陽だまりロケット   作:杜甫kuresu

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実は「Lonely Pappy」ってタイトルの予定で、打ちかけて調べたから何とか恥ずか死による呼吸困難から難を逃れました。「pappy」じゃなくて「puppy」ですよ。
みなさんも人前に出す文章はちゃんと確認作業をしましょうね。では、本編。

まあタイトルはシンプルに「一人ぼっち」にしましたが。


一人ぼっち

「いや~、スプリングフィールドはやっぱ厳しすぎるよ…………」

 

 一仕事終えた顔で歩く指揮官はサボっている最中。額の汗をぬぐう動作は働く男の眩しさをまとっていたが、しかし彼はサボりに耽っている。書類作業は人形にやって欲しい、が口癖のオートメーション化に浸かりっぱなしの男である。

 

 いつも通りに大していい味もしない栄養ゼリーを吸う。生活習慣はつい最近も注意されたところであるが、反省の色は無し。だめな男だ。

 そんな若者気分も抜けきらぬ足取りが、ふと映った光景に止まる。

 

「ん? あれ、は…………きゅーちゃん?」

 

 きゅーちゃん、正式名称AN-94。彼はアダ名をつけることのほうが書類作業より時間を割くので、こういった妙な名前が人形にはつきがちだった。

 思いつかないとその日の書類仕事はミスが多いどころか白紙という最大の愚行を犯すことになりかねない、意外と死活問題と来た。

 

 件のきゅーちゃんはというと、珍しくブロンドの頭がゆらゆらとあたりを見回している。はきはきとした背筋に「多分出来る娘だな」なんて浅い人生観の評価をくだしたものだがそれも何だか頼りない。すこーしだけ曲がっているのかも。

 

 すぐに察した。

 どうやらAK-12を探しているようだ。すぐに声をかけた。

 

「きゅーちゃん。フィアンセ探しは捗ってる?」

「――――――!? だ、誰だ!」

「お、おおっ!?」

 

 いきなり身構えられて指揮官の方が顔を青ざめて両手を上げる。94の腰の入りようは誇張なしに殺す構えだ、無闇に刺激すれば彼のぎっくり腰はギプスを要する事態になりかねない。

 

「ウェイト!? 殺すな、俺は味方だよ!?」

 

 咥えていたゼリーを落とす辺り、94の驚き混じりの吊り上がったが少しだけ下がる。

 どうやら敵ではないようだ。

 

「し、指揮官か。驚かせないで欲しい」

「今驚かされたのはどー考えても俺なんだけどさ」

「そ、それはそうだな。すまない…………」

 

 痛い所をつかれて何だか小さくなる94。これに関しては指揮官はフォローしない、大真面目に怖かったらしい。

 

 反省の色は見て取れたようで、指揮官も特に引きずらない。

 

「それはともかく、なつっち探しはどう?」

「なつっち…………ああ、AK-12か。何の話か全く分からないが」

 

 とぼけるには背中が丸すぎるぜ、なんて言おうとしたが指揮官は辞めておいた。勢いで背負い投げなんてされたら昼食はきっと車椅子で向かうことになってしまう。

 

 当たりさわりのない言葉は苦手だ。彼はちょっとだけ思案して答える。

 

「いや、いつも横にいるからさ。何か、何ていうんだアレ。新しい家に来た犬の親子みたいな感じ」

「私が子犬か何かだとでも?」

「そう言ってる」

「指揮官、あなたの眼には少し信用が有ったのに…………どうやらただの木の節と同類らしい」

 

 あんまりな言い草に指揮官も肩をすくめる。94の顔は図星だったのか視線が泳ぎっぱなしだ、嘘が下手にも限度がある。

 

 どうやら全くバレていないと思っているらしく、急に94の表情がいつもの素っ気ない物に戻っていった。とはいえ、まだちょっとだけ雰囲気が物寂しい。

 

「まあそう言わずに大人を頼ってみるもんじゃないのかな、俺はなつっちの動向には一家言有るぞ~」

「そう言ってWA2000処理班隊長を名乗り、あまつさえ爆発回数堂々の一位になった痴態を忘れたと見えるな。都合のいい記憶メモリだ」

 

 ぐさりと来てお腹を抱えてしゃがみ込む指揮官に、94がフッと勝ち誇ったように小さく笑う。

 

「うっ、すみません俺が間違ってましたもう辞めて。おじさん虐待反対…………」

「自滅甚だしいぞ、指揮官」

「難しい言葉ばっかり使って大人をからかうものじゃありません!」

 

 もう大体理解できたと思うが、指揮官は人形にナメられている。肝心な所で退くからだろう。

 

 得意げになっている所でさらりと指揮官がもう一度尋ねる。

 

「で、見当はついてる?」

「いや。食堂にまた誰かと話に行ったのかと思ったのだが、どうやら違うらしい――――――――っ!?」

「やっぱり探してるんだ。サボりたいし手伝うよ」

 

 顔を珍しく赤くした94はしばらく返事をしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「本当に居ないね…………困ったぞ」

「思ったより役に立たないな、指揮官は」

 

 さらりと酷いことを言うので指揮官が軽く頭をチョップした。94の反抗的な視線は見て見ぬ振り、時にはしつけも必要だ。

 

 指揮官の見立てでは、AK-12は予想外の場所に飛び出さない。理由は単純、「彼女が好奇心旺盛である」から。

 人が興味を持つ場所は不規則に見えるが、余程観点が尖っていなければ大抵にったよったか。実際に奇妙な絵のどこに注目するか、という研究結果にも偏りは見られている。

 だからこそすぐ見つかると思ったのだが、見つからない。

 

 つまり、と結論を見つけた辺りで94が指揮官の服を引っ張る。

 

「ずいぶん控え目な呼びつけだ。お嬢さん、ご用は?」

「茶化さないでくれ。後は一人で捜す」

「え? 何で――――――」

 

 そう言って振り向く先、廊下の隅に人影があった。

 黒く豊かな髪、黒い学生服を見るには一〇〇式か。こちらの様子をじっと伺っているように見える。

 

 何で94がそんな事を言ったのか、考えてすぐに顔をしかめる。理解したと思ったのか、94が指揮官の横を通り抜けようと歩き出す。

 

「消化不良にしてすまないな――――――」

 

 94は全体的に冷たい印象がある。それは指揮官の第一印象でもそう、本人の理解としてもそう、他の人形の感想もそう。

 自覚はあるようで、イベントに積極的には参加しない。「冷たい空気になる」と言っていた。

 

 だから、怯えられたりすることにも慣れがあった。今回もそうだろう。

 寂しいことがあるか。いつものことなんだから。慣れっこだ。回数も重ねてる。訓練済みだ。だって彼女は――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(いや、関係ないよね。うん)

 

 そんな訳が無いので、指揮官はとりあえずその手を引っ張り寄せた。

 

「なっ――――――何だ、突然!?」

「一〇〇式ちゃん、何か用?」

 

 指揮官、努めて笑う。ほうれい線がわざとらしくて、一〇〇式は正直手を引かれてやってくる94よりも指揮官が気色悪くて少し後ずさった。

 

 もはや怒ったように手を振り切ろうとする94を無理矢理自分の隣まで引っ張り出すと、当然のように会話を進める。

 

「あーごめんね、今きゅーちゃんと俺はデート中。片手間の返事はご愛嬌ということでここは頼むよ」

「は――――――!? だ、誰がデート中だって!?」

「不倫中の方が良い?」

「そういう問題じゃない!」

 

 94が焦りながら手を振りほどこうとしていたのだが、彼の右手は恐ろしく頑強だ。94は力にも全く自信がない訳ではないはずなのに、ゆるく握ったように見えるそれはその実全く。手錠かというくらい外れない。

 

 暴れ気味な94に一〇〇式が苦笑いしながら指揮官への要件を進めていく。

 いきなり指揮官が頭をかいてきょとんとした顔をする。

 

「――――あーいや、俺の歳的にアレかな。レンタル彼女かも」

「其処でもない!」

「ははは…………一〇〇式もそこはどうでも良いと思いますよ」

 

 突然放たれた毒に指揮官がまたお腹をおさえた。

 

 

 

 

 

 

 

「まだ手が痛い」

「こんな怒られるかな~普通~…………?」

 

 結論を言うと指揮官は正座して説教を受けている。

 お忘れのことかもしれないが、彼女も思考設計は女性だ。普通に手の握り方が痛かったことを主題に怒られている、痛かったらしい。

 

「そんな事だからこの時勢で結婚も出来ないんだ、手が赤くなるまで握るものじゃない」

「でも全力で逃げようとしたよね」

「逃げたら追わなくていい」

 

 え~、と言うなりじろりと睨まれる。指揮官は情けない声を出すと両手を上げた。

 

「大体――――」

「でも一〇〇式ちゃん、逃げなかったでしょ?」

 

 割って入った指揮官の一言に、94の言葉がどんどんと小さくなって虚空に消えた。

 不安要素は言うまでもなくあっさり見抜かれているし、杞憂であると過ぎた事実で叩きつけられてしまった。そこまでされてしまうと、いくら彼女でも返す言葉もない。

 

 黙って目を逸らした94に指揮官が威勢よく立ち上がってにやつき出す。

 

「君、別にただ単に冷たいってタイプじゃないからね。もうちょっと喋ってみたらどう?」

「ど、どうでも良い。任務を遂行すればあなたとしては十分だろう」

「いや、目に入ると嫌だから不十分」

 

 減らず口を、と少しだけ94が笑った。

 

 ちなみにAK-12はこの後すぐ出てきた。「指揮官と二人っきりの時の様子が気になった」だけらしい、指揮官ははっきりと

 

『やっぱりなつっちは傍迷惑な女という奴だろうな…………』

 

 と言って94にキャンキャンと言われる羽目になったが、これもやっぱり別の話となる。




ただサンダーが布に埋もれた話に9なら構わず、他の数字に評価がブレるのはシュール。私は勿論自分の作品は一律10評価!(親馬鹿)。
9は分かるんですけど…………10,9,1,0以外って人によって違うし、私はそちらのほうが面白いのかな? とか思ったり。
良い悪いはともかく、私の作品に考える時間が生み出されたのは大事なことです。別に優劣はつけませんけど。


――――あ、94の話したかったんだった。私はきゅーちゃんと呼びます、だって可愛いからさ…………。
ああいう子は一人ぼっちの時が面白いです。オロオロしてても、強がってても、じーっと待ってても。
オロオロしてたら話しかけたいし、強がってたら話しかけたいし、じーっとしてても話しかけたい。
全部話しかけたい。遊びたい、突かせてください。

お話は終わりです。オチがつきませんでした。
余談ですが、「奇妙な絵のどこに注目するかの研究」は私がやりました。高校の時ですけどね。

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