定時勇者!【お試し版】   作:翠晶 秋

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定時勇者と終わりの鐘の音

 

「ぐああっ!見事だ……」

「そこをどけ!時間が無いんだ!」

 

魔王軍の幹部が、そのチェストプレートごと断ち切られる。

金髪の勇者はその時計をかたどった剣を引きずりながら、幹部の後ろの扉を蹴破った。

そこにいたのは、最後の魔王軍幹部、魔王の娘のクォーリア。

白銀の髪をなびかせ、これから来る死の恐怖に立ち向かおうとしていた。

 

「異世界からの来訪者……。【(とき)】の勇者、ユウジ」

「命乞いは効かないからな。魔王を倒す、それが俺の使命だ」

「お父さんを守る。私の使命はこれなんだよね。……ふう」

 

クォーリアはすうっと息を吸い、目をつぶって吐き出す。

その瞳が開かれたとき、確かな覚悟がそこにあった。

 

「時間が無いのでな……。早めに終えさせてもらう」

「眼中に無いって感じだね……。悪いけど、私はそう簡単に行かない」

「ああ、そんな気はする」

 

ユウジは剣を構え、クォーリアは鳥類と同じ形の、漆黒の翼を広げた。

 

「行くぞ!」

「覚悟っ!」

 

同時に駆け出し、剣の煌めきが、翼の宵闇が交差する───

 

 

 

───直前に、午後二十時を知らせる時計の音が鳴った。

 

 

 

「あ、じゃあ定時なんで俺、帰ります」

「うおおおっ───え?」

 

あっさりと矛を収め、今まで来た道を戻ろうとするユウジ。

煌めく金髪も、ただの黒髪へと変色していた。

 

「えっ、ちょっ、【時】の勇者ユウジ、どこに行くのさ!?」

「え……?定時なんで家に」

「いやいやいやおかしいでしょ!私、魔王軍の幹部だよ!?こう言っちゃなんだけど、人類の敵だよ!?」

 

あわてふためくクォーリア。

ユウジ───否、悠時(ゆうじ)はあっけなく背中を見せ、クォーリアに説を説く。

 

「残業代が払われないのなら、定時後の魔王退治も意味がないだろ?」

「いやっ、ていうかええ!?勇者って仕事なの!?いや、職業ではあるんだけど……!」

「午前八時から午後二十時の12時間、俺は勇者として出勤する。そして、プライベートの時間は必ず確保する。どうしても時間外労働が必要な場合は、王国側にその分の労働賃金を請求する。俺はそうしてるんだ」

 

そう言って帰ろうとする悠時の腕を掴み、クォーリアは必死に引き止める。

認めない。こんなのに魔王軍幹部がやられたなんて、認めない!

 

「たのむよぉ!私と勝負してよぉ!」

「ええい離せコノ!なにか!?お前と戦ったらその分国は払ってくれるのか!?」

「はーらーわーなーいー!」

「だったら俺を帰らせろ!薬草採取ならまだしも、残業代も出ない仕事に命かけてられるか!オラァッ!」

「うぎゃあ!」

 

伊達に勇者をしていない。

悠時が腕を払うと、軽い少女の体はすっとんでいく。

 

「どうしても俺と戦いたいんだったら、朝の八時以降に来るんだな」

 

床にぺたんと座ったクォーリアに向け、悠時は自らの出勤時間を告げる。

 

静寂が訪れた魔王軍幹部の間で、

 

「それは、魔王軍(こっち)側のセリフじゃないかな……?」

 

クォーリアはそう、呟いた。

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