艦これネタ置場   作:歌猫

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集積地棲姫モッチー漂流記
1:始まりは轟沈


「嫌だ! 嫌です、望月! 望月ぃぃいいいい!!」

 

 聞き分けの悪い姉の叫びが遠くなるのを聞きながら、疲れた体に鞭を打って目の前で愉快そうに笑っている、戦艦レ級を見やる。ここは南西海域諸島――本来ならば、レ級が出現するはずもない、難易度の低い海域だ。ならば何故、という思いはあれど、今はそれを考える必要はない。そんなことを考えるよりも、自分よりもずっと練度の低い姉達が、あの化け物から逃げられるだけの時間を稼ぐ方が重要だ。

 幸いレ級は、戦意を失わずに留まっている中破した駆逐艦に興味があるようで、逃げる艦隊を追う様子は無かった。そのことに彼女――睦月型駆逐艦十一番艦望月は、内心で安堵の息を吐く。自分を無視して姉達を追われれば、いくら制限が外されて(ケッコンカッコカリをして)いる望月といえども、追うことは難しい。

 ともあれ、レ級に姉達を追う意思が無いと分かった瞬間、望月はレ級を足留めさせることから、レ級を撤退、あわよくば轟沈させることに予定を変更した。自分が沈む前提で特攻を仕掛け、レ級が満足する戦いをやってのければ、レ級の狂気は完全に無くなり、被害は最悪でも自分が沈むだけで済むからだ。

 

「…………ったく、こんなの、私のキャラじゃないんだけどさぁ~」

 

 大きく息を吐きながら、望月は気だるそうな雰囲気を払拭させ、研ぎ澄まされた刃のような空気を発した。そんな望月に、レ級は益々嬉しそうに顔を歪める。

 

「ま、最期くらいは、それでも良っ――かっ!!」

「……アハッ」

 

 刹那、レ級の傍で激しい水柱が立つ。望月が発射した砲弾を、レ級が払った結果だった。しかし望月はそれを想定済みだと言わんばかりに、レ級へと駆けていく。お返しだと言わんばかりに、艦載機の爆撃を、砲撃を、雷撃を、雨霰のように望月へと放っていく。

 その攻撃の嵐の中を、望月は突っ切った。顔に傷が付こうが、腹に穴が空こうが、片足がもげようが関係無い。最悪、頭と両手が無事であれば問題ないとばかりに、攻撃を掻い潜ってレ級に近付いてくる望月に、レ級は益々深い笑みを浮かべ、主砲を望月の頭へと向けた。

 

「――――っだぁ!!」

 

 それを望月は、紙一重で避ける。直撃は貰わなかったものの、余波で左耳が全て削れた。しかし望月はそれすらも頓着せず肉薄し、今まで庇ってきた左手で笑みが絶えないレ級の顎を掴んだ。

 恐らくレ級は、殴るか蹴るか、或いはゼロ距離砲撃をすると思っていたのだろう。僅かに目を見開いたレ級を尻目に、望月は遠慮なく掴んだ顎を振る。

 深海棲艦は人の形をしている程凶悪な能力を有するが、反面対人戦法を利用できるやり易さがあった。脳を揺さぶられ、力なく緩んだレ級の口へと主砲を捩じ込み、望月は今度こそレ級が考えていた通りに砲弾を連続で放つ。内側に響く痛みに直ぐ様覚醒したレ級は望月を剥がそうと、主砲を持っている右腕を掴み力を入れる。それだけで尋常にない痛みが走ったが、望月は決して主砲から手を離さずに撃ち続けた。

 レ級が望月の腕を引き千切るのと、無理な連射が祟った艤装が爆発したのは、ほぼ同時。その爆風に煽られレ級から離された望月は、海面に容赦なく叩き付けられた。

 

(あー……流石にヤベェわこれは)

 

 海面から起き上がろうと、辛うじて無事な左腕と両足に力を入れるが、海面がそれらを支えることなく浸かっていく。どうやら自分は沈むようだと他人事のように思った望月は、緩慢な動作で顔だけをレ級へと向けた。レ級もまた沈んでいるようで、海水に腰まで浸かっていた。どうやら自分は、分の悪すぎる賭けに完勝できたらしい。姉達を逃がしきり、レ級と相討つ。旧型駆逐艦にしては過ぎた成果だなと、自らやっておきながら、そう思う。

 

(あ~も~……随分、満足そーな顔してさぁ……)

 

 こっちは凄く痛いんだぞと、そう文句を言ってやりたいのは山々だが、口が浸かった今それも不可能だ。

 

 

 

「アリ……ガト…………」

 

 

 

 ただ、風に運ばれて聞こえてきた言葉に先程までの不満は掻き消え良かったと思う程度には、望月は結局、他の艦娘達と何ら変わらないお人好しで。そして最期に思い出すのは、己が提督の思い出話。

 

(せめて、レ級を轟ちんさせた……こと、しれーかんに、つたえた、かった……な…………)

 

 あの愛情が捻くれている提督は、ありがとうと感謝してくれるのか、それともふざけるなと罵倒してくるのか。どちらでも想像出来るから、ある意味予想が付かなかった。だが、そんな提督が嫌いではないからこそ、望月は最期に思う。

 

(しれーかん、ホントは、ね……たのし……かった……よ……)

 

 

 

 そこで、望月の意識は途切れた。

 

 そして――

 

 

   *   *   *

 

 

 目を刺激する強い光に促され、彼女の意識は覚醒した。視界に飛び込んできたのは、雲一つない快晴の空に、燦々と降り注ぐ太陽の光。

 

(んあー? 何で私、外にいるんだ? …………あれ? そもそも、私は誰だっけ……?)

 

 それを暫くぼーっと眺めていた彼女は、少しずつ脳味噌を回転させていく。

 

(えーっと……あ~、そうそう。名前は望月、睦月型駆逐艦十一番艦で、ケッコンカッコカリ済。大規模作戦で最近ウチの鎮守府に着任したばかりの二隻とそこそこの練度の睦月達引き連れて、南西諸島海域に出撃……そんでレ級に遭遇し――!?)

 

 そう、帰投途中にレ級と遭遇して、中破していた三日月を庇い被弾。姉達には援軍を呼んでくるようにと頼み一人残り、レ級に特攻をかけて海に沈んでいった。

 そんな記憶を思い出し、彼女は思わず呟く。

 

「エ、ナンデワタシ、イキテンノ……?」

 

 そして自分が出したはずの声に、思わず体を強張らせた。長いこと慣れ親しんでいた声は影も形もなく、しかし無機質で寒気すら感じるこの声質は、聞き覚えがある。彼女は無言で、己の腕を目に見える範囲まで持ってきた。その肌色は、病的なまでの白さだ。

 それを見て、彼女は確信する。

 

「シンカイセイカン……シカモ、ヒトガタトキタカァ…………」

 

 起き上がり、何とも言えない表情になりながら、彼女は困ったように頭を掻く。言葉を話せ、足もあるところから、最低でも戦艦レ級、或いは姫級であることが確定した。何なんだこの異常な超進化具合……と彼女は頬を引き吊らせる。

 

(サシでレ級と相討って沈んだからか? でもなぁ……)

 

 何故、自分は深海棲艦になったのだろう。沈みゆく時、確かに少々の未練はあったが、深海棲艦になってまで晴らしたいかと問われれば、否と答える程度のレベルだ。後悔だって、微塵も無かった。だが現実として、自分はこうして深海棲艦として生まれ変わっている。そのことに、我が事ながら首を傾げる。

 

(あ~分からん、考えても埒があかんわこれ)

 

 どれだけ考えても思い付く要素が皆無だったため、彼女はそのことについて考えるのを止めた。深海棲艦になってしまったことは仕方がない、ならば、これから先のことを考えよう、と。人これを棚上げ、或いは先延ばしと言う。

 

(……取り敢えず、私がどの艦種になったのかから調べっか)

 

 

 

 そうして島を彷徨うこと数時間、放棄されたらしい老朽化した建物にあった鏡で今の自分の姿を見て、彼女は乾いた笑いを浮かべた。

 艦娘だった時に着けていたものと同タイプの眼鏡、ヘッドフォンのような電探に、長い髪を三つ編みにしてマフラーのように首に巻いている、その姿は。

 

「ウワァ、ジョーダンガホントニナリヤガッタ……」

 

 仲間内から「アンタが成長したらああなるんじゃない?」と言われ、そのあまりの硬さと敵旗艦の庇いっぷりに「デカイ望月邪魔です!」とまで言われ、物資が燃やされる度に嘆いては戦闘以外のことで微妙な気分にさせられた、妙に人間臭い深海棲艦――集積地棲姫、そのものだった。

 

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