船務科室をトボトボと出たのは島大介だけではなかった。後に続いた森雪もまたそうだった。
野菜の問題はいま自分に課せられた最大の
〈ヤマト〉のリサイクルシステムは、生活排水から合成タンパクとでんぷんの素を取り出し残りを野菜の肥料とするが、それも冥王星で凍った。農場よりこちらの修理を優先せねばならず、それまでは下水を宇宙に捨てねばならない。
野菜に限らず、食糧すべてが足りなくなるのだ。『今すぐ』ということはない。三ヶ月ほどは繋いでいける。だからそれまでに問題を解決できればいいのだが……。
どうすりゃいいの、と森は思った。いつか、コスモナイトの件で、沖田艦長が言った言葉を思い出す。
『太陽系を出た後でコスモナイトが必要となってしまったら、どこで見つけると言うのか』、と。
そう。問題はそういう話だ。宇宙で千人に食わせるものをどうやって見つけ手に入れるのか。
まあ、見つけるだけならば、コスモナイトよりは簡単だろう。宇宙に植物が茂る星は決して少なくないはずだ。
だが〈ヤマト〉は遅れてはならぬ。運行に支障をきたすことなく充分な量を採らねばならぬ。宇宙に星全体が野菜畑の星があって、異星人の農協が直売所をやってくれてるわけならともかく。
これはコスモナイトより厄介な話になりそうだった。大体、野生の植物なんて、地球のものも人間が滅多に食えるものではない。ましてや異星の植物が、果たして食用になるものかどうか。
ニンジンか、と森は思った。望みがあるとしたらそれは根や地下茎じゃないか。
青菜なんかは採っても
しかし、根や地下茎ならどうだろう。
そうして〈土〉に埋めておけば、根を広げていってくれる。きっと、そのまま食うこともできる。ゴボウだ、ゴボウ。細く切ってキンピラにしてしまえばいいのだ。煮ても焼いても揚げても食える。〈ヤマト〉の食糧問題を、ゴボウならば解決できる。
「ゴボウ……」
つぶやいて通路を歩いた。向かうのは〈コスモゼロ〉の格納庫だ。船務科では乗組員のシフトをすべて管理しており、コンピュータに古代の名を打ち込めば彼がいま当直か非番なのかを知ることができる。『配置に就いているはず』と出たので、航空隊に電話を掛けると、
『今は〈ゼロ〉の格納庫です。そちらに繋ぎましょうか』
「いいわ。直接行ってみます」
言って船務科を出たのだった。この仕事には航空隊の力が必要になるはずだった。おそらく、実際に野菜を採るのは、
三ヶ月以内にできるかどうかもわからない。事はそれほどに難しい。だから今すぐ始めなければならなかった。プランを練って入念な準備を整えるのだ。航空隊とも打ち合わせを重ねなければならない。つまり――。
あの古代と。
大丈夫なのか、あの男で? それはタイタンでも冥王星でも、あの男の働きで事が成し遂げられたようでもあるけど。
そう思わずにいられなかった。「ゴボウ、ゴボウ、古代、ゴボウ……」つぶやきながら森は格納庫に向かった。