自由な空   作:蓮薇

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八章_一人じゃない

 

 

 

 

USJ襲撃後の翌日の学校は臨時休業校となった。マスコミは当然この騒動を大きく取り上げ、連教師陣はいつもの授業をこなしながら、その対処に追われた。

 

生徒たちは昨晩の自分たちがテレビに映った話題で盛り上がりながら、朝のホームルームの時間を迎える。

 

 

「今日のホームルーム誰がやるんだろうね?」

「そうね、相澤先生は怪我で入院中のはずだし…」

「あとさ、爆豪と緑谷の間に席が追加されてるけど、そこ柊が来んのかな?」

「そうだと思うけど、多分空姉は当分…」

 

 

大怪我をした相澤、怪我らしい怪我はしていないものの大きな負担を身体にかけた空。無論クラスメイトには元々の原因である_空がなぜ二年間休学していたかを知らない者が多いが、緑谷の反応からして相澤と同じく当分の間入院生活が続くと思われた。

 

しかし、朝のホームルーム開始のチャイムと同時に開いた教室のドアから、今まさに話題に上がった二人の姿が現れる。

 

 

「「「相澤先生も柊も復帰早っ!?」」」

「当初の決定よりだいぶ早いが、本日から柊が正式に編入する」

 

 

空は、相澤に指示された席へと移動し、そっと腰を下ろす。

 

用意された席はあいうえお順で爆豪と緑谷に挟まれている席。何かと因縁がある二人の間に、仲介役が上手い彼女が入ったことに安心感を隠せないクラスメイトたち。

 

 

「よろしくー、勝己と出久」

 

 

前後の二人に挨拶をする空、爆豪は返事のつもりらしい仕草を黙ったままするが、緑谷は納得いかない顔を剥き出しにして、席に座った空の肩を叩く。

 

 

「空姉身体は大丈夫なの?」

「うん、全然平気。一時的なものだったらしいよー」

「絶対全然平気じゃないでしょ、空姉血吐いてたし!」

「退院させないと病室に火をつけるって主治医を脅したー」

「えぇっ!?」

「んなわけないじゃん。面白いなぁ出久は」

 

 

「相澤先生!柊君!どちらともご無事だったんですね!」

「俺の安否はどうでもいい、何よりまだ戦いは終わってねェ」

「「「た、戦い!!?」」」

 

 

襲撃事件からまだ二日しか経っていない。戦いなんて冗談じゃない、と固唾を呑む生徒たちだったが、次の相澤の言葉で歓喜の声を大きく上げた。

 

 

「雄英体育祭が迫ってる」

 

 

かのスポーツの祭典に変わり、毎年日本中を熱狂させている雄英体育祭。生徒たちの盛り上がりは尋常でない。

 

 

「相澤先生」

「どうした柊」

「私は一応二年前に行事として参加は終えているのですが、今回はどうすればいいのでしょう?」

「柊は自由参加だ。お前は体育祭後の仮免試験まで一通り終わってるしな」

 

 

正直言って柊は仮免試験後から編入予定だったんだが、お前本人の強い希望もあってか、この時期になった。だから好きにしていい。

 

と相澤が付け加える。

 

 

「二年前の雄英体育祭一年ステージ、俺スゲェ覚えてるぜ」

「柊ホントに圧倒的だったもんね」

「正直、柊が参加するなら勝ち目無いって思っちまうよなぁ」

 

 

切島、耳郎、上鳴は彼女が活躍した二年前の映像を脳裏に浮かべながら話す。

 

勝ち目が無いと思ってしまうのも仕方がない。二年前の空は怪我をしていない万全な状態で、二つの個性を意のままに操れていた。その上判断力と思考力はずば抜けており、的確なタイミングの妨害やら攻撃は選手及び多くの視聴者たちを驚嘆させた。

 

 

(ははっ、みんな私に参加して欲しくなさそうだな)

 

 

遠回しだが、要は参加を望まれていない発言に空は少し苦笑いをする。

 

 

「では、ホームルームを始める。全員私語は慎め」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__植物を操る個性…なるほど、君が柊空か!

 

__流石、“あの人”が甚く君を絶賛していただけはある!!

 

__今度はあの人も連れてくる…楽しみにしているといいよ、柊空。元々君は“そっち側の人間じゃない”…………だろ?

 

 

(頭から離れない…あの人の言葉が)

 

 

二日前からずっと空の脳裏から離れない死柄木の声。恐ろしさからではない、彼らはまたこの雄英の生徒たちを襲うだろう。もしこの言葉の中に次の襲撃に関してのヒントになり得るものはないかと考えていた。

 

 

「はぁ…」

 

 

空は大きなため息をつく。

 

 

(二年前のことといい、彼の“元々”って言葉……“柊のこと”、“私たち”の知っている?でも、何故………)

 

 

「随分大きなため息だな」

 

 

轟君の声だ、と空はすぐにわかった。頬杖をつき、外の景色を見ながら考え事していた空だったが、直ぐに座り直し彼の方を向き直した。

 

 

「また考え事だよー」

「授業中もか」

 

 

授業中何度もよそ見をしていたことを空を見ていた轟は知っている。

 

 

「うん。体育祭どうしよっかなぁって」

 

 

嘘だ。轟は空の虚言を直ぐに見抜く。体育祭の出場の有無にしては随分と思いつめた顔をしていた。

 

 

__テメェの“大丈夫”は大抵信用できねェんだよ。

 

 

爆豪の言葉をふと思い起こす。成る程その通りだ、と轟は思った。

 

そして少しずつ彼女という性格を理解し始めていた。ただ意味の無い虚言ではない。USJの件で不調を隠したことも、今も、共通点は、彼女が他人に対して迷惑をかけてはいけないと強く思っているからだ。

 

 

「……柊、今空いてるか」

 

 

現在昼食の休憩休み時間中。その質問は同時に、昼を一緒に食べるれるか?ということになる。

 

 

「うん、誰とも食べる予定ないけど」

「なら、その時間俺にくれないか」

「………いいよ。もちろん」

 

 

空は特に約束している友達もいなかったので、轟と共に食堂に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「轟君は何食べる?」

「蕎麦だな」

「…即答だね」

 

 

即答で帰ってきた轟の答えに、空は彼の好物が蕎麦であることを知る。

 

 

「へー蕎麦が好きなんだ」

「あぁ。柊は何にするんだ」

「うーん…。ほとんど食べたことあるからなぁ、全部美味しいの知って…あ、お茶子と委員長だ」

 

 

学食のメニュー見ている最中、空が今名を挙げた二人を見つけた。するとあちらも直ぐに空たちに気づいたのか、お茶子が真っ先に手を振ってくる。

 

 

「今日は出久と一緒じゃないんだね」

「さっきオールマイト先生に誘われて、そのまま二人で」

 

 

オールマイト、その名が出た瞬間空の隣にいる轟が反応を見せた。好意的なものではない、それを横目で察知する空。

 

 

「……ふぅん」

「二人の超絶パワーは似ているし、オールマイトに気に入られているのかもな。流石だ」

 

 

飯田の言葉で、彼の緑谷に対する思いは尊敬に属する感情に近いものなのだと、空は思った。

 

 

(オールマイトといい…本当に人に恵まれて良かったよ出久)

 

 

今まで彼の周りには彼を無害と見るか、無個性の出来損ないとしか見る同級生しかいなかった。緑谷には言ってしまえば友達らしい友達はいなかった。空はそれを知っていたし、それでもヒーローになろうと一人切磋琢磨する緑谷を応援していたが、心配もしていた。いつか孤立してしまうのではないか、と。

 

しかし、それらの不安は病院で彼から話を聞いている時から徐々に消えて行った。そして現在緑谷の周囲にいる人たちと実際に触れ合ってみて、彼らが緑谷の今後の人生における大切な友人たちなのだろうと思うことができた。

 

緑谷が個性に目覚めたことよりもそれが何より、空にとっては嬉しかった。

 

 

「まぁ、出久を見てると自然と応援したくなっちゃうし、あの子の人柄なら当然といえば当然だけど」

「……柊は、いつから緑谷たちと知り合いなんだ」

「私もそれ聞きたい!」

「私が六歳のときだったかな。学校とかは全部違うんだけど、家が近くてね」

 

 

(そう、その時私の人生は大きく変わったんだよね…)

 

 

幼い爆豪と緑谷、その両者の顔が空の頭に思い出される。昔の話をした途端、自然と口が緩んだ空を見て、飯田、麗日、轟の三人は彼女にとって二人の存在は本当に大切な存在なのだと改めて思う。

 

空の前で緑谷の話が出ると、麗日が何かを思い出したように声をあげた。

 

 

「そういえば、空…身体は大丈夫?」

「え、一昨日の怪我はほぼ無傷だったから、大丈夫だったよ」

「いや…そういうんやなくて…前にデク君と話してたとき、『主治医の先生』って…」

「あぁ…。上手くごまかせたと思ったけど、やっぱりダメだったか」

「柊君、どこか悪いのか!?」

 

 

あの時、空は緑谷の言葉にわざと被せて話を中断させた、緑谷もそれによって空自身があまり知られたくないのだろうと察していた。しかし、ずっと気がかりだった様子の麗日を前に、これ以上言い逃れは逆に失礼だと考える空。

 

 

「私ね、二年前大怪我して、ずっと意識不明だったの。二年間の休学はそういうことで…そんなこと言ったらみんなに気を遣わせちゃうかなぁって黙ってたんだ」

「「「…………」」」

 

 

二年間の意識不明、衝撃のあまり三人は一瞬言葉を失った。

 

 

「ねっ!?こうなりたくなかったから黙ってたの!でも本当に大丈夫だから気にしないで!」

 

 

態度が一変した三人に空は必死に言葉を繕う。

 

最終的に、普通に接してくれという空の願いに納得してもらったが、

 

麗日は、慌ただしく柊の額に手を当て温度を測り出し、飯田は、気分が悪くなったら直ぐ言うんだぞ!と叫び出し、轟は、焦ったように近くにあった椅子を空の元に持ってきたりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、結局そのまま四人で昼ごはんを食べることになった空たち。二人同士が向かい合う形となって共に食事をしていた。

 

 

「空は結局体育祭はどうするの?」

「うーん…まだ考え中」

「柊君は二年前の優勝時、何か目標などあったのか?」

「ん?なんで」

「優勝を成し遂げたんだ。大層立派で強い想いがあったんだろう、と思ってな」

 

 

飯田の質問は他二人の興味もかき立てたらしく、二人の視線も感じられた。空は少し間考えた後に、口にあるご飯を全て飲み込むと、話し始める。

 

 

「……………。強いて言えば、成し遂げなければいけない目的の計画の一つだったって感じかな」

「「おぉ!」」

 

 

成し遂げなければいけない目的、彼女の言葉に壮大さを感じた麗日と飯田は素直に感心したが、一瞬空の雰囲気が変わったことを察知した轟だけは意味深げに彼女を見つめていた。

 

その視線に気づいた空は

 

 

(鋭いなぁこの子…)

 

 

内心少し焦っていた。

 

 

「お医者さんからちゃんと診断を受けて退院したことはさっき聞いたけど、個性を使うと身体に不調が出るのは治ってないんでしょ?」

 

 

空が三人を納得させた主な理由としては、医療機関から正式に身体的問題は無し、と判断れたことを伝えた為にあった。

 

麗日は、空の大丈夫という言葉の根拠には納得はしたものの、個性使用の身体の不調はまだ治っていたいことに対して、体育祭に出たとしても全力が出せないのではないか、という疑問を持った。

 

 

「その事なんだけど、USJで無理して個性使ってから少しだけど、個性を問題なく使える時間が増えたの。個性使用による身体の不調の原因は分からなかったんだけど、それを主治医の先生に言ったら多分筋肉痛みたいなものだろうって。ずっと使っていなかった場所を使うと筋肉痛が起こるように、個性にも同じ事が起こるときがあるんだって…だから、逆に体育祭で個性を使ったほうがいいんじゃないかなぁって」

「なるほど」

「…それにね……無理をしないで楽にヒーローになんてなれないと思うの。だから私は例え辛くても出来る限り足掻こうと思ってる」

 

 

覚悟を持った彼女の瞳に同意を示す三人。

 

 

(でも…)

 

 

三人が三人とも同じ思いを持つ。

 

空は気さくで優しい。クラスメイトの一員としての時間は他の者と少し短い上に、本来の歳が違う、普通に考えれば溶け込むのに困難な条件をいくつも持っているが、こうして気づけば自然と話せている。そんな彼女でも、時より分かりやすい拒絶を見せる事があると、飯田、麗日、轟の三人は何となく気づいていた。

 

それが顕著に現れるのが、二年前という話題が出た時である。全ての原因_空が大怪我をしたという二年前。大怪我をしたというのだから軽い話ではないことは確かだ。しかし、「二年前何があった」という質問を決して他者にさせないように、空は意図的にこれ以上踏み込むな、という見えない壁を作っているように感じた。

 

 

「そういえば轟君」

「何だ」

「何か用があったんじゃないの?、お昼誘ってくれたの」

「いや、何もないが」

「え」

「何かあったほうがよかったか。ただ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柊と話したかった」

 

 

轟の心ままの言葉はその場にいた飯田と麗日を驚かせる。麗日は顔を仄かに染めて、興奮気味に飯田の肩を掴み激しく揺さぶっていた。

 

 

「そ、そう…」

 

 

恥ずかしい様子を全く見せない轟の直球な言葉に、空は一瞬驚いていたが、直ぐに嬉しそうに照れながらも笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空一人の前には彼女に敵意を向けるいくつもの人影___

 

 

ーー倒さなくちゃいけないんだ…私しかいないのだから。これは、私たちの問題なのだから。

 

 

例え、独りぼっちの戦いでも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(何故…今あの時のことを思い出すんだろう)

 

 

刹那、彼女が意識不明となった二年前の原因そのものの光景が脳裏をかすめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー俺たちヒーローはな、あの二年前の事件を今でも悔やんでる

 

ーー空!!、テメェ歳上だからって俺らを守ろうとだなんてふざけたこと考えんじゃねェぞ。たまには守られてろ!クソが!!

 

ーー柊、保健室まで運ぶから、俺の背中に乗れ!身体辛いだろ?

 

ーー柊と話したかった

 

 

 

 

(あぁ…そうか

 

 

 

二年前のことを忘れない人がいて

 

 

自分を守ろうとしてくれる人がいて

 

 

身体を心配してくれた人がいて

 

 

ただ話したかったと言ってくれた人がいて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私今たまらなく嬉しいんだ。

 

私、もう独りぼっちじゃないんだ)

 

 

 

 

 

 

ーーそれは友情じゃない、執着だ

 

ーーそれでもいい!二人さえいれば…

 

 

 

 

 

かつて、執着だと罵倒された家族の言葉に、悔しくも言い返す事ができなかった自分だったが、今は確実に違う。

 

 

「私、今まで勝己と出久しか友達いなかったのをそれでいいと思ってたけど、こうやって新しい友達ができるのは嬉しいものなんだね。知らなかったよ」

 

 

 

空は二年前の意識不明になるその時まで、生まれた時より、緑谷、爆豪と会い話す時以外心が休む時は一度としてなかった。それも全て柊という家に縛られた宿命が元凶であったが、家の騒動に誰かを巻き込まんと強く決意をしていた空にとっては、一人として他人に頼ることはできなかった。無論、プロヒーローの手でさえ振り払った。

 

長い長い孤独な戦いの果てに、二年前の大事件を起こした空だったが、目覚めてより今日ほど肩の荷が降りたと思ったことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、雄英に戻ってきて…本当に良かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

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