どうも、勢いに乗って書き始めた燕尾です。
暖かく、見てくれると嬉しいです。
その日、秋月夏樹と梓川咲太は野生のバニーガールと出会った。
ゴールデンウィークの最終日。
暇つぶしで本を読みに来た夏樹は妹に頼まれて本を借りに来た咲太と偶然図書館で出会った。
ゴールデンウィークにもかかわらずただただ本を読んで時間を消費していることに咲太から哀れみの視線を向けられるがどうでもいいのでスルーして帰る準備をしていた。
住んでいる場所が近いのでどうせだったら暇つぶしにでも咲太を弄りながら帰ろうと思い一緒に帰ることを提案する。夏樹の心情なぞ知りもしない咲太はなんでもないように頷いた。
妹からのお使いを忘れることなく完遂しようとする咲太はカウンター前で足を止めた。その視線はカウンターを正面に左にある本棚の方を向いていた。
なんぞやと不思議に思った夏樹もそちらを見る。
そこにはバニーガールがいた。
瞬きを数回しても消えることはない。ということは幻ではないということだ。
「なあ咲太。お前には
「奇遇だな秋月。僕も今聞こうとしていたところだ」
自分の見ているものが確かなものかどうか咲太に確認すると、どうやら夏樹の幻や錯覚ではないようで見えていたようだ。
足元には艶のある黒のハイヒール。すらりと伸びた両足を包んでいるのは、黒のストッキング。同じく黒のレオタードは細身ながらメリハリのある体のラインを際立たせていた。
また手首には白のカフス、首には蝶ネクタイを身に着けている。
「はてさて…この状況、どう見るのが正解なんだ?」
どっからどう見てもバニーガール。しかしそれがいるにはいささか場違いだ。さっさとベガスにでも帰って欲しい。
「図書館という静寂な場所の中に一匹の妖艶なバニーガール……ありだな」
思春期丸出しの咲太は放って改めて夏樹は状況を確認する。
この情景でまず一番におかしいのは、図書館にバニーガールがいるということ。それに並び、このおかしな状況に
新聞を読んでいる常連のおっさんも、PCで調べ物している大学生も、きゃっきゃと騒ぎながら勉強している女子高生たちもそれを注意する職員も――誰一人してあのバニーガールを認識している人間はいなかった。認識しているのは夏樹と咲太だけだ。
この状況を考えながら席に戻りしばらく観察していると、バニーガールと目が合ってしまった。
「……」
「……」
「……」
皆して瞬きを二回。
そこから先に口を開いたのは、彼女のほうだった。
「驚いた」
どこか跳ねるような悪戯っぽさが含まれた声音。
「君や夏樹にはまだ私が見えているんだ」
「麻衣にそんな趣味があったなんて知らなかったわ。なあ、咲太?」
「桜島先輩ですよね?」
夏樹の問いかけを無視して真衣にでも気遣っているのだろう、ボリュームを落として名を口にする。
「私をそう呼ぶということは、君、峰ヶ原高校の生徒なの?」
「二年一組の梓川咲太です。梓川サービスエリアの『梓川』に花咲く太郎の『咲太』で梓川咲太」
同じ自己紹介をされた夏樹は相変わらず面倒くさい自己紹介をするな、と他人事のように思っていた。
「私は桜島麻衣。桜島麻衣の『桜島』に、桜島麻衣の『麻衣』で桜島麻衣よ」
「なぜに麻衣までそんな自己紹介?」
しかもそれだと桜島麻衣という存在を知っていなければ分からないやり方だ。
それでもそれで通じてしまうのがこの桜島麻衣という人物だ。
「知ってます。先輩、有名人だし」
「そう」
咲太が言うも麻衣は興味なさそうに片手で頬杖を突いて窓の外へと視線を逸らす。
わずかに前傾姿勢になったことで強調されたある部分に釘付けになっている咲太。年頃の男子だったら仕方がないだろうし流しておく。
「梓川咲太君」
「はい」
「ひとつ、忠告をしてあげる」
「忠告?」
突然の話に咲太は首をかしげる。
「今日見たことは忘れなさい」
口を開きかけた咲太だったが、それより先に麻衣が続けた。
「このことを誰かに話したら、頭のおかしな人だと思われて、頭のおかしな人生を送ることになるんだから」
麻衣の言葉は確かに忠告だ。だが、夏樹はひとつ気になっていたことがあった。
「なぜ俺には忠告しないんだ?」
「夏樹はもう既に頭がおかしいからよ」
不服である。別におかしいことなど夏樹はなにもしていない、思い当たる節はないというのに。
「ああ…」
咲太も納得しないで欲しい。
「夏樹は置いておいて――金輪際、私と関わらないように」
「……」
どうしたものかと悩んでいる咲太に麻衣は念を押す。
「わかったのなら『はい』と返事をしなさい」
「……」
どう反応するのが一番なのか無言で考えている咲太に麻衣はむっとした表情になる。しかしそれも束の間、気だるげな表情に戻り本を棚に戻して図書館から出て行く。
「忘れろって言われてもな……あんな刺激的なウサギさん姿、忘れんのは無理だろ」
「咲太ずっと釘付けだったからな。流石ブタ野郎だ」
「あんただって同じだろう」
「別に? 咲太みたいに俺は麻衣を見てもなんとも思ってないからな」
「このむっつり」
「それじゃあ帰るか。ほらさっさと立てよ咲太。妹にその本を早く渡さないといけないだろ?」
席を立ち、咲太を立ち上がらせようと引っ張る。
「すみません許してください」
すると速攻で謝罪の言葉が飛んでくるのだった。
「で、昨日お前は何をしていたわけ?」
「それは忘れなさいと言ったわよね?」
翌日、学校についてから誰もいないクラスの教室で一人座っている麻衣に問いかけた。
「忠告されたのは咲太のほうで、俺はただただ頭がおかしいって言われただけだからな。だから聞いた。まあ、ああいう格好で出歩く性癖がある頭のおかしな女だと思われたいというなら喋らなくてもいいけどな」
「それは昨日の仕返しかしら?」
「滅相もございません?」
「否定の言葉を疑問で言うな」
足を踏まれる。今回は少し強めで報復の意味もあるのだろう。
何かとあれば麻衣は足を踏んでくる。数年踏まれ続けた身としては、どんな感情を込めて踏んでいるのかわかるようになった。
「仕返しをさらに仕返すとか…復讐はなにも生まないってよく言うだろ」
「本の読みすぎよ」
「返す言葉が見当たらないな」
降参の意図を見せると麻衣は足を除けた。
夏樹は麻衣の隣の席に腰掛ける。
「まあ、明らかにおかしいのは麻衣の格好や頭じゃなくてあの状況だけどな。思春期特有の病気か?」
座りながら夏樹がそういうと、麻衣は少し目を見張った。
「夏樹は信じてるの? あの話を?」
「否定する材料が見つからないだけだ。多感がゆえに不安定な心が見せる思い込みだとか、新種のパニック障害だとか、集団催眠だとか――いろいろと出てきているが、どういう
「そんなの、言い出したらきりがないじゃない」
「ああ、そうだな」
だがしかし、実際にそういうものだと証明できた人間は誰一人としていない。
「だから俺は仮定しているだけだ。まずはそういうとこからだろ、普通は」
世の中の現象をすぐに解明なんてできるわけがない。夏樹からしたら断言している人間こそ思考を放棄しているようにしか思えない。
だからこそ夏樹はそれが正しいものだとしているのだ。そうでないと話が進まないし、正しい判断ができなるなることを知っているから。
「だからといって俺が解明しようとは思ったことないけどな。面倒くさいし」
「夏樹らしいわね」
麻衣は呆れたように笑う。だが、それが秋月夏樹のスタンスなのだ。
「ま、それに麻衣とは違う現象だが同じ思春期特有の病気に見舞われた人たちを俺は実際に目にしたことがあるからな。なおさら否定しないのさ」
「そうなの?」
半信半疑、というような視線を麻衣から受ける。
「麻衣もこれからわかるさ。あとはそう心配することない。たぶん解決するから」
安心させるように肩を叩いてやる。
「その上から目線、生意気。あと気安く触るな、セクハラ」
「すげぇ言われようだな」
不機嫌そうに足を踏んでくるが、そんなに力が込められてない事に夏樹は笑いながら返す。
「ほら、クラスメイトも来たみたいだから、もう話しかけてこないで」
「面倒くさい生き方してんな。ほんと」
「夏樹ほどじゃないわよ」
お互い毒を吐きながら今日も過ぎていくのだった。
とりあえず始めましたがバニーガール先輩の話で止めるつもりです。
後は感想や評価で続きを書くか考える予定です。