「轟君、それに柊君まで…」
「何で轟君と空姉が!?…それに左!」
轟が自分たちがこの場所に着いた経緯を説明ながらも、いち早く大きめの氷結を展開させ敵を退いたのと同時に、空は持っていた植物の種からツタを生み出し、動けないプロヒーロー一人、他緑谷、飯田の二人を自分らのいる近くへと運ぶ。
「轟君、空姉、そいつに血見せちゃ駄目だ!多分、血の経口摂取で相手の自由を奪う!全員やられた!」
(なるほど、予想通り…)
エンデヴァーに提出した資料の中には、空が過去の事件から推理し尽くしたステインの個性のことも書かれていた。その内容と、実際戦った緑谷の言葉が合致したのだ。
「それで刃物か、俺なら距離を保ったまま…」
攻撃の構えをした瞬間、轟の頬をナイフがかすめた。凄まじい速さでよろけた彼の隙を見逃さなかったステインが長物を轟めがけて構える。
(しまっ)
「殺させない!」
空は個性を発動させると、轟の身体に接触するであろう長物の先端部分だけを空間操作で消し飛ばす。
すかさず、植物を増殖させ、反撃に出る空だったが、すぐさま体制を立て直し、向かってきた数本の木々たちを粉々に切り倒すステイン。
こんな狭い道で大規模な植物増殖も空間操作による物理攻撃もかえって自分らが不利になると考えた空は、空間操作でステインの
しかし
「早い…っ!」
物理的な攻撃と同じように、放った攻撃が動きまわる敵に当たるのは動きを読んだ上での話だ。空間操作で一本刀を失っているステインは彼女の見ている視線に注意をしながら、轟の氷結及び、炎を俊敏に動き回り裂けていた。
(私の視線だけで空間操作適応圏内を予測し、それでいて轟君の攻撃もよけている。こいつ…強い!)
「何故、三人とも…。やめてくれよ。兄さんの名を継いだんだ。僕がやらなきゃそいつは僕が…」
擦り切れそうでいて、激情に震える声。そんな飯田に空が声をかけるより先に轟が口を開く。
「継いだのか、可笑しいな。俺が見たことあるインゲニウムはそんな顔じゃなかったけどな」
防御のため轟が視界を埋め尽くすほどの氷結を展開させる。
「あの速さの敵に視界を塞いじゃ危ない轟君!」
空の警告の直後、粉々に粉砕された氷結の死角から、数本のナイフが轟の腕へと突き刺さる。
「賢いそっちとは違い、お前も良い」
良い=いらない。そう言っているように聞こえた空は、ステインの声を元に頭上を見上げる。ステインは長物を構え重力に任せ落下している、刀の刃の先は、轟。今からでは個性発動が間にあわないと悟った彼女の視界に入ってきたのは、動けずにいたはずの緑谷。
「出久!!」
「なんかうごけるようになった!」
服を引っ張り、そのまま地面に叩きつけるつもりだったが、空中にいる体制から肘打ちをくらい、地面に転がる緑谷。
「さがれ緑谷!」
反撃の隙を与えないため、直ぐに攻撃に移る轟。腕から大量に血液を流す彼に、緑谷と共に近寄る空。
「僕だけ先に解けたってことは…」
「考えられるのは三パターン。人数が増えるほど効果が薄れるか、摂取量か、あるいは」
「血液型によって差異が生じるか、だね」
三人が考察を述べると、ステインは気味悪く笑った。そして焦ることもなく
「血液型、ハァ…正解だ」
と告げた。
「出久、状況判断ならここの誰よりもあなたが長けてる。指示を頂戴」
空の言葉に一瞬驚いた緑谷だったが、真剣な表情でうなずいた。
人は複数人がいた場合、話している人物に無意識に視線がいくものだ。
(この女、確か死柄木が…)
地に目まぐるしく視界が交差する中ではなく、戦闘中でいても会話を挟んだ今だからこそ冷静さは増し、見覚えがあることに気づく。
敵連合に加わらないか、と死柄木にステインが勧誘を受けた日_
雄英高校の襲撃犯が自分だと暴露した死柄木に、ステインが目的はなんだと問うと。とりあえずオールマイトをぶっ殺したい、と飄々と言い放った死柄木。そして、気に入らない者は全て壊したいとの理由で、彼が見せたのは緑谷が映っている一枚の写真。
「こういうクソガキとかもさ」
「あぁ…あと」と死柄木が出したもう一枚の写真に写っていたのが_柊空だった。
「彼女は
オールマイトの名が出たとき感じた多大なる憎悪からくる執着心、それとは別の何らかの感情からくる執着心が死柄木からは感じられた。しかし、そんな私情ステインにとっては心底どうでも良いモノ。
なぜなら、ステインが理想とする世界に
ーー信念無き殺意は何の意味もない
「轟君は血を流しすぎてる、僕が奴を引き付けるから後方支援を!空姉は僕の援護と隙あらば武器を!」
「了解!」
「相当危ない橋だが…そだな」
轟、緑谷、空の背後にいるのは二人の生存者。
「三人で守るぞ」
「三対一か。甘くはないな」
空から視線を外したステインは、相手が高校生であっても一切の油断をすることなくより一層の警戒をした。
「やめてくれ…俺は」
復讐のためここに居るのに、他者に守られているこの現状。
復讐心で目が曇り、人を助けることを第一優先にできなかった愚かな自分。
情けなさ、悔しさ、怒り、様々な感情が入り乱れながら、三人にやめてくれと願う飯田。
涙を流し顔を大きくゆがめる飯田の姿を見て、轟がすかさず叫ぶ。
己がもらった二人のたった一言を胸に。
——貴方の炎でしょ!
——君の力じゃないか!
「やめて欲しけりゃ立て!」
俺がお前に言える一言___
「成りてえもん、ちゃんと見ろ!!」
何がヒーローだ。
友に守られ、血を流させて
——あいつをまず助けろよ。
他者に殺意という罪悪感から兄の名を出し、その行為を正当化した。
——試験という場でなかったら当然、僕もそのようにしたさ!
自分のことを顧みず友を助けた友人に嫉妬し、もし、なんてありもしない想像をして自尊心を守った。
(僕は…自分のことしか見れちゃいない!)
自分自身を罵倒する飯田。
脳裏にいっぱいにあふれ出る兄との思い出。憧れの人と今の自分、その歴然とした差に悔しさを彷彿させ、涙すら溢れ出てくる。
そんな中、一人の聞き心地のよい声が飯田の耳に届く。
「あのね、委員長。間違っていいんだよ、私たちはそれを学び立派になるために一緒に雄英に行ってるんだから」
彼女はそう言って
「だからね、
一人で立てないときは一緒に立ち上がろう?」
優しすぎる笑顔と共に飯田へと手を差し出した空。
飯田の瞳が揺れ動く。
(今、立たなければ。二度と!!
もう二度と彼らに、兄さんに追いつけなくなってしまう!)
飯田はその手をしっかりとつかみ取ると、勢いよく立ち上がった。
「飯田君!!」
「解けたか。意外と大したことねぇ個性だな」
立ち上がった彼に気づき、緑谷と轟が反応する。
「轟君も、緑谷君も、柊君も、関係ないことで申し訳ない……
だからもう、三人にこれ以上血を流させるわけにはいかない」
「感化され、とりつくろうとも無駄だ。人間の本質はそう易々と変わらない。お前は私欲を優先させる偽物にしかならない!
ステインは憎悪に顔を歪めながらそう言い放った。
「そんなの可笑しい」
常人なば気を失ってもおかしくはないステインの殺気を前に、空が強い口調で言い返す。
「あなたは確かに、悪意、と一言で片づけてしまうには惜しい人間なのかもしれない。あなたが言うように人助けに対価を求めて…本来の目的から外れたヒーローになる人も多くいるでしょう。でも…、あなたが殺した人にも家族がいた、恋人がいた、大切な人がいた!あなたはあなたの知らない場所にあった幸せを奪ったことには変わりない!」
空は、ステインの言う話を共感はなくとも理解はできていた。しかし、人殺しを許すことは秩序を失い、さらなる混沌を、憎悪を、悪意をこの世に招き入れることになる。それは間違いなく間違いだ。考えずにはいられなかった、他の解決方法を考えなかったか、ヒーローの在り方をそこまで杞憂しているのなら、人殺しでしか本当に問題を解決できなかったのか、と。
最後に空は血の通わない声で
「人殺しが、理屈を語るな」
と吐き捨てた。
その言葉にゆっくりと眉を顰めるステイン。
「…。飯田、柊の言う通りだ。人殺しの理屈に耳を貸すな」
「いや、柊君が言ったことに異論を唱えるつもりはない。しかし、俺は奴の言う通りヒーローを名乗る資格などない」
飯田の拳に力がこもる。
「それでも折れるわけにはいかない。俺が折れれば
インゲニウムは死んでしまう」
「論外」
ステインの殺気が倍増する。
プロヒーローが到着する時間が迫っている上に、個性の特質上多対一など最も苦手なパターンの一つ。焦りが、プロヒーローと飯田への執着心をさらに増幅させていた。
「轟君、温度の調節は可能なのか!?」
「
「俺の足を凍らせてくれ!排気口は塞がずにな!」
飯田の考案を理解した轟だったが、勢いを増したステインの攻撃が邪魔をし、飯田になかなか近づけない。
「轟君!その場で凍らせて!」
「!!」
「私が委員長の脚まで送るから!」
空間操作があれば距離があろうが関係ない。
「行くぞ!」
「うん!」
轟が氷結を展開させるのと同時に空はそれを飯田の脚へと送り飛ばす。
バキバキと排気口を残して凍り始めたのとステインが飯田の腕にナイフを突き刺したのは同時のこと__
止めをさすべく、ステインは飛び上がった勢いのまま飯田へと刀を構える。
——ありがとう、柊君。轟君。
戦うんだ!!腕など捨てておけ!!
腕に刺さったナイフを口を使い引き抜いた飯田は、今ある力全てをエンジンに込めた。
今は…
「「行け」」
空中に浮かぶ飯田と緑谷を見た、空と轟の声が重なる。
脚が/腕が…
あればいい!!!
轟の作った氷結上に落ちていくステイン。
あの執着心の高さ、油断禁物だったが
「流石に気絶してる…?」
「じゃぁ拘束して通りに出よう。何か縛れるもんは」
「ここゴミ置き場だし、紐とかあるかも」
ゴミ置き場から見事見つけ出したロープでステインを拘束する。それを一番の軽傷である空が手綱を握る。
「む!?んなっ」
「グラントリノ!?」
通りに出たところで緑谷の顔面に蹴りを入れる老人が一人。
「座ってろってつったろ!」
会話の流れ的に職場体験先の人だろうと思う空。
グラントリノが現れたのを境に何人ものプロヒーローたちが空達のいる通りに集まってきた。やっと本当の安堵が高校生四人に降りてきた。それを見計らって頭を下げる飯田。
「三人とも僕のせいで傷を負わせた。本当にすまなかった…何も…見えなく…なってしまっていた……!」
震えた声でそう言う飯田の謝罪を、三人とも各々の考えの元受け入れる。
これで心配事も解決し、やっとひと段落つくと空は思っていたが
「伏せろ!!」
グラントリノの一声が数分前の緊張感を戻した。
「敵!!」
一動が見たのは怪我をして血を流しながら飛んできた、脳無。
攻撃が来ると構えた空は、脳無の予想外の行動に対応が遅れ、目を見開いた。
「え、ちょ」
脳無が緑谷をさらったのだ。
「出久!!」
空は逃がしてなるものか、と全力の個性を発動させようとするが、それより先に彼女の視界を人影が凄まじい速さで横切った。その人影に反応し、一瞬視線を横に移した後、空中に視線をやるとそこには脳無はもういなかった。
視線を下におろすと
脳無に跨り、頭をナイフ一本で貫くステインの姿があった。
「偽物が蔓延るこの社会も、徒に力を振りまく犯罪者も、粛清対象だ」
血を吐きながら、意識が飛びそうな中、それでも話し続けるステイン。
「すべては正しき社会のために」
脳無が息絶え、立ち上がったステインが殺気を向けたのは空達のいる方向。
プロヒーローたちが戦闘態勢をとる中
「そっちに一人逃げたはずだが!?」
「エンデヴァーさん!」
おそらく他の事件をすべて収拾させたエンデヴァーが現れた。ステインを見るや否や臨戦態勢に移るエンデヴァー。
「偽物…」
ゾワリと久しく忘れていた本物の恐怖心が、空の全身を貫いた。凄まじい殺気の押収がその場全員に降りかかる。
「正さねば、誰かが…血に染まらねば…!」
憎悪か絶望か、吐きそうなほど強烈などす黒い何かがステインの周りを取り巻く。
「来い、来てみろ贋物ども。俺を殺していいのは
空がステインに言った言葉は作者が思っていたことそのまんまです(笑)
ステインは確かに魅力的ではありますが、飯田君のお兄さんの回想シーンを漫画で読むと、歩けなくなってしまうほど悪いことした人なのかな?、いやそんなはずないでしょと思ってしまうんですよねぇ。
飯田君のお兄さんは見る限り、人助けの対価など求めていなさそうだし、ならステインに襲われた理由ってただ本物のヒーローというには力不足だったのかな?と考えると、弱くたって良いじゃないか、人助けしたいっていう気持ちが間違いのはずないだろ!と思います。まぁ、あるアニメからの請け売りなんですけどね。