敵中横断二九六千光年   作:島田イスケ

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言うだけ詮のない話

「ゾールマンより報告です。『数度に渡り〈ヤマト〉に攻撃を試みるもすべて失敗』。潜宙艦では敵についていけないそいうです」

 

とヴィリップスが言う。シュルツは「ふん」と応えて言った。

 

「『わかりきったことをいちいち言ってくるな』と伝えてやれ」

 

「ええと……本当にそうしますか?」

 

「いや」と言った。「報告はそれだけか」

 

「いいえ。〈ヤマト〉は明日にも百光日のワープを行い、その次のワープで〈卵〉を出るのは確実とのことです。そうなると追跡はもはや不能となるため、チャンスは次の一度きり。かくなるうえは、次回は見つかる覚悟でより浅い深度から浮上し〈ヤマト〉に挑む。デスラー総統万歳。以上」

 

「そうか。『すまん』と伝えてやれ」

 

「はい」

 

「しかし『見つかる覚悟』というのは、〈ヤマト〉の〈ピン〉に捉えられるということだろう。やつは必ず潜宙艦隊を警戒しており、すぐ爆雷と魚雷を放つに決まっている……」

 

「はい。せめてもの望みと言えば、地球人は我々の潜宙艦の詳しい性能を知らないということでしょうか。やつらはそれを知るはずがない。特に〈卵〉を出られたら追跡できないなんてことは……ゆえに、次がこちらにとって、潜宙艦でやつを止める最後のチャンスとなるのですが」

 

「ふむ」

 

と言った。『卵』というのは地球人が〈オールトの雲〉と呼んでいる直径3光年ほどの球殻状の領域のことだ。そこには無数の小天体――その多くは汚れた雪玉のような星屑――が散らばって、太陽系の最々外縁部となっている。

 

ガミラスにも当然ながら地球の魚に似た生物がいて、丸い卵から稚魚が孵化してガミラスの海に泳ぎ出て行く――いや、かつてはそうであった。それがために宇宙船が〈オールトの雲〉を抜けることを、彼らは『卵を出る』と言う。

 

「だが見つかれば、ゾールマン隊は壊滅必至か」

 

「そうです。『やめろ』と命じることもできますが……」

 

「言うだけ(せん)のないことだろうな」

 

シュルツがため息まじりに言うと、ヴィリップスも頷いて、

 

「はい。我らにはどうせ後はないのですから。潜宙艦はあの海峡では役に立ちませんし……」

 

「ええ」とガンツも頷いて言った。「ゾールマンもそれをよくわかっているのでしょう」

 

「しかし、なんとかならんのか」シュルツは言った。「要するに、〈ヤマト〉の速度をいくらかでも遅くできればいいのだろう。そうすればゾールマンが魚雷を射てる」

 

「それはそうですが、しかし〈ヤマト〉は……」

 

ヴィリップスが言い、ガンツが続けて、

 

「我らと戦おうとしない。それに時間がありませんよ。〈ヤマト〉はあと数時間で次のワープをしてしまう。何をするにもそれまでに作戦を立てて実行せねばならないということになりますが」

 

「わかっている。〈ヤマト〉は我らと戦わない……」シュルツは言った。「ではどうだ。『我々と戦え』という話でないのなら」


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