空気読めない野郎は夢を見続ける   作:燕尾

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どもども、燕尾です
ではでは続きです





空気読めない野郎はバニーガールの夢を見続ける3

 

 

 

「お邪魔しまーす」

 

麻衣に料理を届けてから俺は咲太の家にお邪魔する。

 

「夏樹さん、こんばんは!」

 

するとパタパタとリビングからパンダ少女がやって来る。

 

「こんばんは、かえでちゃん。お腹すいてるでしょ? パパッと作るから待っててな」

 

「はい! かえで、いい子にして待ってます!!」

 

元気よく返事をするのは咲太の妹の梓川かえでだ。

 

「それじゃあ、いい子にしてるかえでちゃんには献立にコロッケを追加であげよう」

 

「やりました! いい子にしてる甲斐がありました!」

 

諸手を挙げて喜ぶかえでを微笑ましく思いながらも夏樹は夕飯の準備を始める。

とはいっても自分の部屋で下処理をしていたので残りは簡単な作業しか残っていない。それこそものの十数分で完成する。

 

「かえでちゃーん、皿とか用意してくれる?」

 

「はーい!」

 

夏樹の指示に素直に従ってかえでは皿を準備していく。

 

「夏樹さん、準備完了しました!」

 

「それじゃあ、かえでちゃん危ないから離れてて」

 

「はい、お願いします! 夏樹さん!!」

 

限界まで集中力を高める夏樹をかえでは期待したような目見つめる。

 

「それじゃあいくぞ――ほっ、はっ、せい!!」

 

フライパンから打ち上げられた料理が次々と見事に皿に乗っかっていく。

 

「おぉ~、さすがです。いつ見ても凄いです!」

 

ぱちぱちぱち、とかえでが夏樹に拍手を送った。

本来はこういうことはしないのだが、かえでが喜んでくれるということでメニューによってはエンターテイメントを取り入れた料理をしている。

 

「それじゃあ、食べようか」

 

互いに向き合って席に座り、頂きますと手を合わせて料理に手をつける。

 

「夏樹さん! このお魚、すごくホクホクして美味しいです!」

 

「新鮮な魚が手に入ったんだよ」

 

「こっちのコロッケもホクホクサクサクです~」

 

「そっちは惣菜屋さんで買ったものを暖め直しただけなんだけどな」

 

いかにも幸せそうに次々と料理を頬張っているかえで。その幸せそうな顔を見ればこちらとしても作りがいがあるというものだ。

 

「そういえば、夏樹さんに相談したいことがあったんです」

 

夕飯を食べ進めていると、箸を置いたかえでが真剣な面持ちで口を開いた。

 

「相談したいこと?」

 

「はい。こんなこと相談できるのは夏樹さんしかいないのです」

 

「ふむ、そういわれたら聞かないわけにはいかないな。どうしたんだ?」

 

「最悪の事態が起こりそうなんです」

 

かえでにとって重大なのは伝わった。後は何が起きそうなのかを聞くだけ。

かえでは一拍置いてその最悪の事態を教えてくれた。

 

「実は…お兄ちゃんが地球を滅ぼすつもりなんです!」

 

「………………は?」

 

大きすぎるスケールの話に夏樹の思考が停止した。

 

「ですから、お兄ちゃんが地球を滅ぼすつもりなんです!」

 

「あ、そうか。ちなみにどういう風に滅ぼすつもりなんだ?」

 

「彼女を作ります!」

 

まったく理解できなかった。咲太が彼女を作ったら地球が滅ぶのか?

とりあえずかえでの話を聞いた夏樹が答えるべきことは――

 

「咲太の愚行を止められるのは妹のかえでちゃんだけだ。かえでちゃんの愛を以って咲太を止めるんだ。大丈夫、かえでちゃんの愛は咲太に届くはずだから」

 

「はい。かえで、頑張ります!」

 

かえでを応援してあげることだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、お前たちは和解できたのか?」

 

麻衣を餌付けし、かえでちゃんを応援した翌日。気分よさそうに学校へ来た麻衣に俺は事の顛末を確かめる。

 

「ええ。夏樹にも迷惑かけたわね」

 

本当に迷惑だった、と口にする夏樹に麻衣が噛み付いてくると思っていたのだが、はいはいと流される。どうやら、夏樹の批難を受け流せるほどいいことがあったのだろう。

そのいいことが何か夏樹は知っていた。

 

「ま、後輩とのデートでそこまで機嫌をよくしているんだったらなにも言えることないわ」

 

「ち、違う。別にデートってわけじゃないわよ」

 

すぐに否定する麻衣。しかし、言い逃れなどできない証拠を夏樹は握っている。

 

「へぇ~。デートがいいって言う咲太に、『じゃあそういうことにしてあげる』って笑顔で言っていたのはなんだったんだ?」

 

「な、何で知ってるのよ!」

 

「夏樹さんは何でもお見通しなのだ」

 

実際には違う。二人にバレないように帰ってきたところを観察していただけだ。

 

「年上の女として後輩をからかいたいだとか、年上の余裕を見せようとすると余計に子供っぽく見えるって知ってるか?」

 

「……」

 

麻衣は無言で夏樹から目を逸らす。そんな麻衣に夏樹はさらなる追い討ちをかける。

 

「それと大抵咲太には気付かれているぞ。思い当たる節はあるだろ」

 

「わかっているわよ!」

 

麻衣は思い切り俺の脚を踏んできた。強さからして、恥ずかしさを隠したがっている踏み方だ。

 

「男子とサシで出かけることなかった麻衣。大人の姿を見せようとしているも、次々とそのポンコツ振りを見せていくことになるとはこのとき思いもしなかった――的なことにならければいいな」

 

「変なモノローグ入れるな!」

 

「咲太と上手くいくといいな?」

 

「別に、咲太君とそういう関係になりたいわけじゃないから!」

 

どうだか、と言う夏樹に麻衣はさらに強く踏んできた。

そして、浮かれているのは麻衣だけではなく――

 

「なあ佑真。あいついつにも増して鬱陶しい」

 

バイト中、夏樹はどこか浮ついた笑みを浮かべながら仕事に勤しむ咲太を指差しながら隣にいるさわやかなイケメンに愚痴る。

 

「ああ~…咲太のやつ、明日桜島先輩とデートなんすよ」

 

浮かれる咲太の状況を説明するのは、友人であり咲太と同じクラスの国見佑真だ。バスケ部に所属しており彼女持ちという、リア充街道まっしぐらな男だ。

 

「それは麻衣から聞いてるから知っているんだが、こうもふとした瞬間ににやついた咲太の顔が見えると、無性にあの尻を蹴り飛ばしたくなる」

 

「それは妬みっすか?」

 

「いや、こっちが普通に働いてんのにあのだらしない顔をしているのが腹立つ」

 

要するに、いまの咲太は夏樹にとって非常にうざったいのだ。

 

「夏樹先輩ってどこかズレてますよね。ここは普通、桜島先輩と上手くいきそうになって羨ましいとか思いません?」

 

「思わないな」

 

「即答ですか。なんだか意外です」

 

言葉の意図がわからない夏樹は首をかしげる。

 

「なんだかんだで夏樹先輩と桜島先輩は近かったので、てっきりいずれ二人がくっつくものかと思っていたんです」

 

佑真の話は部活やってる連中ではかなり有名な話らしい。俺と麻衣が遠くないうちに恋人同士になると噂されていたようだ。

 

「んなわけないだろ。お前らの脳内はピンク色か? いや、ピンクだからそんな話が出るのか」

 

咲太のことをブタ野郎なんて言えないレベルでピンク色だ。

その理由は察しがつく。

 

「大方、麻衣のことを『麻衣』って呼んでいるのと、話すときは人目に付かないように話しているからだろ?」

 

「はい。大体、そんな感じですね」

 

本当に浅はかというかなんというか、夏樹も呆れてものもいえなくなってくる。

 

「そもそも麻衣のことを『麻衣』って名前で呼んでいるのはその方が呼びやすいからだ」

 

毎回、桜島と呼ぶのが面倒になっただけだ。五文字と二文字ではどちらが呼びやすいなんて明白というもの。

 

「それに人が居ないときにしか話していないのは、麻衣から言ってきたことだ。『他の人がいるときに堂々と話しかけないで』ってな」

 

だから誰もいないような朝や放課後、たまにブッキングする飯の場でしか話をしないのだ。

 

「納得です。ですがもうひとつ気になっているんですけど」

 

「なんだ?」

 

「どうして二人は話すようになったんですか? いまの話を聞けば桜島先輩は誰とも話そうとしてなかったんですよね?」

 

麻衣と夏樹が話すようになったきっかけ。要するに麻衣と知り合いになったきっかけはなんだっただろうか。

麻衣と話すようになったのは麻衣が本格的にこの学校に通い始めた一年生の夏あと。芸能活動休止して残りの仕事を片付けた後だ。そのときの夏樹は麻衣とどうして話すようになったのか。考えてもあまり思い出せなかった。

ただ記憶の片隅で微かに残っている物が引き起こされた。

 

「たぶんどうでもいい言い合いからだった」

 

「……は?」

 

理解できなかったようできょとんとしている佑真。

 

「あまり覚えてないが、どうでもいい言い合いから麻衣と話すようになったな」

 

どうでもいい言い合い。そんな誰もがやるような内容を、まして二年前の内容を覚えている奴なんてそうはいない。

印象にすら残らない、そんなくだらない話。しかしそれは今も夏樹と麻衣を繋げている。

 

「なるほど。双葉の言う通り、本当に夏樹先輩って空気読まないんすね」

 

「ちょっと待て、どうしてそういう話が出てくるんだ」

 

「だってそうでしょう。周りは桜島先輩に話しかけることしなくて、桜島先輩も誰とも話そうとしていなかったのに、そこに突っ込んでいく夏樹先輩は相当空気読めてないですよ」

 

からからと笑いながら言葉の刃を突きつけてくる佑真。

 

「理央にも言ったが、読むべきところはちゃんと読んでるぞ? 読んでも仕方がない空気は読まないだけだ。自分の行動を高校生共が勝手に作った空気とやらに制限されるのも面倒くさいだろ」

 

言い合わないといけないから言い合った。そこから挨拶するようになって、話すようになった。ただそれだけの関係が続いているだけなのだ。

そこに周りの空気なんて関係ない。俺と麻衣の間にあるのは俺たちのルールだけだ。

 

「んなわけで、麻衣と関わっても恋仲になるようなことはない。以上Q.E.D(証明終了)

 

「なるほど。どうやら夏樹先輩の心臓は鋼鉄でできているみたいっすね」

 

「もうなんでもいいさ。今さらなに言われても関係ないしな」

 

「面倒くさくなっただけっしょ?」

 

その通り。一年以上の付き合いだけに、佑真はそれなりに夏樹のことを理解していた。

 

「あ、面倒くさいといえば佑真」

 

「なんすか?」

 

「お前の彼女…黒砂糖……だったか?」

 

「上里っす、"と"しか合ってないじゃないっすか」

 

「まあ何砂糖でもいいが、あの女どうにかしろ。お前と話すたびに睨んできて鬱陶しい」

 

「あー、咲太にも言われました。咲太は屋上に呼び出されたとか」

 

聞き捨てならない話が出てきた。明らかに今後面倒くさくなるような話だ。

 

「彼氏なら何とかしろ」

 

「心臓が鋼鉄でできてる夏樹先輩なら大丈夫だと思いますけどね」

 

「ボロ雑巾のようにしてもいいのなら対応してやるが」

 

「せめて塩対応ぐらいにしてくださいよ」

 

どうして夏樹がそんな気を遣わなければならないのだろうか。気を遣うのは佑真の役目だ。

 

「縛らないのと放置はわけが違うことぐらいわかるだろ。付き合っているなら、他人任せにするのは止めろ」

 

「そうなんすけどね…」

 

「わかってるなら何とかしておけ。ボロ雑巾になるのも時間の問題だぞ」

 

「夏樹先輩の言うことは大抵正しいから上里じゃ勝てないだろうなぁ…わかりました、今度話し合います」

 

「なるべく早くな――さて、未だににやついている咲太の尻を二つに割ってくるか」

 

いってらと送り出す佑真に笑みを返し、つま先をトントンと突いて、夏樹は咲太の尻に思い切り足を振るのだった。

 

 

 

 






いかがでしたでしょうか?
ではまた

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