「〈ヤマト〉の行き先が市民にバレてる?」古代は言った。「そりゃ一体なんの話?」
「ですから、〈イスカンダル〉ですよ」船務科員の結城が応える。「『イスカンダルは大マゼランにある』という話がどうやら地球の地下で広まっているらしいんです」
「へえ」
と山本。古代と山本は今〈ヤマト〉の船務科にいた。黒地に赤のパイロットスーツの上にエプロンを着けて、結城を含む数人のクルーと卓を囲んで
「それは市民に伏せられていたはずなのよね」
と山本が続けて言うと、
「そう」と結城。「市民に言えばガミラスも〈ヤマト〉の行き先を知ることになる。だから公表はできません、という理屈で秘匿されていた」
「ああ。けど本当の理由はええと……」
古代は言った。言ったがしかし、そこで言葉に詰まってしまった。仕方ないので代わりに言った。
「なんだっけ」
卓を囲む者達が皆、『この男はやはりボンクラではないのか』という顔をして古代を見た。
「ですから」と結城。「目的地がそんなに遠くにあるという事実を明かしたくなかったんです。何しろずっと、『ガミラスは百光年と離れていない星から来る』と思われていて……」
「ああ」と言った。「それだ。でもいい。その話、面倒だから聞きたくない」
「そうですか」
と結城は言う。古代は「うん」と応えながら、ギョウザ作りの手を動かした。
ギョウザの皮を手に取って、具を包んで〈ワープ〉させる。英語の〈warp〉という単語は、本来は『たわませる』という意味だ。木の薄板をたわませてバイオリンやギターの側板にしたりとか、紙を濡らすと波打つようにたわんでしまうのを指して『ワープ』という。
それが元々の使い方だ。宇宙をそのように波打たせ、くしゅくしゅになったところをアコーディオン・カーテンをたたむように縮めてその上を〈
卓を囲んで皆で黙々、ギョウザ作りをやっている。〈皮〉はでんぷんをシート状に薄く成形したものだし、中に詰める具は合成肉のペーストと促成栽培の野菜を刻んで混ぜたものだ。冥王星の戦いのために最後の米を炊いた〈ヤマト〉の艦内には、料理の材料としてあるのはもう基本的にこのみっつだけということになる。
餅かパン生地のような合成でんぷんのペーストに、コンビーフか魚肉ソーセージのような合成肉、そして促成栽培の野菜。これで千人を食わすとなれば作れるものはそれなりに多い。
カレーライスにスパゲティにラーメンに、うどん、そば、焼きそば、焼きうどん、鍋焼きうどん、カレーうどん、きしめん、そうめん、チャーハンにピラフにチキンライスにドライカレーと、それから、ハンバーガーにホットドック、ハンバーグのサンドイッチに、ソーセージのサンドイッチ、肉まん、カレーまん、カレーパン、焼きそばパンにスパゲティパン、焼きカレーパン、焼きうどんパン、焼きカレーうどんパン……。
地球に帰り着くまでずっと、このように多彩なメニューが楽しめるのだ。
そしてギョウザだ。いや、ギョウザなどというチマチマ作業を要するものは本当ならばできてもやらない。ましてや古代や山本のような戦闘機のパイロットが、セッセとやる仕事ではない。
にもかかわらず古代は今、セッセセッセと手を動かしてギョウザのタネ作りに
だが、と思った。
「とにかく、誰か話を漏らしたやつがいるのか」
古代は言った。また一個のギョウザのタネを作り上げ、中身が漏れ出ないよう端を押さえてトレイに置く。ひとつのトレイにギョウザのタネが百ばかり。それが既に何段も積み重ねられていた。
結城が言う。「そうでしょう。〈ヤマト計画〉を知る人間は相当な数になってたんです。全員の口を塞ぐなんてできるわけない。何人かが口を滑らせば……」
「話はたちまち広まる」と山本。「イスカンダルがあるのはマゼラン……」
「それが全部の地下都市にみんなに知れ渡っちゃったのか」
古代は言った。しかし結城は、
「ええ。けどどうなんでしょうね」と言った。「そんな話、聞いても普通はまともには受け取らないんじゃないのかと……」
「そうなの?」と言った。「どういうこと?」