格納庫に入ると中では整備員達が二機の〈ゼロ〉に取り付いていた。森はそのうち片方の機に眼を止めた。
尾翼だ。普段、庫内では、〈ゼロ〉の翼はたたまれている。けれども今は垂直尾翼が垂直に立ち上げられていた。タイタンのときに何も描かれていなかったそれには冥王星での戦いにおいて二機ともに《誠》の一字が大きくマーキングされたのを森は見て知っていた。
だが今、《誠》の字は消され、代わりに大きくひとつの
「へえ」
と言った。描かれているのは、黒い鳥だ。カラス……ではない。
その長い頸を鳥はうなだれ、クチバシはため息でもついているように半開きにしている。丸い頭についている目は、『ああ疲れた、飛びたくないよ』とでも訴えているかに見える。
そしてその鳥の胴体は、ジャガイモのように描かれていた。羽を全部むしり取られた図だということなのか、翼や
その画の横の、舵には《
つまりこれは古代の〈アルファー・ワン〉であり、この〈トリさん〉の画は古代の新たなマーキングということだ。
「ふうん」
と言って眺めてから、古代自身はどこにいるのかと思って辺りを見回した。しかし姿は見当たらない。
仕方ないから近くにいた整備員に向かって聞いた。「この画って何か意味があるの?」
「ええまあ、その、ガンモですよ」
「ガン?」
と言った。子供の頃に空を仰いで、V字型の編隊を組む鳥を見たのを思い出した。あれはなんの鳥かと聞いても母は手を引っ張るばかりで、空に眼を向けもしなかった。だから後で図鑑で知った。
「
その画の鳥は鵜でなければコンドルか黒い鶴かという感じだが、何をどう見ても鴨には見えない。森が重ねてそう言うと、整備員は困った顔で、
「まあそうですが、そうじゃなくて、ガンモドキですよ」
「ガ……」
と言った。あらためて画を見る。そのヘタレなトリさんの胴――黄土色のマルにゴマを散らしたような。それは、
古代の〈アルファー・ワン〉は今、〈がんもどき〉となったのだ。
「ちょっと、これ、誰が描いたの! 一体何を考えてるのよ!」
「いえ、その、古代一尉が自分で……」
「『自分で』?」
「大山田にデザインさせて、マスキング自分で切って塗ってましたよ」