夢の支配者にとって、夢の存在とはなんなのか。それを知ることが良いことかどうかは判らない。
しかし、1つだけ言えることはある。
これは夢物語である。



こまるん様主催、「ドレミフラ祭」参加作品です。
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早く読みたいという方は、ごゆっくりとお楽しみくださいませ。

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努夢忘るること勿かれ

足音が聞こえる。

恐る恐る歩みを進めているようでもあり、自分の強さに自信を持って傲慢に歩いているように聞こえる。

私がこれから対峙する者はもしかすると、これまでに相手した者たちよりもずっと強大な者であるのかもしれない。

 

「ようこそ夢の中へいらっしゃいました、フランドール嬢」

 

彼女は虚ろと言えるかどうか分からない目でこちらを見つめる。彼女は幻想郷における天真爛漫で、内に狂気を秘めているフランドール嬢ではない。夢の世界における、純粋な狂気と破壊を持つフランドール嬢である。

先日の憑依異変では多くの夢の存在たちが幻想郷へと飛び出した。しかし、フランドール嬢だけは夢の世界で暴れることもなく、ただ破壊を続けた。それの影響で荒野のような有様を見せる夢も少なくはない。

このままでは、夢の中の秩序は破壊されてしまう。だから、こうして彼女の力を制限しようと試みている。

 

「貴女はここの人なのかしら?」

「ええ、そうですとも」

 

恐れることはない。この場における主導権を握っているのは私である。彼女が如何なる強大な狂気であろうとも、ここは私の支配圏なのだ。私に勝つ者はいない。

そうだと、彼女も分かっているはず。なのに、彼女は誰がどう見ようとも強大であった。

 

「最近、夢の中で暴れていませんか?」

「ええ、衝動のままに破壊を行なっているわ。だって、向こうの私はいつまで経っても私と変わろうとしないもの。つい最近まであった、面白おかしいイベントも私は一つも参加していなかったのだもの」

 

彼女はゆっくりと浮かびあがる綿を小指で弄りつつ答える。

夢の中の自分というものは、何かにつけて外へと出ようとする。それが酷い場合であれば、現実世界の自分を夢の中に送り込んでまで自分を確立させることもある。しかし、それが出来ないことが常であったが、異変によって一部出来てしまっていた。それを止めるために私、の分身たちは幻想郷を奔走していた。

そんな中でも、フランドール嬢は憑依異変に関わらずに過ごしていたことで、夢の存在がここから出ることは何かなかった。そのため、彼女にはフラストレーションが溜まっていたのだ。

 

「こんなくだらないことを聞くためだけに私を呼び出したの?」

 

周囲に舞っていたものたちが破裂する。恐怖することではないと、理性が訴えかけるも本能は逃げろと訴える。もう一歩、あと一歩だけでも。

 

「いえ、違いますとも。貴女に忠告をするためです。これ以上壊されると貴女を眠らせる必要がある。出来ればそれはしたくないのです。なので、貴女には少々痛い目を見てもらおうかなと」

 

あっそと彼女は吐き捨てて、立って私と面と向かう。恐れることはない、そう思っていた。しかし、私の中にある本能が総立ちして、理性を吹き飛ばすほどに逃げろと警鐘を鳴らしていた。

フランドールの手には何かと、もう一つ。それは単純明快だ。レーヴァティンが握られていた。もっと早くに逃げていればよかった。その後悔はもう遅く、他の夢に飛び立つ直前には右足首あたりからは激しい痛みが発生している。

 

「フランドール嬢、貴女には永遠に覚めない夢から出ることはないでしょう!」

 

大きな箱のように見える夢の周りに鎖を掛けるイメージ。それを幾重にも重ね、南京錠でロックを掛ける。これでフランドール嬢は私が外側から許可をしない限り、あの夢の内側から出ることは出来なくなった。大きな破壊音が聞こえるがそんなものは気にしない。

私の右足の先までをイメージし、再生というか逆再生をする。安定していない精神のせいでぼんやりとはしているが、右足は一時的に戻った。

宛てもなく無数の箱が漂う真っ暗な空間をふわふわと漂う。幻想郷のフランドール嬢には悪いが、夢の中のフランドールはこれまでの495年以上のその倍、いや、自壊するまであの夢の中に閉じ込めさせていただくとしよう。

 

「いつもの、私らしくありませんね……」

 

いつもであれば、ドレミー・スイートは余裕を持ってことの対処にあたる。しかし、今回は彼女の帽子内にまとめられていた長髪が露わになることや顔にびっしりと貼りついた滴を見れば一目瞭然、余裕など一つ足りとも残っていなかった。

ふわふわと漂った先に辿り着いたのは、誰かたちのイメージで作り上げられた遊園地の夢だった。多くの人々が行き交い、不規則に並べられたアトラクションが更なる喧騒を生み出す。今の不安定な精神を落ち着けるための場所を求めていたはずなのだが、それとは正反対の場所だろう。しかし、別に気にすることではない。それはいつものことだ。

そして、私はメリーゴーランドの屋根の上に、ゴロンと横になる。

 

「おやすみですか?」

「ええ、そうです」

 

何も気にすることはない。聞き覚えのある声だったとしても、私がどこかで夢の中で出会った人物なのだろう。だから私は瞼の上に乗せた左腕を退けようとしない。

 

「おやおや、他人の顔を見ないとは無礼ではありませんか?」

「そうでしょうか?少なくとも私はそうは思わないんですがね」

「私はそう思うのですよ。特に、貴女には見て頂いた方が良いのではないでしょうか?」

 

そこまで言うのであれば見てみたい、とははならない。どんな状態であろうとも、今の私にはそれを受け入れられるものがないかもしれない。しかし、それは強引に左腕を引っぺがして無理やり見せてきた。

 

「見た方が良いでしょう?」

 

それは私だった。見間違えることはない。夢の世界がどんなに多かろうとも、鏡や水面というものは必ずと言っていいほどイメージの中に入っている。その繰り返しの中で、そこまで自分というものに興味が無くとも、否が応でも知ることになる。

 

「嘘……!なんで……!」

「しっかりと驚いて頂けたご様子で私は大変嬉しいです」

 

私、ドレミー・スイートが目の前にいる。そのこと自体は何も珍しいことではない。理由は簡単で、分身を作ることもあるからだ。それらは私と同じ個体であっても必ず力は私に劣る。しかし、目の前にいるものは私と同等の力を持っている。これは私の分身ではない。

 

「驚きの原因は手に取るように分かります。理由は簡単。私は貴女の夢の存在です。ええ、その顔になるのも分かりますとも。夢の支配者に夢の存在がいるはずがない。私もそう考えていました。しかし、私はこう考えることにしました。目の前に起きていることが、現実なのだと」

 

この場合は夢になるんですけどねと、それは茶化すように笑う。私の夢の存在、それはあったとしても私の目の前に現れることはないと思っていた。

何故?

精神的余裕がなかったところに追い討ちをかけられ、思考が追いつかなくなる。

 

「夢の支配者が2人いるということは私にとって不都合極まりないことです」

 

そう言って、ドレミー・スイートは夢魂を私に覆い被せてくる。それがどんな夢かは容易に想像がつく。私か夢の存在の私かが持っている中でのとびきりの悪夢。

 

「やめ…なさいっ!」

「抵抗しても無駄ですよ。貴女の心はすでに誰かにやられているようですし、その目もね?」

 

目?何を言っているのか分からない。しかし、その前に言っている言葉は正解である。夢での戦いは単純に意思の強い方が勝つ。今の私では、ここにいる人間たちにさえ負けてしまう可能性がある。相手が夢の支配者であるならば、尚更負ける。

 

「おやすみなさい。そうですね、少し我慢したら終わってますから」

 

そうして、私は夢へと落ちていく。

 

 

 

「やっぱり、夢を見るために目のあるところに戻ってきたのね」

 

その声が聞こえると、私は目を覚ました。

視界に映るのは瓦礫の上に座る、ここの支配者が如きフランドール・スカーレットであった。

さっきまでのやりとりを思い出し、私は恐れる。彼女から逃げなくては。逃げないと、殺される。

夢から夢へと飛ぼうとしても、一切扉は開かれない。

 

「どうして!?」

 

私の行動を一つ一つ思い出す。そうすると、出ることが出来ない理由が明確になる。

 

「あ、ぁあぁぁ……」

 

私は鎖を幾重にも重ねて、錠をかけたのだ。彼女が内側から出られないようにするために。

 

「貴女が私に干渉しなければ何もなかったのよ」

 

彼女の掌の上には、私の『目』がある。

彼女はそれを握り潰そうと、小指が、薬指が、中指が順番に降ろされていく。

 

「さよなら」

 

「待っ___」




「これもまた、1つの夢物語なのです。私がどちらかなんて、気にすることもないでしょう」

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