ふたつのステラ   作:ねことも

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事件後、ジョナサンがふーちゃん達とジョースター邸跡に向かう回。
  


嵐の前触れ

ジョースター邸が火事により焼失した。

その事件は、人々に大きな衝撃を与えた。

 

元々、些細な噂話さえも大きな話題となりやすい田舎町。

内容の良し悪しに関わらず、住民達は日常の一コマとしてそれを受け取ってしまう。

…他者へと広める事を躊躇するのは、極めて少数である。

そんな環境の中、もたらされたビッグニュースは瞬く間に住民の間に広まっていった。

 

ジョースター家の現当主、ジョージ・ジョースターは火災により死亡。

義理の息子であるディオも遺体は見つからなかったが、警察の調査の結果…死亡とみなされた。

当主が前日に、ある事情から邸に住む全ての使用人を別の屋敷へ派遣させたり、一時的な暇を

取らせる処置を行っていたため、新参者を始め、古くから仕えている人達は難を逃れた。

そして、跡取り息子であるジョナサン・ジョースターも火事の現場にいたものの、奇跡的に

生還できた…との事だ。

 

田舎町ではめったにお目にかかれない大事件に、人々の間であらゆる憶測が飛び交う。

…中には、ジョナサンがディオとの間に確執があり、それが火災事件に深く関わったのでは…と

勘繰る類のものもあった。

 

しかし、ジョナサンの人柄的にありえない事や、ここ七年の間にディオとは仲のいい関係を

築いていた事が人々の共通認識であったためか大半は、不幸な大事故として容易く受け入れて

しまった。

 

…『真実』を目にしてしまったごく一部の人間以外は。

 

 

 

*** ***** ***

 

 

 

「ジョジョ…おつかれ」

 

出来たばかりの石造りの墓の前で、アクセルはジョナサンに労わりの言葉をかけた。

 

「いえ…こちらこそありがとうございます」

 

ジョナサンは神妙な面持ちで、アクセルに頭を下げた。

父であるジョースター卿の遺体は、あの火事の中、アクセルの部下…ダスクという不思議生物…の

手で外へ運び出されていた。

 

そのおかげで、父を無事に土へ埋葬する事ができた。

…棺の中の父の表情は穏やかなものだった。

ジョナサンやエリナ、スピードワゴン、生前親しかった多くの人々に見送られ、父は天界へと

旅立った事だろう。

 

「これからどうするんだ?」

 

「邸の再建も含めて…色々と整理をする予定です。

顧問弁護士とも話し合って、正式に父の跡を継がなくてはいけない」

 

しっかりとした口調で答えるジョナサン。

まだ、心の傷は癒えていないはずなのに…。

一族の跡取りとしての責任と現実に向き合わなければいけないという使命感から、彼は前を

進もうとしているのだ。

 

(強くなったな…)

 

幼かった少年は、七年の月日を経て精神の強い立派な紳士へ成長したようだ。

そして…

 

「じょーちゃん」

 

墓石の傍で座っていたソラが、ジョナサンを呼んだ。

 

「なんだい、ステラ?」

「あんね(あのね)…」

 

ジョナサンの傷ついた心をちょっとずつ癒しているのが、ソラだ。

ソラだけじゃない、エリナやスピードワゴン…ジョナサンの事を大事に思っている人達がいる。

 

人は大切な者を守りたいと願う時、心が成長する。

彼等のおかげで、ジョナサンもまた彼等を守りたいという確固たる思いが強くなったのだろう。

 

「おじたん、ばいばいって」

「…!…うん…教えてくれてありがとう」

 

ソラが言った言葉に、ジョナサンは一瞬驚きを顔に露わにし、すぐに目に涙を浮かべながら

微笑んで礼を言った。

 

アクセルは、チラッと墓石の方へ視線を向ける。

薄らと人のような気配が漂っているのは、ずっと感じ取っていた。

 

 

《息子を…ステラを守ってくれて…ありがとうございます》

 

 

耳元に伝わってくる渋い男性の声。

どうやら、あちらもアクセルが気づいた事を察知したようだ。

 

「あんたも…達者でな、ジョースター卿」

 

《はい。いつか、また…来世で会える事を願っています》

 

最後の別れの挨拶と共に、ジョースター卿の気配は消えた。

薄暗い曇り空に、一筋の光が差し込む…まるで、ジョースター卿を導くかのように。

空を見上げるアクセル、ジョナサン…そしてソラ。

 

「ばいばい」

 

ソラが手を振ってそう言った。

大好きだったおじさんが無事に天国へ辿り着けますように…。

小さなこねこにんの言葉に、そんな思いが込められている気がした。

ジョナサンは、目尻に溜まっている雫を指先で拭い取ると、吹っ切った顔になった。

 

「すみません、アクセルさん…これから付き合ってもらえますか?」

「? 別にいいけどよ、どこに行くんだ?」

 

アクセルの質問に対して、ジョナサンは真面目な表情で言葉を続けた。

 

 

「焼け落ちた邸に…どうしても確認したい事があるんです」

 

 

 

 

 

ジョースター邸を訪れるのは、あの事件以来だ。

焼け落ちて瓦礫ばかりのその現状は、かつての屋敷を知る人々にとってとても寂しい

光景に見える。ジョナサンの願いで、アクセルは邸跡の調査を行う事になった。

 

「おいおい、ふー! 危ないからやめな」

「ぶぅー」

 

ソラも二人に同行する事となった。

瓦礫をよじ登ろうとしたソラを、アクセルは慌てて抱き上げると、地面に座らせ待つように

指示した。その事が不服なのか、ソラはぷくっと頬を膨らませる。

 

「ステラ…そこにいて。後で、美味しいデザートをご馳走するから」

「あい!」

 

ジョナサンが優しく言うと、ソラは素直に了承した。

 

「…やれやれ、なんかホントに反抗期になっちまったのか? ジョジョの言う事は聞くのによぉ」

 

「多分、ステラは僕達みたいに、瓦礫の中を探索したいんじゃないでしょうか。

僕もステラ位の年頃に、邸のあちこちを移動して探検していたらしくて…

見つけ出すのに苦労したって、父が言ってました」

 

ジョナサンは苦笑しながら昔話を語る。

 

「そういうもんかね…

(もしかしたら…契約者であるジョジョだから、優先的に指示に従ってるのかもな)」

 

ジョナサンの言葉に相槌を打ちつつも、アクセルは別の事を考えていた。

そもそも、ソラが彼との間に形式契約を成立させた事自体、どうも不自然に思えてならない。

 

形式契約の「け」の字すら知らないはずのこねこにんが、どうやってジョナサンを契約者だと

認める事ができたのだろうか…?

さらに、治癒術しかできないはずなのに、補助術・攻撃術を習得していた謎もまだ明らかに

なっていない。

 

(考えられるとすりゃ、空白の七年の間に、ふーに誰かが教えた…て事か)

 

独学や感覚でやれるとは思えない。

エクレシアの存在を知る《何者か》が、ソラに知識を与え、戦う術を身につけさせた

可能性が高い。

 

(…問題は、そいつが何の目的をもって、ふーにそんな事をしたのか、だ)

 

エクレシアとはいえ、本来なら保護すべき対象である子どもを、契約者を守るためと

いう名目で戦わせたのだ。

つまり、その人物はソラを使って、何かを為そうとしているのだ

…“エクレシアだと認識した”うえで。

 

 

アクセルは大いに眉を顰める。

…エクレシアの力を狙う勢力はいくつか見た事がある。

どうやら、この世界にも同じ類の者がいて、ソラはその輩と接触したのかもしれない。

 

(この用事が済んだら、ふーを連れて一旦この世界から離れた方がよさそうだ)

 

おそらく、どこかでその人物はこちら側の動きを監視している。

目的が何にしろ、エクレシアを…ソラを利用する時点で碌な奴ではないはず。

【クロト=メグスラシル】へ戻って、コゼットにソラを預けたら、再度調査する事にしよう。

 

アクセルは、地面でゴロゴロと転がってまったりしているソラに密かに視線を向けつつ、

今後の事を真剣に考えていた。

 

「ところで、ジョジョ…何を探してるんだ?」

「…【石仮面】です」

 

「石仮面って…あいつを化け物に変えたアイテムか」

「はい。…アクセルさんには説明しておいた方がよさそうですね」

 

元々、あの仮面はジョナサンの亡き母親が美術商から買い取った珍しい異国の仮面だった。

何故、それを気に入ったのかは不明だが、それ以来ジョースター家に飾られるようになった。

石仮面が、考古学的に貴重なアイテムであると感じたジョナサンは独自で研究をしていたという。

 

「…まさか、あんな危険なモノだったなんて」

 

「ありゃ、いわくつきの物だと思うぞ。相当やばい効果があるのは…

あの事件で痛いほど分かっただろ?」

 

アクセルの言葉に、ジョナサンは首を縦に振る。

それから一時間程度、隅から隅まで徹底的に探していった二人。

だが、石仮面は影も形も見当たらなかった。

 

「これだけ見つからないとなりゃ、粉々に砕け散ったかな」

「…そうですね」

 

一先ず安心した様子のジョナサン。

ようやく一段落だな…とアクセルも大きく背伸びをして踵を返そうとした。

その時…足元にコツンと何かが当たった。

 

「ん? なんだこれ…?」

 

黒いブーツの先に当たったのは…丸い、無色の水晶玉。

アクセルが水晶玉を利き手で拾い上げると、同じくそれを見たジョナサンはハッとした。

 

「それは…オウガストリートで商人から買い取った水晶…」

「ジョジョ…これ、気に入ったから買ったのか?」

 

「正確に言えば、僕ではなくて、ステラがそれを欲しがってたんです。

購入したのは、その店の商人にディオが毒薬を買った証人をしてもらうため、というのも

ありましたけど…」

 

(そういえば…)

 

ダスクからの、ディオがあの事件を起こした前後で『庭から脱走する小柄の男がいた』という

報告を思い出したアクセル。

 

どさくさに紛れてその商人は逃げたのだろう。

アクセルは、改めて水晶をじぃーと見つめる。

 

「…うーん」

「どうしたんですか?」

「いや、ちょっとな」

 

アクセルは、手に持っている水晶にある違和感を覚えた。

あの大規模な火災で、宝石類や甲冑の類ですら焼け焦げてしまっていた中、傷一つなく瓦礫の

中に埋もれていた。

 

単純に頑丈なだけで、そんな事がありうるのだろうか?

さらに、観察して気づいた事だが…その水晶には微弱だが魔力のような力が宿っているようだ。

 

(さしづめ、この世界の『魔法道具』あたりか?

…これも帰ったら、ヴィクセンかゼクシオンに調べてもらうか)

 

アクセルはそう思いながら、コートのポケットに水晶をしまおうとした。

 

「あー! あくたん!」

 

すると、ソラがそれを目にして光翼を広げてやってきた。

 

「そりぇちょーらい(それ、ちょうだい)!」

「なんだ…ふー。これがほしいのか?」

「うん、ふーたん、いっしょ」

 

ソラは両手を前に差し出して、ちょうだいちょうだいとお願いする。

アクセルは首を傾げる。

 

ソラの発言…『自分といっしょ』

一体、どういう意味なのか?

 

「馬車の中でもずっとそれで遊んでいました。…玩具だと思ってるのかな、きっと」

「ふーん…」

 

微笑みながら語るジョナサン。

彼は、どうやら水晶から流れている魔力は感じ取っていないようだ。

契約者と言えども、必ずしも均等に各能力が伸びる訳ではない。

 

…おそらく、ジョナサンは魔力よりも物理的な攻撃系統の能力が上昇している。

先日のあの戦いから推測すると、その可能性が高そうだ。

 

(ジョジョにも色々と聞きたいが…時間を置いてからの方がいいか)

 

アクセルが頭の中でこれからの事を考えている一方、ソラはジョナサンと話をしていた。

 

「ステラ、何か食べたいお菓子はあるかい?」

「ふぅ~…ぷりん!」

 

「ぷりん…プティングの事かな?

うーん…エリナにお願いして作ってもらおうか。

僕も無性に甘い物が食べたくなってきたよ」

 

(なんつーか…話題が平和だなぁ)

 

こねこにんと契約者の会話を、アクセルは細目で聞いている。

ここの所、暗い出来事ばかりだった所為か、二人が話す何気ない、けれどもほのぼのした

話題に心がちょっと癒される。

 

「あ、噂をすれば…」

「えりちゃーん」

「ジョジョー、ステラー、アクセルさーん!」

 

丁度いいタイミングで、エリナが迎えに来た。

 

「探し物は見つかったの?」

「いや…あの火事で焼失してしまったようだ」

「そう…」

 

ならよかった…とエリナはほっと胸を撫で下ろす。

彼女もまた、あの事件の現場にいた一人だ。

石仮面が如何に恐ろしい物なのか、を事前にジョナサンから説明を受けていたのか、彼の報告を

聞くや安心の色を顔に浮かべた。

 

 

「皆さん、お疲れ様です。お茶の時間だから…場所を変えませんか?」

 

 

エリナはそう言うと、両手で持ったバスケットを見せる。

 

「うん、そうしよう!」

 

「ジョナサンがリクエストした『ピーナッツバターとチョコレートのサンドイッチ』と、

ステラの大好きなクッキーもありますよ」

 

「わーいv」

 

好物を食べられる事に、ソラは喜んでいる。

 

(腹ごしらえしてから帰るか…)

 

ウキウキしている二人を見ながら、アクセルは欠伸を漏らしてしまう。

瓦礫作業でかなり体力も消費してしまった。

お茶を楽しんで空腹を満たしてから帰還しても問題ないはず…呑気にそう思っていた。

 

 

  プルルルル…

 

 

鳴り出したその音を聞くまでは…。

 

 

 

【嵐の前触れ】

 

 

 

「なんだ、この音は…?」

「…悪い、ジョジョ。エリナ達と一緒に先に行っててくれ」

 

突如、鳴り出した携帯の着信音に、ジョナサンとエリナは不思議がっている。

アクセルは、後から追いかける事を伝えると邸跡の身を隠せる場所まで行った。

 

「もしもし?」

『アクセル!』

「お、ロクサスか」

 

電話をかけてきた人物は、同じ組織の相棒のロクサスだった。

 

「なんだ、相棒。土産だったらまた今度にしてくれよ」

 

『そんな事言ってる場合じゃない!

それに、俺は今、アクセルと同じ世界で別の任務をしてるの知ってるだろ!』

 

「…やけに焦ってるな。『大物』でも出たのか?」

 

ロクサスの任務は、主に魔物かハートレス退治がメインだ。

この世界にも、ハートレスは極少数だが出現する事がある。

そのため、ロクサスかもしくはシオンのどちらかが任務でこの世界へ降り立つ事もたびたび

あるのだ。

 

『ちがう、もっと大変な事なんだ…』

「ん?」

『闇の回廊を使ってくれ! 外の世界に行けるかどうか…やってみてほしい』

 

ロクサスのその言葉を聞きながら、アクセルは狭間の闇を召喚し、この世界から

移動しようとした。

 

 

 ―――ドンッ!

 

「…いって!」

 

 

いつも通り、回廊へ入ろうとしたら、アクセルは何かに阻まれて盛大に額を打ってしまった。

 

「…っ~!…なんだ、こりゃ…!?」

『やっぱり…アクセルでもダメなのか』

 

か細い声で唸るロクサス。

アクセルは目を細めて、手で回廊の入り口を叩くと、薄らと透明な壁の様なもので

阻まれているのを確認した。

 

 

「…やべぇ事になってきた」

 

 

―――“闇の回廊の異変”

 

事態が思いもよらない方向へ傾いている事を、アクセルはこの時…ようやく気付いたのだった。

 

 

 

 

【To Be Continued… ⇒】

  

 

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