自由な空   作:蓮薇

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二章_お人好し

空の回復は早かった。医師には数日前に「日常生活を送る上で身体的問題はほぼ無いでしょう」との言葉を貰い、今現在退院の準備を進めている状態だ。

 

そして今日、空は二年ぶりとなる雄英高校の門をくぐった。今後の雄英高校での学校生活開始にあたって、説明を聞いたり、手続きをするために訪れていたのだ。

 

 

「はー、終わったぁ」

 

 

空が教師陣たちと話し合いが終わった後ふと時計を見上げると、丁度雄英のお昼休憩時間になる頃だった。

 

彼女はどうせなら学食でご飯でも食べていこうと思い、それならばこの学校内にいる幼馴染をお昼に誘おうと1-Aを訪問した。お昼休憩開始直後にドアを開けたため、教室内は生徒全員が居た。見慣れない空の登場に視線が彼女へと一気に集中する。

 

 

「勝己ー、出久ー、どっちか私と学食でも食べに行こうよー」

 

 

大勢の視線が刺さる中で空は席が前後の二人の近くまで歩いていく。

 

 

「どっちかだァ?はなから俺の名を出せクソが!」

「えー、だってどうせ二人と一緒は無理だし。私出久ともご飯食べたいもん」

「空姉、そういえば今日学校来るって言ってたね」

「おいクソデク!俺と空の会話を遮んじゃねェ!!」

「ほらぁ、始まった。勝己のせいだからね三人でご飯たべれないの」

「この俺がクソナードと仲良くメシなんて食えるわけねェだろ!」

「いや、当然のように言うところじゃないからそこ。思いっきり悪いところだからそこ」

 

 

あの爆豪相手に思ったことをすんなりと言え、しかも何気に親しげに話す女子が現れたことにより注目度は更に増す。クラス内か外へお昼に出かける者は一人もいない。

 

そんな中焦ったように緑谷が爆豪の背後でジェスチャーをしていた。どうやら「僕は今度でいいから、かっちゃんといって来なよ」と言っているようだ。

 

大人だなぁ出久は、と感心しながら了解の合図を出す空。

 

 

「勝己いつもご飯一緒に食べてる人とかいたらその子も誘わないとね」

「いねェ」

「待てよ爆豪!俺ら入学初日から昼食いに行ってんだろ毎日!」

 

 

いつも決まったお昼を食べるメンバーいて、その者が一人だった場合、大事な食事相手を奪ってしまうことになると思った空。爆豪の言葉を否定したのは、赤い髪の毛を持つ人の良さそうな印象を受けるクラスメイトの少年だった。

 

 

「クソ髪黙れ。テメェはメシ一つ一人で食えねェのか、女々しいっつーんだよ!」

「はぁ!?」

(かっちゃんは空姉と二人で食べたいんだろうな…)

 

 

爆豪の突然の暴言を真に理解できているのは皮肉にも先ほど言い合いをしていた緑谷だけ。切島と空の二人はその真意に気づく様子は全くない。

 

 

「嘘ついた勝己の代わりに毎日食べてるって言っただけじゃない、何でそんなこと言うのよ。えーっと君は…」

「切島鋭児郎!」

「切島君ね。私は柊空」

(柊…空)

 

 

空のフルネームを聞いた切島はもう一度心の中で彼女の名を呟く。初対面のはずだ、それは間違いないと感覚的にわかるのだが、何故か会ったことのあるような妙な違和感が残る。

 

 

「嘘付きの勝己クン、毎日ご飯食べる友達にそんなこと言っていいんですかー。ちゃんと謝んなよ」

「謝らねェ」

「謝んな」

「謝らねェ」

「あーー、もういいって!気にすんな爆豪!…えっと、柊も!」

「気にしてねェよ!」

「そう?…切島君がそう言うなら……」

 

 

結局爆豪と空と切島の三人で学食に行くことに話はまとまった。爆豪と切島が去った後、教室内で上鳴と峰田が緑谷に急いで駆け寄ってきた。

 

 

「おいおいおい緑谷、今の美女誰だよ!?」

「あの色気は上級生と見た…お前も昼誘われてたみたいだけど知り合いなのか!?」

「空姉はかっちゃんと僕の幼馴染だよ。本当だったら雄英ヒーロー科の三年生なんだけど、事情があってしばらくの間学校に通えてなくて、通い直すって形にはなっちゃうけど、最近やっと学校に復帰できそうなんだ」

 

 

この時、クラス中の人間の頭に同じことが思い浮かんでいた。

 

 

(((なんか見たことある顔だったんだよな…)))

 

 

既視感それが違和感を生み、各々の脳裏に焼きついている。知り合いではないが、何処かで確かに見た人物のような気がするのだ。先ほどの切島と全く同じ感覚だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒーローが学食を作る食堂。広々としていてお昼の時間には学生たちで賑わう場所だ。

 

 

「おー、二年前と変わってないなぁ」

 

 

その光景は二年前と全く変わっていない。それが少し嬉しくて空は気持ちが向上した。

 

 

「二年前?」

「あ、切島君は勿論知らないよね。私ほんとはここの三年生なんだ」

「えっ!?ほんと!?あ!…本当っスか?」

「ははっ、いいよいいよ先輩とか思わなくていいから、もう少ししたら君たちと同じ1-Aに編入することになってるし、同級生として接してほしいな」

「じゃクラスメイトってことか?……そういうことだったら、改めてこれからよろしくな!柊」

 

 

切島が握手を求めると空もそれに答える。

 

 

「うん、こちらこそ、切島君!」

「………」

「?どうしたの切島君」

「さっきも思ったんだけどよ、柊って何か…見覚えがあるんだよな」

「……………あぁ、それは多分」

「雄英歴代最高得点主席合格、体育祭全種目一位を経て優勝、職場体験ヒーロー事務所オファー数史上最多…それがこいつの二年前だ。それだけ言えばどんな馬鹿でも分かんだろ」

 

 

空が何かを言おうとするより前に、爆豪は二年前、世間を騒がせていた彼女の経歴を簡単に話す。具体的な単語が切島の脳内を巡り、そして直ぐに空に関する記憶を思い出させた。

 

 

「あー!!そうだそうだ、思い出した!柊、テレビとか雑誌とかでよく出てたもんなぁ…はぁスッキリしたぜ!」

 

 

切島は爽快な表情で空を見た。彼のその視線が少しむず痒かった彼女は爆豪の肩を揺らす。

 

 

「ねぇ勝己、なんか言い方が壮大すぎだよ。もうちょっと…」

「事実だろ。俺の前を行く女は後にも先にもお前だけだ。そんでお前を超えるのも俺だけだ」

 

 

付き合いはまだ浅いが、それでもこれまで見たこともない程の真面目な爆豪の表情と声色に切島は呆気にとられていた。他者の強さをここまで素直に認め、その上現状では空に敵わないと完全に判断している。自分の方が弱い、と言い換えることもできる言葉を爆豪自らが言い放ったことに、切島は空という少女がどれほど爆豪にとって大きな存在なのかを実感した。

 

空も突然の爆豪の真剣な声のトーンに瞠目している。そして過去に一度、彼と真剣に個性による勝負をして勝った記憶を思い出す。

 

 

「いや、今やったらどうなるか分から…」

 

 

空が爆豪の言葉に返事をしようとしたその時だった。

 

 

《セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難してください》

 

 

突如学校の警報音が鳴り響く。入学したばかりの一年生はコレがなんなのか理解できないまま、恐怖心が湧き上がっていき悲鳴は大きくなっていく。

 

 

「なんだこれ!?」

「これは敵が侵入してきた時になる警報だよ、切島君、勝己の二人は先に避難用出口に向かってて」

「二人はって…」

「私はパニックになってる子とかの避難手伝ってくる!」

「え、ちょっ」

 

 

焦っている切島と眉を顰めながら警報音を聞いている爆豪、二人に指示を出した後空は、早々と人混みの中に消えていった。

 

 

「柊ってすげェな…」

 

 

焦るどころか、他者の救援に一目散に向かった空。ヒーロー科に属しているとは言えど、緊急事態にあれほど早い判断をして行動できる生徒は決して多くはない。しかも詳しいことはあえて聞かなかったが、空には二年間のブランクがある、であるのに自分を全く省みることなく救助に向かった姿を見た切島は、人一倍感傷的にそれを受け止め感心していた。

 

空が向かった方向を見つめる爆豪が少しイラついた口調で呟く。

 

 

「………少し前まで意識すらなかった病み上がりのくせによ…相変わらずのお人好しクソ馬鹿女だな」

「…………爆豪お前」

「あ”ァ?」

「いや何でもねェ!早く避難口に行こうぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

切島は爆豪自身も気づいていないであろう“それ”を言うのをためらった。

 

 

 

 

爆豪お前___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スゲェ心配そうな顔してるぞ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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