敵中横断二九六千光年   作:島田イスケ

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傍聴

「え?」

 

と言った。まさか、と思った。〈オキタ〉と名乗る〈ヤマト〉艦長とシュルツ司令との交信は〈デロイデル〉でも傍受しており、ゾールマンは機械が訳すオキタの言葉に耳を傾けていたのだが、しかし今、オキタが言った地球人の英語の『イエス』。

 

そんなもの、訳すまでもなく意味はわかる。わかるがしかし……。

 

そう言ったのか? 自分の耳が信じられない思いだった。見れば発令所内の誰もが驚きに目を(みは)っている。

 

『どうした。何か不満なのか。わしはイエスと言ったのだぞ』

 

『え、ええと……』

 

オキタとシュルツの声が続く。皆が『まさか』という顔ながらにその会話に聞き耳を立てた。

 

その一方で、

 

「〈ギャワ〉が〈ヤマト〉を射程距離に捉えました」「こちらでも確認」

 

通信士とソナー士が報告する。ソナーの画面に六隻のうち一隻が、〈ヤマト〉を魚雷で射てる距離まで近づいたのが示されていた。

 

「さらに〈ゴルデノール〉……」

 

とソナー士。よし、とゾールマンは思った。この〈デロイデル〉も射程までもう一歩に迫っている。それで〈ヤマト〉を……。

 

『それより、シュルツ司令と言ったか。あなたはこちらにつく気はないか』

 

とオキタの声も続く。その映像も傍受され、別の画面に映っている。

 

『コスモクリーナーを本当に持っているのなら、地球はあなたを迎えるだろう。人々を救うためならこれまでの恨みなどと言っておれん』

 

『え、ええと……』

 

とシュルツの声。うろたえたその顔も画面に開かれた別のウインドウに映る。

 

オキタは続けて、『どうしたのだ。そういう話をしに来たのではないのかね。「和平について」などと言うが、あなたにガミラス全体を代表する資格があるのか。それは信じがたいのだが……』

 

『それは』

 

とシュルツ。そうだとゾールマンは思った。そうだ、そんな権限をこの男が持つわけがない。それは誰にもわかること……しかし国を裏切るのなら話は別だ。

 

「〈エグゼダー〉もまた射程に……」「〈ビューズドン〉も……」

 

士官達の報告が続く。そして五隻目の船〈バーズ〉もまた、〈ヤマト〉を射程距離に収めた。

 

残るはこの〈デロイデル〉だ。

 

雷撃士が言う。「射程まであと100……90……」

 

「よし」

 

と言った。それでいい。その数字がゼロになればそこで全艦魚雷発射。それで〈ヤマト〉はオダブツだ。

 

「80……70……」

 

シュルツ司令とオキタとの通話なんてどうでもいい。そうは思うが、まだその通話も、発令所内に響いている。

 

画面の中でオキタが言う。

 

『この交信は地球に届いているのだろう』

 

「60……50……」

 

『だからあなたが今ここで、イエスかノーで答えればいいのだ。部下を連れて投降するというなら悪いようにはしない……と言ってもわしは約束ができる立場にないが、地球では命の保証はするはずだ。放射能除去装置を本当に持っているのか、それすら関係がない』

 

「40……30……」

 

『あなた方が何者で、なぜやって来たかそれが知りたい。まずはそれをここで話す気があるかどうかだ。答えてもらおう。イエスか――』

 

「20……10……」

 

『ノーか』

 

「ゼロ!」と雷撃士が告げる。「全艦、射程に入りました!」

 

ゾールマンの見る画面にシュルツ司令とオキタの顔が映っている。『イエスかノーか』。司令の返事を聞いてみたい気も彼にはした。だが構うものかと思った。そんなものは聞かなくていい。

 

「発射だ!」叫んだ。「全艦、魚雷発射!」


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