「予選通過者は42名!!次からはいよいよ本戦よ!」
二種目目、スクリーンに映し出された文字は騎馬戦の三文字。先程順位が確定した一人一人に持ち点を与え、2〜4人で自由に騎馬を組みハチマキを取り合う戦いだ。
「42位が5P、41位が10P…といった具合よ。そして1位に与えられるPは…………
1000万!!!」
(あははっ…これは、負けて良かったかもな)
自分の持ち点を発表され、硬直している緑谷を見て、空はしみじみとそう思った。
「上位の奴ほど狙われちゃうーーーーー
下克上サバイバルよ!!」
「テメェとは絶対組まねぇ」
「え……」
空が初めに声をかけたのは爆豪。理由としては彼の戦闘センスを認めているから。そして、騎馬戦というチーム競技において彼が独走することは目に見えていたため、自分がそれを少しでもカバーできれば良い、なんて風に思っていたが、声をかけたのを食い気味に拒否られた彼女は呆気にとられたまま、去っていく爆豪を見つめていた。そんな彼女に爆豪と同じチームを組むことになった切島が助言をする。
「多分あいつ、自分に勝った奴とは組みたくないんだと思うぜ」
「……あー、なるほど」
わかっていたはずの彼の性格を切島から伝えられ、空は納得した様子で次なるチームを探すため周囲を見渡していると、空の肩をトントンっと叩く者が一人。
「柊、俺と組んでくれ」
背後に飯田、上鳴を率いている轟だった。
「防御にも攻撃にも長けてるって感じだね?轟君」
「メンバー見ただけでわかんのかよ!?スッゲぇな柊」
メンバーを見た瞬間に何かを察した空に、上鳴は驚嘆する。
「あぁ。上鳴は左翼で発電し、敵を近づけるな。飯田は先頭で機動力源、基、フィジカルを利用した防御。柊は…」
「雷をみんなに感電させないことと、敵からの攻撃を防御しろってところかな?」
「その通りだ。できるか、柊」
これは空間操作の話である。空間操作は己が決めた空間を他の空間の結合する個性。上鳴の電気が味方に届く前に、空はその空間を削り取り、他の空間に結合させ受け流す。雷個性持ちを相手にする時とは話が違う、常に帯電している電気を数ミリ単位で調整せねばならない。
正直、不可能か可能かで言われれば可能だ。しかし、それは非常に細かなコントロールが必要になってくることを轟は知っていた。
「難しいね、でもやるよ」
空は轟のチーム勧誘に頷く。ここで上鳴が発言の意を込めて力弱そうに挙手した。
「柊を入れるのは全然反対じゃないんだけどさ」
「なんだ上鳴」
「柊の個性一歩間違えればスゲェ危ないんじゃねーかって」
「……?、あぁ!上鳴君もしかして、体半分ちぎれちゃうとか想像してる?」
空が彼の言いたかったことを言い当てる。
上鳴が言いたいのはこういうことだ。空間操作で、二つの空間を結合させられるならば、ある人間半分の体を空間操作範囲とし、他の空間に結合させると、体半分はその場所に取り残されるが、空間操作された体半分は他の空間へ移される。つまり空が電気を感電させないように調節するが、それを一歩間違えれば身体が千切れるのではないか、という心配だ。無論、それは轟、飯田にも当てはまる事だ。
「それは大丈夫!私の空間操作は結合する空間内に動物は取り込めないから。取り込もうとすると私の個性が一瞬使用不可な状態になるの。個性発動前に戻るって感じかな。だから、問題ないよ、その心配はない」
上鳴は安心から肩を撫で下ろした。
「なるほど、それなら安心だな。よろしく頼む柊君。そして、轟くんは氷と熱で攻撃、牽制というわけだな」
「いや、戦闘において左は絶対使わねェ」
飯田の発言に轟は少し声を低くして言い放つ。目線は執念に満ちた禍々しさを伴い、憎しみの核へと向いている。
(彼が見ているのは…遠くにある憎悪だ。自身の願いなどまるで無く、信念ではない義務のような行為の先に体育祭優勝を目指している)
空はため息を一つ。空が一目で轟の奥にある真意を見抜いたのは、その顔がよく見知ったものだったから。
(これは、二年前のわたしそのものだ。なんだか……悲しくなる)
上鳴、飯田と腕、肩を組み合わせ騎馬の形をとり、轟を持ち上げる。
「でもさ、轟君。私じゃなくて絶縁体を百ちゃんに作って貰えば良かった話じゃない?確実に感電しない方法だし。なんで私だったの?」
「…………それは」
騎馬戦開幕の火蓋が切って落とされる。
「お前ならできると思ったからだ」
戦いの最中、とんだ勘違いだ、と空は思った。似ている?とんでもない、彼は今私を信じている。確実性より私を信じることを選んだ。
空は二年前優勝した時、自分の顔が何の達成感も得ていない虚無の瞳を宿していたことを鮮明に覚えている。今奮闘中の騎馬戦のようなチーム戦もあったが、その時組んだのは実力と確実性だけを考えて誘った生徒たち。自分が望まない者からの手は「必要ない」と切り捨てた。
(あぁ…ほんと嫌な奴だった。今だからこそわかるよ、孤立していた恐怖感を。だから…だからね、轟君。君にはどうしても…)
すでに残り6分弱、そろそろ本格的に一位を狙いたいところだ。
「そろそろとるぞ」
本命である、緑谷チームの騎馬が現れる。無論、彼を狙っているのは空たちだけではない、周囲を見渡せば無数の騎馬がここに集結していた。
「上鳴、柊!」
この掛け声は、周囲を蹴散らす合図だろう。
「いくぞ、柊」
「了解」
上鳴の帯電と同時に個性を発動させる空。
空間を四角の箱では無く、もっと柔らかくもっと柔軟にするイメージ…。
雷が周囲を包み込む。
空が空間操作を上手く成し遂げたことで電撃は己の騎馬には触れることなく、周囲に無駄無く円状に放出された。電撃により動けなくなったところを逃すことなく、轟が氷結。
(うん、いい感じだ)
去り際に、動けなくなった騎馬の特典も見事に奪っていく轟。
「上鳴くん、停電中止。次、常闇君の攻撃が来る。私が他空間へ取り込む!」
「了解!」
空の指示に素直に従う上鳴とは違い、轟が一瞬目を見張る。それはきっと空が急に指示をし始めたからにあるのだろう。
ーー貴方たちは何も考えなくていい、ただ私の指示に従っていればいいのよ
かつて、体育祭のチーム戦で私が味方に告げた言葉。あれはチーム戦では無く、完全に私一人で戦っていた。
(だから、轟君、君を一人で戦わせたりはしたくない)
「大丈夫、轟君、信じて」
空はにこりと笑って見せる。
「牽制する!」
轟が空に返事をする前に、常闇の個性が空の予想通りに攻撃を実行した。空はそれを即座に空間操作で無効化する。
「空姉の空間操作…厄介すぎる」
「誉め言葉ありがとう、出久!でも…もっと面白いの見せてあげるよ!」
空はダークシャドウの攻撃を押さえた後、即座に上鳴へ帯電を要求。
「な、なんだあれ…」
緑谷チームが空と上鳴で作り上げた“それ”を見て、驚愕と恐怖を前に硬直した。
それとは、竜の形を模した雷の塊だ。ダークシャドウの数倍はあるであろう巨大さ。そんなものが現れたのだから、一気に注目の的になり、観客席もアナウンスも騒ぎ始める。
チームの誰にもこんなもの創るなど言っていなかった空。上鳴、轟、飯田の味方まで瞠目してしまっている。
「みんな、いくよ!」
大きな電気の塊はそこにあるだけでダークシャドウは弱めていく。これならば、常闇の盾も簡単に破れると確信する空。
個性を調節し、空は容赦なく放電させた。ダークシャドウが破れると同時に飯田君の長加速。
「いまだ、轟君!」
盾をなくした緑谷チームはなす
《逆転!轟が1000万P!!》
逆転のアナウンスと大義を成した達成感から空の気が少し緩む。残り約20秒、無事とれたねと、安心しようとしたところだった。
(雲を切るように…)
「!?」
緑谷が間髪入れず、空たちの背のにつく。残り10秒弱考えるよりも行動するのは当然と言えば当然だが、それでも、早い。
(流石出久、判断力が並外れてる)
反射したいが、緑谷のように身体の一部を使いながら攻撃をするものに関しては、人の手を巻き込んでしまうため、空には空間操作による無効化は無理に等しい。
(ここは轟君の氷結に任せ…)
「え…?」
とっさに構えた轟の腕は左。ボワッと静かに炎が宿る。
ーー緋色の美しい炎だ。
だが、緑谷くんの風を切るような腕の動きが、轟の防御態勢を崩した。隙を狙い、緑谷と常闇が轟のポイントを奪う。
「タイムアップ!」
ここで種目終了の掛け声。
結果空たちは二つのハチマキは奪われたものの、一万点のポイントはキープ。
当然一位の地位に収まった。
「お疲れ様みんな」
騎馬を崩し、空はチームだった三人に労いの言葉をかける。が、轟だけが反応がなく、自身の左腕を見つめていた。
「轟君…?大丈夫?」
「あぁ、何でもない」
空が肩に触れると、彼ははっとし意識を彼女に向けた。どう見ても平気そうじゃないが、という気持ちは黙っておく空。
「轟君、途中出しゃばっちゃってごめんね」
「いや、流石だと思った。逆に最後に緑谷に気圧された俺の失態だ」
彼の拳が今よりさらに強く握りしめられるのが分かる。空は、轟のその様子を見て、ため息をひとつつき、彼のおでこを軽くはじいた。
轟はひどく驚き、おでこに手をやる。
「そこは、自分を責めるんじゃなくて、“ありがとう”でいいんだよ」
「………」
「自分に改善できるところをすぐに反省するのはいいことだけど、その前にこれはチームで戦ってるってことを忘れてない?」
空は、自分がもう一度雄英に通い直すことがなければこんな言葉も言えなかっただろうと思う。
「私は轟君のチームメンバーとして戦いたかったから、途中で指示を出したの。轟くん指示するばっかりで、なんだか一人で戦ってるように見えたんだもの」
轟の瞳が揺れ動いている。動揺の表れだ。
「私はちゃんと轟君に見て欲しいなって思ったよ。あなたが、何か違うものを見てるって分かってしまったから」
ちゃんと周りに目を向ければ、見えないものが見え、世界が変わるってことを空は知って欲しかった。
「………」
彼のさらなる無言と硬直は空の予想が、図星だったことを証明している。
「じゃ…改めて」
空は轟の動揺などお構いなく、彼の手をとる。
「一位やったね!楽しかった!」
歓喜の笑みを彼に向けて。