敵中横断二九六千光年   作:島田イスケ

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果し合い

〈デロイデル〉は〈ヤマト〉の次元魚雷を(かわ)した。しかし、

 

「やはり無理がかかりました。エンジンの出力低下! 半分も出ません!」

 

「ソナー室に浸水!」

 

「バラストタンク破損! 浮上しなければ沈没します!」

 

発令所内で士官らが悲鳴のような報告を上げる。戦闘機のロケット弾を喰らいながら急速潜航などしたために、受けた損傷を悪化させたのだった。

 

元より、〈ヤマト〉を追うために、エンジンに過度の負担を()いてもいた。その(むく)いがここへきて遂に担保の差し押さえにかかったらしい。

 

〈デロイデル〉はもはやまともな戦闘力を持たなかった。しかし、

 

「魚雷は射てるのか」

 

「射てます。一度だけですが。それも浮上しないと……」

 

「それで充分だ」ゾールマンは言った。「〈ゴルデノール〉は……」

 

「応答ありません」と通信士。「ですが、おそらく状況は本艦より深刻なものと……」

 

「くっ」

 

歯噛みした。六隻中四隻殺られてこの〈デロイデル〉の他にもう一隻、〈ゴルデノール〉も魚雷の直撃は(まぬが)れたらしい。まだ活きてはいるらしい。だが、そうは言ったところで……。

 

浮かぶことができるなら、この〈デロイデル〉同様に浮かび上がろうとするはずだがそうしない。なら、できぬのだと考えるしかない。通信で呼びかけても応答がないと言うのなら、『撃沈を免れ』たと言うよりもただゆっくりと沈んでいくだけの命しかないのだとしか……。

 

思えなかった。そしてこの〈デロイデル〉も、〈ヤマト〉相手にいま一太刀(ひとたち)を打てる力があるかどうかだ。

 

「魚雷は四発。親誘導はできるな」

 

「できます」

 

「ならいい。今度はやつにやられたことをこっちがしてやる番だ。浮上次第発射しろ」

 

「はい!」

 

「どうだ。〈ヤマト〉め。躱せるものなら躱してみろ」

 

言ってフフ、と笑いながらガレルと情報士官を見る。彼らも笑いながら(うなず)いた。

 

「ガール・デスラー」

 

ゾールマンが言うと、

 

「ガール・デスラー」「ガール・デスラー」

 

ふたりが応える。そして発令所内の誰もが、口を揃えて声を上げた。

 

「ガール・デスラー!」「ガール・デスラー!」

 

――と、そこで操舵士が言う。「海面まで10、9、8……」

 

「ガール・デスラー!」「ガール・デスラー!」

 

雷撃士も、「魚雷発射用意。親誘導だ」

 

「7、6、5……」

 

「ガール・デスラー!」「ガール・デスラー!」

 

発令所内だけではない。艦内の至る所で兵のすべてがそう叫んでいるようだった。火花が散る機関室でも、〈浸水〉したソナー室でも。

 

「4、3、2……」

 

次元海面が迫る。雷撃士が〈潜望鏡〉のハンドルを掴んだ。〈ヤマト〉を直接、眼で見て魚雷を誘導する必殺の照準器を覗き込む。

 

「1、ゼロ!」

 

操舵士の叫びと共に、船が次元の海面を突き破る強烈な衝撃が来た。


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