雲一つない夜空から、神秘的な輝きを放つ月光が降り注ぐ。自宅の窓から見えるその情景、普段なら何一つ視界に入らないモノばかり。しかし、今日は異様に気になる、何度寝付こうとしても落ち着いていられず、一睡もできない。理由のわからない焦りと言葉で言い表せない苛つきばかりが募っていく。終いにはふと見上げた満月に、普段なら絶対に思わないであろう“綺麗”だなんて感情が爆豪の胸に込み上げてきた。
「らしくねェ、クソ!」
寝れないのなら寝るのを止めればいい、と安直な答えを出し、寝具から勢いよく起き上がる。自室の時計に目を通すと、夜中の2時を回っていた。時間を確認した直後、爆豪邸の電話が鳴り響く。こんな夜遅くに迷惑なことだ、当然非常識さを感じずにはいられないが、その音が鳴り終わった後、慌ただしい足音が近づいてきた。
「勝己!」
荒々しい手つきで、ノック無しにドアを開く。
「ババァ勝手に入ってくんじゃねーよ!!」
「今、空ちゃんが入院してる病院から電話が…」
「は…」
“空”、その名前を他人から聞いたのは何か月ぶりだろう。会えなくなってから一度も彼女の存在を忘れたことはないが、自分にそれを思い出させないよう、周囲がその名を出さないようにしていたことを爆豪は知っている。
母からの一言はよく聞き取れた、内容も理解できた。しかし、その一言を聞いた瞬間その先を聞きたくないと言っているように身体が酷く強張る。
——意識はいつ戻るか、わかりません。
2年前、真っ白な寝具で眠る彼女の隣で、医者からそう告げられた場面が脳裏を過る。
理不尽にもその医者の胸ぐらをつかみ、「医者なら何とかしろよ!」と悲痛な声で叫んだ。
「それで、意識もはっきりしているみたいで、面会できるのもそう遠くはないだろうって!」
「…は……面会……?」
回想で母の言葉が耳に入っていなかった爆豪。聞き取れたのは“面会できる”という単語だけ。だが、それだけで十分だった。“空の意識が戻った”それだけが爆豪にとっての唯一にして一番知りたい情報だったからだ。
そしてこの夜、同様の電話が緑谷邸にもかかってきていた。
「出久!空ちゃんの意識が戻ったって!」
「え…。お母さんそれ…ほ、本当!?」
衝撃の報告に緑谷は泣いて喜んだ。オールマイトに個性を与えてもらった時と同じくらい、胸が言いようのない歓喜の嵐で覆いつくされる。
「まだ面会はできないんだけどね。でもホントによかったねぇ」
緑谷の母も彼女のことは良く知っているため、同じく手を合わせて喜び合っていた。
そして数週間後二人は、二年ぶりに彼女と対面することになる。