宇宙戦艦ヤマト2202外伝 波動実験艦武蔵 後日譚   作:朱鳥洵

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平成終わりまで秒読み、武蔵は滑り込み完結となりました。
よかった、間に合ってよかった。
それでは、令和時代のヤマトに希望を託して。


後章 「英雄の帰還。望む未来」

 青い空、青い海。

 それとは不釣り合いなほどに飛び立っていく主力戦艦たち。

 ――ヤマトの消滅から半年が経った今でも、戦時と見紛う光景が広がっていた。

「いってきまーす!」

 元気よく玄関から出て行く妹を見送り、有賀は踵を返した。

「あっ、柑奈さんじゃないですか」

「美佳ちゃん、こんにちは」

「はいっ」

 家から出てしばらく駆けていた美佳は、よく晴れたこの日に映える白いブラウスの女性に頭を下げた。

「これからお出かけ?」

「いえ。これから実習なので」

「そっか、頑張ってね」

 手を振りながら再び駆け出す少女に答えながら、彼女は清々しい空気の中を歩き出した。

 美佳が艦乗員を育成する学校に通っているとは聞いていた。その理由を聞いても一切答えてはくれないのだが、きっと彼女なりに理由があってのことだろう。

 潮風に乗って青き艦――アルデバランが港へと帰還した。

「義弥さん」

 美佳から合鍵を渡されていた柑奈は、上がりこむとリビングで声をかけた。

「ああ、来たのか」

「なんですかその反応……ん?」

 目に入ったテレビ画面には、あの日のヤマトの姿が映っていた。

『ヤマトが消息不明になってから今日で半年。幾度にも渡る捜索でも、その消息は全く分かっておりません。地球政府は数日内にも、アキレスを旗艦とした捜索隊を――』

 どこか遠く感じるアナウンサーの声に耳を傾ける。

「ヤマトは、もういないってのにな」

 立ち上がった有賀は冷蔵庫を開けると、ペットボトルを出しながら口を開く。

「どっちにする?」

「えっ、あー……じゃあ、お茶で」

「おっけ。座っててくれ」

「はい、分かりました」

 彼女の前にお茶の入ったコップを置くと、有賀は無造作にチャンネルを変えた。

「どこ入れてもヤマトの話題ですね……」

「……いい加減未来見ろってんだよ」

 目に見えてわかるほど苛つく彼の気持ちは、柑奈には少し分かるような気がした。

 地球での戦闘で大破した武蔵は未だ修理中、月の修繕は銀河ほか数隻が駆り出され、地上も見違えるほどに復興している。

 時間断層から飛び立ち続けるドレッドノート級だけが気がかりであったが、その大半はヤマトの手がかり探しに従事しているとの噂だ。

 艦隊を率いるために修理を急がれたアキレス、アンタレス、アルデバランはそれぞれ無人艦を従えて任務に臨んでいる。

 未来へ歩き出そうとする地球とは裏腹に、報道はヤマトの消息に重きをおく。それは国民が最も興味を引く話題であり、皆が英雄の帰還を心のどこかで諦められていないからである。

 そんな状況に対して、有賀は言いようのない不満を抱えていた。

「今日、英雄の丘に集まるヤマトのクルーを見かけました」

「……ヤマトのクルーの気持ちは分かる。あの戦いで、彼らが失ったものはデカすぎる」

 一気にお茶を飲み干したコップを置きながら「でも」と有賀は続けた。

「世間は別だ。ただ助けられただけ、あの時ヤマトを求めていたとしても、失ったと心の底からは思ってない。所詮他人事なんだよ、それなのに毎回毎回好き勝手なこと言いやがって……」

 ヤマトに関する報道番組において、アナウンサーは毎回知識人を名乗る人たちに「あれしかなかったのか」と問い、それに対して「他の道も……」などというのがもはや定番となっていた。

 現場を知らない、ただ見ていたが故に言える無責任なコメント、それに流されヤマトの行動を批判する人たち。

 あの時あの背中を見ていた人々の心に刻まれた英雄ヤマトは、この半年で廃れ始めていた。

 ヤマトのクルーにとっても、古代にとっても地球を守るために下した最も過酷な道。

 あの時地球を守るには、あの行為しかなかったと言う知識人は少ない。

「少し外に出ませんか? ずっと家の中にいたら気が滅入りますよ」

「……そうだな。準備してくるから、どこ行きたいか考えておいてくれ」

「は、はい」

 立ち上がって部屋の奥に消える有賀を目で追い、再びニュース番組へと目を向ける。

『ヤマトが消息不明になってから今日で半年となりました。果たして、ヤマトは今どこにいるのでしょうか。本日午後7時から特別番組として――』

 

 

 しばらくして、海岸線を歩く2人の姿があった。

「長閑な海ですね」

「この下に時間断層があるなんて、信じられないな」

「そうですね……3年と半年……ですか。これからも作られるんでしょうね」

「その割には同じ艦ばかりだけどな。進歩がないっていうか……」

「中身は違うみたいですけど、傍目には分かりませんね」

 そんな会話をしながらしばらく歩き、2人は海沿いの公園のベンチへと腰をかけた。

 カモメの鳴き声に耳を傾けていると、微かな音が潮風と共に聞こえてきた。

「……なんだ、これ」

「義弥さん?」

「音が……エンジンの音……?」

「エンジン……あっ、何か光った……」

 彼女が指をさす方には、微かな金色に輝く水面。

 それはすぐに輝きを止め、音も止んだ。

「なんだったんだ、あれ」

「……もしかしたら……」

 刹那、彼らが持つ端末が震えた。

 艦が修理中であろうと、待機中の軍人にはこの携帯端末の所持が義務付けられている。

 2人同時に画面を確認すると、そこには。

「「ヤマト――⁉︎」」

 

 

『1週間ほど前、時間断層にヤマトと思われる艦艇が浮上していたことが、今日宇宙軍から発表されました。ヤマトの内部には生存者が1名いた模様で、軍は意識が回復し次第事情を聞く方針です。ヤマトの帰還には――』

 秘匿されていたヤマトの情報が解禁されると、ニュースはこぞってヤマトについての報道を始めた。

 ヤマトの機関室にいた山本玲は既に退院していたのだが、未だ意識が回復しないと明かしたのは彼女とヤマトクルーへの過剰な反応を抑えるためであった。

「ヤマトを使って、古代さんたちを迎えに行く?」

「ああ。上でも実行するかについては割れてるが、それが真田技師長、山南さん、あと銀河の藤堂艦長が出した案だそうだ。実行すれば、時間断層は潰れて消える」

「それは割れるわけですね……芹沢さんは時間断層に賭けてましたから」

 お茶を置きながら柑奈は目を伏せた。

『潰してしまえばいいんだよ、あんなもの』

 テレビ通話の向こうで丹生が憤慨する。

『でも、そう簡単にはできませんよ。アレは地球の復興の要でしたし』

「ああ。近藤艦長が言うには、反発してるのは芹沢さんだ」

「それに時間断層を財産だと思ってるのは地球だけじゃなくて、ガミラスも。バレル大使の立ち位置はわからないけど……」

 来島に答えた有賀と柑奈の声を最後に、声がなくなる。

 軍人として、地球に住むものとして。何より一度ヤマトに救われたものとして、考えることは皆同じ。

 それだけに、簡単に結論を出せるものではなかった。

「お兄!」

 夕日の差し込むリビングの扉をあけて入ってきた美佳の声が響く。

 画面の向こうにいる丹生や来島がそれに驚いてビクッと身体を跳ねるが、美佳がそんなことを知るはずもない。

「美佳、学校はどうしたんだ?」

「もうそれどころじゃないよ! 学校もちょっと早く終わったし」

 そう言っておもむろにテレビをつけると、そこには会見の会場が見えていた。

『ただ今から宇宙軍の藤堂長官より緊急中継をお送りします』

 淡々と告げたアナウンサーの声の直後、画面に藤堂長官が映った。

 

 

 国民の皆様、この度はわたくしから、皆様に大切なお話があるのです。

 皆様もご存知の通り、1週間前、ヤマトが突然の帰還を果たしました。

 生存者救出を兼ねて行われたヤマトの調査と復旧作業において、依然行方が分からない古代進戦術長と森雪船務長について新たな事実が判明したのです。

 半年間行方不明となったため、軍規に則り戦死、殉職とされてきた両名は、生存している可能性が高いという事なのです。

 地球を救った英雄をヤマトを用いて迎えに行くというのは我々も成し遂げたいところであります。

 しかしそれには、一つ、我々にはとても大きな犠牲を伴うのです。それが、時間断層。

 時間断層の奥には、高次元へと続く更なる結節点がある事が、調査によって判明いたしました。

 今回ヤマトは、そこを通りまるで川に流されてきたようにこの世界へと帰還いたしました。

 彼らを救うには、ヤマトを再びその川に乗せ、今度は遡上させる必要があるわけです。

 我々にはそれを可能とする装備を持った艦がおりますが、その莫大なエネルギー故にヤマトを送り出すと同時に……時間断層は消えてなくなります。

 我々はこの決断を、この地球の未来に関わる決断をするにあたり、皆さんの意見をお伺いしたく国民投票を行うことを決定いたしました。

 明日の夕刻、地球連邦代表、芹沢虎徹と、ヤマト副長、真田四郎による演説を行い、明後日に投票の運びとなりました。

 地球のこれからを左右する決断を皆さんに委ねるのは心苦しい。しかしどうか、我々にあなた方の言葉を聞かせてはいただけませんか。

 

 

 長官の会見が終わり、人々の中には様々な意見が飛び交った。もちろん、現政権への批判も。

 それでも真田の演説に心を打たれた人々は動き、投票率は9割を超えた。

 投開票から数日が経って時間断層から飛び立つ艦艇も無くなり、代わりに銀河だけが内部へと潜り込んだ。

 武蔵のクルーは立ち入り禁止区域の護衛に駆り出されている。

 危険区域の非難は終わり、そこに立ち入る人影もなかった。

「本当に、できるんだろうな」

 刹那、けたたましい音とともに地面が堕ちた。

 突如として開いた穴へと堕ちていく構造物の波をくぐり抜けて浮上するものがあった。

「……銀河か」

 空へと飛び立つ銀河を見つめていると、通信機から音声が響いた。

『こちら、銀河艦長、藤堂早紀。作戦は成功した。銀河はこれより、村雨改型を連れて地球軌道で待機する』

 エンジンを点火した銀河と、地上から飛び立った村雨改型数隻を引き連れて宇宙へと飛び立った。

 夕暮れの空に銀河が消えてからしばらく経ち、微かに空に輝きが増していく。

「義弥さん、銀河から、宇宙に高次元反応を確認したとのことです」

「あの光か」

 彼が指差す先には、滝のように流れる光が空に輝いていた。

『こちら銀河。たった今、ヤマトの帰還を確認した。古代戦術長、森船務長の姿も第一艦橋に』

 それを聞くと、彼らの顔に笑みがこぼれた。

「まったく、心配かけさせる英雄だな」

 陽が落ちて闇夜に帰還するヤマトを迎え入れた地球は、静かに未来へと動き出した。

 ――苦難と希望の待つ、最も可能性に満ちた世界へ。

 

 ――後章 「英雄の帰還。望む未来」――

 

 ――――完――――




ありがとうございました。
令和時代が、良い時代になりますように。
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