お腹を満たし、喉を潤し、身もそれなりに清めたところで、私はこの島を探検することにした。寝床に適した場所や、資材――欲を言うなら、高速修復材を見付けたい。傷は塞がっているし、痛みは一切感じないけど、服や艤装がボロボロのままじゃ、やっぱり心許ないからだ。
艤装を直したところで深海棲艦と戦うかと問われればノーとしか答えようがないけど、こんな訳の分からない状況で死ぬのは真っ平御免だ。深海棲艦に襲われた際の逃げるための手段は多いに越したことはない。
「それにしても、本当にふっかい森だなぁココ……」
大破しているとはいえ、艦娘は艦娘。草木を掻き分けながら移動しても体は疲れないが、精神的には疲弊する。コンクリートジャングルよりも緑溢れる山が好きだけど、ただ鬱蒼と繁っているだけの場所は、怪我をしないように気を付けて歩く必要があるため、ろくに景色も楽しめない。
足元に気を取られず、気軽に探索できて、景色を楽しめる。そんな一石三鳥の方法はないものかと辺りを見渡して、ふと、あることを思い付く。本来の自分であれば間違いなく不可能だが、川内ちゃんになっているお蔭で身体能力は格段に上がっているし、案外簡単に出来るかもしれない。
「……よっし、駄目元でやってみるか!」
小さい頃に憧れていた、カ○レンジャーみたいになれるかもしれないしね!
「いいぃぃぃやっほぉぉぉう!!」
ヤバいヤバいすっごい楽しい! 川内ちゃんのスペックなら、木の枝に跳び乗って移動できると思ってやってみたけど、本当に出来た!
子供の頃に憧れていた、忍者ごっこが出来るとか嬉しすぎる。木の上からの探索だから遠くまで見られるし、藪に足を取られる心配もないし、蛇みたいな危険生物に這い寄られても気付ける程度には死角がない。木々を跳び移るから体力こそ減るけど微々たるものだし、寧ろ精神的な疲労は減るから圧倒的にメリットの方が大きい。これからの移動手段はこれに決定だ。
「…………っとと」
上機嫌で移動していると、森が途切れた。島の反対側に辿り着いたと言うよりは、恐らく島の中心部に辿り着いたのだろう。森に囲まれた中にぽっかり空いている広場みたいな土地には、荒れてはないが手入れもされていない様子の田畑と庭に、聳え立つ塚のような大岩。それに反して、妙に状態の良い平屋建ての日本家屋が鎮座している。
(…………怪しい)
うん、とっても怪しい場所だ、特に家。人が住んでいるにしたって綺麗すぎる。逆に人が住んでいない場合は、田畑や庭はもっと荒れているだろうし、益々家が怪しく見える。
(でも、嫌な感じはしないんだよねぇ……)
霊感という程優れた感性は持ち合わせていないが、場の善し悪しくらいは察することが出来た直感が、あの家は安全な場所だと告げている。安全な寝床を探していたところだし、ここは直感に従うことにしようと、なるだけ息を潜めて平屋に近付いた。
「うん……?」
平屋まで後五メートルといったところで妙な違和感を覚え、思わず立ち止まり辺りを見渡す。目で見える範囲には特に異常がなかったが、ふと気になって数歩程平屋から遠ざかり、再び近付いた。
「あー……成程、これ聖域だ」
丁度この場を境目に平屋側に入ると、由緒ある神社と同等かそれ以上に清浄で凛とした空気を感じる。ぐるっと平屋を回り確認してみると、境界線の内外の差が分かる程度に違う。一体何があるんだこの場所は。
「…………まぁ、考えてても仕方がないか」
取り敢えず、塚と思わしき大岩に挨拶してから、平屋を使わせてもらうことにしよう。神社の作法なんて知らないが、気持ちと丁寧さがあれば多少のお目こぼしは貰えるだろう…………多分。
塚の正面と思わしき場所に立ち、姿勢を正して一礼してから、静かに手を合わせ、目を瞑る。体感で十秒程経ってから目を開けると、塚の下の方に小さく何かが彫ってあることに気付いた。私は塚に近付いてしゃがみ、顔を更に近付け目を凝らす。
「えーと何々……『共ニ戦イ抜イタ刀剣男士達ニ感謝ヲ込メテ――審神者1192号透ヨリ』………………ファッ!?」
『刀剣男士』に『審神者』ってことは、ここは本丸か!? え、ここ艦これの世界じゃ無かったの!? 刀らぶと混合…………いや、未来が艦これ? 二次創作とかで逆の時系列は見たことあったけど……こいつは驚きだ!
「こんらんしているな、だいじょうぶか?」
「うぇ……あ、はい! 榛な……じゃなかった、私は平気――って妖精さんいつの間にっ!?」
突然降りかかってきた声に、私は思わず顔を上げる。そこには、着物とセーラー服を着た十人前後の妖精達が、男女揃ってこちらを見下ろしていた。