敵中横断二九六千光年   作:島田イスケ

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爆雷攻撃

「来ました! 爆雷です!」

 

〈デロイデル〉の発令所内でソナー士が叫ぶ。彼が見る画面の中で無数の輪が広がっていた。

 

水面に石を落としたときに出来る波紋のようなもの。それがいくつも――それ自体が輪を為して、ゾールマン戦隊の六隻の船を囲んでいる。魚群に向かって打たれた投げ網のように。

 

〈ヤマト〉が(はな)った次元爆雷だ。何十基というそれらが今〈海面〉に落ち、〈水中〉に沈み始めたのだ。宇宙という〈黒いゴムシート〉の下の次元の〈水〉の中に。

 

そこに棲む〈ワニ〉を退治するための爆雷。それらがまたキンキンとアクティブ・ソナーのピンを打つ。

 

一定の次元深度に達するか、もしくはソナーが近くの敵を探知したとき起爆して、連鎖的に他の爆雷すべてがドカドカドカーンと行く仕掛けなのは確かめるまでもない。それが宇宙の爆雷攻撃なのだから。

 

その投げ網が打たれたのだ。キン、キン、キン……とピンガーの音が高まっていく。

 

そして、来た。爆雷のひとつが炸裂。続いてズガガガガンとばかりに次から次に爆発していく。

 

〈デロイデル〉はガクガクと揺れた。船のまわりで〈水〉がうねって外殻を撫で、内殻との間にある骨を(きし)ませて壁を(よじ)らせ、乗員が立つ床板を波打たせる。潜宙艦独特の不気味な音が内部に反響した。

 

〈デロイデル〉だけではない。ゾールマン戦隊六隻のすべての船の全乗員が、同じ響きに(はらわた)まで揺さぶられているはずだった。

 

とは言ってもこんなことで潜宙艦は沈みはしない。爆雷は(じか)に当たってそこで爆発しない限り致命的な打撃となることはない。

 

だが振動が治まるまでは何もできない。〈ヤマト〉に魚雷を射つこともできず、一徹(いってつ)おやじに蹴り上げられる卓袱台(ちゃぶだい)のような床の上でただ体を揺さぶられるのみ。

 

そして、振動が()んだところで、来た。またキンキンとピンガーの音が。

 

〈ヤマト〉が射った次元魚雷。そして〈ヤマト〉自身も(はな)つアクティブ・ソナーの合奏だ。さっきは24編成で遠のいていって聞こえたものが、今度は七つ近づいてくる。

 

「マスカー放射! 同時に急速浮上だ。()けろ!」

 

艦長のガレルが叫ぶのをゾールマンは聞いた。そうだ。やってくる魚雷は六基とはいってもこちらの船は六隻だから、一隻につき一基ずつ。次元マスカーを使えば(かわ)すのは難しくない。

 

勝負はまだこれからだ! ゾールマンは思った。地球人の魚雷などに、一隻たりとも殺られるものか!

 

「やつは波動砲を使った……」と情報士官が言う。「ならばしばらくワープできないはずです。今なら拿捕(だほ)できる!」

 

「そうだ!」と言った。「もらった! たとえ殺られても――」

 

「そうです! ただ一発だけ! 一発だけあいつに魚雷を喰らわせればいい! それで勝負はこちらの勝ちです!」

 

そうだった。その状況はもちろんまだ続いているし、むしろ〈ヤマト〉が波動砲を撃ったことでより確実なものとなったと言える。

 

今の〈ヤマト〉はワープで逃げることができない。だからこの六隻がたとえ沈められたとしても、シュルツ司令が味方を呼んで〈ヤマト〉を捕らえてくれるだろう。魚雷をただ一発だけ当てることができればいいのだ。そのチャンスをむしろ増やした!

 

そう言えるのだ。勝ったぞ、〈ヤマト〉! ゾールマンは思った。上から身を押さえつけられる力を感じる。船が浮上しているのだ。階を上がるエレベーターに乗ったときのように体がGを受け、倍ほどに重くなったのだ。

 

それを感じているわけだ。そしてキンキンと聞こえる音が、ごく小さな低くこもった音に変わった。

 

次元マスカーが効いたものに違いなかった。地球人の魚雷など、一発くらい〈デロイデル〉には(らく)(かわ)せる。真正面からのヘッド・オンで来るものならばなおさらだ。

 

そう思った。そのときだった。

 

「海面上に機影ふたつ!」レーダー手が叫んだ。「戦闘機です!」

 

「ちっ」

 

と言った。あの銀色の戦闘機。こちらにまわり込んでいたとは。

 

狙っていたな、と思った。これも、あのオキタという男……。

 

「よくも!」


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