敵中横断二九六千光年   作:島田イスケ

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最後の一撃

「やられました! トリムに被弾! もう浮いていられません!」

 

〈デロイデル〉発令所内で操舵士が叫ぶ。〈水中〉で船の前後のバランスを取るトリム装置。潜宙艦のいわば〈腰〉だ。これを殺られるともう船はもたず、前か後ろに傾きのめって沈んでいくか、それともふたつにヘシ折れてしまうかということになる。

 

あの銀色の戦闘機だ。二機いるうちの片方にロケット弾を喰らったのだ。

 

まだ持っていやがったのか――ゾールマンは思った。戦闘機搭載用の対潜ロケット弾。一発一発はたいした威力でないと言え、この状況で受けたなら致命傷は(まぬが)れない。

 

なのにそれを喰らったのだ。そしてまたレーダー士がもう一機の接近を告げる。

 

「まだだ!」とゾールマンは叫んだ。「まだだ! あいつに、〈ヤマト〉に魚雷をブチ込むまでは!」

 

しかし、ソナーももう利かない。もはや魚雷の誘導は、〈潜望鏡〉による目視だけが頼りとなっている。〈ヤマト〉はそれを知っているに違いなく、右へ左へ上へ下へと宇宙空間を舞っている。

 

よくもあれだけの大型艦を、ああも振り回せるものだ。〈潜望鏡〉の視野は狭い。あのように動く〈ヤマト〉を追いかけるのは難しく、ときに雷撃士の眼を逃れてしまいもする。

 

しかし、無駄だ。せいぜい命中までの時間をいくらか遅らせるだけ。こちらの勝ちに変わりはない――。

 

そう思った。だが警報が鳴り響いている。バランスを失くした船がグラグラと揺れ、回路がショートを起こしたらしい火花があちらこちらで散る。

 

「まだだ」とゾールマンはまた言った。「まだ、あいつを殺るまでは……」

 

「到達まで500……400……」

 

とガレルが祈るような声で言う。一発目の魚雷の〈ヤマト〉までの距離だ。それがゼロになりさえすれば我の勝ち。

 

そうだ。そうなのだ。それでいい。それができればここで死んでも構うものかとゾールマンは思った。そしてその時は必ず来る。いやいやそれが(かな)わずとも二発目か三発目か四発目が当たる。

 

〈ヤマト〉にこれらを(かわ)すことなどできるはずがないからだ! 今度ばかりは絶対に、やつは()けることができない。魚雷は必ず命中する!

 

そうだ。ただその時まで、船がもてばそれでよいのだ! ゾールマンは思った。「300……200……」とガレルが距離を読み続ける。

 

だがそこで、

 

「来た!」とレーダー士が叫んだ。「あいつだ!」

 

『あいつ』。あの戦闘機。銀色のやつの一番機――それを指した言葉だとわかり、ゾールマンは慄然(りつぜん)とした。

 

そんな、と思う。タイタンでも、冥王星でも、もう一歩のところでこちらから勝ちを奪っていったという、あの悪魔のようなやつ。

 

それが来たと言うのか、ここで。おれもそいつに殺られるのか。

 

そんな、と思った。よくも、と思った。そして衝撃。ロケット弾だ。それはゾールマンの立つ真上、発令所の天井を破って中に飛び込んできた。

 

痛みを感じるヒマもなかった。ワニの目玉のような〈潜望鏡〉を貫き、その下にある発令所に届いてそこで炸裂した対潜弾は、その区画を炎で満たしてすべてを焼き尽くさせた。

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