「ふーちゃん、いらっしゃい」
「あーい」
【クロト=メグスラシル】のカフェ・レストラン、ムーンライトは、お昼を過ぎてお客もほとんどいない状況だ。そこのオーナーであり、ソラと同じエクレシアである女性…コゼットは遊びに来たソラを快く出迎えた。
「ふーちゃん、あしょぼー」
「いーよ」
一歳年上の息子が遊ぼうと呼びかけると、ソラは笑顔でそれを了承する。
厨房内を器用に潜り抜けて、奥の部屋へ向かう二人。
「今日はクッキーにしましょうか…それともパンケーキがいいかしら」
コゼットは、食器の片づけをしながら三時のおやつを思案する。
ちらりと開いている戸の隙間を覗くと、二人は積み木で遊んでいるのが見えた。
「店長、俺はパンケーキ三段重ねを希望しまーす!」
「あら、デミックスさん。いらっしゃいませ」
顔見知りのお客がいつの間にかきていた。
薄い茶の髪を立てたヘアースタイルの青年、デミックス。
13機関のメンバーの一人であり、主に情報収集をメインに活動している。
肩を右手で揉みながら、あ~といかにも疲れたと言わんばかりに呻く。
「お仕事帰りですか?」
「そーなんだよ。もぅ、あのバッテン傷、人使いあらすぎだ!」
「よく言うぜ。仕事に託けて女ナンパしてただけだろうが…」
隣のカウンター席に座る燃えるような赤いツンツンした髪型の青年、アクセルがそうぼやく。
今回の任務は二人一組で、新たに発見した世界の情報収集を行っていたようだ。
「まだ始めたばっかだから、なんとも言えねぇけど…国や村、地域単位で調べるとなると…今回も相当な時間がかかっちまう」
アクセルは遠い目をしてそう言うと、そっと出された出来立てのブラックコーヒーにミルクと砂糖を入れ、スプーンでかき回す。
調べてきた情報は、すぐさまエクレシアの元へ連絡がいく。
これは、かつて【世界を乱す側】であった彼らが【世界を守る側】となり、エクレシアの一人と契約した際の条件の一つだ。
彼らの情報網は伊達ではない。
その世界毎の生活習慣から、国家単位の機密事項に至るまで、幅広いネットワークを構築している。敵に回ればかなり厄介だが、味方となれば心強い組織だ。
いつか謀反を企てるのでは…と懸念する声もある。
昔の彼らならあり得ただろう。
けれども、今の彼らは違う。
契約を交わしたエクレシア…【彼女】を裏切る事はまずありえないからだ。
その【彼女】の娘であるコゼットは、フライパンを振って生地を裏返しする。
お皿に綺麗に焼きあがった生地を三段乗せると、傍にバターと生クリームを添えて、デミックスへ差し出す。お好みでつけてもらうために、シロップ入り容器も横におく。
「はい。お待たせしました」
「うひょー、待ってました!」
出来立てほやほやの三段重ねのパンケーキに、デミックスはポンッと両手を合わせる。
ナイフで大きめに切り分けて、フォークでぱくっと口へ運ぶ。
「くぅ~…うまーい! 具が大きーい♪」
称賛の言葉を発するデミックスに、コゼットは作った甲斐があるとほんのり笑みを浮かべ、アクセルは呆れたように肩をすくめる。
さて…子どもたちにももっていこうか、と二つの小さなお皿にのせたパンケーキを運ぼうとしたその時…ままーと息子の声が耳に入った。
「ままー…ままー!」
「どうしたの? くーちゃん……あっ!」
困惑したようにこちらを見上げる息子。
つい先程まで、仲良く遊んでいた友達がいない事に、コゼットははぁ…と息を漏らして
額を手で覆った。
【いなくなったこねこにん】
「えっ、ふーちゃん、またいなくなったのか!」
「能力が発動しちゃったみたいで…どこに行ったのかしら」
ソラは、まだ幼い故に能力の制御の仕方が解らない。
そのため、無意識に転送魔法を発動してしまい、他の世界へ飛んでしまう事もしばしば。
面識のある人の所ならまだいいが、見知らぬ異世界や危険な場所であったらとんでもない事になってしまう。
「しゃーねーな…」
コーヒーを飲み終えたアクセルが席から立ち上がる。
「ちょいと身体動かしてくる。デミックス、報告頼むぜ」
「えっ…ええ~、アクセル! 支払まだ…」
たまにはおごれ、と言い残すと、アクセルは狭間の闇へ姿を消した。
【To Be Continued… ⇒】