「勝己、体育祭一位おめでとう」
「うっせぇ黙れ」
念願の一位を手に入れた高慢な幼馴染の顔を見る為空は爆豪と一緒に登校しようと、朝彼の家を訪れていたが、予想外の機嫌の悪さに驚く。
「まって、勝己。なんで嬉しく無いの?ごめんね、本当に申し訳ないんだけど、寝てて試合見てないの。今日学校終わったら録画見ようと思ってて…。何かあったの?」
「……轟ィ、あいつ全力出せっつたのに最後に火を消しやがった……あ”ぁぁ!クソ腹立つ!つか思い出させんな!!」
「な、なるほど…」
(轟君、色々と考える時間が欲しかったんだろうな)
「でも、やっぱりおめでとう勝己」
「あ?今の話聞い…」
空はより一層満面の笑みを浮かべる。
「勝己は全力でやった。それこそを誇るべきでしょ」
「…………」
「勝己のストイックなところ好きだけど、自分のこと褒める時にちゃんと褒めてあげなきゃ駄目だよ」
空が爆豪の頭を撫でながらそう言うと、爆豪は眉間にしわを寄せ彼女の手を払う。
「歳下扱いすんな、歳上ヅラすんな、うぜェ」
「……ククッ、だって歳上だもん」
うざいと言っている声からは微塵も苛つきを感じない。
「それとさ、お見舞いありがとうね」
「……保健室のバァさんにでも聞いたか」
「違うよ」
「あ?じゃなんでわかんだ」
寝ていたはずの空に誰が訪ねてきたなどと分かるはずがない。ならば何故爆豪が見舞いに来たことを知っているのだろう。
(勝己に言ったことないけど、勝己の個性上、汗の匂いが独特なんだよね。起きた時、病室に微かにそれが残ってて来たのかなぁって思ってたけど、やっぱり来てくれてたんだ)
「フフッ、秘密」
昔から爆豪のこの匂いを空は好んでいた。匂い自体というよりはそこから思い出される思い出をだ。昔彼らとよく遊んだ公園で、この匂いを感じるとそこには必ず爆豪と緑谷がいた。それが空の記憶には色濃く残っている。
そんな空の想いを知る由もない爆豪は、また俯瞰したような笑みをこぼす彼女に不満げな表情を向けていた。
「さぁ!早く学校行こう。勝己にきっとたくさんオファー来てるよ!」
「空」
空の元気を出してと言わんばかりの明るい声とは違い、爆豪が彼女の名前を呼んだ声は、真面目そのものだった。クラスメイトたちが聞いたら本当に爆豪の声なのかと疑うほどのもので、空はその声に快く振り返る。
「なに?」
ーースッゲーよな!オールマイト。どんな時でも絶対勝つんだぜ!
ーー勝己はオールマイトに憧れてるんだね。
ーー絶対オールマイトをも超えて、俺は最高のヒーローになるんだ
ーーすごい夢だね!私は応援するよ
小学生の時、いつも自分の話を興味深そうに聞いていた空の姿が、爆豪の脳裏をよぎる。
(そのままじゃ意味ねェんだ)
空が意識不明の間、ずっと考えていたこと__
自分は彼女のことを何も知らなかった。彼女は自身のことを話さない。いつも話すのは自分で、それを静かに聞いているのが彼女、そんな関係性の幼馴染。
正直に言えば、爆豪自身はそのままでも居心地は悪くはない。基本自分本位な彼にとって、素直に話を聞きてくれる彼女の性格は相性がいい。
しかし、それは子供までの話。互いは大人になりつつある、そのままでは駄目なのだと爆豪は分かっていた。
「……お前は何でヒーロー科に入ろうと思った」
だからこそ、爆豪は彼女との関係を改めることにした。変化を求めた。
始めたのはまず、何でもいいから彼女のことを知ること。
「……んー、それはねぇ」
ーーかっけぇよな、オールマイト!
ーー僕もオールマイトみたいになりたいなぁ
(私の世界を壊してくれた二人がその人に憧れた。だからこそ、私も大好きな二人が憧れる人になりたかった…)
「昔さ勝己がオールマイトの話をよくしてくれたでしょ?その時の勝己に憧れられてるオールマイトが羨ましくなったの」
空が話しているのは、爆豪が数秒前に思い出した小学生時代の一場面。同じ場面を両者が想像していたことに爆豪は瞠目した。そして静かに
「覚えてたのかよ」
と呟く。すると彼女は
「ちゃんと見てるんだから覚えてるよ」
と爆豪と視線をしっかりと合わせた上で、言い放った。その瞬間、目が一瞬見開かれ、眉間に皺を寄せる爆豪。
「空」
「どうしたの勝己、今日はよく話すね」
空は不思議そうにする。爆豪が戦闘以外の話をするのは、他者から話しかけたり、関わってきた場合が圧倒的に多い。だが今日は、彼が自発的に話をしていた。
爆豪は一歩先に進み、空との距離を縮める。
「そのままずっと見とけ」
それだけ言うとそのまま空を追い抜かし、歩いていく爆豪。
「………だから見てるってば」
初めからそのつもりだと空は微笑みながら誰にも聞こえない声で呟き、爆豪の後を追いかけていった。
高校へ行く道すがら爆豪と空の二人は体育祭の影響か、非常に多くの人に声をかけられていた。最も多かったのは、写真を撮らせてほしいと言う男子中学生たちに絡まれ、困っていた空に変わって爆豪が割って入ってそのまま彼女の手を引っ張って無視を決め込み去る、と言う流れ。そんなことをしてなんとかやり過ごしながら、二人は高校へと到着した。
「お二人さん一緒に登校?相変わらず仲良いーねぇ」
「おはよう〜、上鳴君、切島君」
教室に入ると一番に話しかけて来た上鳴に、前に座る切島も含めて朝の挨拶をする空。爆豪はまっすぐに自席へと向かう。
「はよ、柊。朝どうだった?」
「朝?」
切島の質問に首をかしげる空だったが、上鳴が語彙が欠けた助言をする。
「元々柊有名人だし、体育祭後は余計にスゲェんじゃね?」
「あー…。何人かには話しかけられたよ」
「やっぱなー」
多くの者に話しかけられた者、逆に年下にまで揶揄われるようなことを言われる者、そもそも気づいてもらえない者。皆が体育祭後の影響について話をしている。
「おはよう」
やっと顔面の包帯が取れた相澤が教室内に入って来たことで、騒がしかった皆はピッタリと沈黙する。
「今日のヒーロー情報学ちょっと特殊だぞ」
通常はヒーローに関する法律などを主に勉強する授業である“ヒーロー情報学”。相澤の警告とも言える言葉に、抜き打ちテストなどを創造し、身構える生徒たち。
「『ヒーローネーム』ヒーローネームの考案だ」
「胸ふくらむヤツきたぁぁぁ!!」
予想外に興奮する内容に、一度下げられたテンションから最高潮へと跳ね上がる皆。相澤が静かにしろと言わんばかりに拳を合わせたのを見て皆は再びピタリと黙りこむが、胸にこみ上げる歓喜の波は止まらない。
ヒーローネームを考案するそもそもの目的が、プロからのドラフト指名に関係していると、相澤が説明をし出す。
指名は永遠ではない。もらった指名が期待となりまた、ハードルとなることを自覚しながら、固唾を飲んで聞いている生徒たち。
「その指名の集計結果がこれだ」
スクリーンに映し出された画像には、上から
柊……5,632
轟……4,123
爆豪……3,556
常闇……360
飯田……301
上鳴……272
八百万……108
切島……68
麗日……20
瀬呂……14
と表示されていた。
「例年はもっとバラけるんだが、今回は三人に注目が偏った」
「だー、白黒ついた!」
「見る目ないよねプロ」
表彰台に上っていない自分に予想以上の指名数が来ていて流石に目を丸くする空。
「柊は元優勝者だし、今回もスッゲェ個性見せて活躍してたから納得だけど…」
「1位と2位逆転してんじゃん」
「表彰台で拘束されてた奴とかビビるもんな…」
「ビビってんじゃねーよプロが!!」
「ねね切島君、勝己拘束されてたって何?」
「そうか柊は見てねぇのか」
相澤によると指名の有無に関係なく、職場体験には行けるとのことだ。
「お前らは一足早く経験してしまったが、プロの活動を実際に体験して、より実りのある訓練をしようってこった」
コードネームの考案の理由を知ることで、皆の興奮度はさらに高まる。
「まァ、仮ではあるが適当なもんは…」
「つけたら地獄を見ちゃうよ!」
相澤の声を遮って現れたのは、相変わらず体のラインが一目でわかるド派手な格好のミッドナイト。
彼女は学生時代につけた名前がそのまま世に認知され、プロ名になって後悔をしているヒーローがいるという口ぶりで、教室へと入って来る。要は、ヒーローネームの査定は相澤ではなくミッドナイトによって行われるということだ。
重要なのは“名は体を表す”ということだけ。
こうしてヒーローネーム考案授業が始まった。
「I can not stop twinking(キラキラが止められないよ)」
青山の短文から始まり
「エイリアンクイーン」
芦戸の異質なネームが続く。
印象が強烈な名前が先頭を切ったことにより、その後に続く者が出しにくい空気になるが、子供の頃から決めていたという蛙吹の可愛らしいネームに教室中が和む。
そこからは怒涛のように発表されていくヒーローネーム。
己の特徴を踏まえた名前、憧れのヒーローを捩る名前…。
「いいじゃんいいじゃん、さァどんどん行きましょーー!!」
(ミッドナイト先生こういうのほんと好きだな…)
生徒たちよりも楽しそうなミッドナイトに笑いをこぼす空。麗日が発表し終えたのを見て、空は手をあげた。
「二年前の職場体験で使ったものだけど…」
空が少々照れ気味に置いたホワイトボードには
__常勝ヒーロー・スカイ
と書かれていた。
「常勝!強個性な柊さんにはピッタリね!それと…名前を英語にしたのね、シンプルオブザベスト!!」
他の皆はミッドナイトに同調する様に、拍手をしていた。
「爆殺王」
「そういうのはやめたほうがいいわね」
空の後に爆豪がヒーローネームを発表したが、即答でミッドナイトに弾かれる。
「完全にそれ敵側の名前だよ、勝己。ヒーローなんだから“殺”入れちゃまずいって。ねね、出久、勝己ってこういう時馬鹿だと思うよね?」
「えっ!?…えっと……」
「聞こえてんだよ、黙ってろ空!デク、テメェぶっ殺すぞ!」
「きゃー、怖い」
「かっちゃん僕は何も言ってないよ!」
思っていた以上にスムーズに進むヒーローネーム考案授業。最後に残っていたのは緑谷と飯田の二人。
どこか重苦しげな雰囲気を纏いながら、自分の名前をそのまま書いて発表する飯田。
(委員長…なんか雰囲気が違う?)
空はそれを感じ取り、注意深く彼を見つめていた。
次に立ったのは爆豪を除けば最後の緑谷。幼馴染のヒーローネームを発表前にワクワクを隠せない空は、教壇に立った緑谷を期待いっぱいの瞳で見上げる。
「えぇ!?緑谷いいのかそれェ!」
クラスの誰かがいったその言葉に、少し驚いた様子の空は同調するかのように首を傾げた。
「うん、今まで好きじゃなかった。けど、ある人に“意味”を変えられて…僕には結構な衝撃で嬉しかったんだ」
(お茶子だ。デク…か。初めは勝己がつけた蔑称だけど、フフッ、そっかそっか。いいヒーローネームじゃないか)
今緑谷が語った話は、入院中に空が既に聞いていたものだった。ずっと嫌だったものを良い意味へと変える言葉を緑谷にあげたお茶子、空は心底お茶子に感心しながら、満面の笑みで幼馴染のヒーローネームを聞いていた。
ーーなんか出久今日嬉しそうだね
ーーそうかな…?
ーー何かあった?
ーー実は…かっちゃんがつけた“デク”ってあだ名、すごく良い意味に捉えてくれた人がいて…。
ーーほうほう
ーーその人が言ってくれたんだ、“頑張れって感じで好きだ”って。
(あの時、照れながらも出久本当に嬉しそうだったもんね、フフッ、なんか私も嬉しくなってきちゃった)
「来週末までには提出しろ」
そう言って渡されたのは、職場体験希望先を書き込むプリント。自身に集まった事務所名全てが印刷されたプリントを一枚一枚丁寧に目を通していく空。
クラスの皆はそれぞれ、それなりに希望が通る様で気合十分といった様子だ。
「空姉は体験先どうするの?」
「………一応指名を貰えることは有り難いし、事務所名全てに目を通す予定だけど、希望は決まってるよ」
「え、そうなの!?何処?」
空は第一希望の欄にスラスラと文字を書き終えると、紙の表を緑谷に見える様に持ち上げる。
「えっ、そこって…」
「やっぱり、ビックリした?」
「うん。だって………
前と同じところだよね」
紙には“エンデヴァー事務所”と達筆な字で書かれていた。
「うん、同じ場所を二年前とは違う今の私の瞳で、もう一度見てみたいんだ」
そう言った彼女に微笑みながら、そういうことかと深々と首を縦に降る緑谷。
そんな彼の顔見て空は思い出した様に、「あ」と声をあげた。
「出久ごめんね、出久の体育祭トーナメント戦見れなくて」
「仕方ないよ、空姉は保健室で休んでたんだし」
「ちゃんと録画見るから安心してね!」
「う、うん…」
ふと、飯田の授業中に浮かべたあの表情を思い出す空。
「ところでさ、出久。委員長のこと何か知ってる?」
「そっか、空姉テレビとかニュースとか滅多に見ないもんね」
何も知らない空に緑谷は二人だけにしか聞こえない小声で耳打ちをする。
緑谷が空に話したのは“ヒーロー殺し”を二つ名に持つステインの存在と、その者に飯田の兄が襲われ重症だという二点。
彼の重苦しい雰囲気の正体はそれだったのかと、空は怪訝そうに目を細めた。
「大丈夫かな、委員長」
「この状況で大丈夫っていうのは大分酷だよ、空姉」
「あぁ、この大丈夫ってのは精神状態っていうより…変なことしないかなって方の」
「変なこと…?」
「……………恨みで動く人の顔はよく知ってるから」
「……………」
「友人として出来る限り支えようね、出久」
「うん、そのつもりだよ!」
主人公が飯田君のこと名前ではなく、委員長と呼ぶのが結構気に入ってます(笑)