蒼きネフィリムの幻想入り 作:半天半人
弟、ダンテとの戦いに敗れたバージルは雪の中を彷徨っていた。彼は何故、ダンテが自分を裏切ったのか理解できなかった。閻魔刀を杖代わりにしながら、バージルはとある場所を目指して歩く。
「ゴフッ!」
しかし、身体は既に限界だった。ダンテに負わされた傷は想像以上にバージルにダメージを与えていたのだ。ゆっくりと身体から力が抜けていき、とうとう彼はその場に倒れ込み、意識を失ってしまった。
*
目覚めたバージルの目に入ってきたのは見知らぬ天井であった。頭だけを左右に動かし、周りを見渡そうとすると1人の少女と目があった。
「あ、目が覚めましたか?」
その少女は、血に塗れたタオルを手に持ちながらバージルにそう聞いてきた。近くに包帯が置いてあることから、大凡バージルについた血を拭い取ったのだろう。
「……何者だ。貴様?」
目の前にいる少女は、人間とそれ以外の悪魔でも天使でもない感じたことのない気配が混ざり合ったような気配を纏っている。それを感じ取ったバージルは警戒しながら少女にそう聞いた。
「私は魂魄妖夢と言います。ここの主人、西行寺幽々子様の従者です。貴方は?」
「……俺はバージルだ。それよりも、ここは何処だ?何故俺はここに居る?」
「ここは白玉楼という場所ですが、覚えてないんですか?貴方は血塗れで倒れていたんですよ?」
「何?確かに気を失ったが、それは雪の中の話だぞ?」
「成る程、貴方は外来人でしたか」
「外来人?」
「その名の通り、外から来た人の事です。ここは結界で外の世界とは切り離された場所なので」
リンボとはまた違うのかと疑問に思いながら、バージルはあることに気づいた。常に身につけていた筈のアミュレットが無くなっているのだ。
「俺のアミュレットがない!?おい、俺が倒れていた場所に何か落ちてなかったか!?」
「落ちていたのは日本刀くらいですけど、何か無くなったんですか?」
「ああ、母親の形見のアミュレットだ」
バージルの切り札の
「なんだ?」
「あ、いえ、あんなに深い傷だったのに、もう治りかけてるのに驚いてしまいまして」
悪魔と天使のハーフである為、それは当然なのだが余計なことは言わない方が吉と考えたバージルは、生まれつき人よりも回復が早いと嘘をついておいた。
「そうですか。では、私は幽々子様にバージルさんが目覚めた事を報告してくるので少しお待ちください」
そう言って、妖夢は部屋から出て行った。残されたバージルは、ただ待っているのも暇なので身体を動かし何処も不調がない事を確かめる。数分後、妖夢は1人の美女と共にやってきた。その美女からは、何故か生と言うものが感じ取れなかった。3人はその場に座り、話し始めた。
「初めまして〜私、西行寺幽々子と言います。妖夢から話は聞きました。災難でしたねバージルさん」
「そうでもない。あのままじゃどの道俺は死んでいただろうからな。それについては感謝している」
「あらそう?それで、貴方は何故あんなに血塗れだったのかしら?」
「ただ、兄弟喧嘩をしただけだ」
「そう、なら仕方ないわね。貴方程の力の持ち主同士がぶつかればそれも当然ね」
「……気付いていたのか」
「当然よ〜仮にもここの主人だもの」
妖夢がいまいち話についてこれてない様だが、それを気にせず2人は話を続ける。が、話の途中で幽々子が空腹を訴え始めたので、妖夢は台所へと駆けて行った。妖夢に手を振って見送った後、幽々子はバージルに向き直る。その目は先ほどまでとは違っていた。
「貴方に聞きたいことがあるの」
「…やっと本題か」
「そうね。でも、これは結構重要な事なの。貴方の力は、確実に幻想郷のパワーバランスを崩すには十分すぎるから」
「そうか。なら、俺を殺すか?」
いつでも幻影剣を作れる様警戒しながら、そう聞くバージル。それを聞いて幽々子は首を振った。
「いえ、そんな事はしないわ。言ったでしょう?聞きたいことがあるって。まあ、返答次第ではそうなるかもしれないけどね。……それで、貴方は幻想郷に害をなす気があるのかしら?」
「無いな。今の所は……だが」
「そう。なら、今は何もしないわ」
幽々子はそう言い、ゆっくりと立ち上がった。そして、バージルを手招きする。
「ほら、行きましょう。いい匂いもしてきたし、妖夢の事だから、貴方の分も作っていると思うわ」
特に断る理由もないので、バージルは幽々子について行った。先程からずっと感じる視線を鬱陶しく思いながら。