「柊、話がある」
先に声をかけたであろう緑谷を後ろに控えて、轟は柊の前に現れた。その言葉に従い付いて行くと、人気が少ない学校側関係者入り口に着く。
「話って…何?」
轟の視線が強い、正確に言えば彼から緑谷の視線が。冷たい威圧感を放つ轟の瞳に耐えきれなそうな緑谷は話し始める催促する。
「気圧された、自分の誓約を破っちまう程によ」
緑谷は轟の左腕を見る。
(使えば有利な場面でも使わなかった…)
何故、それでも使うことを拒否するのか。空の様に身体に負担がかかるわけでも、緑谷の様に個性を持て余してるわけでもない。
「飯田も上鳴も八百万も常闇も麗日も…感じてなかった。最後の場面、俺だけが気圧された」
轟の脳裏にはUSJで見せたオールマイト戦が呼び起こされている。そして目の前の緑谷の存在。両方の力を目の前で体験し轟が見つけたのは
「お前に同様の何かを感じた」
似ても似つかないであろう、二人の類似点。
「なァ…。オールマイトの隠し子かなんかか?」
「えぇっ!?出久そうなの!?」
オールマイトと他の生徒に比べ緑谷が気にかけられていることは空も知ってはいたが、隠し子などという考えには至らなかった。反射的に空もひどく驚いた顔で轟と同じように緑谷の答えを待つ。
「違うよ!それは…って隠し子だったら違うっていうに決まってるけど、でも本当にそんなんじゃなくて…」
「そもそも、どうして轟君は出久にそんなこと聞きたいの?」
困惑中の緑谷に代わり、空が彼を代弁する。
「そんなんじゃなくてって言い方は何かしら、少なくとも言えない繋がりがあるってことなんだな」
鋭いなと空は思う。彼女自身も緑谷の言葉からそのことに気づいていた。
「俺の親父はエンデヴァー。知ったるだろ、毎年No.2のヒーローだ。お前がNo.1ヒーローの何かを持ってるなら俺は…尚更お前に勝たなきゃいけねぇ」
轟は話す、実父エンデヴァーについて。
破竹の勢いで名を馳せたエンデヴァーだったが、生きる伝説オールマイトにはどうしても敵わなかったこと。そして、彼を抜かしてNo.1ヒーローとなるために策を講じたこと。
「個性婚、知ってるよな」
個性婚、それは己の個性をより強化して継がせる為だけに、結婚を強いる倫理観に欠けた発想。その単語を聞いた瞬間、勘のいい空は、あぁなるほど、と全てを察する。
「実績と金だけはある男だ。親父は母の親族を丸め込み、母の“個性”を手に入れた」
最強の個性を持つ男の子は、愛の結晶による誕生ではなく、作られるべくして、意図的に作られたのだと、轟は語る。それも親の野望の為の道具として。
「うっとうしい!そんな屑の道具にはならねぇ!」
比較的いつも静かな轟が怒りを露わにし、声を荒げている。
「記憶の中の母はいつも泣いている…『お前の左側が憎い』と母は俺に煮え湯を浴びせた」
ゾワっと凍りついたものが緑谷の背中を通り抜ける。あまりにも己が生きている家庭とは違う話をされ、緑谷は一言も発することができなかった。
続いて、お前の質問の答えだと言わんばかりに、轟が空を見る。
「俺が緑谷につっかかんのは見返す為だ。クソ親父の個性なんざ使わなくったって、いや、使わず“一番になる”ことで奴を完全否定する」
轟は左だけで上をいくと言い残しその場を去ろうとする。彼のその背中を黙ったまま見つめる緑谷に空が言う。
「僕が言えることなんて…って考えてる?出久」
「え…」
「友人ならばあなたなりの返事を言えばいいのよ」
空の言葉に緑谷は一回頷くと、自身の原点を思い出し始める。
笑って人を助ける最高のヒーローに…。
ヒーロー像、他者からもらった個性、友人に沢山助けられ上がってきた成長の階段、人々に助けられて今自分が立っている場所を。
君に比べれば些細な動機かもしれない、けれど。
「でも、僕だって負けらんない。僕を助けてくれた人たちに、応える為にも!」
緑谷は宣戦布告を改めて自分からと、返事をする。
「僕も君に勝つ!」
「見つけましたわ!柊さん!」
「あ、百ちゃん。どうした…って何その格好!?」
お昼を食べ終えた空は、本戦のトーナメント戦のくじ引き場所に向かおうとしていたところを八百万、他クラスメイト女子たちに引き止められた。
驚いたのは彼女らの格好。露出度高めのチアの格好をしている。
「いや、うん。みんな可愛いよ。可愛いんだけどさ……何やってるの?」
聞けば、峰田と上鳴に女子は全員午後はチアの格好をして応援をしなければならない、と告げられたそうだった。
(峰田君と上鳴君といい、内容といい…)
絶対に嘘だ、と空は心の中で断言する。
「不本意ですれけど…柊さんならとても美しい姿になりますわ!」
「そうだよ!恥ずかしがらないで!」
八百万と葉隠の勧誘を受け、困惑気味の空。
「空、顔色悪いよ?」
「え?そうかな」
「空ちゃん、なんだか汗の量も多いわ」
空が真実を告げようか迷っていると、麗日と蛙吹が彼女の異変に気付いた。元々白い肌は不健康だとわかる程青白くなっており、額を伝う汗は運動後ならばともかく、しばらくの昼休憩があったにも関わらずかなりの量が流れ落ちている。
それには空自身も気づいていなかったらしく、言われてみて、初めて自分の肌を触り汗を確認する。
(言われてみれば疲労感がけっこうあるな…。個性使いすぎかな)
疲労感はかなりのものだが、USJの時のように血反吐を吐くわけではなく内心安心したが、クラスメイトの女子たちは一刻も早く保健室に向かうことを勧めた。
「そうだね、本戦のくじ引きやったらレクリエーションの間に行ってくるよ」
具合が悪そうな空を八百万たちも誘えるわけがなく、彼女のチアの格好は諦め、その言葉に同意した。
昼休憩終了後、全員参加のレクリエーションを終えれば、いよいよ最終種目。毎年形式は多少違えど、一対一で戦うのが基本の雄英体育祭。
上位十六人が集められ、トーナメント戦の組み合わせをくじで決める。
「え…マジか」
空はくじの結果を見て無意識に声をもらした。一回戦目に柊の字の横にある文字は
“轟”の一文字。
一回戦目でのまさかの強者にあたった意外性か、自身の不調かは分からないが一瞬クラっと目眩を覚える空。
「っと」
「あ、勝己」
体勢を崩した先に、意識的にではないが、丁度よく反射的に彼女の支える爆豪。
「ありがとー、勝己」
「礼言ったんなら、さっさと退けや」
「えー、もう少しこのままでもいいじゃん」
空はすぐに退くつもりだったが、自身の身体が予想以上にいうことを聞かない。一方爆豪は、自身の支えた手に異常なまでの汗の量を感じ、怪訝そうに顔を顰めた。
「ちっ、勝手にしろ」
「勝己対戦相手誰だった?」
「麗日」
「お茶子か!彼女出久の影響受けてるし…強いよ」
「ハッ、テメェは自分の心配でもしてろ」
「うーんそうだね、轟君強いしね」
空がそう言うと爆豪のイラつきは一段階繰り上がる。
「そんなクソ雑魚状態で半分野郎とやるつもりか、馬鹿かよ」
爆豪とて、二つの強力な個性を持つ轟を脅威と感じているだろう。故に、万全ではない調子の彼女を見て、棄権しないことが何より神経を逆撫でた。
確かに意識不明だった時のように命の危険は無さそうだ、しかし、彼女の体育祭出場目的である個性の酷使はこれまでで十分のはず。目眩で倒れそうなほど不調を訴えている今は、休むのが先決であり、賢い者のやり方だ。個性の使用は回復してからまたすれば良い。
何故そこまでして続ける必要があるのか、と爆豪は言いたかった。爆豪の言葉の意味に気づいている空は、その理由を素直に答える。
「ふふっ…だって」
空の顔が轟がいる方向へと向く。
「放って置けないんだもん」
爆豪は、空が強引にでもトーナメント戦進出しようとしている真の理由を知り、瞠目した。
轟の過去の話を、盗み聞きではあるが聞いてしまった爆豪。その彼相手に言った放って置けない、と言う言葉。ならば空が出場する理由は一つ
轟を救いたい
その一点だ。
知らない瞳、長年付き合ってきた幼馴染が、今轟に向けている視線は、緑谷や爆豪に向けるものとは違うもの。
美しい彼女の横顔を見ながら、爆豪は顔を歪めた。
「お前…」
「さて、回復回復!直ぐにトーナメント戦だし、少しの間保健室でちゃんと横になってくるね」
爆豪が何かを言うよりも早く、空は彼の身体から離れた。ありがとうと一言いってから、彼に背を向け保健室へと向かう。
空が目覚めたのは第一試合の後半戦中。
「寝すぎた、出久の試合なのに!」
飛び起きた空はすぐに支度を始める。が、保健室にてその様子を見ていたリカバリーガールがドアの先へ進もうとする彼女の前に立ちふさがった。
「あんた次の試合は棄権しな」
「え、でも」
「次の試合勝ったところで、激しい戦いが何戦か続く。それに耐えられるのかい?」
リカバリーガールの言葉は最もだったが、空はそれを否定する。
「次だけですよ。次で私は負けますから」
「!」
自分の負けを予知している彼女に、リカバリーガールは驚く。そして気づく、空は優勝を目的にトーナメント戦に参加するのではないと言うことに。
「では、失礼します」
空は一礼をして保健室を出る。
早く観客席に行って、幼馴染の勇姿を見なければと空は小走りをしていたが、保健室を出て、角を曲がった先に見知った人物の姿を発見し足を止める。
「エンデヴァーさん」
「君は…」
二年前の職場体験先で赴いたエンデヴァー事務所。空が気づいたようにエンデヴァーも空の顔を見た瞬間、二年前の職場体験時ことを思い出したような声をあげた。
「おひさしぶりです、エンデヴァーさん」
「あぁ。君も息災で何よりだ」
空が二年間意識不明だったのはヒーローの間の一部では有名な話だ。空は丁度いいと思いながら笑みを浮かべた後、わざと彼の名前を出した。
「轟君とは同じクラスメイトとして、仲良くさせてもらっています」
轟の名前を出した途端、エンデヴァーの顔色が一気に変わる。
「素晴らしいだろ!焦凍はいずれあのオールマイトをも超え…」
「エンデヴァーさん」
空はエンデヴァーの言葉を遮る。そして真剣な声と顔でこう告げた。
「轟君の個性は彼だけのものですよ」
彼女のその言葉に瞠目し、不満げに表情を固めるエンデヴァー。空はそれでも言葉を続けた。
「愛しているんでしょう?息子さんを。ならその方法を間違えないでください」
「………」
エンデヴァーは訝し目で空を見つめているが、何も言わず、その言葉を聞いていた。しかし、次の彼女の発言に大きな反応を見せる。
「私たち親子みたいには決してならないでください。本当に後悔をするその前に」
「!!」
柊家が現在どのようになっているかを知ってるエンデヴァーならば、彼女が言うその言葉の重みをより深く理解することができた。
「では、失礼します」
空はそれだけ言い残して、その場を離れる。
予想以上に一回戦目は早く終わったらしく、結局空は観客席に出る間も無く、選手入り口に待機させられていた。
《美男美女対決!!ここまで両者トップクラスの成績!》
空と轟が対戦場へ現れる。
《2位、1位今大会トップの成績!二年前、その美貌と個性で世間を騒がせた、ヒーロー科柊空!》
《同じく優秀!今大会トップクラスの成績、強すぎるよ君!ヒーロー科轟焦凍!!》
対戦相手を前にして、より鮮明に感じる彼の殺気付いた空気感。空は苦笑いをした。
(あー、苛々してるな、轟君)
「スタート!!!」
「なァ、柊」
開始直後は両者とも動かない。しかし、轟の悲しげに満ちた小さな声が、空だけには聞こえた。
「前に俺に言ってくれたよな。後悔故に起きた惨事をどうにかして少しでも良い方向へと導くのが大切、って」
USJ襲撃前のバス内で話した会話だ。轟は悔しそうに歯軋りをして、自身の左手を見つめた。
「でもよ、いくら考えたって、このクソ親父の個性がある限り…」
轟は右手を空のいる方へ突き出す。瞬間的に、空は肌に感じる異様な気配を感じた。
(デカイのが、来る!!)
空は微かな冷気を感じ取り、防御体制をとった。
審判であるミッドナイトの半身まで巻き込んで、屋根の高さを優に超える巨大な氷の山が、会場半分を占めた。
ド派手で強力な個性の前に沈黙する観客瀬と、アナウンス。轟の氷結による温度の低下は彼らをブルブルと震わせている。
「柊さん!動ける?」
高校一年生とは思えない強個性を前に、皆が柊空の参ったと言う声を待った。
しかし、
「はぁ…容赦ないなぁ」
突如、巨大な氷丸ごとが、一瞬にしてその場から消える。氷が消えたその場に残るのは、空ただ一人。怪奇的な現象にも思える衝撃と、無傷で出てきた私を見て、観客席やアナウンスはまたもや沈黙。
(俺の最大威力を簡単に脱しやがった…)
轟は目を細めて空を見る。空は肩につく氷のカケラを払い、その視線に己の視線を合わせた。
「空間操作か」
「うん、ご名答」
轟は厄介だと思いながら、氷結による攻撃を続ける。それらは全て、彼女の前に届く前に丸ごと綺麗に消えていく。
腕一つも動かさずに、強個性を回避続ける空を見た観客全員が、二年前の再来を思い浮かべた。
「やっぱスゲェなあの子」
「あのエンデヴァーの息子の攻撃を物ともしてねぇ」
会場に響くのはモノが凍る音とそれが消える時にかすかに聞こえる氷が割れる音。
その二つが長らく聞こえてくるだけだ。
「でもさ、あの子ってあんな雰囲気だったっけ?」
空と轟の戦いは続くが、その様子を見ていた時一人から数人へ徐々に気づいていく、二年前と今の空の違いに。
そしてその余波は、1-Aにも__
「そうなんだよな、初め自己紹介してた時も思ったけどさ、柊ってなんか雰囲気変わったよな。綺麗なのは相変わらずなんだけどよ、二年前のテレビで見てる時は、なんつーか…怖い?っていうか」
「それうちも思った。今でこそすごく優しいけどさ、二年前の印象だいぶ違ったから初めは驚いたよ」
上鳴と耳郎の会話はクラス皆が首を縦に降る内容だった。そして、彼女の内情をよく知っているであろうここに唯一いる幼馴染、爆豪へ話題は広がる。(緑谷は現在保健室)
だれかが、言った。
「二年前に怪我したってのは緑谷から聞いたけどさ
そもそも二年前に何があったの?」
氷結しか使わない轟。しかし、それらは全て空によって無効化されていく。熱の個性を使わず、何度もなんどもそれを繰り返せば、彼の芯が凍っていくのは必然。
「轟君じゃ、私を倒せないよ」
彼も為すすべがないのか、空の前に連続した攻撃を仕掛けてくる。しかし、次々に目の前に現れる氷の塊は、空の身体に触れることなくパッタリと消える。
「轟の身体が冷えるのも時間の問題だね、ならば早く決着をつけよう!」
笑っている空は、面白いものを見せてあげると一言を言うと、
「空間操作は…こんなこともできるんだ」
全ての人が、嘘だろうと今日一番に驚愕したであろう。
空の手からは轟と同じ、氷結の氷が繰り出されたのだった。氷の塊を初めて自身の身体に向けられた轟は、動揺からそれらを真正面から食らってしまう。
《なァーー!?柊も轟と同じ個性持ち…?いや、そんな報告はねぇぞ!一体どいうことだァァァ!?》
《あれは、空間操作の一つだ。あいつ個性は言わば、好きなものを好きなところに置ける。距離の制限は無いと見える。今までの轟からの攻撃の氷結を全てどこかにためておいたんだ。それを今空間操作で轟に向けて放った》
相澤の説明を理解した返事に、無敵じゃねーか!?とプレゼントマイクが言うと、それに同意を示した者は多い。元々彼女の個性の真の強さを知っていた爆豪以外のクラスメイト全員も呆気にとられている。
「さて…。左の熱を使わないとそれは脱せないよ、轟君」
わざと煽るようなことを言う空を、自身の氷に埋もれている轟は息を乱し、そのままの姿勢で近づいてきた彼女を見上げた。
観客席からではわからないが、見れば大量の汗を流し、自分よりも大きな息切れを起こしている、
「お前はなんで、そこまでして俺に…」
何故、一気に攻めてこない。空間操作をいちいち轟の攻撃無効化に使うのではなく、初めから今の攻撃として使い、植物増幅をその上に繰り出していれば勝敗の決着はすでに決まっていただろう。
おそらく、彼女も限界が近い。であるのに、轟の炎を待つかのように気分の悪い身体を無理やり動かして、構えている。
彼女の青白い顔を見た轟は全てを察すると、何故そこまでして、と不思議に思った。
「二年前の自分に似てるからさ」
「!」
空が告げたのは嘘偽りのない気持ち。
「酷いお節介だよね…。人の過去に物申すなんて図々しいと思うよ。でもね、君を見てると私が痛いんだ」
「!!」
轟の瞳が揺れ動く。
「私の優勝は自発的な願いではなく、父、他親族の皆に命じられた義務の一つだったんだ」
そして語る過去の一片。空自身も決して語ろうとしなかった自分が、一片とはいえ口に出している事実に驚いていた。
少しだけ笑った空の脳裏には、騎馬戦時の轟が見せた色深い緋色の炎が宿っている。
「私は綺麗だと思ったよ、轟君の炎」
「……クソ親父の炎なんざ」
「貴方の炎でしょ!!」
「!!!」
叫ぶ空。自身の個性だと言われ、この上もなく動揺する轟。
空は叫ぶ言葉を止めない。
ーー空様、どうして泣いておられるのですか。
大きな庭園の中で、泣いている幼少期の空。彼女に駆け寄るスーツ姿の青年が一人。
ーー私、自分の個性が嫌い。お父様とお母様に似たみたいで、嫌なの。使いたくない!
ーー空様、それは可笑しいですよ。
ーーなんで?
ーーだって…
(あぁ…今の今まで忘れてしまっていた、この言葉)
「だって、それを何に使い、何を守るかはあなた次第…でしょ?轟君!」
気づけば、自然と涙が両目から流れた。
轟は、彼女の言葉が心に深く深く突き刺ささったように顔を大きく歪めた。
ボワッと空の視界に現れた揺らめく緋色の炎。
「……轟君…?」
「これで、全力だ!」
轟は炎を使い、自身を凍らす氷を溶かしていく。そして両手を空のいる方向へ伸ばし、二種類の個性を発動させた。
青と赤が目まぐるしく混ざり合いながら、空の前に突撃をしてくる。最後の力を振り絞り、両方の個性を他空間に飛ばす空。
両者の個性がぶつかり合った後に残ったのは沈黙。大きな個性は大きな個性によって消され、フィールドに被害は全くない。
個性を解放した轟と無傷に見える空。観客席はこれから本当に決戦が始まるのだと盛り上がる。
「参った」
が、その盛り上がりも最高潮に達した時に、空は負けを認める一言を言い放った。
「え、柊さん。今、『参った』って言った?」
「はい、体力の限界です」
周囲の戸惑いなど御構い無しに、空は平気な顔をして場外へ出る。
「そこまで!」
ミッドナイトは少々惑いながらも審判を下す。
「轟君、二回戦出場!!」
(あぁ…個性使いすぎた。身体中が痛い)
二種目目から今の戦いまで個性を使いに使った空。出場者決定に盛り上がるのを背後にして、空は表舞台から去っていく。
「柊」
壁を伝いながら自分の力だけで保健室へと向かおうとしていたが、空の身体がふと浮き上がる。
「行かなくていいの?勝者は歓声を浴びなきゃ、轟君」
「こっちが優先だ」
轟はそう言って空を横抱きにしたまま、保健室へと向かう。運ばれている最中、彼は一言も発さなかった、何かを考えているかのようにずっと。そんな轟の顔を空も黙ったまま、ただ見つめていた。