敵中横断二九六千光年   作:島田イスケ

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通常の回避手段

『地球人め! 〈ヤマト〉の最期を見るがいい!』

 

そう日本語で叫ぶシュルツの声は〈デロイデル〉にも届き、ガミラス語に訳し直されてゾールマン達に聞こえていた。発令所内の誰もが笑い(うなず)き合う。

 

情報士官も安堵の顔で、「これを聞けばくだらんことを言う者はもうおらんでしょうな」

 

「無論だ」

 

とゾールマンは応えて言った。心の中では、少しでもシュルツを疑った自分を恥じていた。

 

「2000……1900……1800……」

 

と雷撃士が、進む魚雷の〈ヤマト〉までの距離を読んでいる。もちろん、それがゼロになったときがドカーンだ。射程距離一杯から射ったため、〈ヤマト〉に届くまでに数分の時間がかかる。

 

が、何をどうしたところで()けられぬことに変わはない。

 

魚雷接近を知って〈ヤマト〉はすぐにエンジンの噴射を止めた。パッシブ・ソナーによる探知を防ぐための通常の手順。

 

無駄だ。24の魚雷はすぐさま、自己誘導をアクティブに変えた。キンキンと鳴るピンガーがここにまで聞こえてくる。

 

そしてその音が遠のいていく。雷撃士が、「1700……1600……」

 

さあどうする〈ヤマト〉よ、とゾールマンは思った。

 

もちろん、次の回避手段は〈次元マスカー〉に違いない。〈ヤマト〉は当然、それを備えているはずだ。

 

船のまわりの〈次元海水〉を泡立たせ、それで船体をくるんで〈音〉を吸収させることによって魚雷をやりすごす。有効な回避手段であるが、無駄だ。24発全部をそれで(かわ)せるものか。

 

〈泡〉で目標を見失っても、魚雷はまっすぐ進み続ける。最後に捉えたピンを元に未来位置を計算し、到達まで五秒かかるなら五秒後に〈ヤマト〉がそこにいるものと見極めた座標を目指すのだ。

 

もちろん、全部は当たるまい。だが必ず数発は当たるしそれで充分なのだ。一発でも当たればそれで勝負は決まる。

 

「1500……1400……」

 

数字が読まれていく。さあ〈ヤマト〉よ、とゾールマンは思った。せいぜい泡を噴くがよい。

 

しかし、

 

「おや?」とソナー士が言った。「マスカーを使わないな」

 

「何?」と言った。「バカな。マスカーを使わなければ24発全部が当たるぞ」

 

しかしその通りだった。〈ヤマト〉はエンジンを止めたまま、なんの回避行動も取らずに宇宙空間にある。

 

「バカな」とまた言う。「まさかマスカーを持っていないとでも言うのか」

 

「いえ、そんなバカな……」

 

とガレルも言う。キン、キン、キン……という音がますます小さくなっていく。〈ヤマト〉はとっくに〈泡〉を噴いていいはずなのにそれをせず、他になんの行動も取らない。

 

そんな、と思った。あれだけの大型艦、魚雷の五発や六発ならばたとえ当たっても沈みはしまい。ゾールマンは〈ヤマト〉を決して沈めるな、との命令も受けていた。波動砲の秘密を奪うために完全に破壊せず、拿捕に努めねばならないのだ。

 

だがこのままでは24発全部が当たる。すればさしもの〈ヤマト〉と言えど轟沈は必至だ。ネジ一本の見分けもつかないほどにバラバラ……。

 

「1300……1200……」

 

雷撃士が唱えて言う。その声にも(あせ)りの色が混ざり始めた。

 

射った魚雷はもう止められない。途中で自爆させることも……だからまっすぐ、24基が〈ヤマト〉に向けて進んでいく。

 

〈ヤマト〉など、もちろん粉々にしてやりたい。そうなるところを地球人どもに見せてやりたい。だがそうしてはならぬのがゾールマンの立場だった。

 

『オキタ』、と思う。そうだ。あいつ、オキタと言ったな。シュルツ司令と交信で話した〈ヤマト〉の艦長の顔――それを思い出しながら、なぜだ、オキタ、なぜ動かない、なぜマスカーを使わないのだとゾールマンは考えた。まさか、我らガミラスの知らぬ魚雷の回避手段でも持っているのか?

 

潜宙艦も造れぬくせに――いや、そんなことがあるものか。なぜだ。何を考えている!

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