そして、ジョナサンはツェペリ氏と邂逅して…
※残酷・流血表現があります。
お読みになる際はご注意ください。
*** ***** ***
時間は、闇が広がる深夜の時間帯まで戻る。
焼け落ちたジョースター邸跡で、瓦礫をどかしながら探索する人物がいた。
「ウウウ ヘェッヘェッヘェッヘェッ! あったあるね」
その人物とは…ジョースター邸の騒動の最中に逃走したワンチェンだった。
彼の視線の先にあるのは、地面に埋まっている【石仮面】があった。
「3日前の惨事にはほんと驚いたね…」
証人として連れてこられるや、あんな大事件に発展するとは思わなかった。
命惜しさに隙をついて逃走したが…幸いな事に、怪物となったディオはあの火災で灰と化した。
生き残った実子のジョナサンは葬儀等で忙しいため、まだこの跡地に訪れていない。
…これはチャンスだと思った。
ワンチェンは【石仮面】に目を付けた。
人を異形の者に変えてしまう危険な効果はあるが、使い様によっては金儲けができる。
「この仮面…金になるよ…ひともうけしてやるね」
ウヘェェヘヘヘヘヘとニヤニヤしながら、【石仮面】を掴みとろうとした、その時…
「ひええーッ!!」
ガバアッと地面から焼け爛れた手が出現した。
驚愕するワンチェンの腕を掴むや、ドスドスドスッと四本の指を注射器のように
突き刺した。
「ぎゃあああス!!!」
突き刺された個所から生命エネルギーを吸い取られていき、ワンチェンは悲鳴を上げる。
同時に、ゴバゴバァと瓦礫の中から…『その者』は這いずりながら出てきた。
「う…う…う…ジョ…ジョ……ステ…ラ……」
…ディオだった。
死んだと思われた彼が何故生きていたのか?
(あの時、柱が崩れて女神像が壊されていなければ…どうなっていたか!)
火事で崩れ落ちた柱が、ディオを拘束していた女神像を破壊した。
解放されたディオは力を振り絞り、柱の中に逃れたのだ。
(ジョジョ、ステラ……あの二人は危険だ!
あいつらがいる限り、このディオの野望は泥で作った城の如く壊されてしまう…ッ!!)
ディオはギリッと唇を噛みしめる。
最大の障害であるジョナサンとソラを今すぐにでもこの手で葬りたい気分だ。
(ぐッ……だが、この状態では…ッ)
全身に大火傷を負っている万全でない状態では、返り討ちに合うかもしれない。
それとあの赤毛男…アクセルの存在もある。
あの男の操る炎の術は侮れない。
(俺には…足りないものが多い。まずは傷を癒さねばならない)
ワンチェンから得た生命エネルギーにより、どうにか上半身を動かせるまでに回復した。
しかし、傷を癒して力を取り戻すためにはもっと多くの生命エネルギーが必要だ。
(同時に、使える駒…忠実な下僕もいるな。
やらねばならん事がいっぱいある…)
ギンギンと獰猛な獣のように目を光らせ、ディオは闇夜を見上げる。
(失敗はくりかえせん、慎重に事をやらなくてはな…)
ディオの背後で、倒れていたワンチェンが徐に立ち上がった。
「今から…お前はこのディオの従者だ。
これから手足として動いてもらうぞ」
「………仰せのままに」
ディオの力で、屍生人となったワンチェンは片膝をついて首を垂れる。
ディオは口端を吊り上げて、笑い声をあげた。
「フハハ…ハハハ…! 待っていろ、ジョジョ、ステラ…!!
このディオが完全復活した時! その時こそが!
貴様らの終わりとなるのだァアアア!!」
こうして、恐るべき闇は静かな復活を果たした。
「ディオが…生きている…?」
突如、もたらされた驚愕の事実に、ジョナサンは時が止まるような感覚に陥った。
「残念ながら本当だよ、ジョナサン・ジョースター君」
その情報をもたらしたのは、謎のイタリア人の紳士…ウィル・A・ツェペリであった。
ツェペリはとある事情から【石仮面】を探しており、その過程でジョースター邸で
起こった悲劇を聞きつけたようだ。
「二日前に、中国人らしき人物がジョースター邸の跡地に向かっていたという証言がある。
その後、その人物は店にも戻らず行方不明だと聞いた」
ツェペリの言葉に、ジョナサンはあの証言者であったワンチェンの事を思い出す。
あくまで憶測だが、ワンチェンはジョースター邸の焼け跡で金目になる物でも
探していたのだろう。
その際に…信じたくないが、生きていたディオと遭遇して殺されてしまった可能性がある。
「そして、あの【石仮面】もまだ壊れていない……!
【石仮面の男】ディオが持っている!」
なんという事だ…とジョナサンの全身が震える。
まさか、想像以上の最悪の事態が起きているなんて
…思考を放棄したくなってしまう。
だが、ジョナサンはグッと両手で拳を作り、気力を震い起こした。
「貴方は…何故、【石仮面】を知っているんですか?
そもそも【石仮面】とは一体…何なんですか?」
「話をしてもいいが…」
ツェペリはちらりと後方を見つめる。
二人が話しているところからやや離れた川辺に…エリナとソラがいた。
ソラは、エリナの膝元にちょこんと座っており、エリナは優しい眼差しを
向けながら何か話している。どうやら、御伽噺を聞かせているようだ。
「彼女達にも同席してもらうかね?」
「…いいえ、僕一人だけでお願いします」
ツェペリの確認の問いかけに、ジョナサンは緩慢に首を振った。
あの事件からまだ日が浅い。
あんな凄惨な現場で生き残れただけでも、奇跡に近いのだ。
これ以上…二人を巻き込みたくない。
(ディオが生きているなら…確実に僕達を狙うはずだ。
でも、この数日の間に奇襲をかけてくるどころか…
姿すら見せようとしなかった。
そうなると…ディオは、まだ完全に動ける状態じゃあない)
実際、ジョナサンの読みは当たっていた。
ディオは大火傷を負っていた事で、回復に専念している最中だ。
形容しがたい不安はあるが、こちら側にも何らかの対策を講じる時間がある。
その事が、ジョナサンの心に広がろうとしていた不安を打ち消した。
(…ディオの事だ。今度は入念に計画した上で僕達を襲撃してくる…必ず!)
特に、ソラは危険だ。
ジョナサンに加護を与えて、特殊な力を授けたあの場面を目の当たりにした
ディオは、迷う事なくソラを手にかけるに違いない。
(エリナとステラを…二度とあんな怖い目に合わせたくない…ッ!)
ジョナサンは、真っ直ぐな目でツェペリを見据える。
「教えてください。【石仮面】の事を…」
「うむ、いい目だ」
ツェペリは満足そうに頷くと、本題に入った。
…自らの過去と【石仮面】との因縁について。
*** ***** ***
「ジョジョ、あの男の人と何を話しているのかしら…」
つい先程まで、御伽噺を語っていたエリナが少し心配そうに遠くを見つめる。
その先には、恋人であるジョナサンと…『旅行者』だと言っていたイタリア人がいる。
彼等は真剣な表情で話をしているようだが…どんな内容なのだろう?
「ふぅ…じょーちゃん」
膝に乗っていたソラがいつの間にか降りて、トコトコとジョナサンのもとへ
行こうとしていた。
「ステラ、もう少し待ちましょう」
「…ぶぅー」
エリナにストップをかけられ、ソラは不満そうだ。
「ジョジョは今、あの人と大切なお話をしているの。
邪魔したらダメよ」
エリナが優しく諭すように説明すると、ソラは仕方なさそうに止まった。
いい子ね…とソラの頭をエリナは撫でる。
「そういえば…アクセルさん、まだ来ないわね。
どうしたのかしら…?」
屋敷跡で別れてから、彼是二時間くらい経っている。
アクセルは依然として現れる気配がない。
アクシデントでもあったのか…とエリナは心配になってきた。
「ふぅ…!」
その時、ソラが目を大きく見開いて地べたに座り込む。
何かを見つけたのか、小さな両の手でそれを掴んだ。
「どうしたの? あら…」
一体、何を捕まえたのかしら…と覗いてみると、ソラの手に握られていたのは
…【毛玉】だった。
「ぴぃ…ぴぃぴぃ」
その【毛玉】は鳴き声を出し、それに応えるようにソラはぱっと両手から
【毛玉】を放した。
…明るいオレンジ色の丸い雛だ。
ふわふわした毛並みで、キリッとした目付きをしているが、とても可愛らしい。
まぁ…とエリナは思わず頬を緩めてしまう。
「かわいい…珍しい色の雛ね」
「ぴぃ…ぴぷぴぴぴ、ぴぴーぴぴぴっ!」
すると、オレンジ色の雛が鳴きながら小さな羽を上げたり、ばたつかせていく。
まるで、人間のようにジェスチャーをしているように見えて、エリナは小首を傾げる。
「あんね、えりちゃん。こにょこ(この子)、らんちゃん」
すると、ソラが言葉を翻訳したのか…雛の事を紹介した。
「らん、ちゃん? もしかして、この子の名前なの?」
「うん!」
「ぴぃ!」
エリナが聞き返すと、ソラは大きく頷いた。
彼女に同意するように、オレンジ色の雛…ランも上下に身体を動かす。
「そう…ステラ、この雛…ランは貴女のお友達なのかしら?」
「うん!」
ソラは再び首を縦に振る。
ランは目をパチクリさせると、フルフルと小刻みに震えている。
心なしか、目がうるうると潤んでいるようだ。
エリナはふと気になった。
【友達】だと主張するからには、ソラは既にどこかでランと会っていた事になる。
「ランとはどこで初めて会ったのかな?」
「ぱるしゃん、とこ!」
ソラの口から先日、聞いた単語が飛び出してきた。
『ぱるしゃん』というのは、もしかしたら特定の場所か、人物の名前を
指しているのだろうか。
「―――『エリナ』」
自らの名前を呼ばれ、エリナはハッとした。
振り返ると、イタリア人の男性と話を終えたジョナサンが立っていた。
「ごめん、待たせたね」
苦笑して謝る恋人に、エリナも微笑みを浮かべる。
「いいえ、大丈夫ですよ」
エリナはそう返すや、離れた場所でこちらを眺めている例のイタリア人に
目が留まった。
「あの御方は、どういったご用件で貴方に…?」
つい気になってしまい、その事を尋ねてしまった。
「あの人…ツェペリさんは、父の知り合いだったみたいでね。
昔の父との思い出話につい花を咲かせてしまったんだ」
ジョナサン曰く、ツェペリ氏はジョースター卿と仕事上で親しい仲だったとの事。
旅行中に、ジョースター卿の訃報を聞いて息子であるジョナサンのもとを訪れた。
話をしていく内に、お互いに意気投合して…そのおかげか、ツェペリ氏は英国に
滞在する日程を長くしてくれた。
「ツェペリさんは考古学にも造詣が深くて、僕が書いた論文にも興味を持ってくれて…
これからの事も含めて、相談に乗ってくれる事になったんだ」
「そう…よかったわね、ジョジョ」
ジョナサンは大学を卒業後に家を継ぐと同時に、考古学の仕事にも本格的に携わると決めた。
ツェペリ氏も、亡き知人の息子の夢に協力したいと乗り気のようだ。
「ごめん、エリナ。
暫くの間は…忙しくて会えなくなってしまう」
「気にしないでいいわ。
それよりも…今、ジョジョがやるべき事を優先してください」
申し訳なさそうに理由を語るジョナサンに、エリナは首を緩慢に振って
「心配しないでいい」と伝える。
あの事件で大切なものを一気に失くしてしまった恋人は立ち止まる暇もなく、
前に進まなければならない。
今までとは異なり、長い時を経てようやく心を通わせる事ができたのだ。
ここで我儘を言って、彼を困らせる事はしたくない。
どんな形でもいいから、彼の事を見守り、応援していこう…とエリナは密かに決意した。
そんな二人の様子を間近で眺めていたソラは思った。
(じょーちゃん…へん)
ジョナサンとエリナは二人とも仲良く話をしている。
けれども…ソラは、ジョナサンが纏う空気がいつもと違って穏やかではないと
感じ取った。
(ぽんぽん、いたいん…(お腹痛いのかな…)?)
幼子故に漠然とだが、ソラは契約者である青年に自分達には何かを隠している、
そんな気がした。
…体調でも悪いのだろうか?
…嫌な事でもあったのだろうか?
ソラの心に、モヤモヤしたものがちょっとずつ広がっていく。
「ぴぃ、ぴぴぴぴ?」
すると、ランが小首を傾げるようにソラに話しかけてきた。
「うん、じょーちゃん…どしたん(どうしたんだろう)?」
ソラは、ランに自分の今の気持ちを素直に教えた。
ジョナサンの事が凄く心配である事を…。
「ぴ、ぴぴぷ…ぴぴぴっ」
ソラの不安を和らげるように、ランは彼女の手に寄り添った。
【生存していた悪意と、ジョナサンの決心】
「はい、お待たせ。当店自慢のミルクシチューだよ」
夕方を過ぎて、夜の中盤に差し掛かった頃…アクセルとロクサスは町にある
宿屋の食堂にいた。
予め、ダスクに値段が手頃で安全な宿屋を探すように命じていた。
ソラ達と合流して話が一段落した頃には見つけ出していたので、
すぐに二人は此処へ直行する事ができた。
さらに、宿屋の女将が良心的なタイプの人物であった事が幸いだ。
アクセルとロクサスを普通の客として迎えてくれて、夕食の特製シチューを
大盛りにするサービスをしてくれるなど気前もいい。
「うん、うまい!」
「そう言ってくれると嬉しいねぇ~。
よかったら、おかわりしていいよ」
ロクサスは、具がたっぷり入ったシチューを堪能している。
当初はカレーライスが食べたかったが、此処では取り扱っていなかったため、
やむなく女将のおすすめ料理に決めた。
…その選択をしてよかった、と本人は実感している。
「はぁ…」
「アクセル、食べないのか?」
宿屋に到着する前から眉を寄せている親友に対し、ロクサスは心配そうに
声をかける。
「ああ…食ってるよ」
そう言いつつも、アクセルは匙を持ったままシチューに手を付けていない。
…ロクサスは分かっていた。
親友がいつになく悩んでいるその原因が、『ハーパル』という導き神からの
依頼である事を。
「アクセルはどうしたいんだ?」
ロクサスはシチューを味わいつつ、率直に尋ねた。
簡単に解決しない問題だが、一人で悶々と思考にはいるより、二人で話し合った方が
いいと思ったからだ。
「本音を言えば…ふーを厄介事に巻き込みたくない」
「うん、俺も同じだ」
「だが、ジョジョが絡んでくるとなると、ふーは絶対にあいつから離れねえだろうし…」
あー、どうすりゃいいんだ…とアクセルは後頭部を掻く。
そんな親友の様子を見ながら、ロクサスは五時間前の出来事を振り返った。
【To Be Continued… ⇒】
※久々の更新です。