「おぉ~...ここがその」
「えぇ、父が私のために残してくれたお店、『メイト・コメット』です!」
俺の横にいるめっちゃピョンピョンしている不思議な生き物、個体名ルリア。彼女は数年前に父親を亡くしたのち、自分を生んだ一年後に出ていった母親が残した莫大な借金を、こんな小さな体で少しずつ返済していたらしい。
「3分の2はお父さんが返済してたんですけど、過労で倒れちゃったんです...。」
「店のほうは回っていたのか?そんな状況で。」
「何とかやりくりしてました。値段の調整とか、売り込みに行ったりとか。あとは~...人件費ですかね?」
「...まじか。」
どうやら店を継いでからずっと一人で切り盛りしていたらしい。
「まぁ立ち話もなんですし!どうぞ中へ!」
「お おい!押すな押すな!」
中はまるで喫茶店...とも違う、洋風な和食屋っていう表現が一番しっくりくる。
床はフローリング、だがカウンターの椅子の座る部分は畳で、竹に花が活けてある。でもキッチンにはコーヒーメーカーとかバリバリ見えてる。
「お腹空いてませんか?何か作りますよ!」
「あぁ~...じゃあ...」
机のメニューを開く...っておいおいおいおい」
「ど...どうかしましたか?」
「...あ、いや、何でもない。」
いかんいかん、心の声が漏れちまったようだ。それにしても何だこのメニュー...和洋中、古今東西の飯が目一杯載っていやがる。てかよく見たらメニューだけで20~30ページあるぞこれ。
「お客さんが食べたいものを食べさせたくてメニューを増やしていたら...いつの間にかその...そんな風になっちゃって...」
「…厨房にレシピ本が無いようだが、まさか」
「えぇ…前はあったんですよ?でも作るたびに覚えていっちゃって、もう奥にしまってあります」
「まじか…じゃあ、チャーハンで頼む。」
「?遠慮なさらなくてもいいんですよ?」
「いや、遠慮とかじゃ無いんだ、チャーハンが好きなんだ、俺」
「わかりました!じゃあうんと美味しいチャーハン作らせてもらいますね!」
もちろん、そのチャーハンがクソうまかったのは言うまでもない。
今まで色んなやつに手を伸ばしたが…まさか引っ張られるとは、いやはや思いもしなかったなぁ。
「ご馳走さん。こんなに美味いチャーハンは久しぶりだ。」
「ふふっ、喜んでいただけて何よりです。」
きゅるる〜…
「…」
「…」
「も、もう!ユウリさんったら〜まだ食べ足りないんですかぁ!ハハッ、ハァ…」
「…いや、すまない。そりゃあんまし動いてない俺が腹が空くんだ、ルリアがお腹空いていないわけがないさ…。」
「わ!私何か作ってぇぇ〜…食べ…ま…」きゅるる〜
「…座ってな、俺が作る」
「え!?そんな悪いですよぉ〜…」
「そんなフラフラな状態のやつに包丁持たせれるか…いやさっきまで持ってたんだけどよ」
「えっと…じゃあお願いしますね…」
「おう、冷蔵庫の中身少し使うぞー」
ユウリはそういうと、冷蔵庫の戸を開けた。冷蔵庫から放たれる光と冷気を浴びているユウリは、まるで朝の日の出をじっと見ながら黄昏る、一羽の鳥のようだった。空腹の中、カウンター席のテーブルに顔をつけて見ていたルリアは、そう心の中で思ったのだった。