敵中横断二九六千光年   作:島田イスケ

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ビニールハウス

「わあい、出来た出来た」

 

と結城が言う。フッフッフと古代は笑い、「どんなもんだい」と言ってやった。

 

「試食だ試食だ」

 

と言いながら、皆が皿に箸を伸ばす。古代がひとつも取らないうちに、出来上がった羽根つきギョウザが皆の胃袋に消えてしまった。

 

「うん、ちゃんとうまく焼けてる。この調子でお願いしますね」

 

「いいけど」

 

と言いながら、脇に置かれたギョウザのタネに古代は眼を向けた。トレイに並べて積み重ねたのが数十段。

 

「これ全部おれが焼くの?」

 

「当たり前でしょう。航空隊長が率先してやらなくってどうすんですか」

 

「そういうもんなのかな」

 

と言った。言ったが、まわりを見れば、黒地に黄色のコードを付けたパイロットスーツのタイガー戦闘機乗り達がパーティの準備作業に使われている。そして山本も、隣の卓で古代と同じくギョウザ焼きを始めていた。

 

〈ヤマト〉甲板の特設パーティー会場だ。第一・第二主砲塔のまわりにビニールハウスのような空気で満たされた回廊状のテントを設置し、立食パーティの卓を並べる。テントの素材は透明なのだが、中に照明を入れているので宇宙の星はほとんど見えない。ライトアップし飾りを付けた艦橋と艦首フェアリーダー、主砲の砲塔を眺めるばかりだ。

 

古代がいるのは第一主砲の三本の砲身が前に向かって伸びるその下だった。縁日の出店のような台にホットプレートが置かれ、その後ろに立たされている。

 

「テントは軟質樹脂製だが、カーボンナノチューブの網を挟み込んであるので、スペースデブリなどが当たっても人が吸い出されるほどの穴が開くことはまず有り得ない。万が一、空気が抜けることがあっても、慌てず緊急酸素マスクを被ること。内部は0.8気圧となっているので、出入りの際は――」

 

などと、入ってくる者に注意事項を説明する声が聞こえる。誰かと思えば、加藤だった。

 

スペースデブリや小石の多い太陽系黄道面と違って、〈ヤマト〉が今いる宙域でテントに穴を開ける物体が当たる確率はほとんどゼロに等しいと言える。それでも万が一のため、古代も緊急酸素マスクを首の後ろに着けていた。結城その他の者達も皆、着ているのは普段の船内服でなく、急いでマスクを被りさえすれば十五分間は生きられる戦闘用気密服だ。

 

ホットプレートにギョウザを並べる。『ギョウザを焼け? なんのこと?』。最初にそう聞いたときに結城は言った。

 

「パーティの料理ですよ。太陽系を出た祝いにみんなでパーティをする。その席にギョウザを出すということになったんです」

 

「ギョウザ? なんでギョウザ?」

 

「それはまあ、いろいろ理由があるんですけど、航空隊のパイロットに焼いてもらうということで。タネ作りから参加していただきます」

 

「なんでそんな……」

 

「当たり前でしょう」結城は言った。「〈ヤマト〉は別に戦う船ではありません。〈イスカンダル〉へ行くための船です。一日も早くマゼランへ行って、地球に戻る。それが第一の優先事項で、他は二の次なんですね。航海要員こそが主役で、戦闘要員は脇役なんです。だからこのパーティも、航海要員に『頑張るように』との激励の意味で行う」

 

「おれが脇役……」

 

「不満ですか?」

 

「いや、そういうわけじゃないけど」

 

「冥王星の後ずっと、航海要員はガミラスの追撃を(かわ)し、技術要員は船の修理。あたし達生活要員はそれを支え、ケガ人の治療その他に大忙しで来てるんですよ。戦闘要員は何もしないでいいだとか……」

 

「そんな考えはしていません」

 

「ならばパーティのホスト役は引き受けるのがスジでしょう」

 

「うん」と言った。「わかった。けど、なんでギョウザなの?」

 

「それはまあ、いろいろ理由があるんですけど」

 

そんなわけでパーティのため、ギョウザを焼く係を押し付けられたのだった。航空隊員や砲雷科員は皆なんらかの仕事を割り当てられているというのだから文句は言えない。

 

「それで、通信のことですが」

 

と結城が、またギョウザに箸を伸ばしながら言う。

 

「ツーシン?」と古代は言った。

 

「地球の家族との交信ですよ。もし向こうから聞かれても、絶対に〈ヤマト〉の行き先がマゼランとは言わないように。『機密』の一言(ひとこと)で押し通し、肯定も否定もしてはならない」

 

「それか。おれは関係ないよ。地球に話す相手なんていないもの」

 

そう言ってから、思った。そもそも、おれに限って言えば、おれがこの船に乗ってることを知ってる人間自体が地球にいないんじゃないのか?

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