自由な空   作:蓮薇

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四章_見学をしよう

 

 

 

「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、それともう一人の三人体制で見ることになった」

 

 

警報騒動後のPM0:50、授業は通常通り開始された。今回のヒーロー基礎学はレスキューをメインとしたものらしく、生徒たちには訓練場はバスで移動するとの説明が聞かされた。

 

 

「あー、それと。今回もう一人生徒が見学に来ることになった」

 

 

相澤の入れとの合図と同時に現れたのは、警報騒動後帰った思っていた空だった。登場した彼女を前に爆豪、緑谷がクラス1番の驚きの声を上げる。

 

空は二人の対して苦笑いしながら教壇の前に立った。

 

 

「こんにちは、1-Aの皆さん。この度このクラスに編入することになった柊空です。諸事情で二年間休学していたので実際には皆さんの二歳年上なんだけど、同級生として仲良くしたいので敬語とかは無しで、名前も空と気軽に呼んだりして、普通の同い年として接してくれるとありがたいです」

「柊の編入日はまだ先なんだが、雄英に通っていたのが二年前ということもあり、学校生活及びクラスに徐々に慣らしていくのを目的に、たまにこうして参加型では無いが、見学として一緒に授業を受けることになった。説明以上、全員準備ができたら外に出ろ」

 

 

手短かく、そしてわかりやすく説明を終わらす相澤。雄英に通っていた、柊空の名前、二年前という単語からクラス全員が、既視感の正体を理解する。

 

 

(((通りで見たことがあると思った!!)))

 

 

空の編入を聞かされたクラスの反応は様々だった。有名人に対面した時のように浮き足立つ者、歳上故に接し方を考える者、彼女の言葉通り仲良くなりたいと応えようとする者。

 

 

「空姉今日は結構長く外にいるみたいだけど、身体は大丈夫なの?」

 

 

相澤が教室を出て行き、皆がヒーロースーツに着替えるなどして準備を始めた時、空の近くに緑谷が小走りで近寄って来た。

 

 

「うん、個性の使用は制限されてるけど、激しい運動をしなければある程度長く外出してても大丈夫って主治医の先生は言ってたよ」

「主治医の先生?」

 

 

普段聞き慣れない言葉に反応したのは、緑谷の一番近くにいる麗日。

 

 

「あ、麗日さん。うん、空姉は…」

「あ!この子が!」

 

 

緑谷が空の入院について説明しようとした時、意図的に空自身がそれを遮った。

 

 

「出久に学校の話を聞くたびに麗日さんの話を聞いてたから、会ってみたいなぁって思ってたんだ!」

「え!?デ、デク君が私の話を!?」

「ちょっと空姉!!」

 

 

真っ赤な顔で緑谷が焦り出す。

 

 

「試験の時に直談判してくれたってこと聞いた時からいい子だなって思ってたんだ。これから同じクラスで仲良くできたら嬉しいなぁ!さっきも言ったけど空って呼び捨てにしてくれて構わないよ、よろしくね麗日さん」

「……」

「どうしたの、麗日さん?」

 

空の握手を求めた手を握り返そうとしない麗日。不審に思った緑谷は麗日に声をかけるが、彼女は硬直したまま動かない。

 

 

(こんなに綺麗な人と話すの初めてや…)

 

 

陰を落とす睫毛、美しく大きな瞳、血色も形も良い唇、傷一つない白く透明感のある肌。握手を求められたことでより一層近くにに空の顔が見え、麗日は一瞬見惚れてしまっていた。

 

空が肩に触れたことで、やっと我に帰る麗日。

 

 

「二人ともごめんねぇ、ちょっとぼーっとしてた…。空って呼ぶから、私のこともお茶子でいいよ!」

「いいの?」

「元々私の方が歳下やし…。よろしくね、空!」

「うん。よろしくね、お茶子!」

 

 

このように空は見舞いに来た時に緑谷から聞いていたクラスメイト一人一人の情報を元に、全てのクラスメイトたちと自己紹介をし合った。

 

最中、上鳴が空のことを食事に誘ったり、峰田が空の何かを見て「ご立派…」と言葉を漏らしたりしていたのを除けば、問題無く全てのクラスメイトたちと軽い交流をすることができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよ出久ー。体操服なの?ヒーロースーツ姿見たかったのに…」

 

 

外に出た空はコスチュームに着替えた他とは違い、体操服姿の緑谷を不思議に思った。

 

 

「戦闘訓練でボロボロになっちゃったから、サポート会社の修復待ちなんだ」

「戦闘訓練?あれ、そんな話聞かせてくれたっけ」

「あ!いや…」

 

 

口が滑った、と緑谷は後悔する。数日前に行われた爆豪と正面衝突した戦闘訓練だけは空に話していなかった。

 

病院内は酷く退屈だったため、空は緑谷が見舞いに来るといつも決まって、学校内での起きた話を聞かせて欲しいとお願いをしていた。緑谷もいずれ編入する空が早く慣れるようにと話せることは全て話していたが、先日の戦闘訓練だけは無意識に避けていた話題だった。

 

 

「隠し事ですかー?出久くぅん」

「え、えーっと…」

「なんでも話してくれた昔の可愛い出久はもういないのかなぁ?」

 

 

空は片手を緑谷の肩に回す。至近距離にある空の顔と身体に幼馴染といっても流石に照れ始め、焦っている緑谷。

 

仲よさげなそんな二人に峰田と上鳴から嫉みの視線が注がれるが、直ぐに二人の間を乱暴な手つきで割く爆豪。

 

 

「じゃれんな、気色悪りぃ」

「お!勝己。キマってんね、コスチューム」

「……っ」

 

 

カッコイイよ、と素直に褒める空を前に一瞬言葉を詰まらす爆豪。しかし、その後直ぐに「ったりめェだ!」といつもの調子で叫ぶ。

 

 

「………でもいいな、私も参加したくなって来ちゃった」

「じゃじゃ馬女のくせに見学なんて似合わない真似してんじゃねェよ」

「だから、主治医がー」

「お前が医者の話なんか聞く玉か、あァ?」

「えー、私を何だと思ってるの」

「女らしさのかけらもねェ残念女」

「なんだとー!そっちだって類を見ない自己中男のくせして!」

「あ”!?」

 

 

初めは服装を褒めたりしていたいい雰囲気だったのに、会話が長引くにつれ喧嘩に発展し始める空と爆豪の二人。そんな二人を止めようと周囲の麗日らが焦り出すが、いつものことだから放っておいていいよ、とアドバイスをする慣れた緑谷。

 

 

「さっさとバスに乗れ」

 

 

最後は担任相澤の一言で全てが終わった。

 

 

 

 

 

バスに乗り込む直前、前を爆豪、後ろを緑谷にした空が先ほどの質問__

 

じゃじゃ馬女のくせに見学なんて似合わない真似してんじゃねェよ

 

の答えと思われる言葉を小さな声で呟いた。

 

本心を言えばまだ病み上がりの彼女がじっとしていてくれることについては余計な心配をしないで良い為、爆豪にとって好都合ではあるのだが、救援訓練や敵との戦闘訓練をヒーローになるための経験としてあらゆる授業の中で最も大事にしていた二年前の空。鈍った身体のウォーミングアップだよとか言いながら、無理にでも積極的に参加しそうな性格なのに、彼女は“見学”を選んだ。

 

二年前の大怪我で少しは大人しくなったのかと期待はしてみるが、爆豪及び緑谷には見学という選択は少々腑に落ちないものだった。

 

 

「あのね、勝己、出久。私さぁー実は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目覚ましてから上手く使えないんだよね、個性」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上手く使えないとは、少しは使えるという意味なのか、それとも全く使えなくなってしまったという意味なのか、幼馴染はバスの移動中考えていた。

 

そんな二人の姿をバスの最後列に座り見ていた空は、言わなければよかったのかもしれない、と後悔をし始める。十分過ぎるほど心配をかけたく二人に、これ以上極力心配をかけたくない、という思いが空にはあったからだ。

 

 

「どうした、考え事か」

「ん?」

 

 

完全に一人の世界に入っていた空は、ハッとしてその声の方向に顔を向けた。声は乗車後ずっと俯いている空を心配した轟のモノだった。

 

 

「うん、ちょっとね…」

「俺でよければ話は聞くが」

「ありがとう、轟君。でも本当に大丈夫」

 

 

本人は何も気にしていなさそうだから言うことはしないが、昼間の出来事の微かな恩返しができればいいと思った轟。彼女の言葉にそのまま引き下がろうとする轟だったが、

 

 

「後悔しないように生きたいなぁって無理なこと考えてただけだよ」

 

 

とその後に付け加えた空の興味深い言葉を聞いて、今座っているバス席から出席番号順をまだ割り振られていない為、一人のみで座っている空の隣に移動した。

 

そして真面目な面持ちでこう言った。

 

 

「……無理なのか、後悔せずに生きるのは」

 

 

轟の真剣な横顔から、何かを感じ取った空。しかし、それについては詮索する時では無い、今は聞かれた質問に自分なりの答えを言葉にするのが先決だ。

 

 

「無理に決まってる、だって失敗しない人間なんていないもの」

「…………」

「これは私の個人的な意見だけど、その後悔を修復することが一番大事だと思ってる」

「後悔を修復?」

「うん、後悔故に起きた惨事をどうにかして少しでも良い方向へと導こうって、考えるの」

「!!」

 

 

轟は瞠目した。そして直ぐに「考える…」とだけを小さな声で呟いた。

 

 

「だって、“修復できる可能性がある過ち”なら、何もしないのは勿体ないじゃない?」

「そうか……、ありがとう柊。またお前のおかげだ」

「?……う、うん、こちらこそ」

 

 

空は再び御礼の意味が分からない状態になるが、満足そうに少し口元を緩ます轟を見て、それ以上の意味は必要ないと問うことはしない空。

 

 

 

 

客観的になごやかな雰囲気が流れる二人の間だったが、

 

その後

 

「修復できない過ちもあるけどね…」と自分自身に言い聞かせるよう彼女が呟いていたことを轟は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟と空がバス内で話していたように、他の皆も会話に花を咲かせていた。

 

緑谷は蛙吹にオールマイトと個性が似ていると言われ、焦り出し、爆豪は同じく蛙吹に人気が出なさそうと言われ反発していた。

 

 

「まぁ、派手で強いっつたらやっぱり轟と爆豪だな!」

 

 

そのなかで、轟と空の会話がひと段落した後に丁度聞こえてきたのは切島の声。

 

 

「え、轟君どんな個性なの?」

「俺は…」

 

 

切島の声に文句無しといったように賛同するクラスメイトたちを見て、そんなに凄いのかと空は轟に聞いてみることにした。

 

話題が轟と爆豪になったことで、皆の視線が空の隣にいる轟に一瞬集まる。

 

 

((お前はなんでそこにいんだよ!!))

 

 

場所の変わらない空、轟から空の隣に意図的に移動したことは明らか、無論二人の会話の内容を知らないクラスメイト達は、各々勝手な想像をし始めた。

 

 

「くそぉ、イケメンだからって…」

 

 

先程食事を誘った上鳴は手が早いと言わんばかりの視線を轟へ微かに向けていた。

 

 

「それと、雄英体育祭で見てて思ったんだけどよ、柊の個性なんだかよくわかんなかったんだよな」

「凄かったよね!対戦相手の攻撃がパッと突然消えちゃったり…」

「そう思ったら植物操ったりして…」

「疑問に思ったら聞いてみればいいですわ!ご本人がこちらにいるのですから」

 

 

各々が二年前見ていた雄英体育祭の様子を思い出し、発言した。

 

 

「私の個性は植物と空間だよ。植物はそのままで植物全般を操る個性、空間は…ちょっと複雑だからまた今度紹介しようかな」

「轟と同じ二つ持ち…」

「えー、空は本当に見学だけなの?」

「柊君は雄英体育祭優勝した優秀な先輩。見学だけでは非効率的だ、共に訓練に参加することで学べることが沢山あるだろうに」

「え、えっと……」

 

 

「もう着くぞ、その辺にしておけ」

 

 

空の訓練不参加を不徳とする生徒たちに、困った空だったが、タイミングよく会話打ち切りを告げる相澤。空はこれからお世話になる教師陣にはほぼ全ての事情を話してある、十中八九彼の計らいだろう。

 

 

 

 

 

 

静寂の中だからこそ聞こえる、空が手の中で何かを転がしている音。

 

 

「何だそれ」

「あぁこれ?フフッ…“役に立つもの”」

 

 

質問した轟に意味深げにあやふやに答える空。

 

 

 

 

 

 

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