急展開の回。
♪♪♪~ ♪♪♪~
ソラはエリナの膝枕で眠っていた。
ハミングするエリナは、彼女の頭を優しく撫でる。
「聞いたことのない歌だね」
愛犬を連れてやってきたジョナサンが明るく笑って言う。
「シオンから教わったの。遠い異国に伝わる歌でね…
逢いたくてたまらない人に捧げた曲らしいの」
そう語るエリナは切なそうに笑みを浮かべる。
その表情に何かを感じ取ったジョナサンは、敢えてそれを質問にせず、静かに彼女の隣に座った。
♪♪♪~ ♪♪♪~
再びハミングするエリナ。
傍らで彼女の歌を聞きながら、ジョナサンの頭にある物語が思い浮かぶ。
この曲をつくった人は、凄く大好きな人がいて…
でも、その人は遠いところにいて会う事が敵わない。
それこそ、安易に行けない異国か、手の届かない地位にいて…
それでも自分の思いを伝えたくて、この旋律を愛おしい人に贈った。
その相手に、思いは伝わったのだろうか?
ロミオとジュリエットのように、悲恋に終わってしまったのか…。
それとも駆け落ちでもして、永久の誓いをして結ばれたのか?
ジョナサンは後者である事を望んだ。
例え、離れ離れになっていたとしても…いつか二人が再び巡り合えて、それこそハッピーエンドになる…そう願いたい。あくまで、自分が勝手に思い描いたストーリーだけれども。
ふと、隣を見るとエリナは歌を口ずさむのを止めていた。
ふぁーと欠伸をして目をしぱしぱさせるソラの頭を優しく撫でている。
「……エリナ」
ジョナサンは、少し不安な口調で名前を呼んでしまう。
今のエリナは…どこか儚い雰囲気を醸し出していた。
朝日を浴びて、海の泡になってしまった童話の人魚姫のように、消えてしまいそうで…怖かった。
「ねぇ…ジョジョ。聞いてほしい事があるの」
こちらを向いたエリナは唇を震わせていた、あふれ出る感情を抑えようと必死に言葉を紡いだ。
「私……インドに行く事になったの」
「えっ…」
「父さんの仕事の都合で…一週間後に」
顔を俯けて、消え入りそうな声でエリナはそれを告げる。
ジョナサンは全身に衝撃が走った。
◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇
「じょーちゃん、どしたん?」
あれから、エリナとほぼ会話がなくそのまま屋敷に帰宅したジョナサン。
ついてきたソラは、ベッドでうつ伏せになっているジョナサンに声をかけるが、返事をしない。
(エリナが…エリナが遠くにいってしまう…)
嫌だ、ずっと一緒にいたいのに…。
あの森の中で、永遠の愛を誓い合ったのに…。
ぐるぐると思考がまとまらず、ジョナサンは柔らかい枕を頭から被る。
ソラは、友達のその様子を不思議そうに見つめる。
「じょーちゃん、じょーちゃん」
いくら名前を呼んでも、彼はソラを見ようともせず、無言のまま。
「じょーちゃん~」
「……ごめん、ステラ。今日は話する気分じゃあないんだ」
ジョナサンはそう言うと、ソラに背を向けて沈黙してしまう。
ソラは、ふぅ…と眉を下げて寂しそうに彼を暫く見ていたが、誰とも喋りたくない空気を感じ取ったのか、とことこと部屋をでていった。
それからというもの、ジョナサンはぼぉーと上の空状態が続いた。
父親が語り掛けても、ディオが悪態をついても…どんな言葉も耳から通り抜けてしまう。
一日、一日が早く終わっていき、気づけばもう一週間が経過しようとしていた。
(明日はエリナが船出する日だ…)
あれから、エリナと気まずくて話ができていない。
さらにあの日以来、ソラも来なくなってしまった。
気付かない間に、信頼してくれるパートナーと大事な親友との間に溝を作ってしまっている状況に、ジョナサンは「あぁ…」と頭を抱える。
(…僕は、エリナとステラと別れたくない。
でも…そんな事できない。このままだと時間だけが過ぎていくだけだ
…ああ、どうすれば…)
「おーい、ジョジョ」
不意に後方から愛称を呼ばれて、ジョナサンは首だけ振り返る。
そこにいたのは…アクセルだった。
「…で、悩んでたのか」
ジョナサンは抱えている悩みをありのままの打ち明けた。
今の自分の苦しみを解放したい事もあったし、年上で話しやすいアクセルだから頼ってしまった。
「僕…どうしたらいいんだろう」
ジョナサンはしょんぼりと俯いて呟く。
彼の話を一通り聞くと、隣で座るアクセルは口を開いた。
「要は…ジョジョはエリナが遠くにいってしまう事が嫌なんだよな」
「うん…でも『いかないで』っていう事なんてできない。
エリナとお父さんを離れ離れにしてしまうなんて…悲しすぎるよ」
実の親と離れてしまう事ほど、辛い事はない。
ジョナサンの場合は、一時的に父親の心がディオに傾いていた事で寂しい思いをした。
…エリナに同じ思いをさせたくない。
でも、エリナが離れてしまうと喪失感と絶望感に苛まれてしまう自分がいる。
どちらの選択をしても、ジョナサンは傷ついてしまうのだ。
ハァ…と悲壮感に包まれた表情のジョナサンに、アクセルは目を細めて言った。
「なぁ、ジョジョ。大切な事を見誤っていないか?」
「えっ…」
「お前の気持ちは、俺も十分理解できる。
けどな…人生ってのはそんなに生易しいもんじゃねえ。
《出逢い》もあれば、《別れ》もある。
金持ちでも貧しくても、中間あたりの家柄でも…
どんな奴でもそれは誰ひとり共通な事なんだ。
家族であろうと、気の合う親友だろうと
好きなガールフレンドだろうと…いずれ《別れ》がくるんだ。
何かしらの形のな」
アクセルが厳しい口調で語る事に、ジョナサンは動揺する。
アクセルは…幾度となく《別れ》を経験してきたのかもしれない。
だからこそ、彼の言う事には説得力があった。
「…大切なのは、常に近くにいる事だけじゃねえ。
遠くにいてもな、心が通じ合える程の絆を結ぶ事にあるんだ」
「遠くても…通じ合える絆…」
「昔、俺の大親友が消えちまった事があった。
すっげー悲しかったんだ。胸にぽっかりと穴があいちまうくらいに…」
でもな…と、アクセルは胸に手を抑えてこう言葉を続けた。
「例え離れてても、あいつと過ごした時間は…思い出だけは消えなかった。
だから、俺はあいつが戻ってくるまで、自分のやれる最善の事をした」
「…それで、友達は帰ってきたの?」
ジョナサンが恐る恐る訊くと、アクセルはフッと口に綺麗な弧を描く。
「ああ、今でも信頼できる親友(ダチ)で、相棒だよ」
その答えに、ジョナサンはよかったぁ~と己の事のように嬉しくなった。
それでだ…とアクセルは改めて問う。
「ジョジョ…エリナは遠い異国にいったとして、お前を忘れるほど薄情な子にみえるか?」
「そんな事無いよ! あっ…」
ジョナサンはハッとした。
アクセルが言おうとしている事に気付いたのだ。
「後は、お前次第だ。
どんな答えを出そうと勝手だが…後悔のねえように選べ」
そう言うと、アクセルは腰をあげて町の方へ去っていった。
「……僕は…」
ジョナサンはそう呟くと、顔をあげて勢いよく走りだした。
顔に…先程の苦悩の色は一切なくなっていた。
ハァハァと息切れをして、ジョナサンはあちこちを走った。
いつもの遊び場である森や川辺、自宅である屋敷周辺…さまざまなところへ行った。
道中、学校のクラスメイトやディオと鉢合わせして声を掛けられたが、「ごめん、今それどころじゃあないんだ」と言い、素通りする。
ディオが何やら怒鳴っていたけれど、今は彼に構っていられない。
走り続けて15分…町にある診療所で、ジョナサンはようやく見つけ出した。
…愛する人と大切な友を。
「…ジョジョ?」
「じょーちゃん」
ゴホゴホ…と咳を漏らすジョナサンに気付き、エリナは駆け寄る。
「どうしたの?、急いで走ってきて…」
その時、ジョナサンは心配そうに尋ねるエリナの手をガシッと握りしめた。
目を見開いて驚くエリナに対し、ジョナサンは呼吸を整えると言った。
「エリナ……この間、君の突然の告白を聞いて、僕は頭が真っ白になった。
君と離れ離れになってしまうのが辛くて、僕は何も答えられずに逃げてしまった」
「ジョジョ…」
「でも…君がいつか…イギリスにもどってきてくれるって信じてる。
あの森の中で君が誓ってくれた宣言を胸に…僕は君を待ち続ける!」
ジョナサンは悲しみを払拭するように、首を緩慢に降ると、柔らかな微笑みをエリナに送った。
エリナは薄らと目尻に涙が溜まりそうになるが、それを指先で擦ると、口元に笑みを浮かべ、
「ありがとう…」と零した。
「ステラ…ごめんね。君に突き放すような言葉を言ってしまって」
「いーよ。ふーたん、らいじょーぶー(大丈夫)」
ソラは、全く気にしていないとのほほんとした顔をジョナサンへ向けた。
すると、ソラは二人へ手を伸ばした。
「じょーちゃん、えりちゃん。ともらち」
小さな紅葉のような手を差し出すこねこにんに、二人は顔を合わせるとコクッと小さく頷いて、
自らの手を重ねた。
「そうだね…僕とエリナは、ステラの味方で親友だ!」
「ずっと友達でいましょう。ステラ」
二人が手を握ってくれて、ソラは満足そうにふわ~と笑顔になる。
「うん!」
【結ばれた手…消えたこねこにん】
その時、彼等は目を疑った。
ソラの身体が明滅して、淡い水色の光の粒子を放ちだす。
繋がっている手へ伝導するように、ぽぅ…と水色の淡い粒子はジョナサンとエリナを包みこむ。
「なっ…!?」「きゃっ…!」
あまりにも眩い光に、ジョナサンはとエリナは思わず目を瞑ってしまう。
でも、その水色の粒子は温かく、まるで春の陽だまりのように感じられた。
粒子が収まっていき、二人は徐に目を開けていく。
「今のは…なんだったの?」
「…! ステラが…いない」
エリナは刹那の摩訶不思議な現象に戸惑いを隠せない。
一方、小さな親友がいなくなった事に、驚愕するジョナサン。
この一件以降、ソラは暫く二人の前に姿を見せなくなってしまう。
【To Be Continued… ⇒】