも私はそこまで仕事があるわけではない。

 

 

 

“否、拙はただ目の前のものを斬るのみ。仕事の量など些末なこと。”

 

 

 

 仕事内容か…あまり話すのは得意でないのだがな。基本は上の命令で依頼を行う形をとる。奇特な上司でな。めったに仕事を持ってくるわけでもないのに、稀に持ってくるのは皆大口の依頼ばかり。雇い主から衣食住をある程度保障されているから生活に問題はないが小口のものもたまには持ってきてはくれないものか。

 

 

 

“否、拙に必要なのは斬るための刃のみ。その他はなくても困らぬ。”

 

 

 

 そんなわけだから見ていても今日明日で依頼が来るとも限らない。見学といってもこれ以上何かあるわけでもないぞ?…そうかまだいるのか。いい歳した男の暇しているところなど面白くはないだろうに。…そろそろ昼時か。何か食べるか?つい最近また奇人上司の持ってきた大口依頼が片付いたからな。金はある。一人ぐらいおごってやるさ。

 

 

 

“否、飯に割く時間すら惜しい。本来なら鍛錬に充てたいところだ。”

 

 

 

 最近の出前というのは随分と色々なものができたのだな。少し前はそば屋やラーメン屋がいいところだったのに。寿司?そんな高いもの一人で食べるか。出前にするぐらいなら直接店に向かう。暇なとき何してるかって?もう仕事の見学からかなりそれてるではないか。まあ、いいか。主に仕事に使う道具の整備とかだ。そうでなければ寝てる。

 

 

 

“拙とて睡眠はとる。体が鈍らでは斬ることもできぬ。それは一度犯した過ちよ。”

 

 

 

 お前はいつ帰るのだ?随分な時間ここにいるがもう見るものもないであろうに。お前こそ暇人というやつなのではないか?私自身暇人といわれれば否定できる要素がないのも自覚しているが、そんなものを一日見ているお前はどこから見ても暇人ではないか。もう少し有意義に過ごしたらどうなのだ。む、連絡か。失礼。

 

 

 

“ようやくか奇人上司。ようやく拙の仕事が来たか。”

 

 

 

 …それでは。なんだ、まだいたのか。もう答えられる質問などないぞ。今の連絡か?内容など教えるわけもなかろう。なぜ部外者に教えなくてはならん。帰るから最後に仕事の名前を教えろ?お前知らずに見学していたのか。間抜けにもほどがあるだろう。そこを確認しないで見学も何もあるか。やはり暇人、否、ただの馬鹿か。

 

 

 

“どうでもよい。早いところこいつを帰らせて拙の仕事をしなくては。”

 

 

 

 まあそんな馬鹿に免じて答えるとすれば“殺陣機”といったところか。実際は仕事故、殺し屋のほうが近いのだろうが。どんな仕事かわかったろう。私はこの後用ができた。とっとと帰れ。さもなくばお前で仕事をせねばならぬ。

 

 

 

“斬る、斬る、斬る。ただひたすらに斬るのみ。他は要らぬ。”

“斬る、斬る、斬る。依頼人の思いのままに。”

“斬る、斬る、斬る。そのものが形を思い出すかのように”

“斬る、斬る、斬る。拙の心の赴くままに。”

“斬る、斬る、斬る。拙の振るう刃に任せ。”

“斬る、斬る、斬る。願わくば、このことが良い結果につながりますように。”

 

 

 

 今日は赤いものが多かった。依頼人は何を考えているのやら。…まあ考えても仕方あるまい。次のものに連絡をまわすとしよう。私の後は確か工場の連中だったか。…本当になにをするつもりなのだろうか。ただの殺陣機には考えてもわかるものではないか。“拙”はただひたすらに斬るのみである。予想外の客もきて今日は疲れた。今日は早めに寝るとしよう。常人のふりをするというのは本当に大変なものだ。拙は拙でしかない。“私”などというのは極力使いたくないものだな。

 

 

 

“斬る、斬る、斬る。ここにあるはただの刃。”

“斬る、斬る、斬る。ここにあるは鉄の体。”

“斬る、斬る、斬る。それゆえただ斬るのみ。”

“斬る、斬る、斬る。故に私はただの殺陣機也。”

 

 

 

“斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、……………………………”

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。

モノガタリ第二弾は「裁ちばさみ」でございます。
今回の舞台は裁縫はあまり得意ではないけど洋服を手作りしたい。そんなような人の家です。興が乗らないと手を付けないタイプのようで裁ちばさみくんは不定期な仕事のようです。
今回の主人公裁ちばさみくんは普段から裁縫をやる人でもなければ触ったことさえあまりないような人もいることでしょう。ですが私たちの着ている洋服は誰かによって作られたものです。もちろん大量量産の可能な時代ですから。実際には機械が作っているものを着ていることのほうが多いでしょう。ですがその原型となるものを作った人がいます。そこには一枚の布からモノを作り上げる職人がいるはずです。そしてその傍らにそれを助ける道具の姿も…
見かけることはなくとも多くにかかわるような「モノ」があります。前話の鉛筆君とは正反対な、でも欠かすことのできない存在。そんな裁ちばさみくんのお話でした。
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