敵中横断二九六千光年   作:島田イスケ

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対潜ロケット弾攻撃

次元フィルターを掛けた照準板の中にいくつか、白い綿雲のようなもの。潜宙艦がアクティブ・ソナーの探知を(のが)れるために撒いた煙幕とわかる。

 

だが、〈ゼロ〉には〈海上〉から、磁気によって〈ワニ〉を見つけるためのセンサーも備わっていた。ソナーによる探知ほどに確かでないが、潜宙艦艇の影をおぼろに捉え得るのだ。

 

その探知器が繭玉(まゆだま)の中にいる(かいこ)のような細長いものの姿を捉えていた。潜宙艦の次元マスカーは次元海水を沸き立てさせた〈泡〉の煙幕。ビールやコーラの泡がコップの中を上っていくように、その煙幕も〈上〉へとのぼる。潜宙艦も次元魚雷を逃れるためには、のぼろうとする泡と共に船体を急速浮上させねばならない。

 

〈ゼロ〉が対潜ロケット弾で攻撃できるところまで――。元々この〈ワニ〉どもは、さして〈水中〉深いところに潜っていたわけではない。〈ゼロ〉がいま装備している武器は『対潜』などと言いつつさして威力が高くないうえ、深い次元まで届かないが、浅瀬にのぼってきた敵にジャブとして射ち込むのは有効だった。潜宙艦に対する攻撃その一として、(えぐ)り込むように射つべし。

 

『アルファー・ワン、ツー。敵は六隻だ! 手分けして一隻に二発ずつブチ込んでくれ! 二発は予備に残しておくこと!』

 

〈ヤマト〉から相原による指示が来る。「了解」と古代は応えて火器管制装置を見やった。

 

ロケット弾は右と左の翼にそれぞれ四発。計八発。潜宙艦にこれ全部をブチ込んでもまず撃沈には至らない。

 

だがそれでいい。自分の役目はこの〈ワニ〉どもにダメージを与えることとわかっていた。古代はまず一隻が攻撃可能深度に届くのをめがけてロケット弾を射ち込んでやった。

 

次に二隻目。山本も同じようにしているのがキャノピー窓の向こうに見える。

 

三隻目に向かったところで照準板が真っ白になった。泡だ。爆発するような勢いで宇宙に噴き上がった次元海水の水柱。

 

肉眼では見ることができない。照準板にはビールをブチ撒けたようなものしか見えない。しかし、代わりに〈ゼロ〉のキャノピー窓一杯に、巨大なものがそれまで何もなかった宙から急に現れ、自分に向かってくるのが映った。

 

〈ワニ〉だ。まさしく、地球のワニが水辺(みずべ)の鳥に、ガブリと喰らいつこうとして水中から飛び出してきたかのような光景だった。

 

今は古代の〈ゼロ〉がその獲物の鳥なのだ。古代が向かう潜宙艦は、魚雷を避けて浮上する勢いのあまり〈海面〉を破り、通常の宇宙空間にいま飛び出してきたのだった。その船首が古代の〈ゼロ〉とぶつかりそうになる。

 

それにめがけてロケット弾を(はな)ちつつ、古代は〈ゼロ〉の機をひねらせた。翼の先をかすめるような(きわ)どさで、〈ワニ〉の横腹をスリ抜ける。

 

ソナーの画面を見れば宇宙はグチャグチャだ。通常空間に飛び出してきたのは、その一隻だけでなかった。六隻の次元潜宙艦すべてが〈海面〉の上にいた。次元海水がかき乱されて時空が歪み、ために曲がったガラス越しに見るようにグニャグニャと人の眼には揺らめいて見えるが、しかし確かに肉眼で見える。

 

六匹のワニが水面をのたうつような光景が。そして〈ヤマト〉がこれを目掛けてふたたび次元魚雷を射つのも、〈ゼロ〉のレーダーは捉えていた。


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