ディオの悪巧みの回。
シリアス要素を含みます。
空が暁色に染まり始めてきた。
帰路の時間となり、ジョナサンは名残惜しそうに二人に手を振る。
「エリナ、ステラ。また明日」
「ええ、明日」
「ばいばーい」
エリナの隣でトコトコ歩くソラ。
いつもは、ジョナサンについていくか、森の中で迎えが来るのを待つのだが、
今日は何故かエリナと帰りたがった。
妹のようなソラのささやかなお願いに、エリナも快く引き受けたのだ。
「ステラ、私このまま町の方へいっちゃうけどいいの?」
「うん。あくたん、くる」
“あくたん”と言うのは、ソラの保護者代理と名乗る男性の事だ。
エリナはまだお目にかかった事はないが、ジョナサンが言うには赤いツンツンした
髪型の道化師のような人らしい。
「ステラは、その『あくたん』っていう人の事好きなのね」
「うん!」
エリナと楽しくお喋りしながら歩くソラ。
その時、ソラは何かを感じ取ったのか、ぴたりと足を止めた。
「ステラ?」
「ねーたん、あっち」
エリナのスカートの裾を掴んで、別の方向へいこうと言い出した。
でも、こっちに行かないと町にいけないのよ、とエリナは困った笑みで言い聞かせる。
それでも、ソラは「う~、だめぇ」と首をぶんぶん振って譲らない。
「どうして、このまま真っ直ぐ行ったらだめなの?」
「もやもや…いる」
――――“もやもや”
いつものほほんとした、笑っている顔が印象的なソラが眉を潜めて不快を露わにして言った言葉。
この先に、何か嫌なものがいる…そう言いたいのだろうか。
「ステラ、『もやもや』ってな…」
「やぁ、そこの君」
もやもやとは何なのか、ソラに訊こうとしたその時…呼ばれる声がした。
前方を見ると、金髪の少年と数人の取り巻きらしき男の子たちがいる。
「貴方は…?」
「君、さっきジョジョと一緒にいただろう」
綺麗な子だ…けれども、端正な顔立ちに冷たさを宿しており、エリナは怖く感じた。
「な、何…」
「随分とジョジョと親しくしていたようだが…」
少年が、エリナを腕を掴もうとしたその瞬間…
「やぁっ!」
「うっ…!」
ソラが持っていたぬいぐるみ(奇妙な顔のウサギ)を投げつけた。
ぽふっと音を立てて、それがその少年の顔面を覆った。
まだ一歳児位なのに、一回り違う身長の高い少年の顔に物を投げつけた事自体、
ある意味凄い。
「おいたのにーたん、めっ!」
ソラは、その少年に一度会っていた…ジョースター家で。
友達のジョナサンに意地悪をしようとしたお兄ちゃん、ディオだ。
先程、エリナに近づこうとしたのは、何か悪い事をしようとしていたのだ。
幼いながらも、ソラは直感でそれを察してぬいぐるみで悪事を阻止したのだ。
突然、物を投げつけたソラに対して戸惑うエリナをよそに、ディオは顔面に張り付いた奇妙なウサギのぬいぐるみをガシッと鷲掴みすると、地面に叩きつけた。
「誰かと思ったら…この間の“妖精”じゃないか」
青筋を立てて、口元をひくつかせるディオ。
あまりの気迫に周りの取り巻き達はひっ…と情けない叫び声を漏らす。
怒りを表わす少年に対し、ソラもぶぅ…と頬を膨らませて彼を見つめる。
「いい度胸だ…このディオに物を投げつけるとはナァ。
悪い子にはお説教した方がいいか…」
「ちょっと…まだこんな小さい子に大人げない事するつもりなの」
やめなさい、と両手を広げて、エリナは彼を止めようとする。
だが…ディオは邪魔をするな! と彼女をパシッと平手打ちして突き飛ばした。
地面に倒れるエリナを目にして、ソラは「ふぅ…!」と目を大きく見開いた。
「ねーたん!」
「その前に、お兄ちゃんにいう事があるだろう?」
エリナに近づこうとしたソラを、ディオが首元を掴んで持ち上げる。
「悪い事をしたら、謝るのが社会の基本だ。
まだ幼いからといって許される事じゃないんだよ。
さぁ…あやまれ」
不敵な笑みを浮かべて、ソラに謝罪するように要求する。
すると、ソラの瞳が徐々に潤んでいく。
「な、なぁ…ディオ。その辺にしておいた方が…」
「まだちっさい子だしさ…」
「これじゃあ、弱い者いじめになるぜ…」
「お前達は黙っていろ!」
取り巻き達もさすがにやりすぎだよ…と恐縮そうに窘めるが、ディオは一喝して沈黙させた。
「謝らないのか? 意外と強情な妖精だな。
なら、悪い子は躾をしないといけないなぁ」
「その位にしてもらおうか」
その時、一人の青年がディオが振り上げようとしたその手を掴んだ。
「なっ…!」
「『誰だ、お前…?』って顔してるな。
俺はこの子の保護者代理だ。記憶したか?」
彼から、ソラを奪い取るとヨシヨシと頭を撫でる青年。
「フー…お前は強い子だ。よく我慢したな~」
「うぅ…あぐだんんんん…!」
ソラはボロボロと涙を流しだす。
青年…アクセルは「よしよし、怖くねぇからな~」とあやす。
そうしながら、アクセルはソラに向かってこう言った。
「フー、お前は優しい子だ。何でぬいぐるみ投げつけちまったかは解らねぇ…けどな、
突然物を投げつけられちゃ、相手は嫌な思いになるぞ。
くー坊にそんな事するとどうなる? 泣いちまうだろ~。
逆にフーはどう思う?」
「いやだぁああ…」
ソラはボロボロと目尻から雫を零して答える。
「そうだ、だからあそこでぼぉーと突っ立っている怖い兄ちゃんも同じ気持ちなんだ。
だから、謝ろうな?」
アクセルの言葉を聞いて、ソラはある程度泣き止むとディオに顔を向けた。
「ごめんね…にーたん」
「よーし! いい子だ……これで満足だろ?」
頭をくしゃりと撫でて、褒めるアクセル。
すると、今度は目つきを鋭くして、ディオと取り巻き達に視線を向けた。
ディオはたじろいだ。
ディオは同性代の子よりも、体格はいいとはいえ、こちらに威嚇の目を向ける
青年には敵わない。
貧民街で、大人相手に素手で戦った事はある。
けれども、眼前の男性はそんな大人とは比べ物にならない程の…多くの修羅場を潜り抜けてきた…威圧を感じ取った。
「今度はそっちの番だぜ」
「…はっ、どういう意味だ…?」
負けじまいと虚勢を張るが、アクセルはそれを見透かしたようで…厳しい目つきで言う。
「悪い事をしたら謝るのが社会の常識…なら、さっきぶって突き飛ばした少女に、
お前は謝るべきだろう」
後ろで頬を擦りながら、こちらの様子をハラハラ見ているエリナを肩越しに見つめ、
その事を指摘した。言われた事に、ディオはギリッと歯ぎしりをして顔を歪める。
「さっきはこの子に散々『謝れ』と要求してきた癖に…
いざ、自分がその立場になればできないのか?」
その口からなかなか謝罪が紡がれない事に、アクセルは冷めた目でこう言った。
「人の悪い部分は指摘はできても、自分の非に目を背ける。
弱い女子どもに手をあげる割に、敵わないとにらんだ大人には逆らえない。
そんな野郎が…一人前きどって物を言うんじゃねぇよ」
「なっ…んだとっ!」
その発言は、ディオの胸に激しい感情を起こさせた。
気付けば、アクセルに対して殴りかかろうと飛びかかっていた。
だが、彼の拳がぶつかったのは…地面だ。
「なにっ…!」
「はぁ…こんな半人前に付き合っても時間の無駄だぜ。
ああ…これだと半人前の奴らに失礼だな、《半人前未満のガキ》って所か。
ま、どうでもいい…フー、帰るぞ」
どうやって、移動したんだ?
アクセルは既にソラを抱えて、ディオの後ろに背を向けていた。
エリナに手をさしのばして「大丈夫か?」と尋ねている。
エリナはコクッと頷いて、彼の手に自らの手を重ねて立ち上がる。
取り巻き達を一瞬だけ睨みつけると、ソラとエリナを連れて、彼は町へと歩を進めていった。
残された、顔を蒼白させて地べたに座り込む取り巻きとディオは暫く硬直して動けなかった。
【お前は“《小さい器》の人間”だ…そう告げられた気がした】
「くそっ…くそくそくそくそっ!」
ディオは拳を地面に叩きつけていた。
悔しい…。
くやしいくやしいくやしいくやしい、悔しい!
赤毛の青年に指摘された事が…。
同時に、あの妖精が自分に対して屈する様子がなかった事もだ。
皮膚が破け、血がじんわりとでている拳を見つめ…幾分かの冷静を取り戻した。
ディオは察していた
あの時、赤毛の青年が介入せずに、自分が折檻していたとしても
…あの妖精は謝罪しなかっただろう。
泣いていたとはいえ、妖精の目は“自分は間違っていない、謝るのはお前の方だ…”
という意志を宿していた。
気に食わない…という感情が上回っていたが、今思えば、可愛らしい外見から想像できない
“心の強さ”に興味がわいた。
「……このディオに抗い、関心を持たせるとはな」
くっ…と口端を吊り上げ、ディオは彼らが去っていた方向を見つめた。
【To Be Continued… ⇒】
※ふーちゃんは、エリナのファーストキスを守った!
※アクセルは、ディオに説教した!
※ディオは、ふーちゃんとアクセルによって悪巧みを阻止された!