青年時代編、スタートの回。
主人公(ふーちゃん)sideと交互に展開していきます。
運命は動き出す
「いい天気だな…」
穏やかな陽が降り注ぐ午後、ジョナサン・ジョースターはラグビーの試合が終わり、
更衣室で着替えを終え、外に出た所だ。
晴れ渡る空を見上げ、少し冷たい風が吹き付ける。
それをジョナサンは心地よいと感じていると、ふと手の甲に目を向ける。
「……ステラ、君はどこかで元気でいるのかな」
右の手の甲に薄らと浮かび上がる、メビウスの輪を象った紋様。
これは、ステラがいなくなってから、ある事件の際に突如、手に現れた印だ。
そう…忘れもしない6年前の冬。
クリスマスを数日前に控えたある日、ジョースター家に泥棒が入った。
犯人は、新しく来たばかりのメイドを人質にとって金銭の類を用意しろ、と要求してきた。
その際に、ジョナサンは階段から飛び降りる形で犯人に飛び付き、メイドを救出。
もみ合いになり、犯人が持っていたナイフで襲いかかろうとした時、手の甲が光りを放ち、犯人を目晦ましさせ、捕える事に成功したのだ。
それ以来、その不思議な現象は起きていないものの、手の甲に浮かび上がった紋様は薄らと浮かび上がったまま。
当初は、神様の御加護があったんだ…と使用人達の間で密かに噂が広まっていた。
ディオは鼻で笑っていたけれども、ジョナサンはまさか…と脳裏に小さな友達の姿がよぎった。
以前、アクセルが言っていた。
エクレシアは、自らが認めた人との間に契約を結ぶ事があるらしい。
(もしかしたら…僕は、ステラとの間に契約を交わしていたんじゃ…)
仮にそうだとしても…いつ? どのタイミングで? そんな重要な儀式を行っていたのか?
色々と思考を張り巡らせてみたものの、今の所ステラと契約をした確証は得られていない。
(それでも…この紋様は、ステラがくれた『信頼の証』だと、僕は信じている)
あれから、7年が経過した。
ジョナサン・ジョースターは、12歳の少年から精悍な顔つきのたくましい青年へ成長していた。
元々、歴史に興味があったので、大学では考古学を専攻した。
【エクレシア】に関する事も調べられるのでは…という期待もあり、ジョナサンは
部活をする傍ら、様々な文献や資料を調べていった。
4年間の調査の結果…ごく一部の文献に、エクレシアらしき種族の事が書かれていた。
ジョナサンが住んでいる世界で、遥か昔…古代ローマの帝王に仕えていた従者の一人が
【エクレシア】だと言われている。
どういう経緯で、その人物がローマ皇帝と契約を交わしたのかは不明だ。
けれども、文脈からはその契約者である皇帝に忠誠を誓っていたらしく、次の皇帝の時代
以降は一切名前が登場しなくなる。
ジョナサンは思った。
その契約者である皇帝とエクレシアは“特別な強い絆”で結ばれていたんだ…と。
だから、エクレシアは違う皇帝には仕えず、歴史の舞台から降りてしまった。
(…この後、このエクレシアはどうなったんだろう?
知りたいけど…これ以上の記載はどこにも見つからない)
スッキリしない感覚だけが残ってしまった。
けれども、ジョナサンは諦めていない。
今は“あるもの”を題材にした論文に集中しているが、いつかエクレシアの事を時間をかけてゆっくり研究していきたい。この世界にいたエクレシアの痕跡を探る事が、小さな友達との再会になるかもしれない…そんな希望を抱いている。
「ジョジョ、まだそこにいたのか?」
耳元に聞こえてきた声に、ジョナサンは後ろを振り向く。
太陽にあたり、光を帯びた輝くを放つ金髪の美青年が愛想よく笑って手を挙げている。
その青年は…7年前に、ジョースター家の養子となり、ジョナサンを執拗に虐めていた
人物、ディオだ。
「今日は、ジョジョのなくなったお母さんの誕生日で、墓参りにいくんだろう?
父さんが待ってるよ」
ステラが消えて以降、ディオとは他愛もない話ができるようになり、距離も縮まっていった。
現在では、ジョナサンと同じ大学で法律の分野で優秀な成績をとり続けていて、同じラグビー部で二人でエースとして活躍している。
傍から見れば、ジョナサンとディオは非常にいいコンビであり、仲の良い親友同士だ。
「ああ、ごめん…待たせたね。急いで帰ろう」
でも、ジョナサンは…苦悩していた。
(ディオが正式な養子になり、僕の父を『ジョースター卿』ではなく『お父さん』と
呼ぶようになってどのくらい経ったのだろう…?
…正直、僕は彼に対して友情を感じていない…何故!?
彼はあんなに凄くて良い奴なのに友情を感じないんだッ!)
7年前に、自分に対して行った虐めのトラウマかもしれない…とジョナサンは思った。
あの頃のディオは、ジョナサンへの敵意と悪意が半端なかった。
エリナやステラ…親しい友達にさえも暴力を振るい、危害を加えようとした。
それに、愛犬のダニーが焼却炉で危うく命を落としかけた事件…。
犯人は見つからなかったが、もしやディオが自分への仕返しにあんな事をしたのではないか…と疑ってしまう。
(……僕はなんて嫌な奴だ。
何の証拠もないのに、まだディオを信頼できないなんて…)
7年かけて、ようやく彼と家族になれたはずなのに…
実際の距離はまだ縮まっていない気がしてならない。
(…こんな時、アクセルさんだったらどうアドバイスしてくれるかな…)
そういえば…彼とはあの森での出来事以降、全く会っていない。
どこかで、ステラを発見できたのか?
それとも…未だに見つからず、此処とは異なる世界を彷徨っているのだろうか?
馬車に乗って、ジョナサンは外の風景を眺めながら、彼らとの短い思い出を回想しつつ、寂しさで胸が痛くなった。
エリナと再会したソラは、彼女の父親が経営している病院に隣接している家に招かれていた。
「どう、美味しい?」
「うまみ~♪」
エリナが焼いてくれたクッキーをもぐもぐと食べるソラ。
久しぶりに食べる親友のクッキーは、格別に美味しい。
「ねえ、ステラ…聞いてもいいかしら」
「ふぅ?」
エリナが神妙な面持ちで質問をした。
あれから7年、ソラは、エリナが少女だった頃のままの…小さなこねこにんの姿で再び現れた。
しかも、青空から降りてきた…空と同じ色の羽を広げて。
「貴女は…天使だったの? それで羽が生えてるの?」
「ふーたん? えきゅれあ~」
「…エキュレア?」
「ふぅー、えきゅれあー」
えきゅれあ…とはどういう意味だろう?
なにか、彼女の住んでいる故郷や特定の単語を示すものかも…?
だが、エリナにはさっぱり解らない。
「うーん…それじゃあ、ステラ。貴方は今までどこにいたの?」
「ふーたん、ぱるしゃんとこ、いた」
「ぱるしゃん?」
「うん! おいしーの、いっぱい!」
またしても、謎の単語がでてきた。
ぱるしゃん…とは地名だろうか、それとも人名を指すのだろうか?
美味しい物がたくさんあった、というからには前者かもしれないが…。
「ねーねー、えりちゃん。じょーちゃんは?」
ソラがその名前を口にした瞬間、エリナはハッとしてしまい…手に持っていたクッキーを
落としてしまう。
「じょーちゃん、おらんのぉ~?」
「そうね…ジョジョは大学に通ってて忙しいみたい。
それに、あの時から私達会っていないから」
「しょーなん(そーなの)? じゃ~、いこー」
「えっ?」
ソラがニパッと笑って言った言葉に、エリナはきょとんとする。
「じょーちゃんとこいきゅー」
ソラがそう言うと、ぱっと空色の羽を広げる。
「ステラ…気持ちは分かるけど、突然行ったらダメよ」
「ふぅ? にゃんで(なんで)~?」
エリナが慌てて制止した事に、ソラは不思議がる。
「ジョジョは色々と忙しい時期なの。
大学を卒業するための論文を書いている時期だし…それに…」
エリナは、顔を俯ける。
ジョジョの近況は、風の便りで聞いていた。
大学のラグビーのエースであり、考古学の分野で見事な論文を発表している。
あんなに小さかった少年が、今では学会でも一目置かれる立派な青年へ成長した。
そんな大好きな人の輝かしい功績を、エリナは自らの事のように嬉しく、誇らしく感じている。
同時に…手の届かない、遠い存在になっていくジョナサンに、エリナは胸中に寂しさを感じずにはいられなかった。子どもの頃は、さほど気にしていなかった『身分』も、高くて分厚い壁になって立ち塞がっていく…そんな感覚になる。
おそらく、ジョナサンは貴族にふさわしい身分の令嬢といずれ婚約…結婚する事が決まっているだろう。例え、ジョナサンがそれを断ったとしても…彼の父親、ジョースター卿がそれを許さないはずだ。
「…えりちゃん、どしたん? ないとる…」
「えっ…」
ソラが心配そうに顔を覗き込む。
指摘された事で、初めて目元から涙が流れ落ちている事に気づいた。
指先で目を擦り、大丈夫…なんでもないのよと笑いを取り繕うが、それでも目元から涙が
ぽろぽろ零れ落ちてしまう。
「えりちゃん…ぽんぽんいたいん?」
「うん…そうね。とっても痛いわ…“心”が…」
そう言うと、エリナは顔を両手で覆い、静かに泣き出した。
ソラはじっ…と泣いているエリナを見つめる。
ポトポトと零れ落ちる真珠のような涙。
エリナはなんで泣いているのか…お腹がイタイのではなくて、“心がイタイ”と言った。
ソラも、心がイタくなった事が何回かある。
その原因の多くは、母親であるアンナと暮らせない事にあった。
月に二回ほど、アンナがいる家(病院の一室)にお泊りしているけれども、常に一緒にいられない。時間がきたら、エクレシアの誰かが迎えに来て、離れ離れになってしまうのだ。
それが嫌で、ある日いつになく泣き喚いていた時、親友のくーちゃんのママ
…コゼットが歌を唄ってくれた。
『ふーちゃん、泣かないで。泣いたら、あなたのお母さんも泣いてしまうわ』
『心がイタくなったら、お歌を唄うのよ。そうすれば、だんだん寂しくなくなるから』
―――――ふぅ~、ふぅ~♪
耳元に聴こえてきた気の抜けるような声。
エリナは、覆っていた手を顔からちょっとずつどけていくと…
「い・にょ・が・しぃ・りゃ・ふぅ~♪」
ソラがまったりとした様子で、唄っている。
何の歌を唄っているのかは不明だが、哀しい気持ちが徐々に晴れていく気がした。
「ふふっ…ステラは優しい子ね」
エリナは涙を指先で拭い取り、柔らかく微笑みかける。
この子は、私を元気づけるために歌っている…その事がよく伝わってきた。
ありがとう…と頭を撫でてあげると、ソラは気持ちよさそうに目を細める。
「あんねー、えりちゃん。じょーちゃん、しゅき?」
「…ええ、大好きよ」
「じゃあ、じょーちゃん、あう。じょーちゃん、まっとる!」
ソラは、小さな紅葉のような手でエリナの手の甲に触るとさらに言う。
「ふーたんもいきゅ、だから、らいじょーぶ(大丈夫)!」
ニパッと笑って、積極的にジョナサンに会いに行こうと勧めるソラ。
エリナは、そんなソラの誘いに戸惑いつつも、つっかえていた物が取れたように、
心に漂っていた霧は幾分か晴れていた。
ジョナサンは、書庫室で調べ物をしていた。
現在、論文を書くための文献を探している最中だ。
彼が、論文を書いている題材は「石仮面」について。
この仮面は、まだ母が生きていた頃にロンドンの美術商から買いとったものだ。
一見、薄気味悪く近寄りがたい雰囲気を放つ仮面だが、ジョナサンにとっては歴史が詰まったある種の宝のように思える代物だ。
持っていたナイフを使って、指先に傷を作ると、そこから一滴の血が流れ、仮面へ落ちる。
すると、仮面がカタカタッと動き出し、後ろから何本もの骨針が伸びる精巧な仕組みになっている。この秘密を知っているのは、ジョナサンのみ。
「この仮面を作った者は、いったい何を目的として制作したんだろう…?」
何かの儀式を行う際に使用したのか?
謎を秘めたその仮面に、ジョナサンは探求心がくすぐられる。
「いつか、この仮面の秘密を解いて発表して…センセーションを巻き起こせればいいな」
そんな淡い期待を持ちながら、本棚の上にある書物をとろうとした時…そこに置いてあった箱を落としてしまった。しまった、と急いで降りてみると…その箱から手紙が飛び出していた。
その中に、《ダリオ・ブランドー》という名前が書かれた…ディオの父親が、自分の父にあてた手紙が見えた。
(ディオのお父さんの手紙か…)
ジョナサンは、どんな内容が書かれているのか、気になった。
7年前の手紙であり、ディオを今後を懸念した内容なのかも…と思い、興味が駆られて目を通してしまった。
彼のこの行動は、運命の分岐点であった。
その手紙の内容には、とんでもない真実が記されていた。
それは、ジョナサンにとって築き上げてきた平穏な日常が覆され、ディオとの争いの因縁が生まれ、自らの子孫までをも巻き込んでしまう…火種となった。
手紙を手にして部屋を出ると、ジョナサンの視界にディオの姿が映る。
執事から水とオブラートに包まれた薬を置いたトレイを受け取り、階段を上っていくディオ。
その刹那、懐から別のオブラートに包まれているものとすり替えたのだ。
「ディオ。今、その薬…どうした?」
「どうした…とは?」
「いつも、君が父さんの薬を運んでいたのか」
「ああ、そうだが?」
ジョナサンの問いかけに、ディオはしらばくれるが…
「七年前、君のお父さんが出した手紙、偶然見つけたよ…」
ジョジョは、その手紙の内容を読みだす。
“ 私は今…病にあります。多分死ぬでしょう。わかるのです。
病名は分かりませんが、『心臓が痛み』、『指が腫れ』、『咳が』止まりません。
…私が死んだらどうか息子のディオを…”
内容を読み上げていく内に、ディオの目は冷たく鋭くなっていく。
ジョナサンの脳裏にたてられた、彼への疑惑が現実味を帯びていく。
…ディオは、7年前に実父を毒殺した。
そして…今度は父の財産を狙い、同様に殺害しようとしている!
「この症状…僕の父さんと同じ症状だーッ!
一体これはどういう事だ ディオーッ!!」
「君は一体、何が言いたい?」
ジョナサンは厳しく問いただすが、ディオは冷静な態度で言葉を返した。
「その薬、調べさせてもらう!」
ジョナサンは、机に置かれていた薬を手で伸ばして掴み取るが、ディオに腕を強く掴まれる。
「ジョジョ…その薬を調べるということは、我々の友情を疑う事! 友情を失うぞ!」
いつになく、ディオは感情を荒げてジョナサンの行動を制限しようとする。
目の威圧に負けそうになるものの、ジョナサンは機転を利かせて、ディオにこう言った。
「なら…ディオ! 紳士として君の実の父ブランドー氏の名誉にかけて誓ってくれッ!
自分の潔白をッ! 自分の父親に誓えるなら、僕はこの薬を盆の上に戻し、二度と
この話はしない!」
その言葉に、ディオは言葉を詰まらせる。
(僕の推理通りなら、彼の誇りに対する性格から『誓い』はできないはずだ…)
7年間生活を共にしているジョナサンは、ディオの性格を理解している。
彼が本当に、父親を毒殺しているなら、そんな親のために、誓いを立てる事なんてしないはずだ。
「ち、誓いか…ぐっ、い…いや、俺の前であいつの話をするな!
あいつの名誉に誓うだと? 勘違いするなッ!
あんなクズに名誉などあるものかァ―――ッ!!」
ディオは激怒して、ジョナサンの頬を拳で殴った。
疑いが確信となった。ディオの父親に対する憎悪は普通じゃない。
二人の間に何があったのかは分からないが…このまま、彼を野放しにしておいたら危ない!
目の中に親指を入れられそうになるが、咄嗟にジョナサンはディオの腕を掴みあげる。
「僕は父を守るッ! ジョースター家を守るッ!」
そう宣言すると、ディオの胸倉を掴んで二階からロビーの大広間へ背負い投げした。
柵が壊れ、一階へ落ちたディオに向かって、ジョナサンは指を指してさらに続ける。
「君のこの7年間の考えが分かった!
僕等には最初から友情などなかった!
そして父にはもう近づけんッ!
この薬を分析して必ず刑務所に送り込んでやるぞッ!」
ディオの本性が明らかとなり、ジョナサンは決意した。
父親を、家を守るために…自分は戦い抜くと。
この時…ジョナサンの決意に反応するように、右手の甲の文様が光を強めていた。
しかし、彼は気付いていなかった。
信頼している思い人と親友が傍へ近づいている事にも…。
【運命は動き出す】
同時刻、ソラはある人物と再会をしていた。
「あくたん!」
エリナと一緒に病院を出て街を歩いていると、燃えるような赤毛の青年、アクセルと遭遇したのだ。ソラは、トコトコと彼の足元に抱き付く。
「ふー! こんなところに…今まで一体どこ行ってたんだよぉー!」
安堵が混じった顔で、アクセルはソラを抱き抱える。
「コゼットが心配してたぞ。
時間がありゃ、くー坊連れて探しに回ってたんだぞ!
帰ったらメッされるぜ…覚悟しとけよ~、記憶したか?」
「ふぅ…ごめん」
頭をガシガシッと撫でられて、軽く説教された。
ソラは眉を八の字にして素直に謝る。
…コゼットに怒られるのは嫌だが、ずっと自分を探してくれていたのだと知り、ちょっと嬉しくなった。
「あの…アクセルさんですよね」
二人が再会を喜んでいると、エリナが恐る恐る会話に入ってきた。
話しかけられ、アクセルは誰だ…と目を細めるが…
「エリナです。覚えていますか?
あのジョジョと一緒にいた、エリナ・ペンドルトンです!」
「…えっ、まさか…あのエリナ?…ええっ!?」
目を瞬きした後、アクセルは大きく開眼させて、驚愕の声を上げた。
【To Be Continued… ⇒】