ふたつのステラ   作:ねことも

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空白の七年の間に、ふーちゃんが天界で何をしていたのかが分かる回。
今回の話は、読者様の見方次第でハーパル氏への好感度が大きく左右されます。
  


契約者は決断し、力を授かる

 

ソラは思い出していた。

まだ、自分がハーパルが住んでいる果樹園(天界)にいた時の事を…。

 

 

 

*** ****** ***

 

 

 

ある日、怪我をした小さな丸っこい雛(ピヨ)を見つけた。

オレンジがかった毛並みで、性別は女の子の様だ。

 

『らいじょーぶ(大丈夫)? いたいたい、とんでけー』

 

小さな手でモフモフの毛を包み込み、癒しの術をかけてあげた。

みるみる内に傷口は塞がり、弱っていたピヨは元気になった。

 

『…君ほど幼くても回復系の神術を扱えるのは大したものだ』

『ふぅ! ぱるしゃん』

 

『エクレシアはやはり年齢に関係なく、癒しの術は自然と身につけられるのだろう。

だが、ステラ…それだけではいけないんだ』

 

『??? なんでぇ?』

 

ハーパルの言葉に、ソラは疑問符を浮かべる。

 

『癒しの術は確かに凄い。だが、敵が襲ってきたら、その術者は真っ先に狙われる標的となる』

『ふぅ…ふーたん、ぽこぽこしゃれるん(ボコボコにされる)?』

 

『もっと酷ければ、生きたまま痛い目に合わされる』

『うぅ……やらぁー(やだー)!』

 

ソラは目をウルウルさせると、涙が零れ落ちていく。

すると、先程彼女によって傷を完治させたオレンジ色のピヨがキッと睨み付けてきた。

 

『…ぴぃぴぴぴぴぴっ!』

『君には関係ない事だろう?』

『ぴぃ! ぴぴぴぴぴっ!』

 

オレンジピヨが批判する中、ハーパルは腰を屈めて泣いているソラの頭を撫でる。

 

『だからこそ…ステラ。君は癒しの術以外の知識を学ぶ必要があるんだ』

『…うう…にゃにしょれ(なにそれ)?』

『そう、君が覚えなければならないのは【戦う】術。君以外のエクレシアが既に会得している戦闘スキルだ』

 

《戦う》…その言葉の意味を、ソラは漠然とだが理解していた。

自分以外のエクレシアが戦っている場面を幾度となく、幼いその眼に焼き付けていたから。

 

『ふーたん、どーしゅるん(どーすればいいの)?』

『ぴっ! ピピ…ピピピピッピッ!?』

『安心したまえ。まだ、幼いこの子に剣や飛び道具のような危険物を持たせるなんて愚かな真似はしないよ』

 

プリプリと怒っているオレンジピヨを宥めるように、ハーパルはそう答えると…ソラの頭に手を翳した。

 

 

『時間はまだある。ゆっくりと…蟻が冬支度に食べ物を貯蓄するように、この技術を開花させてあげよう』

 

 

彼がそう言った直後、ソラの頭にほんのりと暖かいイメージが浮かび上がる。

ぼやけていたそのイメージは少しずつ鮮明になっていき、アニメのような動く動画となっていく。

 

ある動画では、ソラの知っている人…デミックスが大きな熊に遭遇して腰を抜かせていた。

そこに、巨大化したソラが助けに入って、熊を両手で持ち上げて「やぁっ!」と遠くへ放り投げてやっつけた。

 

また、別の動画では、森林内で人相が怖いいかにも悪人風な男数人がたくさんの動物達を捕ろうと銃を持って

追いかけまわしている。彼等がいる上空でソラが宙に浮かんでいた。

両手を上げると…その悪人達の真下に落とし穴が空いた。

悪人数名はきゃーと叫び声をあげて、ぴゅーと落ちて行ってしまった。

結果、森の動物達が守られて喜ぶ姿が映し出される。

 

三つ目は、ソラ自身がブルーベリー色のお化けに追い掛け回されるパターンだ。

ソラはきゃーとはしゃぎながら見事ゴールまで逃げ切る。

しかし捕まってしまうパターンもあり、パクッと食べられてしまう結末に…それはとても怖かった。

 

さらに、癒しの術をかけている間に敵に襲われてしまうものもあった。

その際に、どう対処すればいいのか…どこからか声が聞こえてきて優しく教えてくれる。

 

『ふぅ…』

 

いくつもの動画の内容が頭にインプットされていき…全部見終わると、ソラは疲れて眠ってしまった。

 

『そうそう、いい調子だ』

 

彼女のその様子を見ながら、ハーパルは満足そうに笑う。

それを週3日ほど繰り返していく。

この子の学習能力は半端ない。

知識の泉を吸収していき、自分のモノにしていくスピードが速いのだ。

 

『さて…次は実際に術を覚えよう』

『あい!』

 

傍から見れば、和やかに物事が進んでいる。

けれども、それは第三者の目からみたらどう映るのだろう…?

一連の出来事を間近でみていた、オレンジピヨの複雑な表情がそれを物語っていた。

 

 

 

 

 

今まさに、ソラの目に映るのは、人外の存在となったディオと、友達のジョナサンが戦う光景だ。

ディオは、相変わらずおいたのお兄ちゃんだった。

この間(七年前)、クッキーをあげて仲直りしたのに全然懲りていなかった。

優しいジョナサンの父親を傷つけて冷たくした。

 

(おじたん…もうおらん)

 

父親…ジョースター卿が死んだという事実は、ソラの心に淋しさをもたらす。

 

“人は、何か大きな病気や怪我にあったりすると魂が天界に導かれる。”

 

施設の先生が、童話を読む時によくそう言っている。

ソラは、ジョナサンやエリナが自分とは違う人…自分よりも先に大きくなってしまう事を知っている。

それは、ハーパルが教えてくれた事。

エクレシアと人間は生きている時間が異なるから、ずっと一緒にはいられない。

 

『だが…大切なのは、一緒にいられる間に思い出をつくる事だ』

 

 

―――《思い出》

 

楽しかったり、嬉しかったり…いろんな感情が湧き出る記憶。

でも、誰かがいないと思い出はとても寂しくなる。

 

独りぼっちは悲しい。

 

独りぼっちは辛い。

 

独りぼっちは怖い。

 

ジョナサンとエリナは友達。

二人がいなくなるのは嫌だ。

この世界にいる友達がいなくなってしまう。

独りぼっちになってしまう。

 

「じょーちゃん…」

 

 

 

◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇

 

 

 

天井に張り付いていたディオが、ジョナサンに目掛けて襲い掛かってくる。

ジョナサンは持っていた槍を回転させて、ディオを貫こうとするが、ディオの怪力で槍はバギンッと折れてしまう。

 

「うっ…!」

 

飛んできた槍の先端が、ジョナサンの肩に突き刺さる。

 

「ジョジョ…!」

「ジョースターさん!!」

「来ちゃダメだ!」

 

駆け寄ろうとするエリナとスピードワゴンを、ジョナサンは声をあげて制止した。

 

「……アクセルさん。お願いがあります」

「…なんだ?」

「どうか…エリナとスピードワゴン…そしてステラを連れて逃げてください」

 

背を向けたまま、ジョナサンはアクセルに頼んだ。

 

「…正気か?」

「ディオが…吸血鬼になった原因をつくったのは僕だ。僕は…彼を倒さなくてはいけない!」

 

未だに刺さっている槍の所為で、肩から血が滲み出ている。

それでも、ジョナサンの決意は揺るがない。

 

「エリナとスピードワゴンは本来、無関係なんだ。この戦いに巻き込みたくない」

「なーるほど。それがお前の覚悟か…」

 

アクセルはパチンと指を鳴らす。

すると、数体のダスクが出現してエリナとスピードワゴンを担ぎ上げた。

 

「キャア!」

「うおっ、なんだぁ、この白い軟体動物は!?」

「アクセルさん…!」

 

「安心しな。あれは『ダスク』…俺の部下だ。おい、その二人を安全な場所へ連れて行け」

《承知しました》

 

ダスクは主であるアクセルの命令に従い、壊れた窓から二人を連れて逃走した。

 

「くくくっ…やはり貴様は人間ではないようだなぁ」

「ん? 俺の事か?」

「覚えているぞぉ…七年前! このディオを侮辱した!! いけすかん赤毛男がっ!!!」

 

ディオが素早い速さで、アクセルの胸に指を突き刺そうとした。

 

 

―――キンッ! ビリビリッ…

 

「なにっ!」

 

「ふぅ…リフレクトガードを習得してなきゃ危なかったぜー。

こーいうパワータイプの敵はサイクスとレクセウスが得意なんだが…な!」

 

 

接近したディオの攻撃をスキルで防御するや、間髪入れずに、アクセルは彼の腹部に手を翳した。

 

「食らえ!」

「ぐっ…ぐぁあああああ!」

 

ディオの身体を灼熱の炎が覆い尽くす。

メラメラと勢いが止まる事なく、皮膚を焼き尽くしていくが…

 

「オウゥ! ファアアアア!」

 

「うううッ…ディオは打撃を受けている! 確かに皮膚を焼かれている…し…しかし!」

「こりゃ…すげーな。皮膚の組織が再生してやがる」

 

アクセルは後ろへ大きく後退して、距離をとる。

腕を抑えているジョナサンの隣に立つと、こう言った。

 

「長期戦になりそうだな…助太刀するぜ、ジョジョ」

「で、でも…」

 

「お前の気遣いは分かる…だが、あいつが目をつけたのはお前だけじゃねえ。

多分、俺と…フーも標的だろう」

 

アクセルのその言葉に、ジョナサンはギョッとする。

自ずと、後ろにいるソラに視線が向かう。

 

「ステラ…」

 

「あいつを倒さなきゃ、俺とフーの命の保証もできない。

だから共闘するしか道はないんだよ! 記憶したか?」

 

戦う理由を言うや、アクセルは両手を左右に広げた。

炎が手元へ集まっていき、円形の武器…チャクラムとなる。

 

「フー! ジョジョを頼む!」

「…あい!」

「させるかぁああ!」

 

ディオが、大きく跳躍してジョナサンに近づこうとするソラを止めようとした。

 

「おっと…相手は俺だろ?」

 

アクセルがチャクラムを投げつけた。

回転したチャクラムがディオの喉元と腹部を貫くと、彼はぐぅ…と苦悶の表情を浮かべ、床に激突する。

 

「このぉ……忌々しい赤毛野郎がぁあああ!?」

「本性バレバレだな。品性の欠片もないぜ」

 

アクセルはフッと口端を挙げて挑発する。

その態度が癇に障ったのか、ディオは激昂してアクセルに攻撃を繰り出していく。

 

「じょーちゃん、らいじょーぶ?」

「ステラ…うん、ちょっと待ってて…オオオウアアアッ!」

 

ジョナサンは、肩に突き刺さっている槍の先端を手に力を入れて抜き取った。

ブシュッと血が吹き出て、ソラは「ふぅ!」と驚いたが、すぐに傷口部分に両手をぽふっとのせて回復術を発動させた。

 

「ごめんね…ステラ。怖い思いをさせて…」

 

ジョナサンは、申し訳なさそうに小声で謝る。

ディオを警察へ連行させるはずが、こんな大事件へ発展するなんて思わなかった。

それにしても、アクセルは何故、あの白い不思議な部下にこの子も連れていくよう命じなかったのだろう?

 

「じょーちゃん、ええよ」

「…えっ…?」

「ふーたん、じょーちゃんとおる」

「でも…」

 

ソラは、ジョナサンの傍にいたい。

だが、危険な目に合わせたくないジョナサンにとっては、ソラを一刻も早く逃がしてあげたい。

すると、ソラはさらにこう続けた。

 

 

「ぱるしゃん、やくしょく。じょーちゃん、ぴんち、まもりゅ

(パルさんと約束した。じょーちゃんがピンチになったら守る)!」

 

「僕を…『守る』って…?」

 

「じょーちゃん、ともらち。ふーたん、おーえんすりゅ

(じょーちゃんは友達だもん。ふーちゃんはじょーちゃんを応援するの)!」

 

「す、ステラ…ッ」

 

 

ジョナサンは感極まる。

幼い友達が、自らを守りたい、応援するために此処にいるのだと言った事に…胸が熱くなる。

 

 

《聞いただろう? ジョナサン・ジョースター》

 

「この声は…」

 

 

聞き覚えのある男性の声が耳に伝わる。

ハッと周りを見ると、背景がセピア色に染まっており、アクセルとディオが激突する寸前で止まっている。

 

(この現象…オウガストリートの時と同じッ!)

「あ、ぱるしゃん!」

 

ソラが笑って右手を振る。

彼女が見ている視線の先に…黒い聖職者の服装を着たあの男性がいた。

 

「あの時の…神父様…」

 

「とうとう戦いの時を迎えてしまったな。

さて、ジョナサン・ジョースター…君に尋ねよう。

あの吸血鬼へ変貌した幼馴染を倒したいか?」

 

男性…ハーパルが見ている先には、時が止まっているディオがいる。

 

 

「はい…彼が魔物になってしまったのは僕に責任があります。

なんとしてでも止めないと…この先、とんでもない事が起きてしまう」

 

「その覚悟はあるようだね…だが、今の君ではあの男を倒す事は難しい」

「…そんなっ!」

「だが…『不可能』ではない。そこにいるステラと力を合わせれば…」

 

 

ハーパルは意味深げな助言をする。

ジョナサンはちらりとソラを一瞥するが、緩慢に首を左右に振る。

 

「でも…それじゃあ…ステラを戦いに巻き込む事になってしまう!」

「ほう? だが、このままだと君だけじゃなく、ステラとあの青年もディオに殺されるのは時間の問題だ」

「なんだって…」

 

ハーパルは、硬直しているアクセルに視線を移す。

 

「あの青年は戦い慣れはしているが、再生能力が早い吸血鬼が相手だと不利だ。

敵はスタミナが桁違いな上に、持久戦に持ち込まれると、こちらの体力が尽きてしまえば、負けてしまう」

 

「…アクセルさん…」

 

「ジョナサン…博愛主義なのは結構だ。

しかし時として選択を誤れば、己だけでなく、守りたい者すらも守られなくなる」

 

ハーパルは厳しい面持ちで説く。

 

 

「今の君に必要なのは…『力』。

その『力』を正しく使用するための『心』が君にはある。

決断するんだ…為すべき事を」

 

 

ジョナサンはギュッと固く拳を作る。

そして…傷を癒し終えたソラと目が合った。

 

「彼女の答えはもう決まっている…そうだろう?」

 

ハーパルが穏やかな眼差しを向けると、ソラは目をぱちくりさせた後にこくっと頷いた。

 

「じょーちゃん!」

 

ソラは、ジョナサンの手に自らの小さな手を重ねた。

 

 

  パァアアア…

 

 

右手の甲のメビウスの輪が輝きだす。

暖かな光の渦がジョナサンとソラの周りを取り囲んでいく。

ジョナサンは静かに両目を閉じた。

 

(…僕に必要なのは『力』)

 

ディオを倒すために…。

エリナを、スピードワゴンを、アクセルを…そしてステラを守るために。

 

「さあ…君の答えを聞かせてくれ、ジョナサン・ジョースター」

 

ファイナルアンサーの時間だ、とハーパルは告げる。

ジョナサンは、カッと開眼するとソラと手を重ねたまま口を開いた。

 

「ステラ……僕は戦う!

君を…エリナを…僕の大切な人達を守るために…どうか力を貸してほしい!!」

 

力強く自らの願いを告げたジョナサン。

 

「あい!」

 

契約者の強い願いを、ソラは快く承諾した。

その瞬間、囲っていた光の渦が二人の声に呼応するように彼等を中へ吸収されていく。

ジョナサンの選択に、フッ…とハーパルは口元に弧を描くとパチンと指を鳴らした。

 

 

 

【契約者は決断し、力を授かる】

 

 

 

「なにっ…」

「ぐっ…なんだッ…あれはぁあああ!?」

 

時が動き出した。

戦いの最中、視界を覆う眩い光に気付いたアクセルは驚愕を露わにする。

対するディオは、その光が身体的に拒絶反応があるようで、頬や腕、掌などにジュッ…と焦げ跡が出現する。

 

「(あの光は…エクレシアが契約者に力を授ける際に起きる反応…だとすりゃ、フーは…)まさか…」

 

彼等に近づこうにも、二人を取り巻く渦から発生する強風が行く手を阻む。

 

「ジョジョ…フー!」

 

アクセルが叫んだ直後、光と風の勢いが収束していった。

遮られていた視界が鮮明になっていき、アクセル…それからディオの目に映った二人の姿は…変化していた。

右手の甲に、メビウスの輪を象った契約印を浮かび上がらせ、凛とした面持ちで拳を構えるジョナサン。

そして、彼と並ぶように「ふぅ!」と意気込んだ顔で、グーにした両手を上げて空色の光翼を広げて浮遊しているソラ。

 

 

「ありがとう、ステラ。…この力、確かに受け取ったよ!」

「うっしゅ(うっす)!」

 

 

 

 

 

【To Be Continued… ⇒】

  




※【物語の単語・専門用語辞書】に、今回出てきた新しい単語の説明を追加しました。
 ご参照ください。
  
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