ジョナサンとエリナの再会の回。
数時間後、スピードワゴン達の尽力でディオに毒を売ったという東洋人と面会した。
当初は、白を切っていたが、スピードワゴンの迫力のある説得(というより、ほぼ恐喝に近い)により、白状した。
ジョナサンとスピードワゴンは、解毒剤を持って帰るために、その商人の店を訪れていた。
「おい、早くしやがれ!」
「そんなに急かされても困るあるね。解毒剤をしまってるのは…ここだったような」
スピードワゴンに急かされ、東洋人…名前は、ワンチェンという小柄な中年の男性だ…はがさごそと戸棚を調べる。
店は古びた外見だったが、内装は東洋の独特な雰囲気を醸し出している。
薬草や怪しげな色の薬品、中には占い関係の道具や爬虫類っぽい干物なんかもおかれている。
ワンチェンが探している間、ジョナサンは店の商品一つ一つを観察する。
「東洋には、変わった物があるんだな…」
大学では、別のジャンルを主体にしているが、東洋の歴史も興味深い。
今は、非常事態ゆえにゆっくりしている暇はないが、この一件が一段落したら調べてみようか。
ジョナサンが今後の予定を考えていると、ソラが何かで遊んでいる事に気づいた。
「ステラ、何をしてるんだい?」
「ごりょごりょ~」
ソラは丸いもの…無色の水晶玉を面白そうに掌で地面にコロコロと転がしている。
それを目にしたワンチェンが「あっ、こら!」と目の色を変えて怒る。
「困るあるよ! それうちの大事な商品ね。こりゃ、小娘。遊び道具じゃないから返すあるね!」
「ぶぅー!」
水晶玉を返せと言われ、ソラは不服そうにぷぅと頬を膨らませる。
「ステラ、さすがにお店の品物で遊んじゃあだめだ」
しかし、ジョナサンから優しく諭されると、ソラはむぅーと納得いかない感じだが、
「あい」とそれを差し出した。
「まったく…これだから子どもはひやひやするある」
「そんなガラス玉が価値あるのかぁ?」
ブツブツと文句を零すワンチェンに対し、スピードワゴンは眉唾物じゃねえのか、と邪推する。
「失礼な、これジパングで取れた良質の水晶あるよ! この鑑定書が証拠ある!」
「うそくせーな…ってそれよりも、さっさと解毒剤探しやがれ!」
別事に気を取られて、危うく本来の目的を忘れてしまう所だった。
スピードワゴンが、はよしろはよしろと言い出し、ワンチェンも渋々解毒剤探しを再開する。
元の定位置に戻された水晶石を、ソラは相変わらずじぃーとみている。
「ステラ、その水晶気になるのかい?」
「うん」
何故、と問いかけると…ソラはこう言った。
「ふーたん、いっしょ」
「いっしょ…?」
「うん、いっしょ」
店内には、その水晶玉以外に瑪瑙や真珠のようなものを複数使って円形に仕上げた手飾り、
数はあまりないが綺麗な装飾品はある。その中で、ソラは何の変哲もない水晶玉が気に入り、
触りたくてうずうずしている。
(これがほしいのかな…?)
ジョナサンはそう解釈すると、ワンチェンに声をかけた。
「この水晶玉、いくらだ?」
「ぇえええ! ジョースターさん!?」
「おやおや、旦那…目の付け所が違うねぇ」
水晶玉を購入すると言うや、スピードワゴンは驚愕し、ワンチェンは目をキラリと光らせ怪しく笑う。
「値段はこのくらいで…」
「……てめぇ! ぼったくりじゃあねえか!」
ワンチェンが提示した金額は、かなりの額だった。
スピードワゴンは胸倉を掴んで「ふざけんな」と抗議するが、「こっちも商売ある!」とこの件に関しては、
ワンチェンも引く気はない様子。互いに睨みあう二人に、ジョナサンはまぁまぁと仲裁に入る。
「分かった。じゃあこれで…」
ジョナサンは、手持ちのお金…金貨三枚を支払う。
「…ってジョースターさん! 提示した金額の三倍って!」
「お客様、素晴らしいある! 今ならこの古臭い書物をおまけしてあげるよ!」
商売魂に火が付いたのか、ワンチェンはここぞとばかりに色々とおまけまでつけてくる。
「気持ちはありがたいけど、早く解毒剤を探してほしい。
それから、おまけにするなら、その書物じゃあなくて、そっちのシリーズになっている歴史書にしてもらえるかな?
こっちの『YUKATA』っていうジパングの衣装も頼む。
それから、金貨三枚分は払っているんだからきっちりと証言してほしい」
「あんた、意外と買い物上手あるな…」
「と、東洋人相手に買い物ついでに証人交渉するなんて…
す、すげーぜ、ジョースターさん!」
ワンチェンに、ディオの犯行を正確に証言させるためにも、上客になる必要がある。
そのため、ジョナサンは水晶玉のみならず個人的に関心のあったものもいくつかピックアップしてまとめ買いした。
…証拠も証人もそろった。
あとは、屋敷に戻ってディオを待つのみだ。
「ステラ、はい」
ジョナサンは、買った水晶玉をちょほんと地べたに座っているソラへ渡した。
ソラはおおっ~…と目をキラキラさせて、両手を伸ばしてそれを受け取る。
「あんがとー(ありがとう)」
舌足らずな喋りでお礼を言うと、ソラは嬉しそうに水晶玉をギュッと抱きかかえる。
ジョナサンは「どういたしまして」と微笑み、満足そうに小さなこねこにんを見つめた。
ジョースター家の屋敷の一室に、エリナはいた。
あれから、ジョースター卿と話が弾んでしまい、気付いた頃にはすっかり陽が落ちていた。
帰宅しようとしたが、ジョースター卿が「泊まってください」と勧められ、一泊する事となった。
親元には、執事が既に連絡してくれていた。
エリナは客間の天蓋付の広いベッドに腰掛けて、ふぅ…と息を漏らす。
ソラがどこかへ飛んで行ってしまってからもう4,5時間程度は経過している。
アクセル曰く、外出しているジョナサンを探しに行ったらしいが…
あんなに小さい子がロンドンの中を迷子になっていないだろうか?
…心配で胸が痛む。
アクセルは、仲間とソラの保護者に連絡を取るために一旦、屋敷を離れてしまった。
一人取り残されてしまい、これからどうしたらいいんだろう…と不安になる。
その時、コンコンと扉をノックして「失礼します」とメイドが入室してきた。
「お食事ができましたので、一階の広間へお越しくださいませ」
「あっ…はい」
夕食の準備が整ったと告げられ、エリナは立ち上がった。
メイドに案内されて、階段を降りようとしたその時だった…。
「坊ちゃま! お帰りなさいませ…」
エリナの目は釘付けになった。
「ただいま、父さんの加減は……っ!」
帰宅するや、執事に父親の様子を聞こうとしたジョナサンもまた、階段の上にいる人物を目にして言葉を失った。
何故なら…かつて永遠の誓いをした、愛する人がそこにいたから。
「えりちゃーん! たらいま(ただいま)~」
ジョナサンの右肩から、ひょっこりと顔を出したのは、行方不明になっていた小さなこねこにん…ソラだった。
ソラは、友達の右肩に乗っかる態勢が気に入ったらしい。
そんな行為を、ジョナサンは咎める事無く「しっかりつかまってて」と優しく言うと、そのまま階段をあがっていく。
一歩ずつ、こちらへ近づいてくるジョナサンに、エリナは硬直したまま動けずにいる。
ジョナサンが目の前にきて、立ち止まった瞬間…エリナは「あ…」と声を漏らして俯いてしまう。
すると、ジョナサンは彼女の肩に優しく触れて口を開いた。
「君は…僕の知っている人によく似ている」
「…私もです。貴方と似ている方を存じ上げております」
そう言いながらゆっくりと顔を上げていくエリナ。
エリナはジョナサンの…ジョナサンはエリナの瞳をお互いに見つめ合う。
「ここだと落ち着いて話せないから、部屋にきてくれるかな?」
「…分かりました」
「ふーたんも?」
「うん。ステラも一緒にきてほしい」
食事は後で部屋まで運んでくれないか、とジョナサンはメイドに頼むと、ソラとエリナを自室へ案内する。
階段で彼等のやり取りを、同行してきたスピードワゴンは観察していた。
(誰だぁ、あの美人な女性は? ジョースターさんとやけに親しそうだが…
キティの方も警戒せずに懐いているみてぇだ)
「あの…」
(馬車の中で聞いた話じゃ、ジョースターさんの父親に毒を仕込んだ奴は義理兄弟だって言ってた。
そいつは…この屋敷には今いねえみたいだが)
「すみません…」
(俺の勘が言っている…『このまま、帰るな』って。
ジョースターさんには悪いが、犯人の男がそう簡単に捕まるなんて間抜けな奴とは思えねぇ。
世話になった育て親を毒殺しようとする冷酷さ、七年もかけて周囲を欺く程の演技力…
そんな野郎は大抵、何か仕掛けてくるってもんだ)
「お客様…」
(犯人は、ジョースターさんにとっちゃ、義理とはいえ七年間育った兄弟だ…複雑な思いだろうな。
せめて、甘ちゃんのあんたに危険が及ばないようにできりゃ…)
「お客様!」
「あ~!? さっきからうるせぇな! 何か言いてぇ事があるならはっきり言いやがれ!!」
「僭越ながら…お客様、御召し物が濡れておりますが…」
使用人が恐縮そうに言った事に、スピードワゴンは自分の服を改めてみた。
やばい…馬車に乗ってたとはいえ、長時間雪降る外にいたためか、服装がまだ乾ききっておらず、
靴もビショビショで汚れていた。
「失礼した…悪いが、暖炉を貸してくれ!」
濡れた衣服と靴は暖炉で乾かし、その間に、使用人が親切にも代わりの物を用意してくれる事となった。
(さすがはジョースターさんの屋敷の使用人だ、親切な上にサービスがいいぜ!)
部屋に入ると、ジョナサンはさっきまでの緊張した雰囲気が和らぎ、改めてエリナと向き合った。
「僕は七年前、とても好きな女の子がいた。
その子と…ステラと一緒に遊ぶのが何よりも楽しみだった」
「…七年前に、意地悪な子ども達からぬいぐるみを取り戻してくれた男の子がいました。
その子と二度目にあって仲良くなり、そして…ステラとも友達になりました」
二人は穏やかな顔で、当時の事を懐かしむように語っていく。
「僕の義理の兄弟が女の子とステラに暴力を働いた事があった。
あの時は…自分の事の様に傷ついて、殴り合いの喧嘩をしたんだ」
「その子は、よく遊び場にしていた森の中で私とステラ…そして飼い犬のダニーにこう誓いました。
『大好きな皆を守れるくらいに強くなってみせる』と」
大きなベッドの上にちょほんと座っているソラは、二人が話し合う姿を大人しくじっと見ている。
二人が話しているのを邪魔しちゃいけない。
こねこにんは、周囲の空気を自然と読み取っていた。
「その子が突如、インドに行く事になって…胸が張り裂けそうだった。
その上、ステラまでいなくなって…。
それでも…僕は待つ事にしたんだ。
その女の子とステラが帰ってくるのを」
「七年間、その男の子の事を一片たりとも忘れた事はありませんでした。
辛い時…苦しい時…彼とステラの思い出が、私を癒してくれた」
エリナの目からつぅーと一筋の涙が流れ落ちる。
ジョナサンは、指の腹でそれを拭いてあげると…エリナを優しく抱擁した。
「僕は…夢にいるのかな? いいや…夢なんかじゃあない。
ずっと待ち望んでいた時がやってきたんだ。
エリナ…大きくなったね」
「大きくなったのは、あなたの方ですわ。
……ジョジョ」
「「あいたかった…」」
ジョナサンとエリナは同時、素直な気持ちを言葉に出した。
会えなかった空白の月日を埋めるように、二人は抱きしめあった。
【七年の月日を超えて】
「ふぅー」
二人の様子を一部始終見ていたソラは思った。
“ よかった、えりちゃんに笑顔が戻った。
じょーちゃんとえりちゃん、しあわせそーだ。
でも、なんだろう。
さっきから変な感じがする。
じょーちゃんの姿は見えているのに、時々うっすらとしている事がある。
それに、此処ではないどこかで…黒いモヤモヤが漂っている。
その黒いモヤモヤは、どんどん大きくなって『こわいもの』になる
…そんな気がする。
すごくざわざわして
…いやな感じがする ”
ソラは、カーテンで閉められている窓を不安そうに見つめる。
「ふぅ…」
こねこにんが感知したその『黒いモヤモヤ』は、後にこの屋敷へ現れる事になる。
【To Be Continued… ⇒】