自由な空   作:蓮薇

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六章_敵の脅威2

 

 

 

「あれ…痛くない」

 

 

空がワープにより落とされたのは雪崩ゾーン。雪山での雪崩を想定した際の訓練場、雪が着地のクッションになってくれたのは幸運だった。

 

地面が雪だと確認した直後、息つく暇もなく敵と思われる武装集団が空へと数人襲いかかる。

 

 

(ワープ後間髪入れず襲いかかることで、倒してしまおうって…?)

 

「甘いんだよ!」

 

 

空は敵の拳を軽々しく避けた後、親指を人間の急所である喉元の中心に思いっ切り押し出した。彼女の親指が男の喉元を潰すほど入り込むと、男は悶絶して首を抑えながら後退した。

 

 

「喉元を潰せば、簡単に呼吸困難になるんですよ…。ほうほう…攻撃速度は遅い、と」

 

「小娘が!舐めるな!!」

 

 

指を銃のように変化させ、銃弾を発射する敵。空は焦ることなく、先程悶絶させた男を盾にして突き進み、死角から二本指を前に突き出して男の目を封じた後、回し蹴りを食らわせ、頭をコンクリートの地面へと沈めた。

 

これらの行為、ここに飛ばされて10秒もしない間に繰り広げられたものであり、ただの少女が敵と言えども迷うことなく人間の身体を銃弾の盾に選ぶことや人間の急所を知り尽くしているような発言、焦りひとつ見せず敵を潰そうと殺気立っている少女を前にして、この場にいる敵全員が一瞬にして震え上がる。

 

 

「納得いきませんか?ただの高校生がって…いや、そうじゃないか。ヒーロー志望の学生が随分残忍だなっと思ってますか?」

 

 

終いには口元で弧を描く少女。

 

ここにクラスメイトの一人でも入れば、この少女が本当に空であるかを疑うだろう。それほど今の空は普段との雰囲気が激変していた。

 

 

「まだろくに戦闘訓練もしていない入学直後の一年生を狙う。おまけにお前らは数で勝っている上に移動後の不意打ちという形でなぶり殺しにしてしまおうって腹づもりだ。卑怯にもほどがある、これで怒らないはず無いでしょう」

 

 

空は完全に怒りを爆発させていた。周囲にいる人間全てを完全に敵視した目が濃厚な殺気を纏っている。

 

 

「それにこの程度のチカラなら、数合わせに集められたチンピラってところだ。己の憂さ晴らしのために、この作戦に参加したってか?ふざけるなよ三下風情が」

 

 

最高にイラついた様子で暴言を吐く彼女は、制服の中から小さな種一つを出した。先程バス内で爆豪に質問されたその物だ。

 

 

「体術で一人一人倒していては時間がかかりますからね…すぐにみんなのところに助けに向かいたいので、個性を使用し、一斉排除します」

 

 

その小さな種が個性?と敵たちは先ほどの威勢はハッタリか、と口々に笑い出す。

 

 

「私の個性の一つ植物増殖はね。植物を操れはするものの、植物自体を一から生み出したりはできないんですよ」

「自分の個性をベラベラと語るなんざ、馬鹿だな」

「嫌だなぁバラしても無害な雑魚だから教えてあげてるんですよ」

「なんだと!?……植物増殖だと、お花でも咲かせようってのかい、可愛いこった!!」

「まぁそういうこともできますが、戦闘時においては…」

 

 

空が手から種を落とした瞬間、異様な音を立てながら、枝が何重にも重なり、太い幹を作り出していく。異常な速度で成長している植物は数秒もかからず周囲に大きな陰を落とすほどの大木になった。

 

太い幹の上に立ち、敵たちを見下ろす空。

 

 

「さて、馬鹿な貴方たちに問題です。これほど大きい幹にぶん殴られた時、人はどうなるでしょう?

 

答えは…自分の身体で体験してくださいよっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空が出現させた大木はどの災害エリアからも目視できるほど巨大だった。

 

 

 

〈〈倒壊エリア〉〉

 

 

__上手く使えないんだよね、個性

 

 

「………ちっ」

 

 

ワープにより飛ばされ、落とされたこの倒壊エリアで戦い始めてから数分間ずっと爆豪の脳裏から離れない空の言葉。

 

しかし、最後の一人と思われる敵を片付けた直後、聞いたこともない音が地鳴りと共に聞こえて来た。倒壊エリアのビル窓からその方向に顔を出すと、空の個性と思われる大木が確認できる。

 

 

「あの女ァ…何が個性使えねェだ。頗る元気そうじゃねェか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈〈水難エリア〉〉

 

 

緑谷たちは、お互いの個性をうまく使い、窮地を脱した後。

 

 

「空姉大丈夫かな、早く助けに行かないと」

 

 

そう呟いた緑谷に蛙吹と峰田が首を傾げる。

 

 

「空ちゃんは生徒の中で一番戦えそうだと思うけど…」

「そうだぜ緑谷!柊、敵が現れた時も一人だけ冷静だったしよ」

「いや…空姉は」

 

 

ーー今は、個性が使えないんだ

 

といいかけた時。他のエリアにも鳴り響いているであろう音が聞こえてきた。三人は反射的にその音の方向を見ると、遠くからでもはっきりと目視できる程大きな木が聳え立っていた。

 

 

(あれは…っ!良かった、空姉は大丈夫そうだ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空が中央広場に到着した時、相澤は疲労しながらもまだ敵を制圧すべく戦っていた。

 

 

「お前…っ!」

 

 

なぜ来た

と言いたかったが、今は戦闘中、小言の一つも言える余裕は無い。

 

空は相澤の個性発動範囲外つまり視界外へ上手く移動しながらも、相澤の負担を減らす為サポートができればいいと思いながら個性を発動させた。

 

 

「倒れろぉ!!」

 

 

先ほどとは違い、今度は細く丈夫なツタを増殖させ、それらを自由自在に操りながら敵を一人一人捕縛していく空。

 

 

「助っ人登場…はぁ、嫌だな。最近の子どもは優秀で」

 

 

彼女の闘いぶりを見ながら今回の奇襲の主犯格らしき青年が呟く。相澤から少し離れた場所の敵をある程度戦闘不能に追い込んだ空は、その後、青年に身体を向けた。

 

 

「雪崩エリアにいた敵に喋らせた、お前の名は死柄木。そしてお前が主犯…倒せば司令塔は潰れる」

 

 

細かったツタをさらに増殖させ、丸太ほどの太さに成長させる空。完全に死柄木を一気に潰すつもりのようだ。それに応え、戦闘態勢をとるかに見えた死柄木だったが、彼女その一連の動作を見ると、敵対どころか興奮し切ったように目を見開いた。

 

 

「植物を操る個性…なるほど、君が柊空か!」

「!」

「雪崩エリア…確か今作戦最大の数を送ったんだけどなぁ……なるほど強い」

 

 

無論最大数を送ったエリアに彼女がワープで飛ばされたことは偶然だが、今の現状よりそこの敵が全て倒されたことは明らか。死柄木は戦力を削られた側であるはずなのに、彼女が柊空であると知った瞬間、矛盾して口元から笑みがこぼれだす。

 

そしてこう告げた。

 

 

「流石、“あの人”が甚く君を絶賛していただけはある!!」

「!!?」

 

 

ーーあの人…?

 

 

空は死柄木から出た単語を即座に脳裏で繰り返してみるが、何も思い当たる節はない。

 

 

(なんなの…この人。あの人って一体…)

 

 

面識などないはずの人間相手に困惑を隠せない空。

 

「よそ見とは随分余裕だな!」

 

 

空と会話に夢中だった死柄木に周囲の敵を一掃した相澤が飛び込んでいく。

 

 

「おいおい…折角彼女と話してるんだ、邪魔をしないでくれよイレイザーヘッド」

 

 

不意をつかれたはずの死柄木は、全く同様などせずただ一言「脳無」とだけ呟いた。

 

その瞬間、目にも留まらぬ速さで相澤の身体が吹き飛ぶ。それを成した元凶は、間髪入れず彼の身体に跨り、腕を握りつぶし動きを封じた。まるで小枝でも折るかのように彼の腕を潰した存在、それは異様な姿形をした化け物。

 

 

「っ…先生!」

 

 

相澤の苦痛の声が響き渡ると同時に、空は今は考えている時では無いと改め、相澤へと駆け寄ろうとする。

 

 

(思考してたとはいえ、今の速度、全く反応できなかった。しかもあのパワー、あれがきっとオールマイトを殺すっていう…)

 

 

走りながらも分析をやめない空。

 

敵うか、敵わないかでは無い、今少しでも時間を稼がなければ救援まで生徒たちは保たない。

 

それが彼女の戦闘意欲を掻き立てていた。

 

 

(この怪物相手ならもう一つも…)

 

 

しかし

 

突如として、もう一つの個性を発動させようとした瞬間、空の身の一部を激痛が貫いた。その痛みが、走っていた足を止め、その場に膝をつかせる。

 

第三者に攻撃されたのでは無い。この痛みの原因を彼女はよく知っていた。

 

 

「ちっ……こんな時に。やっぱり駄目なのか」

 

 

本来彼女は二つの個性を同時に使い戦っていた。しかし目覚めてより、片方の個性_植物増殖しか正常に発動しない上に、もう一つの個性を併用しようとすると必ず身体のどこかに不調が現れる。

 

これが上手く使えないと言った言葉の正体だった。

 

膝をつきそれでも意欲にかられ立ち上がろうとする彼女を見て、死柄木はさらなる言葉をかける。

 

 

「ククッ…まだ“二年前の傷”が癒えてないんじゃ無いのか?」

「……っ」

 

 

今度は直球だ。二年前の傷、それは考えるまでもなく記憶として空の脳内に鮮明に残っている。

 

これでハッキリした、この男完全に知っている。

しかし、何故それを知っているのだ、と口に出しかけた時

 

 

「死柄木弔…」

 

 

死柄木の側にワープの個性を持つあの敵が忽然と現れた。

 

 

「黒霧、13号はやったのか?」

「行動不能にはできたものの、散らし損ねた生徒がおりまして…一名、逃げられました」

「……………は?」

 

 

数分前の笑みは消え、最高に不機嫌な様子に激変した死柄木は、自身の首に爪を立てる。

 

 

「黒霧…お前っ!…お前がワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ!」

 

 

呼吸は荒くなり、いらつきが増しているのが分かった。血が出そうなほど掻きむしり続ける彼の様子を異様な光景として空は見つめている。

 

その手を止めた時、脱力した気力のない声で死柄木言い放った。

 

 

「流石に何十人のプロ相手じゃ敵わない…ゲームオーバーだ、あーぁ、今回はゲームオーバーだ。………帰ろっか」

 

 

まるで今回の奇襲を本当の仮想世界_ゲームのようにしか考えていない場違いな発言。

 

しかし軽々しい発言とは違い、逃してなるものか、と強い視線を空へと向ける死柄木。

 

 

「でも柊空、君には一緒に来てもらおうか、あの人が会いたがってる…ククッ、それに生徒が拐われたとなっちゃ…平和の象徴としての享受を少しでもへし折れるだろう」

「…………あの人って誰よ」

「来ればわかる。さぁおいで柊空」

 

 

聴覚にまとわりつくような不気味な死柄木の声。彼は空がいる方向へと早走りで近づく。空は地に膝をつきながらも個性を発動させようと抵抗の意を表すが、身体は思い通りにならない。

 

 

「抵抗するなら、片足一本でももらおうかなぁ……」

 

 

死柄木が空がいる場所まで到着すると、彼はそう言い、有言実行を試みようとする。彼の手が空に触れる前に、死柄木自ら手を止め一つ舌打ちをした。

 

 

「本当カッコいいぜ…イレイザーヘッド」

 

 

血まみれの顔になりながらも、生徒を守るべく個性を発動させる相澤。空からは命懸けで生徒を守ろうとする彼の充血した瞳が一瞬見えたが、すぐに化け物が相澤の髪の毛を鷲掴みにして地面に叩き潰した。

 

 

「空姉から手っ…放せぇ!!」

 

 

大人しく捕まった方が被害が少ないのかもしれない、と空が抵抗をやめかけた時、緑谷の声が耳に届いた。

 

 

「出久!?」

「SMASSH!!!」

 

 

緑谷の拳が死柄木を捉えた。風圧で空の視界が塞がれる。その余波でまだ残っていた敵たちの何人かも吹き飛ばされる。

 

 

(これが…出久の個性)

 

 

緑谷の個性を初めて見た空は、可能性を大にしたチカラを前に瞠目している。

 

 

「空姉大丈夫!?」

 

 

風圧により土煙が舞う中で、緑谷は拳が当たった手ごたえを感じながら、呆気にとられている空に声をかけた。

 

 

「うん…ありがとういず…」

 

 

礼を言わねば、そう思ったのもつかの間信じられないような表情をした空が、土煙の中を凝視した。

 

緑谷が攻撃したのは死柄木ではなく、脳無と呼ばれた化け物。いつの間に、と怪物の移動速度も驚くべきことだが、何より緑谷が驚いたのは、傷の一つも付いていない怪物の身体だった。

 

 

「SMASSHって…君、オールマイトのフォロワーかい?」

 

 

死柄木は全く興味がないように、殺せという合図であろう「まぁ、いいや君」という言葉を脳無に言い渡たす。

 

空は死柄木の言葉を聞いた直後に痛みをこらえ、緑谷めがけて飛び込む。脳無が緑谷を押し潰そうと、片腕を振り上げる時、空が丁度緑谷を庇うため覆いかぶさるような形になった。

 

 

緑谷は空のとっさの判断にそれを受け入れることも否定することもできない状況で、ただ目を見開き驚くことしかできなかった。

 

空は脳無の手が振り落とされる直前に、限りなく現実に迫った“死”を実感する。

 

 

ーー絶望

 

緑谷、空がその瞬間同じ思いを胸にした時

 

 

 

 

「もう大丈夫…私が来た」

 

 

世界一頼もしい声とともに、入り口のドアが破壊された音がUSJ全体に鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平和の象徴_オールマイトの登場だった。

 

 

 

 

 

 

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