古代は〈ゼロ〉のコクピットで、照準の輪に敵の潜宙艇を捉えて見つめながら、『随分と不格好な船だな』と考えていた。地球の鳥の
そうして見える敵船は、鵜が水中で脚と翼を必死になって動かしてなんとか体を沈めているかのようだった。そして古代が自分で〈ゼロ〉の尾翼に描いたトリさんの画のようでもある。
〈
無論、その理屈はわかる。だがどうするのか。まさかこいつを捕まえられると思えないが……。
しかし目の前にいるもの――ガミラス。このあいだにタイタンで見た敵兵の姿を思い出す。サーシャがそうであったように、あいつも地球の人間そっくりに見えたが……。
そうだ、人間そっくりだった。あいつも、サーシャも、見た目だけなら地球人と何も変わらぬように見えた。間近に見たふたりの顔を古代は思い出しながら、あの船にもだからやっぱり地球人と同じ顔の〈人間〉が乗っているのだろうなと思った。おれが今、操縦桿の引き金を引けばそいつらは死ぬ――。
照準に『射て』のサインが表れている。古代はそれが命じるままに引き金を引こうとした。
いや、引こうとして、慌ててやめる。どうやら〈銃の一部になる〉という状態に心がなりかけたようだった。あの妙な〈鵜もどき〉が、あまりにいい標的に見えるものだから。
銃を持ったらその銃の一部に人はなることがある――兄貴の書棚の本の中に、そんな文句が書いてあるのが確かあった。あれはなんて本だったろう。銃を持ったら、人は撃ってはいけないときに、撃ってならないものにめがけて引き金を引くことがある。ただ、照準が標的を捉えたというだけの理由で。
それはよくあることなのだ、とあの本には書いてあった。しかし撃たれた側としては、『よくあること』で済ませはしない。銃によって壊れたものは二度と元に戻らない。
そんな話だった。しかし……そう言えば、さっきのおれは……。
なぜだ。どうしてあんなことを沖田に言ってしまったのか。どうして兄を連れ帰ってくれなかったと沖田に言った。そんなことを言ったところでしょうがないとわかっていながらどうして言った。
地球を〈ゆきかぜ〉のようにしたくない。
敵に殺られてもう元に戻らなくなった船のようには――もちろん、あれはそういう意味であろうけれどもしかし実は……。
兄貴は銃の一部になった。だから死んだ。そういうことか。いいやそんな。
違う、と思った。しかし、沖田艦長も君と同じだという声が、頭の中に聞こえた気がした。徳川機関長だ。いつか君にもそれがわかるときが来るだろう、と……。
『話を聞こう』
という声が、ヘルメットの中に響いた。
通信機だ。自分に向けられたものではない。〈ヤマト〉が敵の潜宙艇に出した電信であることが、ディスプレイに示される。
そうだ。そういう手はずだった。古代が敵をいつでも殺れる位置に就いたところでそう告げる。これに対して、果たして敵がどう返すか。
十数秒の時間が過ぎた。そして画面に敵が〈ヤマト〉に向けたのを示すサインとともに、
『応答に感謝する。我はガミラス冥王星基地司令官シュルツである。そちらの指揮官と映像付きの通話がしたい』