自由な空   作:蓮薇

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一章_再会

 

「空姉!!」

 

 

空にあったら何を話そうか。緑谷はこの数週間そんなことをずっと考えていた。学校では授業に身が入らず、麗日に何度「デク君大丈夫?」と心配された分からない。

 

 

 

しかし、病室の扉を開け、彼女の姿を見た瞬間、数週間で考えた内容は全て吹き飛び何も考えられなくなった。言葉なんてどうでもよかった、二年ぶりの表情ある空の顔、それを確認できれば心は大きく満たされた。緑谷は空がいるベットへと駆け寄っていく。

 

 

「出久!……久しぶり?って言った方がいいのかな」

 

 

申し訳なさそうに自重じめた笑みを浮かべる空。疑問形で話したのは、彼女自身がずっと意識不明で、時間感覚が掴めないせいだろう。

 

相変わらず優しく凛とした聞き心地のよい声と整った顔立ちに乗せられた綺麗な笑顔に緑谷は懐かしさを覚え、安堵する。

 

 

(良かった…二年前と変わらない空姉だ)

「ごめんね、いっぱい心配かけたよね。勝己にもたくさん怒られたよ」

「もうかっちゃんと会ったの!?」

「うん、ちょっと前に来たよ」

 

 

被らなかったのは偶然じゃない、と緑谷は直感した。昔から緑谷と爆豪の仲をよく知っている空があえてそうしたのだと分かる。

 

 

「私が寝てる間に仲良くなってるかなーって少しは期待したんだけど…ま、そうでもなさそうだったからさ」

 

 

周囲の誰かに聞いたのか。どちらにせよ、空の判断は正しいと思う緑谷。

 

 

「泣いてるの?って聞いたら、『それ以上言ったらぶっ飛ばす!』だって。ははっ、相変わらずだよねー、勝己も」

「かっちゃん泣いてたなんて信じられないな…」

「私も『勝己の泣く姿見たの小学生の時上級生と喧嘩してボロボロになって勝ってた時以来だな』って驚いて言ったら『変なこといつまでも覚えてんじゃねェぞ!』ってさらに怒らせちゃってさー」

(かっちゃんを怒らせて、笑って流す空姉も相変わらずだな…)

 

 

 

懐古的な記憶が蘇る緑谷。会って数分しか話していないのに、二人を囲む空気は二年前と変わらない、自然なものとなっている。それがたまらなく嬉しくて、緑谷も口元が緩んだ。

 

 

 

笑顔だった彼女が新たな話を切り出すと同時に真顔になる。

 

 

「でもちゃんと勝己にも謝ったよ。二年も心配かけちゃったのは本当に悪かったと思ってるから…」

「うん、そうだね…」

 

 

二年前大怪我を負って意識不明になった彼女。意識がはっきりしているからと言って少しでも肉体的負担になってはいけないと医師が定めた面会時間は極短い。緑谷はまた来るよ、と言って席を立つ。

 

 

「出久!」

「?」

「雄英合格おめでとう!夢だったもんね」

 

 

 

 

病室を出る直前、満面の笑みで最高の言葉を告げられる緑谷。最近起こった夢への第一歩を今一番会いたかった人に賞賛されたことは何にも代えがたいことだった。

 

緑谷は感動に溢れた表情で

 

 

「うん!」

 

 

と力強く返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病室の窓から外を眺める空。毎日のリハビリの成果もあって寝具から降り、自身の足でその場に立っていた。窓から見える景色は二年前とそれほど変わらない、しかし自身を取り巻く環境はかなり変化したらしい。

 

 

一番の変化はやはり緑谷の雄英合格だろう。無個性である彼が合格したのは衝撃だったが、仲の良い幼馴染が昔からの夢に向かって前進している姿は空にとって感動的だった。無論、同じ幼馴染_爆豪の合格もたまらなく嬉しいのだが、驚きという意味では緑谷が勝る。それに、緑谷と同じようにお祝いの言葉を爆豪に告げたら「当たり前のことに、んな喜ぶかよ」と一言返されただけの空だった。

 

 

ノック音が個室に響く。それに肯定の合図を送る清。

 

 

 

 

「お、勝己。今ちょうど勝己のこと考えてたんだよ」

 

「……」

 

「ん?どうしたの勝己」

 

「どうせろくなことじゃねェだろ」

 

 

空の言葉に一瞬何かを期待した勝己だったが、この女の性格はよく知っている、その考えをすぐに改める。

 

 

 

 

「ピンポーン」

 

 

 

 

幼馴染の入室直後からのふざけた態度に爆豪の頭に青筋が浮かぶ。雄英の制服姿の爆豪を見た空は、学校帰りに来てくれたのだと直ぐに分かった。

 

 

 

「ククッ…」

「おいコラ何笑ってんだ」

「いえ何も」

「嘘つけ、顔に書いてんだよ!」

 

 

空が笑いを堪えきれなくなったのは、爆豪の手に握られた花束に目を通したからだ。

 

 

「だって、勝己が花って…なんかねぇ?」

「ババアが持ってけつったんだよ!つーか笑うな!」

「フフッ、ごめんごめん。…ありがとうね勝己。光己さんにも御礼を伝えておいて」

 

 

 

 

からかうのはここまでにしようと空は真面目な声色で礼を言った後、爆豪の手から直接受け取り、花の匂いを嗅いだ。

 

 

「ちょっとまってね。今お茶入れるから」

 

 

 

 

花を受け取るために裸足でトテトテと駆け寄って来たと思えば、今度はお茶入れるためにと離れていく。病室内で動き回る空、そんな彼女の姿を爆豪は感慨深く見つめていた。

 

 

(…二年間ピクリとも動かなかったくせによ)

 

 

今でも思い出す、眠り続ける寝具の上の空。それと対比して今ある光景が現実味の無いようにどうしても見えてしまう。

 

 

そんなことを考えていると、ティーカップが置かれた高い棚に悪戦苦闘している空が目に入る。それに痺れを切らしたように一回舌打ちをした後、簡単に彼女の背後からカップを取る爆豪。

 

 

 

 

「……勝己、背伸びたね」

 

 

 

二年前はまだ自分の方が高かったのにと少し残念気味に呟き、時間の流れを実感する空。

空は平均的に見ても女子として高めの身長のため、二人の間に出来た差は少しではあるが、爆豪もいつも見上げていた彼女の容貌が、見下ろすかたちになっていることに気づき、彼もまた時間の流れを感じていた。

 

 

 

見上げる形の新しい視点で見る爆豪の顔を見て、彼女は何にかを不思議に感じたように少し顔を傾ける。

 

 

 

 

「…勝己、今日なんかあった?」

 

「!」

 

 

 

 

爆豪が瞠目する。その反応はわかりやすい肯定の意だった。

 

 

 

 

 

「………デクが個性持ってたの知ってたか」

 

「………。全く知らなかったよ、凄く驚いた」

 

 

 

 

本日雄英で行われたヒーロー基礎学は散々なものだった。内容は、ヒーロー側と敵側に二対二で別れ、それぞれの勝利条件を達成すべく奮闘する屋内戦。戦闘訓練だから成しえた勝利ではあるとはいえ、見下し続けた幼馴染による完全な敗北。帰り際オールマイトと緑谷に今後の覚悟を言い放ったが、だからといって憂鬱な気分が綺麗さっぱり晴れたわけではなかった。ぐちゃぐちゃになった心を抱え、気づいたら病院(ここ)に辿り着いていたのだ。

 

 

それを見事に見抜いた空を前に、なんでわかんだと納得いかなそうに口をつぐむ爆豪。

 

 

——ここに来れば高ぶった気分が落ち着くと思った。

 

 

そんな本心を、プライドの高い爆豪が口に出せるわけがない。そのことも含めてお見通しなのか、そうではないのかわからない笑みが空から爆豪に向けられる。

 

 

 

 

「何があったかわからないけど、洗礼されたって感じかな?雄英優秀な子多いからなぁ…。でも、大丈夫だと思うよ。私から見て、もう既に雰囲気が変わってる、勝己なりの新しい目標を見つけたようにも見える…ってなんて言ってみるけど、全然違ってたらごめんね」

 

 

 

 

爆豪の今の雰囲気や声色、入室時からの仕草でそこまで予測する空。予測といっても大部分は正確に言い当てたところが彼女の怖いところであり、長所である。相手の仕草から感情を読み取ることもヒーローの戦闘において大いに役立つ、彼女のこういった長所が二年前に雄英歴代最高得点主席合格、体育祭優勝、職場体験の際起こった大事件の解決、などでメディアに取り上げられ、騒がれ続けた空の根本的なチカラの源なのかもしれないと、なんとなく考える爆豪。

 

 

 

雄英入学から数週間、空の幼馴染二人は確実に変わりつつある。先に変わり始めたのは緑谷。安っぽい言い方をするなら、緑谷は頼もしくなったという感じ。そして今日、爆豪は冷静さを少し踏まえたように彼女の目に映った。

 

 

 

 

 

「勝己なら大丈夫だよ」

 

 

 

 

 

たった一言。答えも言葉の厳選などいらない。信頼を置いている相手に笑顔で安心する言葉をかけられるだけで良かった。

 

 

彼女の一言を聞いた瞬間ぐちゃぐちゃな気持ちが整理され、少し心にゆとりが出来る。そう理解できた爆豪は荒々しい雰囲気が嘘のように消え、静かな面持ちで空を見つめた。

 

 

 

 

ここに来て

 

 

ーーーあぁ、やっぱり正解だった。

 

 

 

 

こんな簡単に、今更何故だとは思わない、(こいつ)だからそうであるのだ。

 

 

昔からそうだった、よく分かっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんとなく爆豪自身も納得できたのを確認する空は、なにかを思い出したように「あ!それと」と続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝己、報告があるんだった」

「あ”?なんだよ」

「退院日が決まったよ」

「…そうかよ」

「あれ、反応薄」

 

 

気持ちの整理も驚くほどうまくいった、元気そうな彼女の姿も見た。爆豪は空の入れた茶を一気飲みした後、出口に向かって立ち上がった。

 

 

 

が、その直後彼女から告げられた言葉に足を止める。

 

 

「あ、それと。私雄英通い直すから」

「…………はぁぁぁぁ!?」

「お、こっちの方がいい反応か。よしよし。あ、ちなみに出久にはもう言ってあるから」

 

「なんで俺があのクソナードの後なんだ!?」

 

「そこ、張り合うとこじゃないってば」

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