敵中横断二九六千光年   作:島田イスケ

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失探

〈ヤマト〉の魚雷制御室では、六人の雷撃士が今それぞれの席に就いて一基ずつ、各自の魚雷を操っていた。

 

母艦からの親誘導による魚雷の操縦は、狙った獲物をほぼ確実に仕留めることを可能とする。可能とするが、だがしかし、ふたつの(なん)も存在する。

 

ひとつは敵までの距離が充分に近くなければならないことだが、これは今は問題ない。もうひとつは殺せる敵の数に限りがあることだ。

 

一隻二隻であればまず確実に殺れる。三隻四隻となるとちょっと厳しくなり、五隻六隻までを一度に殺るのはかなり難しくなってしまう。

 

なぜなら、数を殺る(ごと)に、眼で見ようにも〈水中〉が見にくくなってしまうからだ。魚雷が炸裂する毎に、それが起こすノイズによって照準装置の画面はかき乱されていく。四発目が当たった後にはもう、敵潜宙艦を見ようとするのは味噌汁椀の底のワカメを見ようとするみたいになってしまうのだ。

 

これでは敵を殺ろうにも殺れない。四隻を仕留めた後の魚雷制御室はそのようなことになっていた。

 

それでも五発目。

 

「当たった……かな?」

 

と五人目の男が言った。魚雷は敵に命中し、炸裂はしたらしいのだが、直撃で大破もしくは撃沈に至ったのかどうかは不明。

 

そんなようすを艦橋で南部が見守っていた。四隻までは殺れるだろうが五隻六隻は難しいのはやる前からわかっていた。六発目は、

 

「失探。一隻は(のが)しました」

 

「ふむ」と沖田。「あの〈()もどき〉は?」

 

「やはり失探。〈海底〉に隠れたようです」

 

と森が言う。沖田はまた「ふむ」と言って、森が示す画面を見やった。

 

「まあしかたがないな」

 

シュルツと名乗った男が乗っていた船は、〈ヤマト〉と〈ゼロ〉が潜宙艦隊を相手にしている間に水中深く潜り、次元海底の窪みの中に身を隠してしまったらしい。そうなるとアクティブ・ピンなど打ったところで見つけるのは至難となる。

 

あの小舟はまさに鵜であり、そう長くは潜っていられるはずのないものでもあるが、〈ヤマト〉としてはあの〈鵜〉の息が切れるのを待っているわけにもいかない。

 

あのシュルツという男は、ここに空母と重巡艦隊が来るのを待っているはずだからだ。あの男が呼ばずとも、敵はすぐに来るかもしれない。

 

〈ヤマト〉が今、ここで波動砲を撃ったのを、地球だけでなく敵も知った。今の〈ヤマト〉はワープで逃げられなくなったのを、敵は知ったことになる。

 

だから、冥王星で最後に仕掛けて来たように、また今度も空母と重巡で襲おうとするはずだった。さらに軽巡や駆逐艦までやって来るかもしれなかった。数で来られてまともにやれば〈ヤマト〉に勝ち目などはない。だから、とにかくできるだけ遠くへ去らなければならない。

 

と言うわけでシュルツの船が浮かんでくるのを待てはしなかった。だがそれよりも、生き残りの敵潜宙艦。

 

「数が減ったと言っても油断はできません。背中を向ければまた魚雷を射ってくるでしょう。今度は敵が親誘導で来るでしょう。そうなると(かわ)せない……」

 

新見が言った。沖田は「うむ」と(うなず)いて、

 

「果たし合うしかないだろうな」


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