無限の剣を持つゴブリン   作:超高校級の切望

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転生者

 それは歓迎されずに生まれた。まず最初にみたのは、嫌悪の、憎悪の、殺意の視線。自分が這い出てきた穴を持つ女の、憤怒の形相。

 年の近い兄弟達はまだかわいげがある見た目。しかし兄、或いは父親達は何奴も此奴も醜い容姿をしていた。

 長い鼻に、長い耳、小さめな瞳、鋭い牙、緑の皮膚。

 母に当たる女をなぶり、痛めつけ、笑う。時折その女を助けにくる、或いは迷い込んだり、自分達を殺しにきた者を殺して、笑う。男は殴り、刺し、女は犯す。男の前で見せつけるように犯すこともある。

 ああ、なんと浅ましくおぞましい生き物か。

 だが、解るのだ。彼らの気持ちが。

 女の悲鳴は心地良い。苦しむ顔と合わせると絶頂すら覚える。

 男はもちろん同胞ですら死に瀕している姿を見ると笑いがこみ上げてくる。

 ああ、おぞましい。なんとおぞましき生態か。

 そのゴブリンには、平和な国の平和な街で生きてきた記憶があった。故に、その記憶と己の性根が噛み合わず途轍もない不快感を抱いていた。

 

 

 

 勝てると思った。ゴブリンになるのは予想外だったが、自分には転生特典があるのだから。

 『無限の剣製』(アンリミテッド・ブレード・ワークス)。fateという作品の中でもかなりのチートに部類されるであろう力。しかし彼は命からがら逃げ出していた。

 そもそも『無限の剣製』(アンリミテッド・ブレード・ワークス)()()()()()()()()()()固有結界。同胞が使う粗末な短剣や冒険者から奪ったであろうただの剣しか持っていない『彼』にはそもそも本来の持ち主のようにチートじみた性能は発揮しえないのだ。

 彼は考える。どうすればいいか。まずは当然、力を付けるべきだ。しかし何処で?同胞の所業を見るに人間の前にでるのは危険だ。となると、心底不愉快だが同胞の群れに混じるしかない、か?

 女はいるだろうか?貸してもらえるだろうか?

 

「─────ZI」

 

 そんな思考になっていた己に舌打ちする。脳の形がそもそも違うのだろう。他者の苦しみを喜びにするそのあり方に、嫌悪を覚える。

 確実に滅ぼそう。その後死のう。この種族をこの世界に一体たりとも残さない。この血を、遺伝子を、必ず消し去る。

 だが、そのためには力が必要で、そのためには同胞に紛れる必要がある。ちょうど群れを見つけた。ゴブリンシャーマンと呼ばれる奇跡を使う個体が長をしていた。

 そこらの獣をかりそれを対価に奇跡を教わることにした。獣を狩るのは、簡単だ。前回の群れで学んだことだが自分には型月世界の固有結界を扱える能力があり、副次効果で魔術回路がある。転生特典上、扱えるそれを検証し強化を覚えた。並みのゴブリンよりよほど優れた成果を出せる。

 ゴブリンシャーマンから一通り奇跡を学ぶと殺した。新しいボスの誕生かと首を傾げていたゴブリン達も殺した。捕まっていた雌達も腹の中にゴブリンが居たので殺した。

 自身の知らぬ奇跡を扱えるゴブリンシャーマンが居たら学んでから滅ぼし、居なかったら滅ぼす生活を続けていると体に変化が現れた。

 肥大化したのだ。人の子ほどのサイズだったその体が少しずつ大きくなっていた。何故か脂肪も付きやすくなっていたので体を鍛える時間を増やした。せっかく付いた肉だ、筋肉にしなくてどうする。

 柔軟もしっかりやり、筋肉も付きすぎない程度に鍛え、食事量を制限する。剣の使い方もだいぶ覚え────負けた。

 ゴブリン共に英雄と呼ばれていた個体。自分もゴブリンより巨体で、しかし大柄なゴブリンに比べると食事制限のせいで小柄。せいぜい長身の人程度だがその大柄な個体を上回るさらに巨大なゴブリン。鎧を着込み剣を振るう。剣の実力は、自分より上。奇跡を放つ隙がなかった。

 そいつはバカだが───ゴブリンじたいバカだが群れのボスは他の個体に比べて知恵を持っていた。大柄だが太っていない、体型的には自分に近いそのゴブリンは王を名乗って、戦力として加われと言ってきた。

 受けなければ死ぬだろう。故に受けた。

 力が必要だ。経験が必要だ。だから襲いかかってくる冒険者には糧になって貰った。強いのも多い、何度か死にかけたが治癒の魔術を練習していたおかげで命拾いした。

 

 

 剣以外にも、鎧などを投影できるようになっていた。しかしその頃には英雄と崇められる存在が増えていた。とんだ失態だ。

 一匹一匹なら勝てる。しかし全部が相手となるとキツい。

 もっと鍛えなくては。それと、間引きもしっかり意識しよう。なるべく生き残りがでないようにしなくては。

 

 

 剣を振るう時剣に加わる力に意識を向けるようにした。今までは膂力にモノを言わせて叩ききってたからな。剣を一目見れば理解する特性上、力の加わり方を知るのは簡単。止まってさえいれば鉄でも切れるようになってきた。それと、ミスリル製の武器を手に入れた。間引きはうまく行き英雄共は増えていない。

 

 

 そういえば、と『彼』は鍛錬をしながら、ふと思い出す。以前とても強い女冒険者がやってきた時、群れのボスが人語で何か言っていた。おそらく命乞いをしていた記憶がある。その女冒険者もボスに背を向け後ろから殴りつけられ今ではハラミ袋にされたあと喰われたが、ゴブリンとは人語を発せられるのだろうか?確かに人型に近く、独自の言語を扱う知能もあるが………。

 いい加減ゴブリン社会に混じるのも嫌になってきた。いい加減というか、最初からだが。鎧で肌を隠して人の言葉を使えば、まあ文明レベルが低いこの世界なら紛れ込めるか?

 ゴブリンは同族意識が薄い。同じ群れでも同胞が苦しむ姿を笑い物にする。他の群れなど知ったことではないし、知ったら取り込もうとするだけ。その点人間ならば家畜や娘を攫うゴブリンを退治してもらおうと冒険者などに情報を渡すはずだ。

 一応ボスに頼み込んでみた。普段全く願い事をしない無愛想な『彼』からの懇願だ。ニヤニヤ笑みを浮かべ、断った。

 ある日新しい雌達が来た。その中には年端もいかぬ子供がいた。まだ孕めぬだろうが性欲処理にはなる。そして、孕めないから直ぐに殺されるであろう子供。『彼』は今までの功績の報酬として寄越せとボスに言った。

 ボスとしてはまた断っても良かったのだが、狭すぎて使い物にならなそうなガキだ。いたぶって遊んで殺す楽しみが減るのはいただけないが今回はだいぶ補充できた。特別に許可を与えると『彼』はさっさと自室に引きこもってしまった。

 『彼』はせっかくの雌を抱かない。今までもそうだった。優秀な遺伝子を残すなんて知能のないゴブリンは目くじらを立てることなく、むしろ回ってくる回数が少しでも早くなるから気にしてなかったが『彼』が専用の雌を持った。味わおうとした輩がいたが四肢の関節に杭を打たれ大きな石を口に咥えさせ蹴りつけ顎を破壊され、のたうち回りながら餓死した。以来迂闊に近づく者は居なくなった。『彼』はこの群で最強なのだ。数で押せば勝てなくはないだろうが確実に半分は死ぬ。誰もその半分になりたくないのだ。

 

 

 

──────────────

 

 

 父親の牛乳売りに、無理矢理ついていった。姉達みたいに父親の役に立ちたかったのだ。その帰りに、ゴブリンに襲われた。父親は殺され、自分は姉達と共に森の奥深くまで運ばれ古い炭坑に入る。

 ゴブリン達の視線が、怖い。身体が震える。木の枝で出来た王冠を被ったゴブリンが一言命じれば、きっと私たちは直ぐに食べられる。そんな不安がよぎる。姉たちはもっと絶望していた。少女と違い性知識がある彼女達はゴブリンが何故人を攫うのか知っているからだ。

 と、そこへ一風変わったゴブリンがやってきた。人に近い体型のゴブリン。漆黒の全身鎧をまとったゴブリンは少女を指さすと何やら呟く。王冠を被ったゴブリンは一瞬顔をしかめ、しかし鎧ゴブリンが言った何かを了承したのか手をしっし、と振るう。鎧ゴブリンは少女の腕を掴むと歩き出した。

 

「ひっ!?や、やめて!はな、放してください!」

 

 必死に叫ぶ少女だがしかし鎧ゴブリンは少女の懇願を無視して通路を進む。道中ゴブリンの死骸が転がっていて、逆らう気も失せた。

 やがて木の板で出来た扉が現れ、その向こうに放り投げられる。開けた部屋だ。部屋の奥の壁と天の境目に穴があり、光が射し込む。しかし、なんというか。ゴブリンの部屋とは思えない。

 ランプがあり、包丁など料理器具があり、鳥などもいる。鎧ゴブリンは火をつけると木組みのベッドに腰をかける。

 

「………………」

「───あ、あの」

 

 言葉は通じないと解っていても、つい尋ねてしまう。不安なのだ、何か話さないと。しかし鎧ゴブリンは何も答えない。沈黙が耳にいたく、と、その時きゅう、と少女の腹が鳴る。

 

「………………」

 

 鎧ゴブリンは部屋の隅の壺の蓋を開ける。取り出したのは生きた魚。腹を捌いて、内臓を取り出すと鳥に与える。魚は、口に棒を刺し塩をつけて焚き火に近付ける。

 

「あ、あの……」

 

 いい匂いがしてきた。ゴクリと唾を飲みもう一度声かける。返答はない。が、魚が差し出される。少女が受け取ると鎧ゴブリンは壺から再び魚を取りだし生で内臓ごと喰らい、少女を眺める。少女は魚にかぶりついた。

 

「─────ん」

 

 特別美味しいというわけではない。塩もこく、所々完全に炭化している。それでも、一心不乱に喰う。そして、漸く涙が流れてくる。父親が殺されたという、受け入れがたい現実を改めて認識する。

 

「ふ、ぐ………ふぇぇ──うえええええん!」

 

 

 

─────────────

 

 泣き喚く少女を見て、心地良い。今すぐにその泣き顔をさらなる苦悶に歪めたくなる。ああ、やはりゴブリンは滅びるべきだな。

 

─────────────

 

 そのゴブリンは不思議だった。ゴブリンというのは生で肉を喰うと聞いたのに、料理して喰うのだ。

 美味しいけど。けど言葉は解らない。自分はいったい何のために彼に生かされているのだろう?飼われている、と言った方が良い。

 鎧ゴブリンは基本的に部屋にいない。ご飯の時と朝に戻ってくるのだ。ゴブリンはもともと夜行性だからだろう。夜の間――ゴブリン達にとっての朝である――は何をしているのだろう?彼につき合ううちに自分もすっかり夜型だ。いや、つき合うも何もお互い完全に無言だし言葉も通じないから勝手に起きてるだけだが。

 この部屋にきて十日ほどだろうか?部屋の外には出ていない。何気に固いのだ、あの扉。

 

「姉さん達、大丈夫かな?」

 

 ゴブリンは思ったより怖くない。姉達も、自分のように美味しいご飯を食べているといいのだが。と、その時扉がガタガタ音を立てて開く。彼が帰ってくるには早い気がするが、と彼の通行の邪魔にならないように壁際に移動する。

 

「あれ?違うゴブリンさん?」

 

 しかし入ってきたのは鎧ゴブリンではなかった。普通の、小さなゴブリン。自分と同じぐらい。鎧ゴブリンとのやりとりで恐怖も薄らいだ彼女は彼に用事だろうかと特に慌てることなくそのゴブリンを見ると、少女を見たゴブリンがニィ、と笑みを浮かべる。

 

「───!?」

 

 その笑みに、恐怖が蘇る。本能的に、怖気が走り背を向けて駆け出し壁に立てかけてあった包丁をつかみ振り返る。が、押し倒された。背中を強打し痛みに呻く。ゴブリンはますます楽しそうに笑みを深め、少女の服を引きちぎる。

 

「い、いや!」

 

 ベロリと滑った舌が未熟な乳房を這いゾワゾワと膚が泡立つ。暴れても、逃げられない。暴れるのが鬱陶しかったのかゴブリンは少女の顔を殴りつける。

 

「GUGYA!HIGYAGYA!」

「あぐ!うっ!や、やめて───やめてください!」

 

 その痛みに涙を流し、恐怖から失禁する少女。その尿の匂いをかいでゲラゲラ笑うゴブリンは腰布をとる。少女の父のそれとは異なり大きく反り返ったそれを露わにして――吹っ飛んだ。

 

「──GUGAGYOO!?」

 

 壁に激突してピクピク痙攣するゴブリン。少女の前では全身鎧の甲冑騎士、顔を隠した鎧ゴブリンが居た。兜に刻まれた一本線からは表情が窺えないが、多分ゴブリンを睨んでいるのだろう。指の先端が鋭い爪のようになっている鎧でゴブリンの頭を握りしめる。持ち上げられジタバタ暴れるゴブリンは、しかし抜け出せない。先程の少女のように。何か喚いているが、鎧ゴブリンは無視する。少女を押し倒したゴブリンのように。

 そのまま何処からか取り出した杭をゴブリンの膝と肘に刺し込むと手頃な石を噛ませ、壁に叩きつける。歯が折れ顎の骨が砕けゴボリと血を出すゴブリンは、そのまま部屋の外に投げ捨てられる。

 

「GUUU────」

「ひっ!?」

 

 ()()()()()()()。それがどれだけ恐ろしいか理解した少女は目の前のゴブリンに恐怖を抱く。と、ゴブリンは動きを止める。そのまま周囲を見回すと、魚の壷とは別の壺を開ける。果物だ。蜂蜜に漬けていたらしい。それを皿に載せると床に置き少女から距離を取る。

 

「─────」

「────」

 

 それでも少女が動かないと知ると部屋から出ていく。残された少女は怯えながら、しかし小腹が空いてきた。こんな時でも少女の身体は正直だ。果物に手を伸ばし喰らう。甘かった。美味しかった。蜂蜜のせいで手がベタベタになった。

 

 

 

「────ん、んぅ──?」

 

 少女はムクリと起きあがる。どうやら寝ていたらしい。しかし、何時間に寝台に入ったのだろう?

 寝る前の記憶があやふやで、頭が覚醒するまで少しかかる。月明かりが天窓から部屋を照らす。()だ。確か寝る前は夕方(明け方)だった気がする。一日中寝ていたのだろうか?

 

「───ッ!!」

 

 と、部屋の中にあのゴブリンが居ることに気付く。ビクリと震えて毛皮のシーツで身体を隠す。

 襲ってくる気配は、ない。ゴブリンは立ち上がると部屋から出ていこうとする。自分が起きたから、だろうか?

 

「あ、あの!」

「──────」

 

 ピタリとゴブリンが止まり、振り返る。

 

「───あ、あの───えっと───ありがとう」

「──────」

「た、助けてくれて───それと、ごめんなさい」

「────あ、い──あと?」

「────へ?」

 

 不意にくぐもった声が聞こえる。一体誰が?と周囲を見回すもここにはゴブリンと自分しかいない。

 

「───貴方、ひょっとして言葉が解るの!?」

「──こと、ば──わあ、る───」

「す、すごい──本当に言葉を発してる。ね、ねぇ!お願い、ここから出して!姉さん達に会わせて!」

「ねーさん──あわせて──こ、ことば──」

「───?」

「おえがい───ことば───」

 

 言葉が通じているとしたら、反応がおかしい。これは、完全にオウム返しだ。

 

「………なんだ、言葉が分かる訳じゃないんだ」

「こどば──わがる───」

「いや、だから言葉が──」

「ことば───こ、とば───こぉどば──」

「…………?」

 

 何故、急に言葉と連呼するのだろうか?今までの行動をみる限り意味のない行動をするとは思えないし───。

 

「………ひょっとして、言葉を覚えたいの?」

「ことば、お……ぼえ、だい───」

 

 少女の反応から、少女の言っている意味を理解したのかその言葉を繰り返すゴブリン。少女は一つ決心をした。

 

 

 

────────────────

 

 察しのいい子で助かった。あれから、頻繁に話しかけてくるあの子のおかげで人の言葉も覚えてきた。外で拾った炭をあげ絵を描いたりして、それの名前も聞く。だいぶ人の言葉も覚えたと思う。それと、彼女の最後の姉が死んだ。最期まで俺を睨んでいた。俺があの子に何かしていると思っているのだろう。彼女だけが平穏を過ごしたと知ったらどんな───やめよう。

 まあ、もう十分だろう。ここにいてもこれ以上強くなることはない。まれにやってくる『渡り』や『はぐれ』を殺してもゴブリン共は消えてなくならない。そろそろ外に出よう。自分がゴブリンだと知る人間は、彼女以外は皆殺しにしよう。そして、この群れを滅ぼそう。

 

 

 

────────────────

 

 

 ボスは混乱していた。突如群れ最強の戦士が孕み袋を殺したのだ。

 戦力増強を期待していたボスは怒り、吼え、ボスの意を汲もうとした英雄が理不尽に斬り殺された。兜のせいで顔は見えないし視線も解らない。なのに、睨まれた気がした。

 

「■■■■■■■■■■■■■ッ!!」

「「「─────ッ!!」」」

 

 その咆哮に、全ての小鬼が戦慄した。声に含まれた圧倒的な殺意、殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意。群れ最強で、敵う者のいない戦士が突如群れに牙をむいた。直ぐに殺すように命じ、自分は英雄を一人連れ穴の奥に逃げる。女だ、あの女がいる。あの戦士が異様に執着して、他の誰にも手を出させなかった人間の女。あれを使えば逃げられる!と、ドサリと倒れる音がする。こんな時に転んだ英雄に舌打ちしながら振り返ると回転しながら飛んでくる斧が見えた。

 次の瞬間にはくるくる回る視界とその端に映る首なしの身体が見え、木の板が砕ける音が聞こえた。

 

 

 

 

 大人達を皆殺しにした。後残るのは子供達だけ。

 子供達が隠される部屋は知っている。扉を蹴破り、震える、人間の感性からしてもまだかわいいと言い切れるガキを踏み潰す。仲間の敵でも討ちたいのか石を持って襲いかかってくるガキが一匹。鎧に弾かれ呆然としているそいつの頭を蹴りつける。頭が首から離れ別のガキの頭にぶつかり砕ける。首の骨が折れ頭蓋の破片が顔に刺さりそのガキも死ぬ。残りは二匹。

 片方の左腕を切り落とし片方の脚の骨を踏み折る。絶叫が響きわたり目に涙をためるガキども。

 

───嗚呼、なんて………なんて心地良い!

 

───叫べ!泣け!絶望し恐怖しろ!その涙こそ味わわずとも天上に誘う極上の甘露!

 

───苦しめもがけ!嘲笑してやろう、貶めてやろう!

 

 本能が叫ぶ、苦しめろと。理性が笑う、殺せと。怒りが唆す、いたぶり尽くせと。

 片腕になった小鬼に見せつけるように足を折った小鬼を痛めつける。内臓を傷つけぬように骨を折る。次はお前だ、そういうように。

 首の骨をへし折ると流石に死んだ。次は片腕。逃げようとするが、ニガスモノカ──まず指を切り落として足の裏を骨が剥き出しにナルマデキリオトス。ソノアトハキズツケズオコウ。ソウダ、ユカヲホノオデヤイテオコウ。イタミニクルシミナガラヒッシニハシルサマヲミテアキタラコロス。

 ソノタメニ、イチドツカマエテ───

 

「だ、駄目!」

「────!?」

 

 その叫びに、思考が蘇る。目の前には震えながら両手を広げる少女。固まっている自分に抱きついてきた。

 

「お願い!戻って、おかしくなっちゃやだ!」

「──────」

 

 震えている。当然だろう。血に染まった黒鎧の戦士など、恐れない方が無理だ。なのに彼女は自分を止めようとしている。ゴブリンが可哀想だから?ではないだろう。ゴブリンの悪辣さは口が酸っぱくなるほど教えた。 

 

「───だ、だーじょぶ………オチ、オチツイた───へーき、だ」

 

 きっと彼女は自分に他の小鬼と同じようになって欲しくないのだ。他者の苦しみを、嘆きを、悲痛を、恐怖を嘲笑う存在になって欲しくないのだ。

 

「……………………」

 

 ガキは逃げた。とはいえこの森は獣が多い。血の匂いを放つ片腕の人間の子供程度の強さのゴブリンの、さらに弱い子供など良い餌だ。ほうっておいても死ぬ。今はこの泣く少女の頭を撫でてやる。

 

 

 

 その日奇妙な男が冒険者ギルドの扉を開いた。

 肩に幼い少女を乗せた黒甲冑の男。騎士のような格好のその男は周りの視線も気にせず受付に立つ。

 

「あ、あの……本日はどのようなご用件で?」

「ぼーけんしゃ……登録、きた………」

 

 やけにたどたどしい言葉。頭に顎を乗せている少女はまるで生まれたばかりの弟にお姉さんぶるような顔をしてニコニコ笑う。

 

「ぼ、冒険者登録ですか………あの、出来れば兜を」

「顔、やけど………」

「えっと………」

「お兄ちゃんは顔に大きな火傷があるから、顔を見せたくないの」

「そ、そうなのですか………えっと……文字は書けますか?」

「かけ、ない……よめない───まなびたい。かね、いる?」

「あ、えっと──取り敢えず登録からで。まずは種族や年齢、お名前などを」

「────只人(ヒューム)、21───なまえ───なま、え──────小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)──」




主人公
名前:ゴブリンスレイヤー
中身が空っぽの『無限の剣製』を持ってゴブリンに転生したゴブリン。
生前は運動部所属で人の形を意識した動きしていたからか他のゴブリンのようにがに股ではない。
現状最強の武器はミスリルの大剣。まだ魔剣は持っていない。魔法剣士。

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