ふたつのステラ   作:ねことも

25 / 34

主人公(ふーちゃん)とジョナサンの再会した頃…
アクセルも久々の再会をしていた回。
  



漂う暗雲

 

「ステラ…まさかこんな所で再会できるなんて…思わなかった」

「たらいま(ただいま)ー」

 

こんな物騒で危険な場所なのに、ジョナサンは目元から涙が溢れてくる。

七年ぶりに親友に、家族と再会できて…喜びと幸せで胸がいっぱいになりそうだ。

 

「じょーちゃん」

「…ん、なんだい?」

「おっきーね(大きくなったね)」

 

涙を掌で拭うジョナサンに対し、抱っこされているソラは彼の顔を見ながら素直にそう言った。

その言葉に、ジョナサンはソラの姿を改めて確認する。

七年前と同じく白い猫の衣装で、全く変わっていない。

 

(…やっぱり、人より成長が遅いんだ)

 

改めて自分との違いを実感した。

けれども、元気で無邪気に笑うソラの姿を見て、そんな違いなんてどうでもよくなってきた。

 

「ね、ねこ…いや、子どもだとぉおおお!…」

「見ろよ…天使の羽が生えてるぜ…!」

「ゆ、夢でも見てんのか、俺達…」

 

ハッと我に返るジョナサン。

しまった、此処は幼い子供が出歩くなんて程遠い治安の悪い町中だった事を思い出した。

ジョナサンはコートを脱いで、地面に敷くとそこにソラを座らせた。

 

「ステラ…此処でジッとしてるんだ」

 

ソラの出現で、混乱状態の住民達に向かって、ジョナサンは真っ直ぐに目を見据える。

 

「僕は…戦わなくてはいけない」

 

ジョナサンの闘志を感じ取ったのか、住民達は武器を持ち直し、一触即発の雰囲気になる。

 

 

「待ちな!」

 

 

そんな剣呑とした空気に終止符を打ったのは、先程ジョナサンが蹴り飛ばした男性だった。

 

「その紳士と天使に手を出す事は…このスピードワゴンが許さねぇ!」

 

男性…スピードワゴンの大喝で、ガラの悪い住民達は大人しくなる。

 

「一つ聞きてえ! 何故思いっきり蹴りを入れなかった?

アンタのその脚ならよォ…俺の顔をメチャメチャにできたはずなのによぉ…」

 

彼は歩み寄ると、ジョナサンに対して疑問を投げかけた。

何故、不条理に襲い掛かったゴロツキ相手に手加減したのか?

助かったとはいえ、釈然としない気持ちが湧き、スピードワゴンは本人に直接訳を

聞きたかったのだ。

 

すると…ジョナサンは当然と言わんばかりにこう答えた。

 

 

「僕は…父の為に此処に来た。

だから、蹴る瞬間! 君にも父や母や兄弟がいるはずだと思った

…君の父親が悲しむ事はしたくないッ!」

 

 

彼の答えを聞いた瞬間、スピードワゴンは思った。

こいつはなんて甘ちゃんだ…だが、仲間は誰一人大した怪我はしていない。

こいつ…いやこの人は正真正銘、精神的にも紳士だ!

 

「気に入ったぜ…」

 

スピードワゴンは雪を払いのけながら立ち上がる。

 

「あんたと…そこの天使のお嬢ちゃんの名前を聞かせてくれ!」

「ジョナサン・ジョースター。そしてこの子は…ステラ」

「あい!」

 

帽子を被りなおしたジョナサンは、ソラを抱えて代わりに名前を紹介した。

名前を呼ばれて、ソラは元気よく返事する。

 

「よし、ジョナサン・ジョースター、ステラ。

東洋の毒薬を売る奴を探していると言ったな…ついてきな!」

 

「…! ああ、よろしく頼む!」

 

スピードワゴンは、『毒薬を売る人物を探す手伝いをする』と言ってくれた。

この人は信頼できる…ジョナサンは直感でそう感じ、彼の誘いを二つ返事で受け入れた。

 

 

 

 

 

「久しぶりですね、アクセルさん。お変わりないようで…」

「ああ、あんたも元気…ではなさそうだな」

 

七年ぶりに顔を合わせたジョースター卿は、病の所為か顔色がすぐれずやつれていた。

あまりの変わり具合に、アクセルは言葉を濁してしまう。

戸惑う彼の心情を察したのか、ジョースター卿はフフッと微笑む。

 

「安心してください。ただ…長い風邪をこじらせただけですよ」

「そうか…」

「ところで、そちらのお嬢さんは?」

 

ジョースター卿の視線が、アクセルの隣にいる女性に向けられる。

清楚な水色と白のドレスを纏う淑女に、ジョースター卿は興味が湧いた。

 

「彼女はエリナ。俺とフー…いや、ステラの友達だ」

 

「ジョースター卿、お、御目文字叶いまして光栄に御座います。

エリナ・ペンドルトンと申します」

 

ほら、挨拶しろよと軽く背中を叩いて促すアクセル。

エリナはやや緊張気味ながらも恭しくお辞儀をして自己紹介をした。

アクセルの家族か、はたまた恋人だろうか…と思っていたジョースター卿は、彼等の言葉に微かに目を見開く。

 

「エリナ・ペンドルトン…もしや、君がジョジョの言っていた子かい?」

「ジョ…ご子息様が、私の事を…!?」

 

ジョースター卿の思わぬ発言に、エリナは驚く。

 

「ああ、申し訳ありません。私…声を出してはしたない事を…」

 

頬を紅潮させてて謝罪するエリナに、ジョースター卿はハハハッと笑う。

 

「いやいや…これは失礼。

いきなり名前を出されては驚いてしまうのは無理もない事だ」

 

『女性に恥をかかせてはならない』という配慮から、気になさらずにと優しく言うジョースター卿。さすが紳士だな…とアクセルは感心する。

 

「ジョジョから、貴女の事は伺っていたんだ…エリナさん」

 

ジョースター卿は、瞼を閉じて語りだす。

 

 

 

二年前、彼はジョナサンに縁談を持ち掛けた。

相手は同じ貴族の令嬢…ジョースター卿の知人からの紹介だった。

しかし、ジョナサンはその縁談を断固として断った。

いつもは、父の気持ちを尊重する息子がこの件だけは頑なに拒否した事に、当初ジョースター卿は驚愕を隠せなかった。

 

その理由を問い正すと…ジョナサンは真剣にこう言ったのだ。

 

 

『すみません、父さん。僕には…生涯を共にすると誓った愛する人がいます。

エリナ・ペンドルトンという素敵な女性です』

 

『彼女は父親の仕事の都合で、インドにいます。

ですが、いずれ…この英国に戻ってきます。

僕は、彼女…エリナが戻ってきたら再びプロポーズをします』

 

『“エリナ…僕の妻になってほしい”と!』

 

 

 

「ああ…ああっ…ジョジョ…ッ!」

 

エリナは口元を両手で塞ぎ、瞳から感涙を流し出す。

 

「すまないね。泣かせるつもりはなかったんだ

…さあこれで拭いてください」

 

ジョースター卿は、泣くエリナに軽く謝罪するとハンカチを渡す。

それを受け取り、目元を抑えるエリナ。

ジョースター卿は微笑みながらさらに続ける。

 

「…息子が言うべき言葉を、私が先に言ってしまったな。

後でジョジョに謝らなければならないよ。

エリナさん…一つ聞いてもいいかい?」

 

「はっ…はい…」

 

「君は、息子―――ジョナサン・ジョースターの事を、どう思っていますか?」

 

ジョースター卿が優しい顔で問いかけた。

エリナは込み上げてくる嗚咽を堪え、小さく首を左右に振る。

真っ直ぐにジョースター卿を見据え、彼女は言った。

 

「私は…エリナ・ペンドルトンは、ジョナサン・ジョースターを…愛しています」

 

エリナは、自らの胸に秘めていた思いを告白した。

この場で言わなければ、もう二度とこんなチャンスに巡り合えないと思ったからだ。

エリナの精一杯の返事を聞いたジョースター卿は満足げに「そうか…」と呟く。

 

「私は嬉しいよ…ジョジョが最愛の人を見つけていた事を」

「ジョースター卿…」

「…よければ話してもらえないか? 君とジョジョの馴れ初めを」

 

ジョースター卿とエリナが会話するその空間はとても穏やかな空気に包まれていく。

 

(…俺は外に出た方がよさそうだな)

 

二人きりにさせても問題ない。

そう思ったアクセルは、華麗に退室した。

 

 

 

 

 

「さーて、エリナは此処にいても問題ないとして、フーを探しに行こうか…」

 

ソラはジョナサンを探すため移送方陣でどこかへ飛んで行ってしまった。

てっきり屋敷にいるのかとジョースター邸にきたものの、ジョナサンは二日前から

ロンドンへ行って不在。

 

仕方ない、闇の回廊使うか…と、二階の廊下を歩きながら窓の外の光景を眺めていた。

その時、アクセルの視線はすぐ下の玄関付近に向く。

 

『急用ができた、町へ行く』

『分かりました。お気をつけて…』

 

誰かが執事と会話している。

傍にいた使用人に荷物を持たせると、外で待機している馬車へ乗ろうとしている。

外行きの服装をした青年…その後ろ姿はどこか見覚えがある。

その刹那、顔がこちら側に向いた瞬間、アクセルは思い出し、眉を潜める。

 

「…そういや、あいつもいたんだっけ」

 

その青年とは、七年前に遭遇していた。

エリナに暴力を振るい、ソラに恐怖を与えた人物―――ディオだった。

ディオは、窓から観察しているアクセルに気づく事なく、馬車へ乗ってどこかへ外出したようだ。

 

「……変わってねえな」

 

あれから月日がたち、外見はかなりの美青年へ成長したが、その瞳の奥に潜んでいる野心は

変わっていない。むしろ、研ぎ澄まされたナイフの様に攻撃性がアップしたように感じた。

 

(なんか、嫌な予感がするぜ。あの男…)

 

確証はないが、ディオはこれから何か企てようとしている…直感がそう囁く。

すると、廊下の曲がり角のところでメイド達がひそひそと内緒話をしている声が…

 

 

(ねぇ、今日のディオ様…少し機嫌が悪かったわね)

 

(ええ、いつもは冷静であらせられるのに…)

 

(二日前にジョナサン様と大ゲンカしたって聞いたけど?)

 

(かなり盛大にやらかしたらしいわよ~。

ジョナサン様も、剣幕な顔つきで…ディオ様を二階から投げ飛ばして叩きつけたって!)

 

(ご主人様がご病気な事が原因の一つだって、執事長がブツブツと深刻そうに言ってたそうよ)

 

(そりゃそうですよ…

ジョナサン様とディオ様にいずれ遺産を分ける際に揉めるんじゃないかって、

私は前から推測してましたよ。

ご主人様が大事に至れば、財産問題で争いが起きるかもしれませんし…)

 

(でも、家督はジョナサン様が継ぐ事になるんじゃあないの?)

 

(ディオ様は法律で優秀な成績を収めているのよ。

もしかしたら、それを利用して家督を横取りしようとしてるんじゃ…)

 

(あなたたち、そんな無駄話をする暇があったら、さっさと持ち場に戻りなさい!)

 

 

メイド長の女性に見つかり、一喝された事で若手~中堅のメイド達はそそくさと

仕事へ戻っていく。隠れて聞き耳を立てていたアクセルは…眉間に皺が寄る。

 

 

「こりゃ…やべぇ時期にきたか」

 

 

 

【漂う暗雲】

 

 

 

その頃、オウガストリートにある古びた家宅に、ジョナサンとソラはいた。

 

「今、俺の部下たちが該当する商人を一人ずつ探している最中です。

ジョースターさん、キティ、大した事はできねえが…今は冷えた身体を温めてくれ」

 

スピードワゴンはそう労いの言葉をかけながら、戸棚にあるティーカップを手に取ると、また別のティーカップをもって、見比べている。

 

「ありがとう、スピードワゴン」

「いいって事よ…ああ~、こりゃ欠けてるな。他になかったか、マシなやつは…」

 

少しでも上等なカップを探しているようだ。

仲間と愛用している粗悪な器をジョースターさんになんてとんでもない! という恐れ多い気持ちから、スピードワゴンの眼力は何時になく冴えていく。

お構いなくと、苦笑するジョナサン。

 

「じょーちゃん」

「ん? なんだい、ステラ」

「腕まっきゃ(真っ赤)」

 

ジョナサンの膝に乗っかっていたソラが、先程の戦闘で負傷したジョナサンの腕を擦る。

スピードワゴンに手当をしてもらったものの、やはり傷は深いようで痛みは収まらない。

 

「心配してくれてありがとう…大丈夫さ」

 

しかし、ジョナサンはそんな痛みも顔に出す事無く、笑って平気だと言う。

 

(ジョースターさん…あんたって人は…紳士の鏡だ!)

 

痛みで苦しいはずなのに、小さい子を安心させようと顔色を変えないジョナサンに、

スピードワゴンはさらに感動する。

すると、ソラはその包帯で巻かれた傷のところにぽふっと両手を置き…

 

 

「ふぅー、いたいたい、とんでけ~」

 

 

そう言うと、ソラの掌から緑色の光の粒子と具現化した何枚かの羽が飛び交い、ジョナサンの包帯の周りを包み込んでいく。

 

「…ステラ…!」

「な、なんだこりゃぁあああ!?」

 

驚く二人をよそに、ソラはジョナサンの腕からゆっくりと小さな手を離した。

 

「いーよ」

 

ソラは二パッと笑って言った。

すると、ジョナサンは持続していた腕の痛みがなくなっている事に気付く。

慎重に巻いている包帯をほどくと…深い傷が綺麗に塞がり、治癒していた。

 

「こいつはすげぇ! 骨まで達していた傷がすっかり元通りじゃねえか…!!

やっぱりキティは天使なんだな!!!」

 

その不思議な現象を目撃し、スピードワゴンは興奮する。

 

(これが…父さんの言ってたステラの癒しの力なのか)

 

ジョナサンは、己の腕とソラを見比べると…改めてソラの潜在能力に驚嘆した。

 

「ありがとう…ステラ」

 

そして…ソラが自分の怪我を癒してくれた事に感謝し、頭を優しく撫でた。

 

 

 

【To Be Continued… ⇒】

  

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。