どうも、燕尾です。
バニーガール先輩、二話目です
「お前、なにかあったのか?」
教室で異様なオーラを出している麻衣。バッグを置いて麻衣に問いかけると、麻衣は一瞥した後すぐにそっぽを向いた。
「別に、夏樹には関係ない」
「そういうくらいなら少しはその不機嫌な雰囲気をどうにかしろ。鬱陶しいわ、アホ」
「う、鬱陶しいってなによ!」
そのままの意味である。隣で不機嫌な様子でいられるのは非常に面倒くさいのだ。
なにがあったのかは大体予想ができる。恐らく地雷を踏まれたのだろう。そうでなければ今の麻衣がここまで不機嫌になることは早々ない。
そしてその地雷を見事踏み抜いたのは咲太だろう。
「痴話喧嘩も大概にしろよ」
「そんなんじゃない!」
麻衣は強く否定しているが、夏樹の考えが正しいと証明されたのは昼休みのことだった。
「秋月って麻衣さんと同じクラスだったんだな」
夏樹と麻衣のクラスに咲太が訪ねてきたのだ。
「まあな。それより一昨日の今日でお前が麻衣って呼んでいるのに驚きだ。牧之原翔子はいいのか?」
「いいもなにも、翔子さんとはまったく関係ないぞ。国見といい秋月といいどうしてそこに結び付けるんだ」
「たぶん理央も同じようなこと言って来るぞ?」
「……」
咲太は微妙な顔をする。それほどまでに咲太に対しての印象が強いのだ。
「それより、今日麻衣さんは来てないのか?」
露骨に話を逸らすがつっこめばその先は沼なのでスルーしてやる。
「来てはいるが昼休み早々に出て行ったぞ。あの様子でその様子だと何かあったんだろ?」
「ああ。特大級の地雷をぽちっとな」
「やっぱりな。どうにかしろよ? 麻衣の奴、ずっと不機嫌オーラ出して面倒くさかったんだからな」
「そこは秋月が上手くやってくれてもよかったんじゃないか?」
「どうして俺が踏み抜かれた地雷の後片付けをせにゃならんのだ。自分でやれ、自分で」
そう言って咲太を追い返す。咲太は面倒くさそうに頭を掻いて帰っていった。
「咲太君、ここに来たかしら?」
それから昼休み終わり戻ってきた麻衣からは、そんなことを訪ねられる。
「ああ、来たよ。逃げるようにいなくなったウサギをわざわざ訪ねにな」
夏樹は皮肉をこめた言葉で報告してやる。
「話でも何でもして、さっさと終わらせろよ」
そう忠告する夏樹に対し、麻衣は気まずそうな顔をする。
だが、俺に言えるのはここまでで後は当人たちがどうにかするしかない。
しかしそこから二週間、麻衣は毎日どこかへ出て行き、咲太は昼休みは毎日のようにうちのクラスに訪れるようになった。それこそ、咲太が麻衣にご執心だという噂が流れるほどに。
夏樹も毎日咲太に聞かれているうちにあらぬ噂がたっていて面倒くさくなり、クラスから離れていた。
そして夏樹が足を運んでいたのは物理室だった。
「ここはオアシスだなぁ」
「勝手にくつろぐな」
目の前でぐでーっと夏樹に目の前の白衣の少女は辛らつな言葉を投げてくる。
だが、夏樹は意に介さず少女に注文する。
「マスター、俺コーヒー。ブラックで」
「ここは喫茶店じゃない。それにマグカップは一つしかない」
「都合の良いことにここにマグカップがありまして」
夏樹は戸棚を開いてマグカップを一つ出す。
「……いつの間に入れた?」
「理央の隙を見てだな」
「マジで帰れ」
「でもなんだかんだで用意してくれる理央はほんと好きだぞ」
「本当に出て行け」
これ以上からかうとさすがにやばいのを悟った夏樹はぐでーっとくつろぐだけにする。
目の前で実験用のビーカーやアルコールランプなどを駆使してコーヒーを作っているのは咲太と同じ二年生の双葉理央。この広い物理実験室の主だ。
「最近どうよ、理央?」
「梓川といい突然なに? 別に秋月に話すことなんてなにもないよ」
「色々あるじゃん。佑真のこととか、佑真のこととか、咲太のこととか、佑真のこととか」
「国見のことで秋月に報告することなんてなにひとつない。それと二割五分に梓川が入っているのが気に食わない」
「そんなこといってやるな。咲太の数少ない友人よ」
あえて理央のとは言わなかった。その意図をわかっている理央はそっぽ向く。
「本当に秋月は空気を読まないね。梓川より質が悪いよ」
「というと?」
「望まれている空気をわかっているくせに、真っ向からそれを否定していく」
それは的確に夏樹のことを表していた。しかし、少なからず齟齬がある。
「否定はしてないさ。ただ読んでも仕方がない空気は読まないようにしているだけ。俺だってちゃんと空気を読むことだったあるぞ?」
ただ今までの生活の中でそういう機会がほとんどないというだけで、夏樹だって読むべきところはちゃんと読んでいる、はず。
「私に向かって好きとか言う奴のどこを信用しろと?」
「なんだ、本気にしてたのか?」
「コーヒーぶっかけるよ」
「女の子が言うと響きが凄いよな」
「変態」
「結構」
これ以上のやり取りは不毛だと思ったのか、ため息を吐きながらコーヒーを入れたマグカップを差し出してくる理央。
「ありがとな」
一言理央に礼を言ってから口をつける。
うん、普通に美味い。
「そういえば梓川が変なことを聞いてきたよ」
「変なこと?」
「そ。人が見えなくなることはあるか」
ああ、と夏樹は納得する。
咲太は麻衣におきている現象について調べているのだろう。まったく地雷を踏んでおいて律儀な奴である。
二人のことは置いておいて、理央の話に戻る。
「それに理央はなんて答えてやったんだ?」
「物理のレンズと観測理論」
「なるほどな。たぶん咲太の話の答えとして正しいのは観測理論の方だろうな」
「なに、どういうこと?」
「咲太はいま、思春期特有の病気について調べているってことだ」
「あの眉唾なものを信じてるの?」
「信じる信じないは置いて、摩訶不思議なことが現実に起きてるんだよ。それを否定する材料がないのさ」
コーヒーを飲み終わった俺はマグカップを洗い、水気を取ってもとの棚に戻す。
「じゃ、また駄弁りに来るよ」
「いや来なくていいから」
「じゃ今度は佑真と来るわ」
「……っ! 二度と、来るな!!」
あっはっは、と笑いながら退散する。理央はもう少し冗談が通じるようになるべきだと思いつつ、教室へと戻るのだった。
「お前、なにしてんの?」
学校が終わり、バイトもなくスーパーで買い物をして帰ってきた夏樹は咲太の家のドアの前で座り込んでいる
「なんで夏樹がここに……」
「なんでもなにも俺もここに住んでるからだよ。咲太とは同じフロアの隣人って所だな」
本当はそれだけではないのだが、いま話すことでもない。
「で、麻衣は何をしているんだ?」
問いかけるも、麻衣はそっぽ向いて答えようとしない。
「答えたくないならそれでいい。ちなみに咲太はバイトで十時位まで帰ってこないから。じゃあな」
「ちょっと、それを知っててそのままにしておくのはさすがにどうかと思わないの!?」
さっさと家に入ろうとする夏樹を慌てて引きとどめようとする麻衣。
「お前の待ち人は咲太なんだろ? なら俺は関係ないんじゃないのか?」
「もうこの際夏樹でもいいわ。ちょっと付き合って」
咲太が聞いたら勘違いしそうな言葉をあえて選んで投げつけてくる麻衣。しかし、
「断る」
「どうしてよ!」
即答する夏樹に、麻衣は叫んだ。
「面倒くさいからに決まってるからだろ。それに咲太の家の前にいたっていうのはそういうことだろ? いい加減仲直りしろ。毎日毎日、俺を巻き込んでいたのがわからないのか?」
「それは、悪いと思ってるわよ…」
普段見ないようなしゅんとした様子を見せてくる麻衣。しおらしい姿を見せるのは滅多にないのでどうやら本当に思っているようだ。
夏樹ははあ、とため息を深く吐いた。
「とりあえず、自分の家に戻ってろ。飯作って持ってってやるから」
どうせ買い物できなくて食べるものがないとかそういうことなのだろう。
麻衣の家が向かいのマンションなのは知っている夏樹は彼女に戻れと指差す。
「なんで夏樹が私の家を知ってるのよ!?」
「そりゃ、向かいのマンションに住んでればお前の姿を見ることぐらいあるだろうが」
「私は見たことないわよ」
「んなもん知るか」
自分の感覚を人に押し付けないで欲しい。夏樹が麻衣の姿を見たのも本当に偶然だったのだから。
「それに咲太の妹の飯も作ってやらんといけないから、ついでだついで」
「どうして夏樹が咲太君の妹のご飯を作るのよ?」
「咲太がバイトのときは帰りが遅くなるからだよ。できるだけ暖かい飯を食べさせてやりたいってことで俺が咲太がバイトの時、妹の飯作りを引き受けたんだ」
「でも妹さん、極度の人見知りよね? 夏樹みたいなのと顔を合わせても大丈夫なのかしら」
かなり棘のある言い方だが、夏樹は動じない。
「麻衣とは違って懐いてくれているからな。麻衣とは違って」
その言い草に麻衣は顔を顰めた。それに対して夏樹は勝ち誇ったような顔をした。
最初こそは夏樹も咲太の妹には凄い怯えられた。そこからかなりの時間を要して打ち解けられたのだ。
今となっては一緒にゲームまでする仲になっている。
「とにかく買い物は咲太と行って来い。あいつが帰ってくるまで待つのはさすがに腹減るだろうから飯は作ってやる。それが嫌なら十時まで待ってるんだな」
「その…嫌じゃない。悪いわね……」
ここで自分のプライドを優先する麻衣ではなかった。必要なことはしっかりと理解している。
「気にするな。じゃ、また後でな」
麻衣に夏樹は小さく笑って料理の準備をするのだった。
いかがでしたでしょうか?
ではでは~