艦これネタ置場   作:歌猫

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夜が苦手な川内ちゃん(偽)
1:目が覚めて艦娘


 見渡す限りの青い空と白い雲、そして広がる海。穏やかな波音が聞こえる砂浜で、私は思わず呟いた。

 

「なんでやねん」

 

 思わず関西弁を使ってしまったけど、私は関西人じゃない、九州人だ。

 まぁ、そんな誰に弁明しているのか分からない自分に呆れ、それで少しだけ落ち着いたので、一先ず太陽が当たらない場所に移動する。それから、私が措かれている状況を把握するために、記憶を洗うことにして――

 

「……あれ?」

 

 ――自分の名前が思い出せず、早速頓挫した。名前どころか、家族や友人すら思い出せない。その癖、自分の趣味や好き嫌い、漫画やアニメ、ゲームネタといったどうでも良いことは覚えているという記憶の片寄り具合に、我がことながら頭を抱える。

 待って、待とう。落ち着け私。確か昨日は休日で、家でのんびりだらけていた筈だ。それでまぁ、最近になって始めた艦これを怠惰にプレイしていて、夜の九時にパソコンの電源を落とし、九時半には布団に潜って寝たはずである。うん、それは覚えている。

 だというのに、私は何故、自分のことの殆どを忘れ、無人島っぽいところの浜辺で寝ていたのだろう。謎だ。

 

「…………小説におけるこういう時のお約束は、寝る前にプレイしていた艦これの世界に艦娘に成って迷いこんだ、だよねぇ」

 

 そんな馬鹿な、と自分でもそう思う。でも、制服や礼服以外でスカートを履かない人間が、膝上十センチ以上の短さのボロボロのスカートを履いている時点でお察しだ。ついでに言うと、腰に着いている壊れかけの魚雷艤装とか、肩回りの肌の露出具合とか、その癖ボロボロになっている白いマフラーを巻いていたり、本来ならば中々にカッコいい筈の壊れかけの手甲を着けていたりと、明らかに艦娘要素満載だ。というかこの格好、私の好きな艦娘の一人である夜戦忍者川内ちゃんだ。しかも改二。

 でも、やっぱりこれは現実ではなくて夢だろう。何せ、大破レベルのダメージがあるみたいなのに、痛みを全く感じないし。その癖暑さは感じるのは、多分冷房を消して寝ているせいだ。喉が渇いたと感じるのも、お腹が空いたと感じるのも、きっと全部気のせい――

 

「――――だったら、良いんだけどねー」

 

 乾いた笑いを浮かべ、一つ溜息。うん分かってるさ、現実逃避してるって。でも、現実逃避ぐらいさせてほしい。何せ私は平成初期生まれの半ゆとり世代。争い事なんて体育祭のような平和な行事や、一人の男子をめぐって二人の女子とその友達が喧嘩をしていたところを外野で眺めていた位しか覚えがない。それにしても当時も思っていたけど、何で二股掛けた男子ではなく、後から付き合い始めた女子をこぞって責めていたんだろう。その娘は男子から「もう別れた」と言われたから付き合い始めたらしいのに、本当に謎である。不誠実野郎マジ爆ぜろ。

 …………うん、何でこんな本当にどうでも良いこと覚えているのに、自分の名前を思い出せないかなぁ、私。

 ともあれそんな、戦争のせの字も知らないような平和ボケ人間が、いくら艦娘に成ったとはいえ深海棲艦という化物相手に戦うとか恐くて仕方がない。そもそも私は半ヒッキー。体を動かすことに抵抗はないけど、春や秋のような過ごしやすい季節ならともかく、それ以外で外に出るなんて、仕事や友人と会う時以外は御免蒙る。

 そう深い溜息を吐いていると、お腹が激しく自己主張しはじめた。それを耳にした私は、最初の行動を決める。

 

「とりあえず、食べ物でも探そう」

 

 人間が生きていく上で必要なのは、栄養バランスの取れた食事と水、そして睡眠だ。それが艦娘に当てはまるのかは分からないが、空腹には違いない。

 そういう訳で、まずは腹ごしらえ。幸い近場に森があったためそこに潜り、手頃な果物を手にして口に入れる。食感や見てくれからしてリンゴだろうが、馴染みの甘味を感じない。まぁ所詮天然物かと、喉と腹が満たされていく感覚を頼りに、一つ、二つと食べていく。

 三つ食べたところで充分に満たされたため、リンゴ(仮)の樹の枝からひょいっと飛び降りた。夜戦忍者と称されることだけはあり、この身体はかなり身軽だ。手入れされていない森の中を彷徨いていても、疲れ一つ感じない。流石艦娘、と感心しながら、土の水気を頼りに水場を探す。果物でも水分は取れるが、飲み水はやっぱり欲しい。ついでに言えば、長いこと潮風に当たっていたのか体がベタついているため、水浴びもしたい。

 

「お、川発見」

 

 そうこうしている内に、足首まで浸かるか浸からないか程度の深さの川を発見した。小さい頃に遊んだ田舎の川辺に良く似ていて、とても綺麗だ。蛍が生息しているかもしれないなぁとワクワクしながら上流へ。そこで漸く、綺麗な泉を見付けた。

 両手で水を一掬いして口に含む。リンゴで軽く癒えていた渇きが一段と減っていき、それが堪らなく気持ち良くて、泉にそのまま顔を突っ込んだ。

 

「――――ぷはっ! あー美味しかった!」

 

 喉の渇きも癒えたところで、私は漸く人心地付く。波紋が治まった水面に映る想像通りの顔立ちに、思わず苦笑いを浮かべた。

 

「あー、やっぱり川内ちゃんか……」

 

 ワンポイントの洒落た髪飾りは着けていないし、サラサラであるはずの髪は血か原油かで一部固まってパサパサしていたりするが、間違いなくあの夜戦大好き残念美少女忍者、川内改二である。

 改二まで近代化改修をされているからには、間違いなくどこかの鎮守府所属の艦娘だろう。それがどうして無人島で一人ぼっちなのだろうか? 自ら囮になり仲間を逃がしたか、或いはブラック鎮守府から逃げ出したのか。まぁ、今はそれを考えても仕方がないため棚に上げておき、私にとっては今一番のツッコミどころを口にした。

 

 

 

「夜に弱い川内改二って、欠陥品にも程があるよねぇ……」

 

 

 

 夜の九~十時に寝て、朝の五時に起きる。今時の小学生ですらあり得ない早寝早起きが習慣付いている二十代喪女。

 それが、私という人間だった。

 

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