敵中横断二九六千光年   作:島田イスケ

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対潜ロケット・ランチャー

「古代・山本は〈ゼロ〉にて待機。装備は対潜ロケット・ランチャー」

 

そう命じられて古代が山本と共に格納庫に行くと、既に整備員達が、二機の〈ゼロ〉の翼の下に竹筒を束ねたようなものを取り付けているところだった。

 

対次元潜宙艦艇用のロケット・ランチャーだ。筒を四本束ねたものが右と左の翼にそれぞれ吊るされて、つまり合計八本の筒に八発の対潜ロケット弾が収められている。

 

ロケット弾の一発一発は本格的な対潜魚雷に比べて小さく、威力も決して高くはないが、これはそもそも相手にダメージを与えて潜航不能にしたり、戦闘力を弱めさせるのを目的とする兵器なのだ。だから威力はむしろ弱くていいのだが、もちろん古代の八と山本の八、合計十六発をまとめてブチ込むことができたら、かなり大型の潜宙艦でも沈めるのは不可能でない。

 

一体どうしてそんな兵器を抱えて待機なのかと言えば、

 

『おそらく、敵は(あせ)っています』

 

と、第二艦橋での会議の際に新見は言った。

 

『冥王星でこの〈ヤマト〉に敗け、外宇宙に出られようとしていることで――しかしその一方で、かなりの手傷を負わせたことも知ってるでしょう。その傷が()えないうちになんとか今、〈ヤマト〉を止めたいと考えている。だからこんなことをしてきた』

 

それはわかる。が、その後に沖田が言った。

 

『ならばこちらも、これは敵を知るチャンスということだ。やつらがどんな背景を持ち、なぜ地球を狙うのかを我々は知らない。今ならば何か掴んで地球に知らすこともできるかもしれない』

 

って、何をどうやって?という気もしたが、まあ、ないこともないのだろう。古代は〈ゼロ〉に乗り込んで、対潜ロケットを射つ際の注意事項を確認した。こんなものでまさか敵の潜宙艦を拿捕できるとも思えぬが――。

 

「対潜ロケット・ランチャーか。〈サーシャの船〉を追ってたやつらも、これと似たものを備えてたはずなんだよな」

 

「そうですね」と、コクピットの横で大山田が言う。「あれはステルスだったそうですから、翼の下に吊るんじゃなくて、腹の中に魚が卵か白子でも持つようにしてたはずですが」

 

「うん。ってことはあのとき、敵はサーシャが来るのを予期して待ち構えてたのか。あの手の船を殺るのには、戦闘機と対戦ロケット」

 

「でしょうね」

 

と言った。そうだ。〈サーシャの船〉もまた、次元潜宙艇だった。〈潜宙艇〉と言ってもあれは、まるでアジサシかカワセミのような、空から水に突っ込んで魚を捕らえる水鳥といった感じの船で、つまりそのように外宇宙から太陽系の中に飛び込み、ガミラスの眼を避けて地球人類圏にまで行く考えだったのだろう。

 

そして最初に現れたとき、地球の船の前をクルクルと舞ったと聞いた。それは敵でないことを示すとともに、たとえ攻撃を受けたとしても素早く(かわ)すための動作であったわけだ。

 

〈サーシャの船〉はまさにアジサシであるために、ビームで撃たれそうになればサッと〈水〉の中に潜り、魚雷が来たら〈空中〉に飛び出すことができたのだ。〈きりしま〉や〈ヤマト〉のような大型船にとっては仕留めにくい相手で、トビウオのごとく〈空中〉に出てきたところを副砲などで撃とうとしてもなかなか狙いをつけられない。

 

が、そんな船であっても戦闘機ならば殺れる。

 

〈ゼロ〉が対潜ロケット・ランチャーを持てば、敵が〈水中〉に潜ろうと、〈海面〉から飛び出そうと構わず狩り立ててやれるのだ。あのとき〈サーシャの船〉もまた、そのようにして追われていた……。

 

地球にアジサシ船はない。だからガミラスはサーシャが来るのを知って対潜ロケット弾を持つ機を準備していたことになる。

 

「今度はおれがその逆か。敵があんなの出してくるってことなのかな」

 

「どうでしょう」

 

と大山田。しかし、もしそうなれば――と古代は思った。

 

そうだ。あのとき、おれが〈彼女〉の遺体とカプセルを回収したように、また残骸を手に入れられるかもしれない。もっとも、タイタンで見たように、ガミラス兵は死ねばすぐ(みずか)ら火に焼かれてしまうはずでもあるがしかしそれも、今後は話が変わってくるかもしれんのじゃないか。

 

だが、とも思う。それも〈ヤマト〉が勝てたならばだ。魚雷が来たら(かわ)せない。一発でも喰らえば敗ける。敵もそれを知っていて死に物狂いで来るに違いないと言うならこれは、危険極まる賭けということにならないのか? こんな博打(ばくち)はすべきではないのじゃないか?

 

冥王星でおれにトンネルに突っ込めと言ったのと同じ――古代にはそう思えた。なのにみんな、沖田なら、ここでまたやってくれると思ってるのか。おれには兄貴を死なせてすまんと言っておしまいの男なのに。

 

徳川機関長はおれにもいつかわかるときが来ると言った。

 

いいや、とてもそんなふうには思えない。

 

おれは沖田を信じられる気がしない。


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