艦これネタ置場   作:歌猫

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3:治療して発覚

 「まぁ、こみいったはなしはなかで……」と、妖精さんに促され、私は本丸(仮)に上がらせてもらった。すぐにお話しするのかと思えば、「そんなよごれたかっこうでたたみにすわらせてたまるか」と、風呂場に早々に叩き込まれた。水浴びではやっぱり完全に綺麗にはならなかったらしい。私としてもお湯に浸かれるのは有難いため、文句も無い。

 

「おー……」

 

 本丸(仮)の風呂場は、床はツルツルした石、浴槽は檜と正しく和と言わんばかりの様相だった。まるで温泉旅行に来たみたいだと感動していると、私をここまで案内してくれた妖精さんが、シャワーの操作口へと飛び乗った。

 

「つかいかた、わかる?」

「多分平気……あ、でも間違ってたらいけないから、一応教えてくれないかな?」

「ん、わかった」

 

 妖精さんは私にシャワーの使い方(平成のシャワーと大して変わらなかった)を教えてくれた後、浴槽のお湯に何かしらの粉と緑色のジェルを入れてから出入口へ向かう。

 

「待って妖精さん、さっきお風呂に何入れた」

「ちょうごうしたやくとうのもとと、こうそくしゅうふくざいのいちぶ」

「へ……?」

「そのいたいたしいけが、ちゃんとなおしてください。じゃあ、ごゆっくり」

「え、あ……うん、ありがとう」

 

 ピシャリと戸が閉まる音を最後に、私は早速体を洗うことにした。

 

 

 

「おおぉ……!!」

 

 痛みを感じないことを良いことに、傷だらけの身体を丁寧に洗った私は、湯船に浸かった瞬間感嘆の声を上げた。

 

「本当に傷が治ってる……!!」

 

 無数にあったはずの傷が跡形もなく消え、白くて綺麗な肌になる。痣で青くなっていたところも完全に無くなり、その様子が面白くて、私は思わず目を輝かせた。それが今の自分の身体であれ、あっという間に綺麗になっていく様子を眺めるのは結構楽しい。テレフォンショッピングのクリーナーの宣伝みたいだ。

 

「本当に、艦娘になったんだなぁ……」

 

 並外れた運動神経と体力を体感した時もそう思ったが、こうも簡単に傷が治る様を見て、改めて私は苦笑いを浮かべるのだった。

 

 

 

 お風呂から上がって身体を拭き、脱衣所に上がる。籠に置かれてあったのは、さっきまで着ていたボロボロの制服じゃなくて、空色と白のストライプ浴衣と藍色の帯だった。益々旅館みたいだと思いながら着衣し、脱衣場から出る。

 

「ゆかげん、どうだった?」

「うん、気持ち良かったよ~……って、妖精さん、まさか待ってた?」

「すこしだけ……でも、よそうよりもはやい。…………ちゃんとけが、なおるまではいった?」

「え、うん……多分。見える範囲の怪我は全部治ったよ?」

 

 ほらほら、と、腕や足、胸辺りの肌を見せると、妖精さんは少しばかり気難しい表情を浮かべた。

 

「せなか」

「え?」

「せなかはなおった?」

「背中? あーそこにもあったのかー……」

 

 妖精さんの雰囲気から、余程の怪我だったのだろう。痛みを感じないのも良し悪しだなと思っていたら、右頬に何かが刺さる感覚がした。痛くはないが、刺さった場所から水滴が流れる感覚がするに、尖ったものでも刺してきたのだろう。

 

「…………何するのさ、妖精さん」

「つうかくなし、しょっかくもにぶいみたいだね」

「そのためだけに、人の顔傷付けたの?」

「だいじょうぶ、なおる」

 

 私を刺したであろう銛で、妖精さんは再び風呂場を指す。私は深く溜息を吐きながら、再び入渠する羽目になった。

 頬の傷はすぐ治ったが、背中の傷は最初に浸かっていた時間の倍以上かかった。どんだけ酷い怪我だったのさ、私。

 

 

          *   *   *

 

 

 不貞腐れた表情で、即席の入渠風呂に再び浸かっている川内の背中を眺めながら、彼女は深く溜息を吐いた。

 まだ鎮守府に建て替えていない本丸がある島に迷い込んだ川内は、生きていることが奇跡なくらいボロボロで。それなのにどうしてあそこまで自然に行動できるのか、彼女はとても不思議に思っていたが、川内と接していることでその理由を把握する。

 

(まさか、つうかくがないとは……)

 

 更に弊害として、触覚も鈍い。割と深く刺したのにも拘わらず、たっぷり二十秒経ってから漸く気付いたのがその証拠だ。これは益々物議が醸されるな、と思いながら、彼女はFNW(妖精さんネットワーク)に思念書き込みをした。

 

 

 

285:妖精D@じじさま本丸

迷い込んだ夜戦忍者(大破)、痛覚が完全に無い模様

その弊害で、触覚も鈍し

 

 

 

 案の定、反応は劇的だった。多くの妖精が叫んでは憤り、怒り狂う。本霊どころか全ての刀剣の霊格を越えた分霊短刀を輩出した『おひぃさん本丸』所属の妖精等は、「ちょっと艦載機飛ばしてくる」と落ちたぐらいだ。大方、二百年前の『時の政府崩壊危機事件』とつい先日終息したばかりの『名家当主(笑)連続暗殺事件』のトラウマが蘇ったのだろうが、出来れば落ち着いて情報を精査してほしいと彼女は思う。特に『おひぃさん本丸』連中。人間の手を借りずに妖精の力だけで本丸を鎮守府に建て替え、資源や資材の生産ラインを以前のように確立しただけじゃ飽きたらず、艦娘の協力も無しに艤装を操れるようになったとか一体何処へ向かう気だあのバグ共め。

 内心で極一部の妖精に悪態を吐きながら、彼女は川内の背中の傷が徐々に癒えていく様を眺める。そのあまりの治りの遅さに、彼女は小さく舌打ちした。改二まで到っていたからこそ、信じたくない事実。

 

 どうやらこの川内は、妖精の手を借りずに顕現した艦娘らしい。

 

 二百年前のトラウマ事件を鑑みて、妖精達は、私利私欲に走らず艦娘に一定の敬意を払うことが出来る精神を持ち合わせている者にのみ、自分達の姿が見えるようした。妖精達の姿が見える者しか、艦娘に関わるあらゆる職に就けないように人間に徹底させたのだ。その上で提督適性(れいりょく)を持つ者のみが提督になることが出来、妖精と提督が力を合わせて初めて、艦娘が顕現できるというシステムを創り上げた。お蔭で提督の数は少ないが質は良く、戦力になるまでには少々時間が掛かるものの、一定を過ぎればその全てが大きな戦果を上げることが出来るようになるため、国も国民も現状を受け入れている。

 問題は、提督適性を持ち合わせていながら、妖精の姿が見えない者達だ。彼等は、何らかの形で己の適性を知ってしまった。だが、妖精の姿が見えないというだけで、提督どころか艦娘に携われる仕事に就けない。そんな現状を逆恨みし、自らの力で艦娘を顕現させ、深海棲艦達と戦わせることで、己の有用性をアピールし、軍の在り方に横槍を入れようと愚考する輩が増えたのだ。

 勿論、妖精の力を借りずに顕現した艦娘は殆ど顕現されることは無く、顕現した艦娘達も、一日と経たずに消えていく。仮に何日間も顕現できたとしても、正規のやり方で顕現した艦娘の十分の一しかスペックが発揮されず、更には傷の治りが遅いという最悪仕様であったため、非正規提督は憲兵による逮捕も相まって自然と淘汰されていった。その筈なのだが、つい先日の事件により連中が此方の構築したシステムを最低な方法で掻い潜っていたことを知り、現在世界中の妖精達が挙ってシステム構成改訂している真っ最中である。

 それはともあれ、この川内だ。改ニにまで至った違法提督の川内と言えば、先の事件による暗殺実行犯の川内しか思い付かない。だがその川内は、最後の暗殺こそ失敗したものの、ターゲットだった名家当主(笑)の悪事の証拠をこれでもかとばら蒔きまくった後包囲網を逃げ切り、衰弱しきった違法提督と共に息を引き取ったと聞いている。故にこの川内は、それとはまた別の川内のはずだ。となれば、あの違法提督同様の被害者がまだ残っているのかもしれない。

 

 

 

321:妖精D@じじさま本丸

夜戦忍者、背中の怪我の治り具合遅し

非正規提督に顕現された可能性濃厚

総員、各々の所属鎮守府及びその周辺を再び念入りに洗い、報告せよ

 

 

 

 そう思念書き込みを落とせば、妖精達は次々と、FNWから落ちていく。普段は楽観主義で悪戯好きの妖精達だが、今回ばかりは本気も本気。より一層真剣になって事に当たるだろう。

 先日の事件はそれくらい、妖精達にも深い心の傷を与えたのだ。

 

「ねぇ妖精さん。背中の傷、まだ治んない?」

「まだ、しっかりゆにつかって」

「う~、暇だよー……そうだ! 高速修復材を追加すれば良いじゃん!」

「きゃっか。じぶんがどれくらいひどいけがをしていたのか、じかんけいかによってしるべし」

「ちぇー……」

 

 不貞腐れながら肩までしっかりと浸かる川内からは、違法顕現されたような悲壮さが一切無い、極々普通の川内だ。それが逆に歪すぎて、不安だと言わんばかりに小さく、しかし深く溜息を吐くのだった。

 

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